第5話:冒険者ギルド『星の羅針盤亭』でお散歩準備
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無事に(?)シルヴィアの胃袋を掴んで忠誠を勝ち取ったミナト。
今回は異世界生活の基盤となる「冒険者身分証」を手に入れるため、王都屈指の荒くれ者が集まるギルド兼酒場へ乗り込みます!
元Aランクの豪腕ギルドマスター・バッカス親父に、日本の「あの乾き物おつまみ」は通用するのか……!?
神々のコメントとともにお楽しみください!
「我が主、歩きにくくはございませんか? 少しでも足に疲労を覚えましたら、直ちにこのシルヴィアがおぶいいたします!」
「いや、平坦な石畳を歩いてるだけだから大丈夫ですって……! あと、その『我が主』って呼ぶの、街中だけでもやめませんか……!?」
大聖堂を後にした俺たちは、白大理石の建物と美しい運河が広がる神聖アステリア王国の目抜き通りを歩いていた。
だが、歩きやすさとは裏腹に、周囲からの視線が痛いどころの騒ぎではない。
それもそのはずだ。
制服姿の男子高校生である俺の真横を、白銀の甲冑に身を包んだプラチナブロンドの絶世の美女――あの近衛聖騎士団長シルヴィアが、宝剣『星輝剣』の柄に手をかけたまま、殺気満々でぴったり密着して歩いているのだから。
道行く商人や市民たちが「おい、あれオルデンブルク卿じゃないか……?」「横の奇妙な服の少年は何者だ……?」と息を呑み、モーセの十戒のごとくサーッと左右に割れていく。
「くふふ、ミナト、完全に大貴族のお忍び行列じゃな」
俺の肩からシルヴィアの肩へといつの間にか移動していたコハクが、尻尾を揺らしてクスクスと笑いながら、神具スマホを巧みに構えて配信を続けている。
【主神アルト】:騎士団長ちゃん、護衛モード気合入りすぎワロタww
【愛の女神フィリア】:美貌の女騎士様に付き従われる男子高校生……! 身分差主従ラブコメの波動を感じますわ!
【豊穣神デメトラ】:街並みも良いが、そろそろ新しい食べ物はないのか! 酒の肴を所望する!
「デメトラ様、催促が早すぎますって……。でも、酒の肴ならちょうどいいかもしれませんね」
俺が小声でスマホに呟いていると、シルヴィアが重厚な木造の二階建て建築の前でピタリと足を止めた。
建物の上部には、巨大な木製の羅針盤と交差する二本の剣を象った看板が掲げられている。
中からは昼間だというのに、荒くれ者たちの怒号とジョッキをぶつけ合う乾杯の音が漏れ聞こえていた。
「我が主、到着いたしました。ここが王都の冒険者ギルド本部兼酒場、『星の羅針盤亭』にございます」
「おお……まさにファンタジーのギルドって感じだ」
シルヴィアが木製の両開き扉をドンと押し開ける。
途端に立ち上る、酒と肉を焼く熱気。
中には筋骨隆々の戦士や、薄汚れたローブを着た魔術師、軽装の斥候たちがひしめき合っていた。
シルヴィアの姿を認めた瞬間、酒場中の荒くれ者たちがギクッと動きを止め、静まり返る。
「おい……近衛の団長様が何の用だ……?」
「巡回か? 俺たち何かやらかしたか……?」
ざわつく冒険者たちを一瞥もせず、シルヴィアは俺をエスコートしてカウンターへと真っ直ぐ進んだ。
カウンターの奥には、丸太のような太い腕に無数の古傷を刻み、豊かな赤ひげを蓄えた大男が、大きな木樽の栓を拭きながら立っていた。
「よぉ、シルヴィアの嬢ちゃん。近衛騎士団長様がこんなむさ苦しい酒場に直々の御出でとは、凶悪な指名手配犯でも逃げ込んできたかい?」
低く野太い、酒焼けした声。
元Aランク冒険者にして、このギルドを取り仕切るマスター・バッカスである。
「バッカス殿、私的な用件だ。……こちらにおわすミナト様に、冒険者身分証を発行していただきたい」
「……あぁ?」
バッカスが片眉を吊り上げ、俺の頭からつま先までを射抜くような鋭い視線で品定めしてきた。
「嬢ちゃんが連れてきたからどんな手練れかと思えば……制服? とかいう見たこともねぇペラペラの服を着た、ただのひょろっこいガキじゃねぇか。筋肉も魔力もまるで感じられねぇぞ」
周囲の冒険者たちからも、ヒソヒソと嘲笑が漏れ始める。
「団長様のお気に入りかい?」「あんな細腕じゃゴブリンの棍棒一発で即死だな」
シルヴィアの青い瞳にスッと冷たい光が宿り、腰の星輝剣がジャキリと鳴った。
「我が主を侮辱するか、バッカス殿。舌を切り落とされたいと見える」
「ちょ、ストップ! シルヴィアさん剣をしまって!!」
俺は慌ててシルヴィアの腕を引っ張って制止した。
ここで流血沙汰を起こしたらギルド登録どころではなくなってしまう。
「バッカスさん、俺は魔物と戦う気なんて一切ありません。戦闘力ゼロです」
俺がきっぱりと言い切ると、バッカスだけでなく周囲の冒険者たちもポカンと口を開けた。
「戦う気がない……? 坊主、ここは血生臭い依頼をこなす冒険者の巣窟だぞ。戦えねぇ奴に渡す証なんぞねぇよ」
「いえ、戦闘はしませんが、荷物運びや野草・鉱石の採取、あと簡単な野営の料理くらいならできます。要するに、身分証代わりの【Fランクポーター(荷物持ち)】の登録をお願いしたいんです」
「ポーターねぇ……。だが坊主、いくら嬢ちゃんの頼みでも、門外漢をホイホイ登録させるわけにはいかねぇな。何か一つでも、このバッカスを唸らせる『一芸』を見せてもらおうか」
腕組みをして仁王立ちするバッカス。
なるほど、実力を示せというわけか。
俺は手元のスマホを隠すように操作し、天界通販アプリを素早く起動した。
(元Aランクで、昼間からエールを飲んでる頑固親父……なら、攻めるべきはここだ!)
所持ポイントからわずか数百ポイントを消費し、カートに入れたアイテムを即時購入。
俺はカウンターの上に、キラリと光る粒子とともに具現化した【二つの袋】をコトッと置いた。
「一芸ってほどじゃありませんが……ギルドマスター、昼間から美味そうにエールを飲んでますよね。これ、そのお酒のお供につまんでみてください」
「あぁ? なんだこの派手な小袋は……菓子か?」
訝しげな顔のバッカス。
俺が差し出したのは、日本の居酒屋の名物――
『新潟名物・元祖柿の種(ピーナッツ入り)』と、
『桜チップで燻製した特選スモークミックスナッツ』だ。
袋の封を切った瞬間、ふわっと広がる香ばしい醤油の風味と、燻製の芳醇なスモーキーフレーバー。
バッカスがピクリと鼻を動かした。
「ほう……? 嗅いだことのねぇ、やけに食欲をそそる煙の香りだな」
バッカスは太い指で燻製アーモンドとカシューナッツを数粒つまみ上げ、躊躇いなく口へ放り込んだ。
カリッ、ポリッ……。
静まり返る酒場に、軽快な咀嚼音が響く。
直後、バッカスの赤ひげに覆われた顔が、カッと見開かれた。
「な……ッ!? なんだこのナッツは! 噛んだ瞬間に深い木々の香りが鼻腔を突き抜け、凝縮された塩気とナッツの濃厚な脂が舌の上で爆発しやがった……!」
「バッカスさん、まだ終わりじゃありませんよ。次はこの細長い米菓と、中の豆を一緒に口へ放り込んでみてください」
言われるがまま、バッカスは柿の種とピーナッツを手のひらにザラッと出し、一気に口へ放り込んだ。
ボリボリボリッ……!
「う、うおおおっ!? ピリッと辛い醤油の刺激の後に、香ばしい豆の甘みが追いかけてきやがる! 辛い、美味い、香ばしい……くそっ、喉が……喉が猛烈にエールを呼んでやがるッ!!」
耐えかねたバッカスは、カウンターにあった大ジョッキの黄金色のエールを掴むと、喉を鳴らしながら一気に煽った!
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「う、美味ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
バッカスの怒号のような咆哮が酒場全体に木霊した。
ジョッキをカウンターに叩きつけ、涙目で柿の種の袋を鷲掴みにする。
「なんだこの神の肴はぁぁぁ!? エールを流し込んだ瞬間、ピリ辛の刺激とナッツのコクが何倍にも膨れ上がりやがった! 酒が……酒が無限に飲めるぞぉぉぉっ!!」
【豊穣神デメトラ】:見ろ! 親父が完全にキマっているぞ!!
【主神アルト】:柿ピーと燻製ナッツのコンボは反則だってww酒飲み全員死ぬやつww
【愛の女神フィリア】:ふふっ、強面のギルドマスター様も胃袋を掴まれてしまいましたわね!
呆気にとられる周囲の冒険者たちを余所に、バッカスは残りのナッツを一気に口へ流し込み、ガハハと豪快に笑いながら俺の肩をバシバシと叩いた。
「気に入った! 大いに気に入ったぞ坊主! 酒と肴の相性をここまで知り尽くした男に、悪人がいるはずねぇ!」
「い、痛いですバッカスさん……!」
「おい受付嬢! このミナト坊主に、特例で【Fランクポーター(採集・調理特化)】のギルド証を今すぐ発行してやれ!」
「は、はいぃっ!」
カウンターの隅で震えていたエルフの受付嬢が、慌てて黒い鉄製のプレートを刻印機にセットする。
こうして俺は、異世界で生活するための確固たる身分証――【Fランク冒険者証】を、柿ピー一袋で見事に勝ち取ったのだった。
第5話をお読みいただきありがとうございました!
次回はいよいよ、バッカス親父からの紹介で、あの頼れる兄貴分とお調子者の悪友が登場します!
次回――第6話では、男3人+狐で繰り広げる、男子高校生の放課後ピクニック採取をお楽しみに!
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