第4話:氷の鉄血騎士、甘味の前に沈黙す
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大聖堂で甘える聖女様を見て、勘違いで抜刀出撃してしまった近衛騎士団長シルヴィア!
怒り狂う「氷の鉄血騎士」を前に、戦闘力ゼロのミナトはどう立ち向かうのか……!?
(※ミナトの焼きたてグルメへの執念と、主神の適当神託が炸裂します)
神々のコメント欄とともにお楽しみください!
「ミナトさん、もう一口……あ〜ん♡」
「いやルミア様、さっき全部平らげたでしょ!? もう皿にはシロップしか残ってませんって!」
大聖堂の静かな裏庭で、俺の制服の裾をぎゅっと握りしめてすり寄ってくる聖女様を何とかなだめていた、その時だった。
――ドォォォォォォォンッッッ!!!
爆発音のような轟音とともに、裏庭の頑丈な白大理石のアーチ門が吹き飛んだ。
「ひ、ひえぇっ!? 何事!?」
「ぬわっ!? 妾のホットケーキの余韻を邪魔する不届き者は誰じゃ!」
巻き上がる白煙の中から、ジャキジャキと鳴り響く重厚な金属鎧の擦れる音。
現れたのは、白銀の甲冑に身を包んだ近衛騎士たち――そして、その先頭に立つ、プラチナシルバーの長い髪をポニーテールに束ねた長身の美女だった。
切れ長のアイスブルーの瞳から、氷点下の殺気がバチバチと放たれている。
手には、青白く光り輝く抜き身の宝剣『星輝剣』。
「そこまでだ、不届き者めぇぇぇぇぇっ!!」
鼓膜を突き破らんばかりの凛烈な怒号。
女騎士は一瞬で間合いを詰めると、抜刀した剣の切っ先を、俺の喉元へピタリと突きつけてきた!
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
刃先から冷気が首筋に伝わり、俺の心臓は一瞬で凍りついた。
な、なんだこの人!? めちゃくちゃ美人だけど、目が本気で人を両断する目をしている!
「貴様! 我が国の至宝たる聖女ルミエラ様に、一体いかなる精神汚染魔術を施した!」
「せ、精神汚染魔術ぅぅぅ!?」
「しらを切るな! 先ほど水晶球越しに貴様の悪逆非道な所業をつぶさに確認した! あの淫らな甘味で聖女様の理性を奪い、あのような痴態を晒させるとは……万死に値する!!」
完全に話が通じていない!
絶体絶命の俺の前に、ルミア様が慌てて両手を広げて立ちはだかった。
「お、お待ちくださいシルヴィア団長! ミナトさんは怪しい方ではありません! 私を助けてくれた恩人です!」
「聖女様、下がっていてください! そやつは言葉巧みに貴女を操る危険人物です!」
「違います! ミナトさんは私の大切な……ああっ、ミナトさん、怪我はありませんか!?」
ルミア様は振り返るなり、あろうことか俺の胸元にぎゅぅぅぅっと抱きついて、涙目で俺の顔をペタペタと触ってきた。
(ちょ、ルミア様!? 今それ一番やっちゃダメなやつぅぅぅ!!)
案の定、シルヴィア団長の青い瞳に、ゴオッと青い業火が灯った。
「おのれぇぇぇぇぇっ! 聖女様がここまで骨抜きに依存させられているとは……! もはや一刻の猶予もない、我が剣の錆にしてくれ――」
――キィィィィィン……ッ。
一触即発の空気を切り裂いたのは、突如として裏庭全体を満たした、透き通るような高い鐘の音だった。
テーブルの上に置かれた神具スマホから、まばゆい黄金の光の粒子が立ち上る。
「な……っ!? この神聖極まりない魔力光は……!?」
シルヴィアが息を呑み、切っ先を止める。
スマホの画面が淡く光り輝き、そこから響いてきたのは――先ほどまでの騒がしさを一切感じさせない、深く、厳かに空間を震わせる天上の声音だった。
『――そこまでにせよ、アステリアの守護たるシルヴィア騎士団長』
その声が木霊した瞬間、シルヴィアの全身が雷に打たれたように硬直し、顔から血の気が引いた。
「しゅ……主神……アルト様の……御声……ッ!?」
神聖アステリア王国において、幼少期より祈りを捧げ続けてきた最高神の波動を聞き間違える者などいない。
ガタガタと甲冑を震わせ、シルヴィアの手からカランと剣が滑り落ちそうになる。
『我が声を聞き届け、刃を収めよ。その制服の少年・ミナトは、天界の神々が総意をもってお前たちの地へ遣わした、唯一無二の【特命使徒】である。……心して礼を尽くし、仲良く歩むが良い』
「は、ははぁっ……!!」
最高神直々の絶対神託。
完全なる威厳に圧され、シルヴィアは直立不動のまま冷や汗を滝のように流してフリーズした。
――直後。
『……ふぅ、真面目な声出すと肩凝るわ〜! ってことでシルヴィアちゃんよろしくね! ぜひ仲間良くしてね』
スマホの画面が一瞬で切り替わり、いつもの玉座で緑のポテチ筒を抱えたアルトがヘラヘラと手を振っていた。
【主神アルト】:神託モード久しぶりに使ったわwww
【愛の女神フィリア】:アルト様、急に威厳を出さないでくださいませ! 驚きますわ!
【豊穣神デメトラ】:小細工はいい! 少年、早くパンケーキを女騎士の口に入れてくれ!
「え……あ……へ……?」
神聖な神託の衝撃と、画面越しに流れるカオスなコメントの落差に、シルヴィアの頭脳は完全に許容量を超えて湯気を吹き出しそうになっていた――。
だが――俺の頭にも、別の意味で怒りの限界が来ていた。
「……あの、騎士団長さん」
「は、はひっ!?」
冷え切った声を出した俺に、シルヴィアがビクッと肩を跳ねさせる。
俺は机の上に置いてあった、もう一つの『ホットサンドメーカー』をガバッと掴み取った。
中には、ルミア様が食べ終わった直後、お代わり用として弱火の余熱でじっくり保温しておいた【2枚目の極厚ホットケーキ】が入っている。
「危ないから抜き身の剣を振り回さないで! それと、ルミア様に失礼な言いがかりをつけるのも大概にしてください!」
「め、滅相もございません! しかし私は聖女様をお守りするために――」
「言い訳はいいよ。 それよりこれを見てください!」
カパッ、とホットサンドメーカーを開帳する。
中から、ほわぁぁぁんと立ち上る甘いバニラとバターの極上の香り。
表面は完璧なきつね色、厚さ五センチの黄金の生地が、ぷるんと揺れた。
「くっ……!? な、なんと芳しい……だが、私は誇り高きアステリア聖騎士――」
「パンケーキはですね、焼きたてから三分以内が命なんですよ!!」
「えっ?」
俺はフォークで惜しげもなくバターとシロップをたっぷり絡め、大口を開けて呆然としているシルヴィアの口元へ、有無を言わさず突き刺した!
「冷めるとバターが固まって生地がパサつきますから、これを一番美味い状態で食ってから言ってください!!」
「むぐっ……!? ん、んんんっ!?」
シルヴィアの口内に、焼きたて熱々の極厚ホットケーキが押し込まれる。
毒殺を警戒して噛み砕こうとした彼女の表情が――
わずか一秒で、劇的に崩壊した。
「――っっっ!?!?」
シルヴィアのアイスブルーの瞳孔が限界まで見開かれる。
サクッとした極薄の表面を抜けた瞬間、舌の上で雲のようにふわりと消え去る信じられない口溶け。
噛み締めるたびに溢れ出す、濃厚な発酵バターのコクと、メープルシロップの高貴で優しい甘み。
「は……ふ……っ! な、なんという……なんという甘美な口溶け……! 体が……魂が、とろけてしまいそうだ……っ♡」
「シルヴィア団長、口元にシロップがついてますよ」
俺が無造作にポケットティッシュを取り出し、彼女の艶やかな唇をキュッと拭ってやると――
ボフッッッッ!!
シルヴィアの顔面が、沸騰したヤカンのように真っ赤に染まった。
彼女は宝剣を床に放り出し、ガシャンと激しい音を立てて、その場に深々と片膝をついた。
「お、お許しを……! 主神様の特命使徒たる貴方様を疑い、あまつさえ剣を向けるなど……死してなお償えぬ大罪! 寛大なるお慈悲と、この天上の恵みを下さった貴方様に、生涯の忠誠を捧げます……!」
頭を垂れた女騎士は、真っ赤な顔で上目遣いに俺を見つめ、震える声で告げた。
「どうか、このシルヴィアをお側に置いてください……我が主……!」
「……へ?」
スマホの画面が、過去最速の弾幕で埋め尽くされる。
【主神アルト】:草ァーーーーーーーッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:騎士団長ちゃん、秒で落ちてワロタwwwwww
【愛の女神フィリア】:キャーッ!『我が主』呼びいただきましたわ!尊死します!!
【豊穣神デメトラ】:ホットケーキの暴力! やはり美味い飯の前に武力など無力なのだな!!
【主神アルト】:シルヴィアちゃん、チョロすぎ記念に赤スパ10万pt投下〜!
『主神アルトよりスーパーチャット:100,000ptが寄付されました』
「あ、あの、シルヴィア団長? とりあえず立ってもらっていいですか……?」
「いいえ! 主のお許しが出るまではこのまま! ……それと、身寄りのない我が主のために、身分証の発行と王都の宿の手配は、このシルヴィアが命に代えてもお引き受けいたします!」
キリッとした表情で宣言するシルヴィア。
しかし、その胃袋からは「ぐぅぅぅ」と可愛らしい音が漏れていたのだった。
【後書き】
第4話をお読みいただきありがとうございました!
次回――第5話は、元Aランクの豪快ギルドマスター・バッカス親父が登場します。
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