第49話:冒険者たちとの別れと、副団長への胃薬
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前回の第48話では、王国の最高権力の座「アストラリス宮殿」へ登城!
玉座に座る国王の顔を見て「アルさん国王だったのぉぉ!?」というミナトの魂の絶叫が響き渡り、やんちゃなレオン王子とアイリス王女を天界ゼリーとコハクのモフモフで一瞬にして掌握!
さらに腰痛に悩む国王夫妻へ『低反発背もたれクッション』を献上した結果、玉座の上で「雲に抱かれているようですわ……♡」と威厳が完全崩壊する大爆笑の展開となりました!
主神アルトの公式神託が王国事業として正式認可され、父クリストフ司教の王都常駐(エルムの後任引き継ぎも万全!)とシルヴィアへの同行王命が決定!
ラストにはユリアスと対等な男の友情を結びました!
そして迎える第49話は、いよいよ明日となった旅立ちを前にした【冒険者たちとの壮行会×特注収納バッグの贈り物×過労副団長への奇跡の胃薬×特注馬車受領】の回です!
男たちの不器用で温かい絆と爆笑のドラマをお届けします!
冒険者ギルドで明かされる、冒険者たちがカンパして仕立ててくれた至高の贈り物とは!?
そして、団長シルヴィアの旅立ちによって激務の山に埋もれ、胃痛で過労死寸前となった副団長ヴィンセントへ、胃薬を差し入れた結果――!?
明日の第1章完結を目前にした、笑いと人情あふれる前夜祭をどうぞお楽しみください!
重厚な木製扉を押し開けた瞬間、熱気とエールの泡、そして笑い声が津波となって押し寄せてきた。
王宮の静謐で荘厳な空気とは正反対の、雑多で生命力に満ち溢れた場所――王都の冒険者ギルド本部兼酒場、『星の羅針盤亭アストロラーベ』。
昼間だというのに、屈強な冒険者たちが大ジョッキを片手に肩を組み合い、けたたましい歓声を上げている。
その入り口に立った俺とコハクの姿を認めるなり、酒場の空気がピタリと止まり、次の瞬間――割れんばかりの大歓声が爆発した。
「おうおうおう! 噂の主神様の特命使徒様のお出ましじゃねぇか!」
カウンターの奥から、腕を組み、大柄な男がぬっと立ち上がった。
元Aランク冒険者のギルドマスター・バッカスだ。
バッカスが歩み寄り、テーブル席からもブルーノや、フィンたち冒険者がドッと押し寄せてきた。
「よぉ、ミナト! 聞いたぜ、東の古代樹海へ大巡礼に出るんだってな!」
「王都中を美味い料理で包んだと思ったら、今度は世界を股にかける大冒険たぁ、たまげた野郎だぜ!」
「おい、新しいエールの樽を開けろ! ミナトの壮行会だぁ!」
冒険者たちが一斉にジョッキを掲げ、酒場全体で乾杯が交わされる。
酒を酌み交わし、他愛のない冒険譚やくだらない笑い話で盛り上がる中、バッカスが不意に真面目な顔つきになり、カウンターの下からゴトンと重みのある包みを取り出した。
「おい、ミナト。これを受け取ってくれ」
差し出されたのは、深く鞣された上質な黒魔獣の革で仕立てられた、頑丈そうな肩掛けバッグだった。
無駄のない機能的なデザインで、真鍮の留め具には精緻な魔導銀の魔法陣が刻み込まれている。
「これって……?」
「【特注・魔導収納バッグ】だ。中が空間拡張の魔導で繋がっててな、見た目の十倍以上の荷物が収納できる。おまけに重量軽減の加護付きだ」
バッカスが告げると、横からブルーノが照れくさそうに頭を掻きながら笑った。
「ミナト、ギルドに登録した時、戦闘力ゼロの『Fランク・ポーター』として登録しただろ? ポーターにとっちゃ、荷物入れってのは命の次に大事な商売道具だからな」
「東の古代樹海は道も険しいし、凶悪な魔獣も出る。野営の荷物に困らないよう、ギルドの連中みんなで金を出し合って、王都一腕の立つ革職人に特注して作らせたんだよ」
冒険者たちが、誇らしげに、そして少し気恥ずかしそうにジョッキを掲げて笑い合っている。
(みんな……!)
胸の奥が、カッと熱くなった。
正直に言えば、俺には神具スマホの時間停止ストレージがある。荷物の容量や保存期間に困ることはない。
けれど――旅先で人前に出た時、何もない空間から物を取り出せば怪しまれてしまう。この収納バッグがあれば、人前でアイテムを取り出す完璧なカモフラージュになるのだ。
何より――冒険者のみんなが、戦闘力のない俺の無事を本気で案じ、お金を出し合ってこの頑丈なバッグを用意してくれた。
その不器用で温かい優しさが、たまらなく嬉しかった。
「皆さん……ありがとうございます! 本当に助かります。大切に、旅の最後までずっと使わせてもらいます!」
俺がバッグを両手でしっかりと抱きしめて深く頭を下げると、バッカスは満足そうに口の端を持ち上げた。
「へっ、礼なんざいい。その代わり、ギルドの掲示板の横に置いてあるアレ……しっかり使わせてもらうぜ?」
バッカスが指差した先――ギルドの依頼掲示板の脇に、昨日ユリアスたちの手によって設置された真新しい【神聖登録水晶(推しボタン)】が、青く透き通る光を放っていた。
「おい野郎ども! ミナトの無事を祈って、景気付けに押しとけーっ!」
「おうよ!」
冒険者たちが面白がって水晶を次々にタッチしていく。
――『ピコン♪』『ピコン♪』『ピコン♪』『ピコン♪』
澄んだ可愛らしい音が酒場に心地よく連続して鳴り響き、スマホの登録者カウンターが勢いよく回る。
「かっかっか! 酒臭い男どもの登録じゃが、数が増えるのは実に良いことじゃのう!」
コハクが胸を張り、バッカスは懐から羊皮紙の封書を取り出して俺に手渡した。
「道中、もし困ったことがあったら、各地の街にある冒険者ギルドへ駆け込みな。このバッカスの紹介状を見せれば、どこの支部長も親身になって力になってくれるはずだ」
「バッカスさん……! 何から何まで、本当にありがとうございます」
温かい男たちの激励に背中を押され、俺は晴れやかな気持ちでギルドを後にしたのだった。
【主神アルト】:『冒険者たちめっちゃいい奴らじゃん……! カンパで特注バッグとか胸熱だわ』
【武神アーレス】:『うむ! 戦士たちが仲間の門出に贈る実用の武具、実に心温まる絆であるな!』
◇
ギルドを出た後、シルヴィアの事務引き継ぎに同行して訪れたのは、王宮のすぐ外縁に位置する近衛騎士団詰所だった。
先ほどの酒場の熱気とは打って変わり、副団長執務室の扉を開けた瞬間、そこにはお通夜のような重苦しい空気と、どんよりとした負のオーラが立ち込めていた。
部屋の中央にある執務机の上には、積み上げられた膨大な羊皮紙の書類の山。
そして――その書類の山に埋もれるようにして、机の上に突っ伏し、ピクピクと痙攣している男性が一人いた。
近衛騎士団副団長――ヴィンセントである。
「うぅぅ……胃が……キリキリと焼け付くように痛む……。シルヴィア団長がミナト殿の専属護衛として長期離脱……? 王都全域の防衛再編、秋の新兵訓練、国境警備の予算見直し……そのすべてが私の胃袋の上に……? 死ぬ……過労で殉職してしまう……!」
青白い顔を書類に押し当て、自らの腹部を抱えて呻くヴィンセント。
その痛ましい姿の横で、シルヴィアは腕を組み、仁王立ちで眉をひそめた。
「ヴィンセント、何を情けない姿を晒しているのだ。これは国王陛下直々の王命なのだぞ。我がアステリア近衛騎士団の誇りを胸に、背筋を伸ばして職務に励め。貴官の優秀な頭脳があれば、この程度の書類、不眠不休で三日もあれば片付くはずだ」
「だ、団長ぉぉぉぉぉっ!!」
ヴィンセントがガバッと顔を上げ、血走った目で絶叫した。
「貴女のその鉄血の体力と精神力を常人に求めないでくださいぃぃ! 私には剣聖の加護も無尽蔵の魔力もありません! 私の胃壁はすでに蜂の巣なんですよぉぉぉ!!」
(あ、これ完全にシルヴィアさんが原因だわ……)
あまりのブラック上司ぶりに、俺は引き攣った笑いを浮かべながら冷や汗を流した。
だが、このままでは明朝見送りに来るどころか、今夜中に副団長が過労死しかねない。
見かねた俺は、ポケットの神具スマホを素早く操作し、天界通販アプリから『ある二つのアイテム』を取り寄せた。
光の粒子とともに具現化したのは、銀色の金属缶に入った『日本の生薬胃腸薬』、そして茶色い遮光瓶に入った、キンキンに冷えた『タウリン3,000mg配合・滋養強壮栄養ドリンク』だ。
「ヴィンセントさん、これ、騙されたと思って飲んでみてください」
「は、はい……? 銀色の缶と、茶色い小瓶……? 毒薬ですか……? いっそ楽にしてくださるのですか……?」
「違いますって! ほら、口を開けて!」
俺は付属の小さな金属スプーンで、独特の爽やかなハーブの香りがする胃腸薬の粉末をすくい、ヴィンセントの口へと放り込んだ。
続いて、冷えた栄養ドリンクの蓋をカポッと外し、そのまま一気に煽らせる。
「むぐっ……!? 独特の苦味と清涼感……からの、濃厚で甘酸っぱい炭酸の刺激……! ゴクッ、ゴクッ、ゲホッ!」
ヴィンセントが無理やり喉へと流し込み、机に手をついた。
数秒の静寂。
部屋の中に、ヴィンセントの荒い呼吸だけが響く。
――そして、劇的な変化が訪れた。
「……あ?」
ヴィンセントが、おずおずと自らのみぞおちに手を当てた。
「痛みが……ない……? さっきまで針で刺されるようだった胃の激痛が……スッとする清涼感とともに、跡形もなく消え去っている……!?」
胃腸薬とドリンクに含まれるビタミンなどの栄養が疲弊しきった彼の毛細血管を猛烈な勢いで駆け巡った!
どんよりと濁っていた瞳に、カッと眩い光が宿り、青白かった頬に朱が差す。
「な、なんだこれは……! 肩の重みも、頭の霧も吹き飛んだ! 身体が……羽が生えたように軽い……! 漲る……力が心の底から漲ってくるぞぉぉぉぉっ!!」
ガタァァァンッ!!
ヴィンセントは椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がると、ミナトの両手をがっしりと握りしめ、ボロボロと大粒の涙を流してその場に平伏した。
「ミナト殿ぉぉぉぉぉっ!! あなたこそがこの王国最強の癒やし手、真の救世主です……!!」
「い、いや、ただの現代の胃薬と栄養ドリンクですから!」
「シルヴィア団長! 心置きなくミナト殿と共に旅立たれてください! 王都の守りと事務作業は、この完全無欠のヴィンセントが死力を尽くしてお守りいたしますぅぅぅ!!」
立ち上がったヴィンセントは、猛烈なスピードで羽根ペンを走らせ、山のような書類を音を立てて捌き始めた。
シルヴィアが満足そうに頷く。
「うむ! 急に頼もしくなったな、ヴィンセント!」
(いや、完全にドーピングのそれなんだよなぁ……)
俺は苦笑いしながら、机の端に胃腸薬の予備の缶をそっと置いて執務室を後にしたのだった。
【主神アルト】:『日本の胃薬とタウリンドリンクで副団長覚醒してて草ァァァッッッ!!!wwww』
【武神アーレス】:『気迫が戻ったな! 戦士たる者、胃の痛みに屈してはならぬ! 見事な秘薬よ!(10,000pt赤スパ寄付)』
◇
夕暮れ時。王都の白大理石の街並みが、茜色から深い藍色へと染まり始めた頃。
俺たちはクラリッサ商会の専用ガレージを訪れていた。
そこに佇んでいたのは大型の特注幌馬車だった。
「ふふ、ミナトさん、お待ちしておりましたわ!」
真紅のドレスの裾を揺らし、クラリッサが自慢げに扇子を開いて出迎えてくれた。
「これこそ、我が商会の最高技術とユリアス様の宮廷工房が総力を結集して仕立て上げた、特注の旅馬車ですわ!」
案内されて車内を覗き込むと、思わず息を呑んだ。
車輪の軸には風の魔導具が組み込まれており、どんな悪路でも振動を完全に無力化する『風魔導サスペンション』が搭載されている。長旅でも腰やお尻が痛くなる心配は皆無だ。
幌の内部には、ゆったりと眠れるソファーベッド、遮光と断熱の二重カーテン、さらには俺が料理をしやすいよう、頑丈なミニキッチンカウンターまで設えられていた。
「すごい……! これ、ほとんどキャンピングカーじゃないか!」
「うむ! 妾の昼寝スペースも完璧じゃぞ!」
はしゃぐ俺とコハクを見て、クラリッサは満足そうに微笑み、カウンターの脇にある小さな銀の箱を指差した。
「そちらは【魔導連絡箱】ですわ。我が商会の本部と空間魔導で繋がっておりますの。旅先で新しい食材を見つけたり、新レシピを開発された際は、書類や試作品をその箱に入れてくだされば、瞬時にこちらへ届きますわ」
「至れり尽くせりだ……本当にありがとう、クラリッサさん」
俺が心から礼を告げると、クラリッサは昨夜のほろ酔いを思い出したのか、ふっと頬を赤らめ、扇子で口元を隠しながらツンと澄まして釘を刺してきた。
「お礼など当然ですわ。……それと、ミナトさん。旅先で他の女商人になびいたりしたら、絶対に許しませんからね?」
「あはは……肝に銘じておきます」
特注馬車を受け取り、宿屋の裏庭へと運んで最後の荷造りを終えた。
部屋に戻ると、ルミアが修道服の手首を留め、窓辺で静かに夜空を見上げていた。
「ミナトさん、おかえりなさい」
「ただいま、ルミアさん。荷造りは終わった?」
「はい。いつでも出発できますわ」
窓の外には、満天の星空と、穏やかに眠るアステリア王都の美しい夜景が広がっていた。
ただ一人、放課後の通学路から飛ばされてきたあの日の自分が、今、これほどたくさんの温かい人たちに支えられ、世界へ踏み出そうとしている。
「いよいよ明日ですね、ミナトさん」
「はい。みんなの温かい想いを胸に……行こう、ルミアさん」
「はい……!」
二人は静かに微笑み合い、明日の夜明けを心待ちにするのだった。
第49話をお読みいただきありがとうございました!
旅立ち前夜を描く【冒険者たちとの壮行会×特注収納バッグの贈り物×過労副団長への胃薬×特注馬車受領回】、いかがでしたでしょうか!
冒険者ギルドでは、荒くれ者たちがカンパして仕立ててくれた【特注・魔導収納バッグ】をプレゼント!
戦闘力ゼロのFランクポーターとして登録したミナトを案じる男たちの不器用な優しさに、目頭が熱くなりましたね!
そして近衛騎士団詰所では、シルヴィアの旅立ちによって全激務を丸投げされ、胃痛で過労死寸前だった副団長ヴィンセント!
生薬胃腸薬とタウリンドリンクを流し込まれ、「痛みが……ない!? 力が漲ってくるぞぉぉ!」と完全覚醒して拝み倒す姿は、まさに爆笑コメディでした!
ラストにはクラリッサ商会から、風魔導サスペンション付きの至高の特注幌馬車を受領!
王都の人々の温かな絆を胸に、すべての準備が完了しました!
次回――第50話は感動の大団円と新たな旅立ちを描く、第1章の堂々たる完結回です。
どうぞお楽しみに!




