第44話:ルミア親子の団らんと、父の不器用なエール
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前回の第43話では、フェス翌朝の大司教執務室にて、歴史を塗り替える義援金【金貨二千三百枚】の全額寄付と、大陸全土で通用する最強の身分証【特級慈善感謝状】を授与されました!
そしてラスト、回廊でミナトを優しく呼び止めたのは、ルミアのお父様である温和で慈悲深い美形パパ司教・クリストフでした!
そして迎える第44話は、大聖堂の静かな庭園奥にある「司教滞在離れ」を舞台にした、【家族団らん×コハクの変身余興×聖女の自立と旅立ちの約束】の回です!
数万人の前で「娘をよろしく頼む!」と叫んだ昨日の大失態を思い出し、シラフになって耳まで真っ赤にする美形パパ司教の可愛い姿!
そこへコハクが七色の尻尾を光らせて、両親の姿に変身して大暴れ!?
さらにミナトが振る舞う、心と身体を芯から解きほぐす『ほくほく肉じゃが』と『黄金の出汁巻き卵』!
「大聖堂の象徴である聖女が、なぜ外の世界へ旅立てるのか?」
地方で民に寄り添ってきた父親だからこそ語れる、胸を打つ温かい約束を、どうぞお楽しみください!
神聖アステリア大聖堂の奥深く、手入れの行き届いた緑豊かな中庭を抜けた先に、白壁と木組みの落ち着いた平屋の離れが佇んでいた。
地方のエルム教区から公務で王都を訪れている高位聖職者夫妻のために用意された、静謐な迎賓館である。
大聖堂本堂の厳粛な空気とは異なり、柔らかな木漏れ日と小鳥のさえずりが心地よく満ちていた。
「さあミナト君、狭いところだが上がっておくれ。ルミアも、おいで」
「あ、お邪魔します……」
クリストフ司教に案内されてリビングへ足を踏み入れると、ふかふかの絨毯の上に、磨かれたローテーブルとゆったりとした革張りのソファが並んでいた。
奥には使い勝手の良さそうな小キッチンも備え付けられている。
「あらあら〜、いらっしゃいミナトさん。待っていたわよ〜」
奥からおっとりとした笑顔で現れたのは、母マリアさんだった。
湯気の立つ温かいハーブティーをカップに注ぎ、テーブルへと並べてくれる。
俺とルミアが並んでソファに腰掛けると、向かい側にクリストフ司教が静かに腰を下ろした。
金髪碧眼の涼やかな美貌は、陽光に透けて絵画のように美しい。まさに信徒たちから「慈悲深き人」と慕われる高潔な聖職者そのものだ。
……だが。
その美男子司教の頬は、先ほどから耳の先まで真っ赤に染まっていた。
「…………」
クリストフ司教はハーブティーの湯気を見つめたまま、両手で顔を覆い、小さく震え始めた。
「あ、あの……お父様……?」
恐る恐る声をかけるルミアに、クリストフ司教は指の隙間から情けなさそうに視線を覗かせた。
「……すまない、ミナト君。昨日……その、数万の民衆や騎士団の目の前で、あんな大声で取り乱して叫んでしまって……。今朝になって思い返してみれば、恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい思いだよ……」
「ふふ、王都中の人々が『お父様公認の仲』だと大騒ぎしていましたよ、あなた〜」
マリアさんが上品に口元を押さえてクスクスと笑う。
「お、お母様まで……っ! もう、本当に恥ずかしいですからやめてください……っ!」
ルミアも両手で真っ赤な顔を覆い、親子揃って湯気を噴き出していた。
そこへ、俺の肩に乗っていたコハクが、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「かっかっか! 堅苦しい挨拶など野暮というものじゃ! 妾が退屈しのぎに、昨日の名場面を再現してやるのじゃ!」
パッ!とコハクの七色の尻尾が眩い光を放ち、煙がモクモクと立ち込めた。
煙の中から現れたのは――なんと、司教服を身に纏った、瓜二つの【クリストフ司教】だった!
偽クリストフ(コハク)は、両手で顔を覆って大袈裟に肩を震わせ、泣き真似を始めた。
「うわぁぁん! すまなかったルミアぁぁ! 私は父親失格だぁぁ! ミナト君、娘をよろしく頼むぅぅぅ!!」
「ぶふっっ!?」
あまりの完コピっぷりに、俺は吹き出しそうになった。
「や、やめてくれコハク殿ぉぉぉ!? 私の顔で昨日の大失態を再現しないでくれぇぇぇ!!」
本物のクリストフ司教は頭を抱え、クッションに顔を埋めた。
さらにコハクは、ポンッ!と煙を上げると、今度は【母マリアさん】へと変身!
「あらあら〜、ルミアったら大胆ねぇ〜。ミナトさん、うちの娘をよろしくねぇ〜」
首を傾げておっとりと微笑む偽マリア。
「まぁまぁ! 私にそっくり! ふふ、まるで妹ができたみたいで可愛らしいわねぇ〜」
本物のマリアさんは驚くどころか、目を細めて偽マリア(コハク)の頭を優しく撫でた。
「むぅ……!? この母上、まったく動じぬのじゃ……! 調子が狂うのじゃ!」
ぽふん、と煙を立てて元の子狐に戻ったコハクが拗ねてしまった。
「もうっ! コハクちゃん、私のお父様とお母様をからかわないでくださいーーっ!」
ルミアが顔を真っ赤にしてポカポカとコハクを小突き、リビングは一気に温かい笑い声に包まれたのだった。
【主神アルト】:『コハクの完コピモノマネ草ァァァ!!www パパ司教のライフはゼロよ!』
【愛の女神フィリア】:『動じないお母様の大物っぷりが素敵すぎますわーーっ!!♡(32,000pt赤スパ寄付)』
「あはは……。場も和んだところで、もしよろしければ、お礼も兼ねて俺に昼食を作らせていただけませんか? 昨日は濃いソースが続きましたから、今日は胃に優しい日本の家庭料理をご馳走したいんです」
「えっ、ミナト君が昼食を……? それは嬉しいね。ぜひお願いできるかな」
立ち直ったクリストフ司教が、穏やかな笑顔で頷いてくれた。
俺はエプロンを締め、離れの小キッチンへと向かった。
天界通販アプリで購入したのは、薄切りの牛バラ肉、じゃがいも、人参、玉ねぎ、しらたきだ。
トントントン、と軽快な包丁の音が、静かな離れに心地よく響き渡る。
深鍋で牛バラ肉を炒め、脂の甘みを引き出してから野菜を投入。昆布と鰹節の上品な合わせ出汁を注ぎ、酒、みりん、砂糖、醤油を加えて落とし蓋をし、コトコトと煮込んでいく。
隣のフライパンでは、出汁をたっぷりと含んだ溶き卵を手早く巻き重ね、黄金色の出汁巻き卵を焼き上げる。
甘辛い醤油と煮汁の香ばしい湯気、そして出汁の効いた優しい卵の香りが、リビング全体を満たしていく。
「……なんて、心落ち着く良い香りなんだろう」
「昨日の力強いソースとはまた違う、身体の奥がホッとする香りですね」
クリストフ司教とマリアさんが、引き寄せられるように食卓へ集まってきた。
【豊穣神デメトラ】:『うおおおおっ!! 醤油とみりんの甘辛き煮汁! 出汁が溢れる黄金の卵焼き! これぞ奇をてらわぬ、魂を癒やす日本の家庭料理の極致じゃぁぁ!!(100,000pt赤スパ寄付)』
「はい、お待たせしました! 『ほくほく肉じゃが』と『黄金の出汁巻き卵』、お豆腐とわかめのお吸い物です!」
「「「いただきます」」」
手を合わせ、クリストフ司教が箸を使って、琥珀色の煮汁を吸い込んだじゃがいもを一口運んだ。
――ほろり。
舌の上で柔らかく崩れ、素材の素朴な甘みと、牛バラ肉の上品な脂、合わせ出汁の旨味がじんわりと広がる。
「……っ、美味しいね……。とても、優しい味だ……」
司教は箸を止め、感嘆の息を漏らした。
続いて出汁巻き卵を口に含むと、ジュワッと溢れ出した出汁の旨味に、サファイアのような碧眼を細めて静かに目を閉じた。
「まぁ……! 卵の中から、こんなにも美味しいお出汁が溢れてくるなんて!」
マリアさんも目を輝かせ、ルミアも「心がぽかぽか温まります」と幸せそうに頬を緩める。
コハクも小皿の卵焼きを「ハフハフ、美味いのじゃ!」と夢中で頬張っていた。
穏やかな時間が流れ、大皿が綺麗に空になった頃。
温かいお茶をすすりながら、ルミアがどこか思い詰めたように伏し目がちに口を開いた。
「あの……お父様。私、ずっと大聖堂の中で、信徒の皆様のためにお祈りを捧げてきました。……でも、ミナトさんと出会って、外の世界で困っている人々や、ご飯を食べて笑顔になってくれる人々を見て……気づいたのです。外の世界には、私の知らない苦しみや、届けられるはずの笑顔が、もっとたくさんあるのではないかと……」
ルミアは膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。
「けれど……私は、神聖アステリア大聖堂の聖女。王都の象徴として、この場所を勝手に離れるわけには……」
大聖堂という神聖な鳥籠。
自分を縛り付けてきた重責に苦しむ愛娘を見つめ、クリストフ司教はどこまでも温和で慈悲深い眼差しを向けた。
「ルミア。地方で長年、名もなき信徒たちと共に祈り、生きてきた父だからこそ……お前に伝えたいことがある」
「お父様……?」
「聖女の務めとは……堅牢で豪奢な大聖堂の奥に閉じこもり、王都の貴族や一部の信徒のためだけに祈りを捧げることなのだろうか?」
クリストフ司教の澄んだ声が、静かにリビングに響いた。
「この広い大陸の各地には、遠すぎて王都の大聖堂へ足を運ぶことすら叶わず、病や貧困、魔物に脅かされながら祈り続けている無数の民や子供たちがいる。……ミナト君のように、様々な人に温もりを届け、民と同じ目線で微笑みかけることこそが――神の御心にかなう、真の『巡礼の聖女』の姿ではないのかね」
「真の……巡礼の聖女……」
ルミアは瞳を見開き、息を呑んだ。
「王都の大聖堂を離れることは、職務の放棄ではない。教会の祈りを、王都の外で待つあまねく民のもとへ届けるための……尊き『巡礼の旅立ち』だ」
クリストフ司教は優しく微笑み、ルミアの震える手を包み込んだ。
「だからルミア。お前が広い世界を巡り、多くの人々を救うために羽ばたきたいと願う日が来たら……父は、誰よりも誇らしく、笑顔でお前を送り出そう。お前が選んだその道を、父は全力で応援すると約束するよ」
「……っ、お父様……! ありがとうございます……っ!」
ルミアの瞳から大粒の涙が零れ落ち、けれどその表情には、迷いを完全に振り払った輝くような笑顔が咲き誇っていた。
【主神アルト】:『パパ司教、昨日の取り乱した時とは思えないくらい立派なお姿だわ』
【愛の女神フィリア】:『お父様……! 鳥籠から娘を解き放つ、なんと深く尊い導きですの……! 全私が号泣ですわーーっ!!(200,000pt赤スパ寄付)』
【武神アーレス】:『うむ! 祈りとは内に籠もるにあらず、民と共に歩むべし! 実に天晴れなる聖職者の言よ!』
クリストフ司教は居住まいを正すと、深々と頭を下げて俺に向き直った。
「ミナト君。娘に広い世界と、本当の笑顔を見せてくれてありがとう。世間知らずな娘だが……どうかこれからも、良き仲間として支えてやってほしい」
「はい。こちらこそ、ルミアさんにはいつも助けられていますから」
俺が真っ直ぐに頷くと、司教は心底安心したように微笑んだ。
「あ、そうだクリストフ様。これを受け取っていただけますか?」
俺は胸ポケットから、一冊の革表紙の手帳を取り出してテーブルへ置いた。
「大聖堂の孤児院や街の食堂のために、現地食材だけで作れるように工夫した『焼きそばとお好み焼きの普及版レシピ帳』です。これがあれば、俺たちがいなくなっても、教会の厨房や料理人たちが子供たちに温かいご飯を作ってあげられますから」
手帳を開いたクリストフ司教は、びっしりと書かれた分量や火加減の工夫を見て、感嘆の息を漏らした。
「……素晴らしい。食を通じて民を救う尊き遺産だ。大切に役立てさせていただくよ」
温かな家族の絆と未来への確かな約束を胸に、俺とルミアは、ルミアの両親が泊まる離れを後にした。
心地よい昼下がりの木漏れ日を浴びながら、大聖堂の大通りへと歩みを進める。
「お父様、すごく素敵な言葉をくれましたね、ミナトさん!」
「ですね。本当に温かいお父さんとお母さんでしたね」
「えへへ……!」
ルミアが嬉しそうに俺の袖の端をちょこんと指先で掴む。
その時だった。
パッカ、パッカ、と軽快な蹄の音を響かせ、白銀の装飾が施された豪奢な馬車が、俺たちの目の前へと滑り込んできた。
ガラリ、と窓が開き、中から艶やかな扇子を手にしたクラリッサが、満面のビジネススマイルで手招きをしてきた。
「ミナトさん、ルミアさん! お待ちしておりましたわ!」
「クラリッサさん!? どうしたんですか、こんな立派な馬車で」
クラリッサは悪戯っぽく瞳を輝かせ、分厚い羊皮紙の束を掲げて見せた。
「どうしたも何も、本日のメインイベントですわよ! フェスで王都中を熱狂させた『特製濃厚ソース』の製品化と量産化……そして、わたくしたちクラリッサ商会との独占販売ライセンス契約の調印式へ参りましょう!」
旅立ちに向けた経済基盤を揺るぎないものにする、新たな商談の幕開けだった。
第44話をお読みいただきありがとうございました!
司教滞在離れでの【家族団らん×コハクの変身余興×聖女の自立回】、いかがでしたでしょうか!
冒頭から七色の尻尾を光らせて、昨日の号泣パパ司教を完全再現するコハク!
悶絶するクリストフ様と、全く動じずに頭を撫でる大物お母様マリアさんのリアクションに笑っていただけたら幸いです!
そして、昨日の濃厚ソースから一転、身体の芯から温まる『ほくほく肉じゃが』と『黄金の出汁巻き卵』!
大聖堂という鳥籠に縛られていたルミアに対し、地方で信徒に寄り添ってきた父親だからこそ語れる「大聖堂に閉じこもるだけが聖女ではない」「外の世界の民を救う『真の巡礼の聖女』になりなさい」という言葉――。
この父親の深い導きがあるからこそ、聖女が大聖堂を離れることに最高の説得力が生まれ、今後の旅立ちも祝福されたものになりました!
そしてラスト、大聖堂の前に現れたのはクラリッサの豪奢な馬車でした。
次回――第45話へと続きます。
第1章神聖アステリア王国編も、あと6話となります。どうぞ第1章を最後までお楽しみください。




