第37話:モフモフ神獣コハクと孤児院の子供たち! チョコバナナ大フィーバー
お読みいただき本当にありがとうございます!
前回の第36話では、お忍びで訪れた若き国王アルベルト陛下とエレオノーラ王妃様を、現代の「ハニカム無重力ゲルクッション」と、王都の食材を活かした「お洒落なクレープ二連撃」でおもてなし!
腰の痛みが消え去って雲の上にトリップする王妃様と、自国の恵みの洗練度に感銘を受けた国王陛下という、国家最高権力者を無自覚に胃袋掌握するVIP回をお届けしました。
続く第37話は、フェス当日の午後二時を告げる鐘とともに始まる【モフモフ神獣コハクと孤児院の子供たち(ハートフル回)】です!
元々は孤児院を救うために始まったこの慈善屋台フェス。
お金を持たずに遠巻きに見つめていた子供たちへ、ミナトとルミア、そして相棒の神獣コハクが贈る最高のおもてなしとは――!?
そしてラストには、大画面を見て激怒したあの「過保護な親バカ美形司教」が地響きを立てて襲来します!
どうぞ最後まで温かい気持ちでお楽しみください!
『ゴーーーーン……ゴーーーーン……』
澄み渡る青空の下、大聖堂の巨大な鐘楼から午後二時を告げる鐘の音が重厚に響き渡った。
正午のじりじりとした日差しはわずかに柔らかさを帯び、広場を渡る心地よい風には、中央鉄板の香ばしいソースの煙と、右側ブースから漂う甘いバニラの香りが溶け合っている。
大盛況が続くスイーツブースの喧騒から少し離れた広場の端に、控えめな足取りで近づいてくる小さな一団があった。
十数人の幼い子供たち。
その前を、黒い法衣をまとった優しげな顔立ちのシスターが、子供たちの手を引きながら恐る恐る歩いていた。
子供たちは、鼻をひくひくさせながら広場いっぱいに満ちる甘い匂いに目を丸くしている。だが、小綺麗な服を着た町人たちや屈強な冒険者たちが行き交う熱気に圧倒され、誰一人として列に並ぼうとはせず、遠巻きに屋台を見つめていた。
「わぁ……すっごい人だね、シスターさん」
「あのお菓子、すっごく甘くていい匂いがする……。でも、僕たち、お祭りに使えるお金なんて一枚も持ってないよね……」
しょんぼりと俯き、お腹をキュウと鳴らす小さな男の子。
その姿を、スイーツブースの特設カウンターからいち早く見つけ出した人物がいた。
「――あっ! みんな……!」
純白のフリルエプロンを風に揺らし、カウンターを飛び出したのはルミアだった。
普段の聖女としての厳かな足取りも忘れ、小走りで子供たちへと駆け寄っていく。
「ルミアお姉ちゃん……!」「聖女様だぁ!」
子供たちの顔が一瞬でパッと明るくなった。
ルミアは躊躇うことなく地面に膝をつき、子供たちと同じ目線になると、両手をいっぱいに広げて小さな身体を受け止めた。
「ふふ、みんな来てくれたのね! 待っていたわ!」
「ル、ルミエラ様……!」
引率のシスターが慌てて身を縮め、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません……子供たちが、どうしてもお祭りで頑張っていらっしゃるルミエラ様のお姿を一目見たいと申しまして……。ですが、あの子たちには一文の持ち合わせもございませんのに、このような大盛況のお邪魔をしてしまい……すぐに連れて戻りますので……」
「待ってください、シスターさん!」
そこへ、エプロン姿のミナトがトレイを抱えて笑顔で割って入ってきた。
「シスターさん、何を遠慮してるんですか。この慈善屋台フェスは、元々この大聖堂の孤児院のみんなをお腹いっぱいに笑顔にして、その支援金を集めるために立ち上げたものなんですよ。今日この広場の中で、みんなこそが一番の『特別VIPゲスト』です!」
「ミナトさん……」
ルミアが胸元で両手を合わせ、潤んだ瞳でミナトを見上げる。
子供たちも「びっぷ……?」「僕たち、あのお菓子を食べていいの……?」と、驚きと期待に胸を膨らませて顔を見合わせた。
「もちろん! みんなのために、とびきり甘くて楽しいお菓子を用意して待ってたんですよ!」
ミナトがパチンと指を鳴らす。
それを合図にしたかのように、屋台の屋根の上からシャラランと鈴を転がすような澄んだ音が響いた。
「かっかっか! 待っておったぞ童ども! 我が主ミナトの許可も出たのじゃ、遠慮など一切無用じゃぞ!」
ふわりと宙を舞い降りてきたのは、手のひらに乗るほど小さな金色の毛並みと、七色に輝くふさふさの尻尾を持つ神獣――コハクだった。
空中に浮遊するコハクの両手には、氷を敷き詰めた銀皿が掲げられている。
そこには、陽光を浴びて宝石のように輝く色鮮やかなお菓子が、山のように並べられていた。
「わぁぁぁぁぁッッ!!」「きつねさんが空を飛んでる!」「お菓子がいっぱいだぁぁぁ!」
子供たちから嵐のような大歓声が沸き起こった。
銀皿の上に並んでいたのは、二つの日本の伝統的な屋台スイーツだった。
一つは、冷えた完熟バナナを濃厚なミルクチョコレートで丸ごとコーティングし、表面に赤、青、黄、緑のカラフルなチョコスプレーをたっぷりと散りばめた『カラフルチョコバナナ』。
もう一つは、小ぶりで真っ赤なリンゴを、薄いガラス細工のように透き通るべっこう飴で艶やかに包み込んだ、棒付きの『りんご飴』だ。
「さあさあ、好きな方を一本ずつ持っていくがよい! どちらも妾とミナトが丹精込めて仕込んだ至高の甘味じゃぞ!」
コハクが得意げに胸を張り、子供たちの目の前へふわふわと銀皿を差し出す。
子供たちは目を輝かせ、小さな手を伸ばした。
「僕、このチョコのやつ!」「わたし、真っ赤なりんごの飴!」
それぞれ手にお菓子を握りしめると、我慢しきれないとばかりに大きな口を開けてかぶりついた。
パリッ、と小気味よい音が広場に響く。
冷たくねっとりとした完熟バナナの濃厚な甘みと、口の中で体温によって滑らかに溶け出すミルクチョコのビターなコク。そこへカリカリとしたカラフルシュガーの小気味よい食感が弾ける。
「んんん〜〜〜っっ!! あま〜〜〜いっ!!」
「チョコがパリパリしてて、中の黄色い実がすっごくトロトロしてる!」
一方、りんご飴をかじった女の子たちからも、幸せそうな黄色い歓声があがった。
薄い飴の層がパリパリと軽快に砕けた瞬間、中から真っ赤なリンゴの甘酸っぱく瑞々しい果汁がジュワリと口いっぱいに溢れ出すのだ。
「飴がシャリシャリしてて、りんごがすっごく甘酸っぱくて美味しい……! こんなの、生まれて初めて食べたよ……!」
あっという間に、子供たちの口の周りは茶色いチョコレートや真っ赤な果汁でいっぱいに染まっていた。
その無邪気な食べっぷりに、母マリアが布ナプキンを手に優しく微笑みながら駆け寄る。
「ふふ、慌てて食べなくても大丈夫よ。ほら、お口の周りを拭きましょうね」
聖母のような手つきで子供たちの口元を一人一人丁寧に拭いていくマリア。
広場の特等席に設けられた木製のベンチで、夢中でお菓子を頬張り、満面の笑顔を咲かせる子供たち。
その光景に、天界のモニター越しに見守る神々からも、凄まじい勢いでコメントが押し寄せていた。
【愛の女神フィリア】:『キャアアアアアッ!♡♡ 天使! 地上に舞い降りた天使たちの笑顔ですわーーっ!! 口の周りチョコだらけにして……尊い! 尊すぎて視界が涙で滲みますわーーっ!!(150,000pt赤スパ寄付)』
【主神アルト】:『ちびっ子たちが全員満面の笑みでチョコバナナやりんご飴を食べてて完全に草。こんなん全人類が浄化されるだろwww 癒やし枠として完璧すぎるww』
【豊穣神デメトラ】:『うむ! 完熟のバナナにカカオの衣、そして林檎を飴で包む! 果実本来の酸味と糖蜜の結晶が織りなす見事な菓子じゃ! 子供らが喜ぶのも当然よのう!』
【武神アーレス】:『うむ……! 幼き者らが飢えに怯えることなく、腹の底から笑い合える世……。これぞ我ら神々が、そして人の戦士が守るべき真の平和よ……!(号泣して目頭を押さえる)』
あっという間にチョコバナナとりんご飴を綺麗に平らげた子供たちは、満足そうにお腹をさすりながら、ベンチの端に着地したコハクの周りへと自然に集まってきた。
「きつねさん、美味しいお菓子をありがとう!」
「空を飛ぶの、すっごくかっこよかったよ!」
小さな手がおずおずと差し伸べられる。
コハクは小さな両腕を組み、長い七色の尻尾をゆらゆらと揺らしながら、これ見よがしに鼻を鳴らした。
「ふふん! 礼なら我が主ミナトと、この偉大なる変幻の神獣コハク様にいくらでも尽くすがよい! 特別に、この選ばれし美しい毛並みに触れる栄誉を許してやるのじゃ!」
威張り散らす子狐の様子に、ミナトは苦笑いを浮かべながら手元の神具スマホを操作した。
そして天界通販アプリから、あるアイテムを実体化させる。
「コハク、お前も朝からずっと撮影と接客で飛び回ってただろ。みんな、これでコハクの背中や尻尾を優しく撫でてあげてくれるかい?」
ミナトが子供たちに手渡したのは、天界通販の『最高級ペット用スリッカーブラシ』だった。
「わぁ、これでするの?」「きつねさん、痛くない?」
「ふん、この程度の道具で妾の霊毛が――」
子供の小さな手が、柔らかいブラシをコハクのふさふさとした七色の尻尾の根元へ当て、毛並みに沿ってスーッと優しく梳き下ろした。
その瞬間――。
「――ひゃ……ッ!? んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
広場に、神獣の威厳を根底から粉砕するような、情けない甘えた鳴き声が響き渡った。
日頃の飛行と変身で凝り固まっていた尻尾の血流を一瞬にして解きほぐしたのだ。
「な、なんじゃこれ……っ!? ひゃんっ、そこ、根元のあたりが……っ! 極楽……極楽の心地よさじゃぁぁぁ……っ!」
ピクピクと激しく痙攣していた狐耳が、ふにゃりと力なく垂れ下がった。
コハクの金色の瞳はトロンと蕩け、見る影もなく緩みきってしまう。
子供たちが「わぁ、きつねさん気持ちよさそう!」「こっちも梳かしてあげるね!」と交代でブラシを滑らせると、コハクは「ふにゃぁぁ……」「ゴロゴロゴロゴロ……」と喉を鳴らし、手足をだらしなく投げ出した。
ベンチの上で骨をすべて抜かれたようにへたり込み、完全に『ふにゃふにゃの液体』と化してしまう神獣。
【主神アルト】:『神獣が完全にただの駄狐になってて腹筋崩壊したwwwww 液体化すなwwwww』
【愛の女神フィリア】:『キャーッ!♡ お腹出して子供たちに撫で回されてますわーっ!! 尊死! 尊死の過剰供給で天界が崩壊しますわーーっ!!(58,000pt赤スパ寄付)』
【武神アーレス】:『おお……霊獣の頑なな誇りを完全に打ち砕く、恐るべき撫で技よ! 人と獣の完全なる融和がここにある!』
子供たちの無邪気な笑い声と、液体化したコハクの幸せそうな寝息に包まれ、スイーツブースの周辺はまるで陽だまりのような温かな空気に満たされていた。
遠巻きに見守っていた冒険者や町人たちからも、自然と優しい拍手と歓声がこぼれる。
引率のシスターは、胸の前でロザリオを握りしめ、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「ミナト様……ルミエラ様……本当に、本当にありがとうございます。あの子たちが、こんなに幸せそうに笑う姿を見たのは……孤児院に引き取られて以来、初めてでございます……」
「シスターさん、泣かないでください。みんなが笑ってくれて、俺たちの方こそ元気をもらいましたから」
ミナトが温かく微笑むと、隣に立っていたルミアが、そっと身を寄せてきた。
「ミナトさん……」
「ルミアさん?」
見上げると、ルミアの美しい瞳が、溢れんばかりの感謝と情愛で潤んでいた。
ルミアは周囲の視線も忘れ、無自覚のまま、ミナトのエプロンの裾を両手でぎゅっと握りしめた。
上目遣いでミナトの顔をじっと見つめ、吐息の届く距離まで顔を近づける。
「私……ミナトさんと一緒にこの屋台を開くことができて、本当によかった……。あの子たちを救ってくれたのは、貴方の温かい料理と……その優しい心です。私、ミナトさんのことが……」
(ちょ、ちょっと待ってルミアさん!? 顔が近い! それにエプロンの裾を握るの反則だから!!)
心臓が破裂しそうなほど早鐘を打つミナト。
しかも、コハクがミナトに手渡した神具スマホのカメラが、甘え顔全開でミナトに密着する聖女の姿を、至近距離からバッチリと捉えていた。
広場の中央にそびえ立つ、巨大な中継魔導スクリーンにも、その『聖女様の激重デレ映像』が超特大サイズで映し出されている!
【愛の女神フィリア】:『告白!? 告白来ますのーっ!? 裾握り上目遣いは完全に正妻の仕草ですわーーっ!!(235,000pt赤スパ寄付)』
【主神アルト】:『はい切り忘れキタァァァァァ!!www 広場の大画面で全王都民に公開生中継されてて草ァ!!www』
「ル、ルミアさん、配信が! 大画面のスクリーンがついてますから――!」
ミナトが慌てて身を引こうとした、その時だった。
――ズドオオオオオオオンッッッ!!!!
大聖堂の巨大な白亜の正門から、空気を切り裂くような怒号とともに、地響きを立てて何かが猛烈な勢いで突進してきた。
「――ちょっと待てぇぇぇぇっっっ!!! 大画面の水晶に映し出されているあの破廉恥極まりない光景は何事だああああああっっっ!!!」
広場の石畳を蹴破らんばかりの神速で走ってくるのは、豪奢な司教法衣の裾を激しくバタつかせ、目を血走らせた男性だった。
妻のマリアと同じく30代後半の若々しさを保ち、本来ならば彫刻のように端正で知的な顔立ちをした美男子――。
地方教区を治める司教にして、ルミアの実の父親であるクリストフ司教その人であった!
王都のフェスに合わせて愛娘の晴れ姿を見に来たはずの若き美形パパ司教は、今や見る影もなく般若の如き凄まじい形相へと変貌していた。
「私の愛しのルミアに! あのようなフリルだらけの給仕服を着せ! 皆の前で晒し者にした挙句! 服の裾を握らせてその純真な心を誑かしている不届き者の男はどこのどいつだああああああっっっ!! 成敗してくれるわああああっっっ!!!」
「えぇぇっ!? る、ルミアさんのお父さん!?」
「お、お父様……!?」
地鳴りのような殺気を放ちながら猛ダッシュで迫り来る過保護な親バカ司教の姿に、ミナトは叫び声をあげ、平和だった屋台フェスは一転して大パニックの渦へと叩き落とされるのだった――!
第37話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
モフモフ神獣コハクと孤児院の子供たちがお送りするハートフル癒やし回、いかがでしたでしょうか!
日本の屋台の定番である「カラフルチョコバナナ」と「真っ赤なりんご飴」を頬張り、口の周りをチョコだらけにして笑う子供たちの姿は、見ているだけで心が洗われますね!
そして、偉そうに威張り散らしていたコハクが、天界通販の高級ブラシで尻尾を梳かされた瞬間に「ふにゃぁぁ……」と骨抜きになり、ベンチの上で完全に液体化してしまうギャップ萌えを楽しんでいただけたら幸いです!
次回――第38話もお楽しみください。




