第33話:チャリティ屋台フェス開幕! 王都を包む焦がしソースの嵐
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
前回の第32話では、静まり返った夜の広場で、焦がし醤油の焼きおにぎりと熱々焼きそばによる夜食テロ、そして孤高の天才魔導師ユリアスとの熱い男の誓いをお届けしました!
そして――大変長らくお待たせいたしました!!
物語はいよいよ、王都の運命を懸けたフェス当日の朝を迎えます!
本日より、怒涛の【チャリティ屋台フェス本番編】が開幕です!!
澄み渡る快晴の空の下、広場へと続く大通りを埋め尽くす数万人の大群衆!
純白フリルエプロンを身にまとった看板娘・聖女ルミアによる、奇跡のように愛らしい開会宣言!
そして、特注巨大鉄板から王都の青空へ立ち上る「焦がしソースの暴力的な大旋風」!
現代の味と神速オペレーションが、異世界の胃袋を熱狂の渦へと巻き込みます!
お腹を空かせて、お祭りフィーバーをどうぞ全力でお楽しみください!
地平線の彼方から朝陽が昇り、雲ひとつない鮮やかな紺碧の青空が王都の天蓋を覆い尽くしていく。
神聖アステリア大聖堂前広場。
まだ朝露が残る澄み切った大気の中、広場へと直結する大通りの向こう側からは、すでに地鳴りのようなざわめきが響いていた。
将棋倒しなどの大事故を防ぐため、広場と大通りの境界には近衛騎士団による頑丈な木製バリケードと規制線が幾重にも張られている。だが、その規制線の向こうには、開場を今か今かと待ちわびる市民や冒険者、商都から駆けつけた商人たちが押し寄せ、王都の目抜き通りを何重にも埋め尽くしていた。
しかし、迎え撃つ俺たちの特設大屋台に、混乱や動揺の色は微塵もなかった。
色鮮やかな垂れ幕が朝風にはためく大屋台では、完璧に役割分担された3大専門ブースが、今まさに最終点検を終えようとしている。
「ミナト、広場の設営動線は完璧ですわよ」
作業台の脇で豪奢な扇子をパチンと鳴らしたのは、筆頭パトロンのクラリッサだった。彼女は広場の見取り図を指先でなぞりながら、誇らしげに胸を張る。
「大通りからの進入路と退出路は騎士団の手で明確に分けさせましたけれど、広場の中に入ってしまえば、大屋台の周囲をぐるりと一周できる【回遊型サーキュレーション】にしてありますの。一本道の一方通行にしてしまうと、焼きそばを買ったお客様が窮屈に外へ追い出されて、スイーツや飲み物を買いに戻れなくなってしまいますからね」
「さすがクラリッサさん! それなら、中央で焼きそばを買った人が、そのまま右のクレープや左の冷たいドリンクへ自由に買い回れますね」
「ふん、当たり前ですわ。商業の基本はお客様に気持ちよくお財布の紐を緩めていただくことですもの!」
俺が感心して頷くと、中央ブースの巨大鉄板の脇から、巨漢ブルーノと軽戦士フィンがパンッと力強く両手を打ち鳴らした。
「おうよミナト! 鉄板の魔導バーナーは絶好調、コテの握りもバッチリだぜ! 今日は王都中の大食らいどもの胃袋を、根こそぎかっさらってやろうぜ!」
「仕込み済みの舟皿も山積みだ! どんな大行列だろうが、神速で捌いてやろうぜ!」
右側のスイーツブースへ目を向けると、そこには思わず息を呑むほど愛らしい光景が広がっていた。
「ふ、ふぅ……エプロンのリボン、曲がっていませんか……?」
薄桃色の私服の上に、胸元と腰回りに上品なフリルがあしらわれた純白のエプロンを着けたルミアが、頬を赤らめながらクレープ用の丸い鉄板に油を馴染ませていた。隣では実母のマリアさんが「とっても可愛いわよルミア」とおっとり微笑み、店頭では子狐姿のコハクがカラフルなチョコスプレーの小瓶を掲げている。
「かっかっか! チョコバナナもリンゴ飴も準備万端じゃ! 妾の愛嬌で飛ぶように売り捌いてやるのじゃ!」
そして左側の極冷氷菓&ドリンクブースでは、昨夜の焼きおにぎりで完全に脳細胞を覚醒させたユリアスが、弟子魔導師たちへ冷徹かつ淀みない指示を飛ばしていた。
「各員、魔導炭酸サーバーの圧力弁を確認。瞬間氷結回路の励起術式は適正値だ。……完璧だ。我が友ミナト、いつでも開門してくれ」
広場と大通りの境界に立つ白銀の甲冑のシルヴィアが、腰の長剣を掲げて振り返る。
「近衛騎士団、配備完了! 進入路の誘導体制に寸分の隙もなし!」
仲間たちの熱い視線が、俺の背中を押す。
その時――ゴォォォォォン……と、大聖堂の巨大な鐘が午前九時を告げ、厳かに王都全土へ鳴り響いた。
「ルミア様、お願いします!」
「はいっ!」
ルミアが屋台の中央、真鍮製の魔導マイクの前に立つ。
瞬間、特設ステージの上に聳え立つ街頭巨大魔導スクリーンへ、頬をほんのり桜色に染めたフリルエプロン姿の聖女様が超高精細のドアップで大写しになった。
大通りの向こうで待機していた数万人の群衆から、一瞬で息を呑むようなどよめきが走る。
ルミアは胸の前でマイクをギュッと握りしめ、澄み渡る美しい声を、王都の青空へ高らかに響かせた。
「皆さま、おはようございます! 本日は私たちのチャリティ屋台フェスへお越しいただき、本当にありがとうございます! 孤児院の子供たちへ温かい冬を届けるため、心を込めて美味しいお料理を作りました! ……神聖アステリア大聖堂チャリティ屋台フェス、ただいま開幕いたしますっ!!」
開会宣言が響き渡った瞬間、シルヴィアの鋭い号令が大通りを切り裂いた。
「――規制線を解除! 道を開けよ!!」
バリケードが一斉に左右へと引かれ、広場への進入路が完全に開放された。
――『ウォォォォォォォォッッッ!!!!』
地鳴りのような大歓声。
堰を切った奔流のように、先頭の筋骨隆々な冒険者たち、手をつないだ市民の家族連れ、職人や見物客が、怒涛の勢いで広場の中へと雪崩れ込んできた!
【愛の女神フィリア】:『キャアアアアッ!♡ フリルエプロン姿の聖女様、愛らしすぎて天界の概念が吹き飛びますわーーっ!!(100,000pt赤スパ寄付)』
【主神アルト】:『開幕の雪崩込みエグすぎて草ァ!!www コミケの開場ダッシュそのまんまでワロタww 画面揺れてんぞ!』
進入路を抜けた人の波が、最も凄まじい勢いで殺到したのは中央の鉄板ライブブースだった。
「うおおお! 夕べのあの暴力的な匂いの正体はここかァ!?」
「おい兄ちゃん、焼きそばってやつをくれ! 早く食わせろ!」
「はい、いらっしゃい! 焼きそば百人前、一気に入ります!!」
俺は両手に二本の鉄板コテを構えると、神具スマホの画面を素早くタップした。
「時間停止ストレージ」から、昨日完璧に仕込んでおいた極上高原キャベツの山と、厚切りの豚バラ肉が一瞬で鉄板の上へと踊り出る!
――ジュワワワワワワッッッ!!!!
激しい脂の爆ぜる音が鳴り響き、香ばしい豚肉の香りが立ち上る。
二本のコテを両手でリズミカルにカチャカチャと鳴らし、熟練の剣舞のように肉とシャキシャキのキャベツを炒め合わせる。そこへ天界通販の特製蒸し中華麺を大量に投入し、豪快にほぐしながら熱を通していく。
そして――仕上げの瞬間だ。
俺は両手に持った特製濃厚ブレンドソースのボトルを掲げ、熱々の鉄板の上へ豪快に回し入れた!
――『ジューーーーーーッッッッ!!!!』
鼓膜を突き破らんばかりの凄まじい沸騰音とともに、鉄板から白い爆炎のような蒸気が一気に噴き上がった。
焦げた醤油と濃厚なスパイス、果実の甘みが凝縮された「焦がしソースの暴力的な香気」が、巨大な竜巻となって快晴の広場全体を瞬く間に包み込んでいく。
「ぐわぁぁぁぁっ!? なんだこの匂い、脳天が痺れそうだ!」
「腹が、腹の虫が暴れ狂って死にそうだぁぁっ!」
行列の客たちが匂いだけで悶絶する中、俺の手元は一切止まらない。
焼き上がった焼きそばを二本のコテでリズミカルに舟皿へ取り分けると同時に、神具スマホの「時間停止ストレージ」へ次々と吸い込ませていく!
そして、カウンターの前で待ち構えるブルーノとフィンへ、時間停止から取り出した熱々の舟皿を爆速で手渡した。
「青のりと紅生姜をトッピング! はい、お待ちぃ!!」
「熱いから気をつけてな! ほら次、どんどんいくぜ!」
通常なら一人前を焼くのに数分待たせるはずの屋台で、焼き立て熱々の焼きそばが数秒に一皿のペースで飛ぶように手渡されていく。時間停止ストレージを活用した「熱々ストック&神速提供」のオペレーションが、完璧に機能していた。
受け取った冒険者が、たまらずその場で割り箸を割り、山盛りの麺を口いっぱいに掻き込んだ。
「あふっ、ハフッ……んぐっ!? ――う、う美味ぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
目を見開き、絶叫する冒険者。
「なんだこの麺、もっちもちじゃねぇか! 甘辛いタレが麺一本一本に絡みついて、噛むたびに豚肉の甘い脂とシャキシャキのキャベツが弾け飛ぶ! こんな美味いもん、生まれて初めて食ったぞ!!」
「おい、俺にもくれ!」「こっちもだ、二皿……いや三皿頼む!」
【武神アーレス】:『二本の鉄匙の乱舞、そして淀みなく兵糧を配給する神速の兵站陣形! 一軍の補給を支えて余りある見事な手際であるぞ!』
【豊穣神デメトラ】:『立ち上る白煙が王都の空を焦がしておる! 素晴らしい、香気だけで民の胃袋を完全に掌握したな少年! わらわにも一皿送らんかーっ!』
そして、クラリッサの仕掛けた回遊動線が、ここで真価を発揮した。
熱々の焼きそばを手にした客たちは、一方通行で追い出されることなく、自然と隣のブースへと足を運んでいく。
「くぅぅ、美味ぇが口の中が熱い! 喉が渇いたぞ!」
「冷たいお飲み物はこちらですよ! 極冷の麦茶に、シュワシュワ弾けるリンゴスカッシュはいかがですか!」
左側のドリンクブースへ流れた客たちへ、ユリアスと弟子たちが魔導サーバーから注ぎたての冷たいカップを手渡す。
「カァァーーッッ!! なんだこの冷たさと炭酸の刺激は!? 濃厚なソースの脂っこさが一瞬で洗い流されて、無限に焼きそばが食えそうだ!」
さらに右側のスイーツブースへ目を向けると、香ばしい甘い香りに誘われた女性客や子供たちが列を作っていた。
「ふふ、お待たせいたしました! 焼きたてのイチゴ生クリームクレープです!」
「きゃああっ、ルミア様手作りのクレープ、生地がもちもちで天国みたいに甘い!」
「かっかっか! パリパリチョコのバナナに、真っ赤なリンゴ飴もあるのじゃ! ほれ、坊主も一本どうじゃ!」
子狐姿のコハクが愛嬌たっぷりに尻尾を振ると、子供たちが歓声をあげて小銭を差し出す。
中央で熱々の鉄板を堪能し、左で喉を潤し、右で甘味を満喫して、また中央の匂いに釣られる――。
広場の中を心地よく循環する人の波は淀むことなく、特設大屋台は何千人もの客を笑顔に変え、会場はお祭り騒ぎの熱狂のるつぼと化していた。
だが――その最高潮の熱気を切り裂くように、進入路のバリケードの向こうから冷徹でドスの利いた怒声が響き渡った。
「ええい、どけ! 道をあけろ平民ども! 貴族の通行であるぞ!!」
私設衛兵を引き連れ、群衆を威圧的に押し分けながら入ってきたのは、仕立ての良い豪奢な濃紺の外套をまとった痩身長躯の貴族だった。
白髪の混じった銀髪を几帳面に撫で付け、神経質そうな細い眉と冷徹な鷲鼻を持つその男――教会の保守派閥を牛耳る重鎮、ガストーネ伯爵だった。彼は眉間に深い不快の皺を刻み、蔑むような冷たい視線で大屋台を睨みつける。
「神聖なる大聖堂の御前で、賎しい平民どもを集めて怪しげな煙と下品な匂いを撒き散らすとは何事か! このような下品極まりない俗悪な催事、伝統ある我が国と教会の権威を冒涜するものだ! ガストーネ伯爵の名において、即刻中止を命ずる!!」
一瞬にして広場の空気が凍りつき、民衆が怯えてざわめき始める。
衛兵たちが威嚇するように槍の石突を石畳へ叩きつけた。
だが――俺がコテを置くよりも早く、四つの足音が石畳を凛と鳴らした。
「神の御名において孤児たちを救うこの催事を、俗悪と呼ぶなど断じて許されません」
「王国騎士団の名において正式に許可された催事だ。抜刀すれば反逆とみなすぞ」
「アルスハイム家の筆頭投資事業に泥を塗るおつもりかしら、ガストーネ伯爵?」
「私の魔導技術を下品と侮辱したな? ……理論的に徹底的に詰めてやろう」
エプロン姿のルミア、白銀の甲冑のシルヴィア、扇子を広げたクラリッサ、そして氷の瞳を光らせるユリアス。
王都を揺るがす四巨頭が、ミナトの屋台を守るようにガストーネ伯爵の前に立ちはだかった――!
第33話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回、最強の仲間たちによる痛快な論破劇、そして――頑固貴族の格式と理性を一撃で粉砕する「極上ふわとろ豚玉お好み焼き」と「ソース焼きそば」の波状攻撃が炸裂します!
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