第31話:鉄板の火入れ! 立ち上る焦がしソースの香気
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今回は、夕暮れ時の大聖堂前広場へ!
完成した特設大屋台の中央で、いよいよ特注の巨大鉄板に火が灯ります。
立ち上る暴力的な焦がしソースの香気に広場中が大騒ぎ!?
さらに、至福の試食会と周囲への温かなお裾分け、そして公爵令嬢クラリッサがポロリとこぼす本音とは……?
今回も飯テロ全開でお届けします!
西の空が燃えるような茜色から、深い紫紺のグラデーションへと移り変わり始める頃。
大聖堂前の広場を吹き抜ける風が、昼間の熱気を心地よく冷まし始めていた。
広場と大通りに並んだ地元の飲食店や商業ギルドの露店からも、明日の本番に向けた金槌の音や笑い声が途切れ途切れに響いている。
そんな広場のど真ん中で、ひときわ堂々たる存在感を放っていたのが、俺たちの特設大屋台だった。
その中央カウンターにどっしりと鎮座しているのは、大人の背丈ほどもある特注の超巨大鉄板だ。
その下へ魔導バーナーの青白い炎が吹き込まれると、分厚い黒鉄の板がジワジワと均一に熱を帯び、陽炎のような揺らぎを立ち上らせ始めた。
「ふむ……魔導バーナーの熱が、端から端まで寸分の狂いもなく行き渡っているわね。アルスハイム家お抱えの鍛冶師に特急で打たせた甲斐があったというものよ」
腕を組み、満足そうに頷いたのはクラリッサだった。縦ロールの金髪を夕陽に透かせながら、自慢げに胸を張っている。
「見事な鉄の輝きだ……。魔獣の爪すら弾き返す重装盾のように、一片の歪みもない」
巡回を終えたばかりのシルヴィアも、白銀の甲冑をカチャリと鳴らして鉄板を見つめていた。その表情は、まるで戦場に臨む名将のように真剣そのものだ。
「ミナトさん、いよいよ火入れですね……! 私、なんだか胸がドキドキしてきました」
大聖堂の厨房から駆けつけてくれたルミアが、薄桃色の私服に純白のエプロンを揺らしながら、期待に瞳を輝かせて俺の隣に並び立つ。
「妾の腹の虫は準備万端じゃぞ! さっさとあの麺とやらを投入するのじゃ!」
俺の頭上でふよふよと浮遊するコハクが、神具スマホを構えながら七色の尻尾をぶんぶんと振った。すでに画面の向こうからは、天界の神々が手ぐすねを引いて待っている気配がビンビンと伝わってくる。
「はは、コハク、ちょっと待ってね。特注の巨大鉄板だからさ。本番で失敗しないように、火の通りやソースの焦げ付き具合をチェックする大事なテストなんだよ。数千食仕込んであるから、味見の分はしっかり計算に入ってるから大丈夫」
俺は油引きを手に取り、熱気を帯びた鉄板の表面へ薄く油を馴染ませていく。
ジュッ、と微かな音を立てて油が広がり、鉄板が艶やかな漆黒の光沢を放ち始めた。
「よし、温度はバッチリだ。……それじゃ、焼きそばの試作、いきます!」
俺は神具スマホを取り出し、画面の「時間停止ストレージ」をタップした。
光の粒子が収束すると同時、ボウルに山盛りだった厚切りの豚バラ肉と、先ほどスライサーで刻んだばかりのみずみずしい高原キャベツが作業台の上へと現れる。
まずは豚バラ肉を鉄板の中央へ一気に滑り込ませた。
――ジュワワワワッッッ!!!
鼓膜を小気味よく叩く激しい音とともに、香ばしい豚肉の脂の香りが立ち上る。
二本のコテを両手に構え、肉の表面を素早く焼き固めると、そこへ時間停止でシャキシャキの鮮度を保ったままのキャベツの山をドサリと投下した。
立ち上る蒸気。キャベツの甘い水分が鉄板で弾け、豚の旨味をまとっていく。
すかさず、あらかじめほぐしておいた天界通販の中華麺を合わせ、二本のコテを軽快にカチャカチャと鳴らしながら豪快に炒め合わせる。
「うわぁ……! すごい、ミナトさんの手さばきが軽やかで美しいです!」
「二刀流の演武の如き流麗なコテさばき……! まさに鉄板の上の剣舞だな!」
ルミアとシルヴィアが息を呑む中、具材と麺が黄金色のハーモニーを奏で始めた。
そして――いよいよその時がやってくる。
俺は天界通販で取り寄せた特製濃厚ブレンドソースのボトルを掴み、熱々の鉄板の上へ円を描くように一気に回し入れた。
――『ジューーーーーッッッッ!!!!』
その瞬間、耳をつんざくような激しい沸騰音とともに、鉄板の上から爆発的な白煙が噴き上がった。
熱せられた鉄と、本醸造醤油、香味野菜や完熟果実が煮詰まった特製ソースが焦げる、狂おしいほどに甘辛く香ばしい香気が、巨大な津波となって夕暮れの広場全体へと一気に解き放たれる。
「ぐぬぬぬ……っ! お腹が鳴るどころの騒ぎではないのじゃ! 鼻がもげそうなほど美味そうな匂いじゃぁぁぁ! た、たまらんのじゃ!」
コハクが空中で悶絶するように身をよじる。
ルミアも、シルヴィアも、そして気品を保とうとしていたクラリッサまでもが、息を呑んで生唾をゴクリと飲み込んだ。
香気の暴力は、屋台の中だけに留まらない。
『ジューッ』という音と白煙が風に乗って広場を駆け巡った瞬間、周囲で開店準備をしていた地元の露店主たちや、通りを歩いていた市民たちが、まるで操り人形のように一斉にピタリと足を止めた。
「な、なんだこの匂いは……!? 肉を焼く煙じゃねぇぞ!?」
「甘くて、香ばしくて、酸っぱくて……くそっ、猛烈に腹が減ってきた!」
「あそこの大屋台だ! おい、何か焼いてるぞ!」
広場中の視線が、中央の鉄板へと吸い寄せられていく。
それと同時に、胸元のスマホから凄まじい通知音が連続して鳴り響いた。
【豊穣神デメトラ】:『おぉぉぉぉっ!! このときを待っていたぞ! 焦がしソースの匂いテロじゃぁぁぁ!! 神酒が進むぞ少年!!』
【主神アルト】:『音と煙の暴力エグすぎて草ァ!!www 広場の人たち完全に吸い寄せられててワロタ』
【武神アーレス】:『二本の鉄匙を操る手さばき、まるで熟練の二刀流の演武ではないか! 見事なり!』
【愛の女神フィリア】:『コテを振るうミナト様の真剣な横顔……凛々しくて素敵ですわ……!♡』
「よし、焼き上がりです!」
俺は二本のコテを使って、舟皿へと手際よく焼きそばを盛り付けていく。
仕上げに青のりをパラリと振り、彩りに真っ赤な紅生姜を添えれば、王都特製ソース焼きそばの完成だ。
「さあ、出来立ての熱々をどうぞ!」
湯気立つ舟皿を手渡すと、ルミアやシルヴィア、クラリッサたちが待ってましたとばかりにフォークを伸ばした。
ハフハフと息を吹きかけ、まずはルミアが小さく口を開けて麺を啜り込む。
「はふっ……んんぅっ……! 甘辛いタレが麺にしっかり絡んで……キャベツがすっごく甘くてシャキシャキです! お肉もジューシーで……すっごく美味しいですミナトさん……!」
頬を桜色に染め、両手を頬に当てて蕩けるルミア。
続いてシルヴィアが、山盛りの焼きそばを豪快に口の中へ運んだ。
「美味い……! 濃密で力強い味付けが、巡回で乾ききった身体の隅々まで染み渡っていくようだ……! 噛むほどに旨味が溢れ、止まらなくなるな!」
二人が至福の笑みを浮かべる中、ふと見ると、広場の露店主たちが遠巻きに物欲しそうな顔でこちらを覗き込んでいた。
俺は微笑み、小皿に焼きそばを取り分けると、彼らに向かって声を張り上げた。
「皆さん、明日の準備お疲れ様です! よかったら、味見してみてください!」
「えっ、いいのかい兄ちゃん!?」
「いただくぜ! ……う、う美味ぇぇぇぇっ!? なんだこの濃厚な味付けは!?」
「麺がもっちもちで、野菜が信じられないくらい美味いぞ! 明日の本番、俺たちも絶対買いに来るぜ!」
「おいおい、負けてられねぇな! 俺たちの串焼きも気合入れ直すぞ!」
小皿を受け取った職人や店主たちから、驚きと歓喜の声が次々と上がる。
夕暮れの広場に温かい笑顔が広がり、明日に向けた屋台仲間としての一体感がじんわりと生まれていくのを感じた。
そんな光景を、クラリッサはじっと見つめていた。
彼女は手元のフォークを止め、立ち上る白い湯気を見つめながら、ポツリと呟く。
「……社交界の豪華な晩餐会なんて、いつも毒味と腹の探り合いばかりで……料理の味なんて、ちっともしなかったわ。……ルミア様やシルヴィア、そして協力してくれたみんなと、こんなに心が温かくなるお料理を食べたのは……わたくし、生まれて初めてですわ」
その横顔には、いつもの高飛車なプライドではなく、孤独な重圧を背負い続けてきた一人の少女の素顔が覗いていた。
「クラリッサさん……。明日はもっとたくさんの人が、この温かさで笑顔になりますよ。クラリッサさんが鉄板や場所を用意してくれたおかげです。本当にありがとうございます」
俺が真っ直ぐに視線を合わせて礼を言うと、クラリッサはハッと目を見開き、耳の先まで真っ赤に沸騰させた。
「な、何を言わせますの! わたくしは筆頭パトロンとして当然の投資をしただけですわ! べ、別に感謝されたくてやったわけでは……っ!(顔を真っ赤にして焼きそばをかきこむ)」
【愛の女神フィリア】:『クラリッサ様の孤独な過去に涙……! そしてミナト様の包容力! 天界中が尊死しましたわーーっ!!(55,000pt赤スパ寄付)』
【主神アルト】:『ツンデレ公爵令嬢がデレてて草ァ! 飯が美味いと本音が出ちゃうの分かるわー』
そんな甘酸っぱい空気を切り裂くように、広場の向こうから、ズルズルと足を引きずるような足音が近づいてきた。
「だ、団長……こんなところに……。……ん? なんだこの、暴力的に美味そうな匂いは……?」
現れたのは、近衛騎士団副団長ヴィンセントだった。
シルヴィアからサインをもらい、本部で書類の山を片付けてきたのだろう。顔色は青白く、目の下には濃い隈が刻まれ、まるで幽鬼のような姿だ。
「あ、ヴィンセントさん! お疲れ様です、これ食べて元気出してください!」
俺が大盛りに盛った出来立ての焼きそばを差し出すと、ヴィンセントは吸い寄せられるように受け取り、無言で口いっぱいに頬張った。
次の瞬間。
「う、うぐっ……う、美味いぃぃぃっ!! 連日連夜の残業と、団長の尻拭いでボロボロになった胃袋に……ソースの旨味が優しく染み渡っていくぅぅ……!」
ボロボロと大粒の涙を流しながら焼きそばを貪り食う副団長に、シルヴィアが呆れたように腕を組む。
「ヴィンセント、泣くほど美味いか。我が主の料理を褒めるのは良いが、みっともないぞ」
「誰のせいで私がボロボロになったと思っているのですか団長ォォ!!」
「かっかっか! 今日は泣いてばかりの面白い奴らばかりじゃのう!」
コハクの笑い声が夕暮れの広場に響き渡り、みんなの間にどっと笑いが起きた。
大絶賛のうちに試食会は幕を閉じ、広場にはすっかり深い夜の帳が下りていた。
俺は手際よく鉄板の手入れを済ませると、出来立ての焼きそばを綺麗なパックに詰め、「時間停止ストレージ」へと大切に収納した。これなら、明日の朝でも出来立て熱々のままだ。
ふと顔を上げると、広場の反対側、特設ステージの上で青白い魔導光が小さく瞬いているのが見えた。
音響スピーカーの配線調整を一人で続けている、ユリアスの姿だ。
(ユリアスさん、まだ作業してるのかな……。せっかく作ったこの熱々の焼きそばと、夜食を持っていってあげよう)
俺は天界通販アプリを立ち上げ、「お米」と「醤油」の項目を指先でタップしながら、静まり返った夜の広場へと歩き出した。
第31話をお読みいただきありがとうございました!
次回は、フェス前日の夜!
静まり返った広場で、一人音響の最終チェックを続ける孤高の天才魔導師ユリアス。
頭脳労働で糖分が枯渇した彼のもとへ、ミナトが差し入れるのは――夜風に香る「香ばしい醤油焼きおにぎり」と、熱々の焼きそば!
男同士の静かな絆と、深まる友情を描く前夜の締めくくりです!
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