第30話:山のようなキャベツと、時短スライサーの衝撃
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今回は、フェス前日の午後へ!
大聖堂前の広場では、屋台の大鉄板で焼く「焼きそば」と「お好み焼き」のため、数千人分の高原キャベツの仕込みがスタートします!
大人の背丈を超えるキャベツの山を前に、屈強な冒険者たちが途方に暮れる中、ミナトが日本の「業務用時短キッチングッズ」を投入!?
さらに、甲冑の上にエプロンを着けて愛刀を抜こうとする女騎士シルヴィアと、胃痛を抱える副団長ヴィンセントの爆笑コントが開幕します!
フェス前日の午後。
神聖アステリア大聖堂の前広場や大通りには、商業ギルドや地元の飲食店が並べる色とりどりの屋台テントが立ち並び、明日の本番に向けた活気ある仕込みの音が響き渡っていた。
だが、広場の中央――大工と冒険者たちが総力を挙げて組み上げた特大屋台の裏手にある仕込みテントの中だけは、まるで通夜のような重苦しい沈黙に包まれていた。
そこには、大人の背丈を優に超える「数千食分の王都産高原キャベツ」が、青々とした巨大な山となってそびえ立っていたのである。
出刃包丁や短剣を手にした冒険者ギルドの人達や、『青銅の盾』のブルーノとフィンが、額に脂汗を浮かべ、腕組みをして青ざめていた。
「おいおいミナト……いくらなんでも量が多すぎねぇか……? これを全部手作業で千切りにしてたら、明日のフェス本番が終わっちまうぞ……」
「リーダーの言う通りですよ! 俺の剣技はモンスターを両断するためのもので、キャベツを千切りにするためじゃないですよぉ……!」
若手冒険者のフィンが情けない声を上げ、包丁を持った手をわなわなと震わせる。
「ははは、大丈夫ですよ! ちゃんと秘密兵器を用意してありますから」
「かっかっか! 魔物をぶっ叩く腕力自慢が、ただの野菜の山にビビって情けないのじゃ! シャキッとするのじゃ、筋肉ダルマ共!」
俺の肩の上で浮遊するコハクが、神具スマホを向けながらケタケタと喉を鳴らして笑う。
「な、なんだとこの小狐ぇぇ! 見てろよ、切って切って切り刻んで……あいたっ、爪切りそうになった!」
「ほら危ないですから、包丁は置いてください」
俺は苦笑しながらスマホの画面をタップし、天界通販アプリからダンボールを取り出した。
中から取り出したのは、現代日本の厨房で使われる「業務用回転式キャベツスライサー」と、「ワイド千切りピーラー」数本だ。
スライサーを頑丈な作業台に固定し、芯をくり抜いたキャベツを丸ごと中央のホルダーにセットする。
「見ててくださいね。こうやって……」
俺が横についたハンドルを、クルクルと軽快に回し始める。
その瞬間――シュバババババッ! という小気味よい高速の切削音とともに、刃先から極細のふわふわ千切りキャベツが、まるで粉雪のように勢いよくボウルの中へと噴き出していった。
「「「な、なんだあの魔導具はぁぁぁーーっ!?」」」
男たちが一斉に目を剥いて叫んだ。
「切るっていうか……キャベツが粉雪みたいに舞い散ってやがるぞ!?」
「ハンドルを回すだけで、誰でも均一な極細千切りができるんです。包丁より十倍以上早くて、力も要りません。ほら、こっちのワイドピーラーを使えば、キャベツの表面をサッサッとなでるだけでもザクザク千切りが作れますよ」
俺がピーラーでキャベツをスライスしてみせると、冒険者たちの目が野獣のようにギラリと輝いた。
「お、俺にも回させろ! このブルーノ様の豪腕の回転を見せてやる!」
「ずるいぞリーダー、次は俺だ!」
「うおおお! なんだこれ、ハンドル回すのめっちゃ気持ちいいーーっ!! 一生ハンドル回していたい!」
「キャベツ千切り担当は俺に任せろォォ!!」
さっきまで途方に暮れていたゴツい冒険者たちが、まるで新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせ、我先にとスライサーのハンドルを奪い合って爆速でキャベツを刻み始めた。
「くっくっく、単純な奴らじゃ! 筋肉しか取り柄のない男共にはお似合いの作業じゃのう!」
コハクが七色の尻尾を揺らして煽る中、画面越しのコメント欄が猛烈な勢いで流れ出す。
【武神アーレス】:『おおおおっ!? なんという回転速度! なんという美しい千切り! 兵站の革命である! 戦場にあれば補給部隊の神と崇められるぞ!』
【豊穣神デメトラ】:『見事な刃の入りだ! 繊維を一切潰さずにスライスしおったぞ! これならキャベツの水分と甘みが全く逃げん! その極上千切りで早く焼きそばを食わせろ少年!!』
【主神アルト】:『筋骨隆々のオッサンたちがキャベツスライサー奪い合ってて草www 楽しそうで何よりww』
男たちが凄まじい熱気でキャベツを粉砕していく中、テントの外からカチャリ、カチャリと重厚な金属鎧の足音が響いてきた。
「我が主! 広場と大通りの巡回の合間を縫って、手伝いに参上いたしました!」
テントの布を跳ね上げて現れたのは、近衛騎士団長のシルヴィアだった。
凛々しい美貌をキリリと引き締めているが……その白銀の甲冑の胸当ての上には、なぜか家庭的な「純白のエプロン」がしっかりと結びつけられていた。
「あ、シルヴィアさん! ありがとうございます。……でも、その甲冑の上にエプロンって……」
「形から入るのが騎士道。……我が主、安心してください。このオルデンブルク家に代々伝わる宝剣『星輝剣』の神速の居合いをもってすれば、あのキャベツの山など一瞬で微塵切りに――」
スラリ、と鞘から神聖な光を放つ宝剣を抜きかけ、真剣そのものの瞳でキャベツの山を睨みつけるシルヴィア。
「待って待って待って! 宝剣で居合い斬りしたらキャベツが消滅しちゃいますから!!」
俺が全力で止めに入った、まさにその時だった。
「団長ォォォォーーッッ!!」
テントの外から、絶叫とともに猛烈な足音が迫り、息を切らした副団長ヴィンセントが書類の束を抱えて飛び込んできた。
「何をキャベツ相手に抜刀しようとしているのですかーーっ!? 貴族街の警備計画書の決裁サインがまだ終わっていません!! 本部へ戻ってくださいぃぃ!!」
「離せヴィンセント! 我が主のキャベツたちが私を呼んでいるのだ!」
「キャベツより王国ですぅぅ!! 私の胃に穴が空く前にサインをしてくださいぃぃ!! お願いですからぁぁぁ!!」
ヴィンセントは涙目でシルヴィアを背後からズルズルと力任せにテントの外へ引きずり出していく。
「我が主! 明日のお好み焼きには必ずや――むぐっ!?」
「団長、喋らないで早く歩いてくださぁぁい!!」
嵐のように去っていった二人を見送り、テントの中には静寂が戻った。
「……シルヴィアさん、本当に何しに来たんだろう。……それにしても副団長のヴィンセントさん、見ていて胃が痛くなってきたな。後で天界通販で胃薬でも差し入れてあげよう……」
俺の呟きに、コハクが腹を抱えて大爆笑する。
「ぎゃははは! あの真面目女騎士、副団長に連行されておるのじゃ! 傑作じゃのう!」
【主神アルト】:『副団長さんの胃痛コントほんと好きwww 有給あげてwww それと胃薬もwww』
【愛の女神フィリア】:『甲冑にエプロン姿のシルヴィア様、健気で愛らしいですわ……!♡』
そんなコントを繰り広げている間にも、時短スライサーの驚異的な威力により、わずか小一時間で山のようなキャベツは巨大なタライ何杯分もの極上千切りキャベツへと姿を変えていた。
「ふぅ……信じられねぇ速さで終わっちまった。だがミナト、こんな大量の千切り、明日の本番まで置いておいたら水が出て傷んじまわねぇか?」
汗を拭ったブルーノが、心配そうにタライを覗き込む。
「ふふっ、そこは神具の出番です」
俺は神具スマホを掲げ、画面の「時間停止ストレージ」をタップした。
次の瞬間、タライに山盛りだった千切りキャベツが、淡い光の粒子となってスマホの画面の中へと吸い込まれていく。
「これで、明日の本番まで切りたてのシャキシャキ状態が完全に保たれます!」
「「「す、すげええええ!! 冷蔵どころか時間停止かよ!?」」」
冒険者たちと笑顔でハイタッチを交わし、下準備は完璧に完了した。
テントを出ると、西の空が美しい茜色に染まり始めていた。広場の中央には、特注の巨大鉄板がどっしりと鎮座している。
仕込みはすべて終わった。次はいよいよ、大鉄板の火入れテストと――お待ちかねの試食会だ。
「やったのじゃ! 次はいよいよあの香ばしいソース焼きそばの試食じゃな! 妾の腹の虫がさっきから鳴りっぱなしなのじゃ!」
【主神アルト】:『夕方の飯テロ試食会キターーーッ! 待機!』
跳ね回るコハクの頭を撫でながら、俺は巨大な鉄板へと向かって歩き出した。
第30話をお読みいただきありがとうございました!
次回は、フェス前日の夕方!
いよいよ広場中央の特注大鉄板に火が灯ります!
立ち上る暴力的な「焦がしソースと青のりの香気」に、王都の広場中が大騒ぎ!?
さらに、ヒロインたちによる至福の焼きそば試食会で、公爵令嬢クラリッサがポロリとこぼす本音とは……?
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