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配信切り忘れに気づかない聖女様、裏では俺にベタ惚れなのが神々と異世界中に筒抜けだった件 〜変幻狐と行く異世界ダンジョンお散歩生活〜  作者: 湊月


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第29話:厨房の密着特訓! 聖女様のエプロン姿とお母様のお見舞い

いつもお読みいただきありがとうございます!

今回はいよいよ【フェス前日(明日が本番!)】の朝へ突入します!

明日の大聖堂チャリティフェスで看板娘として手伝うため、ルミアが大聖堂の厨房でエプロン姿になってミナトに手取り足取りのレッスンを懇願!?

さらに、地方教会から公務で王都へやって来ていたルミアのお母様がひょっこり現れて……?

甘酸っぱい厨房ラブコメと、母の口から語られるルミアの過去、そして明日の嵐を呼ぶ爆笑オチをお楽しみください!

フェスを明日に控えた、澄み渡るような青空の朝。

俺とコハクは、仕込みの打ち合わせのためにアステリア大聖堂の奥にある調理場へと足を運んでいた。

厨房にはまだ早朝のひんやりとした静けさが漂っている。

だが、中央の調理台の前には、すでに先客の姿があった。

「あ……ミナトさん! おはようございます!」

振り返ったその人物の姿を見た瞬間、俺は思わずその場に立ち止まり、息を呑んでしまった。

そこに立っていたのは、いつもの神聖で厳格な純白の法衣姿ではない。

動きやすい薄桃色の私服の上に、胸元と肩口に愛らしいレースがあしらわれた「純白のフリル付きエプロン」を身に纏ったルミアだった。腰の後ろで結ばれた大きなリボンが、きゅっと引き締まった細いウエストを強調しており、まるで新婚の若妻のような初々しいオーラを放っている。

「お、おはようございます、ルミア様。」

「え、えっと……やっぱり変でしょうか……? 明日の屋台で、私も看板娘としてしっかりお料理を手伝いたくて……! その、まずは形から入ろうかと、ミナトさんに以前いただいたお洋服にエプロンを合わせてみたのですが……」

ルミアはもじもじとエプロンの裾を両手で握りしめ、上目遣いにこちらの反応を窺ってくる。

朝の清らかな光に透ける金髪と、少し不安そうに揺れる翠の瞳。破壊力が高すぎて、心臓が跳ね上がるのを感じた。

「変だなんてとんでもないです! エプロン姿のルミア様、すごく新鮮で似合っていて……本当に素敵ですよ」

「えへへ……! よ、よかったぁ……!」

心底ほっとしたように、ルミアがパッと満面の笑みを咲かせた。それだけで、朝から厨房全体が春の陽光に包まれたような錯覚すら覚える。

「それでね、ミナトさん。お願いがあるんです。明日の屋台で、片手で手軽に食べられる『クレープ』を私も一緒に焼いてみたくて……! でも私、今までお祈りばかりで包丁を握ったことすらなくて……。お野菜の切り方と、生地の焼き方を教えていただけませんか?」

「もちろん喜んで。それじゃあ、まずは包丁の持ち方からやってみましょうか」

俺たちは調理台の前に並び立ち、市場で仕入れてきた新鮮なキャベツと、木柄の包丁をまな板の上に置いた。

「まずは包丁を握ってみてください。人差し指を峰の上に置かないで、柄全体を優しく握り込むイメージです」

「は、はい……! こ、こうでしょうか……? えいっ!」

ルミアはおっかなびっくり包丁を構えたが、添える左手の指先が真っ直ぐピーンと伸びており、刃先が小刻みにカタカタと震えていた。このまま刃を落としたら、一瞬で指先をスライスしてしまう。

「わ、危ない危ない! 指を切っちゃいます! 左手はこう、猫の手にして丸めるんです」

「ね、猫の手……? こうでしょうか……?」

「うーん、まだ指先が出てますね。……ちょっと失礼しますよ」

見かねた俺は、自然とルミアの背後へぴったりと寄り添った。

包丁を握るルミアの華奢な右手を、自分の右手で上からそっと包み込む。そしてもう片方の左手で、ルミアの左手の指先を優しく丸め、キャベツの表面に軽く添えさせた。

完全に後ろから抱きしめるような体勢――いわゆるバックハグの形になった、まさにその瞬間だった。

『ボフッ!!!』

ルミアの全身から、目に見えるような熱い湯気が噴き上がった。

「ひゃぅっ……!? み、ミナトさん……!? ち、ちちち、近いです……っ!?」

「え? あ、力を抜いてくださいね。刃を上から押し潰すんじゃなくて、斜め前へスッと押し出すように……トントン、って軽快なリズムで刻むんです。ほら、すごく筋がいいですよ」

頭上で浮遊してカメラを回すコハクが、七色の尻尾を揺らしながらニヤニヤと悪巧み顔を浮かべる。

「くっくっく、ルミアの顔が真っ赤っかで爆発寸前じゃぞ! ミナト、もっと後ろからギュッと抱きしめてやったらどうじゃ? ほれほれ!」

「コハク、煽るな! 集中できなくなるだろ!」

「ひゃぅぅ……コハクちゃん、からかわないでくださいぃぃ……っ!」

背中に伝わる俺の体温と、耳元をかすめる息遣いに、ルミアの首筋までがみるみるうちに林檎のように真っ赤に染まっていく。

【愛の女神フィリア】:『キャアアアアッ!♡♡ 朝から極上のバックハグ手取り足取り指導キターーーッ!! ごちそうさまですわーーっ!!(100,000pt赤スパ寄付)』

【主神アルト】:『聖女ちゃんのエプロン姿可愛すぎ草ww 顔が完全に茹でダコになっててワロタ』

【主神アルト】:『ミナト君、無自覚にヒロインの情緒を狂わせるスキル持ちなの罪深すぎて草ァ!ww』

【武神アーレス】:『うむ! 刃物の扱いは最初が肝心! 己の体を添えて基本の型を骨の髄まで叩き込む……ミナト、良き師の構えであるぞ!』

「は、はい……トントン、ですね……っ! わ、私、切れてます……! キャベツが綺麗に切れてます、ミナトさん!」

「その調子です! じゃあ次は、クレープ生地を薄く丸く焼く練習をしましょう」

熱した丸い平フライパンに薄く油を引く。王都の小麦粉、新鮮な卵、牛乳、そして溶かしバターを黄金比で混ぜ合わせた特製生地をお玉ですくい、フライパンの中央へ落とした。

「お玉の背を使って、真ん中から外側へ『の』の字を描くように素早く広げるんです。一緒に手首を回しましょう」

俺は再びルミアの手首に手を添え、二人で息を合わせてクルリと手首を回す。

ジュワッという心地よい音と共に、香ばしいバターとミルクの甘い香りがふわりと立ち上り、綺麗な円形の薄焼き生地が焼き上がっていった。

「おおっ、甘くて良い匂いじゃ! ミナト、その薄焼きパンに生クリームと果物をどっさり巻いたやつを、妾にも一番に寄越すのじゃ!」

「はいはい、コハクの分もちゃんと作るからおとなしく撮影しててくれ」

「わぁ……! すごく綺麗に薄く広がりました! 甘くてとってもいい匂いです……!」

「完璧ですね。これなら明日の本番、ルミア様も立派な看板娘ですよ」

二人の距離があまりにも近くて、甘い香りと共に心臓の鼓動が重なり合いそうになった――その時だった。

『ギィ……』

厨房の重い木製扉が静かに開き、穏やかで柔らかな女性の声が響き渡った。

「あらあら〜? ルミア、こんな朝早くから男の子と何をしているのかしら〜?」

「ひゃああああっ!? お、お母様ーーっ!? な、なんでここにいるんですかーーっ!?」

ルミアは飛び上がらんばかりに驚き、持っていたお玉を取り落としかけた。俺は慌ててお玉をキャッチし、フライパンの火を弱めてまな板の脇へ置く。

扉の前に立っていたのは、地方教会のシスター服に身を包んだ、ルミアによく似た垂れ目の穏やかな女性だった。上品に口元へ手を当て、くすくすと楽しそうに目を細めている。

「あなたのお父様がね、明日のフェスに集まる信徒たちの安全確認や献金管理の件で、大司教様たちと会議室に缶詰になってしまってねぇ。退屈だったから、お散歩がてら娘の顔を見に来たのよ〜」

その人は、おっとりとした癒やしの空気をまといながら、優雅な足取りで厨房へと入ってきた。

パニックになって真っ赤な顔で固まっているルミアの横で、俺はエプロンを整え、居住まいを正して頭を下げた。

「初めまして、ルミア様のお母様。葉山湊と申します。ルミア様にはいつも本当にお世話になっております。……朝は冷え込みますので、よろしければ温かいスープでもどうぞ」

俺は先ほどルミアが一生懸命に切ってくれたキャベツや玉ねぎを使い、小鍋でコトコトと煮込んでいた「特製オニオンスープ」を木皿に注ぎ、両手で手渡した。

女性はふわりと胸元に手を当て、上品にお辞儀を返してくれた。

「まぁ、ご丁寧にありがとう。ご挨拶が遅れてしまったわね。私はマリアーナ。地方のエルム教会でシスター長を務めながら、この子の母親をやっているのよ〜。……あ、でも『マリアーナ』は少し堅苦しいかしら。気軽に『マリアさん』って呼んでちょうだいね〜」

「お、お母様ーーっ!? 初対面の男の子に何を馴れ馴れしく愛称を名乗ってるんですかーーっ!?」

「あらあら、良いじゃないの。ミナトさん、娘がいつもお世話になっているみたいでありがとうね」

マリアさんはふふっと微笑み、差し出された木皿を両手で包み込んで、スープを一口口に運んだ。

その瞬間、ふわりと細められた瞳が驚きに見開かれる。

「まぁ……! なんて優しくて深みのあるお味なのかしら。玉ねぎの甘みとお出汁のコクが、冷えた体にじんわりと染み渡るようだわ……」

マリアさんは感嘆の息を吐き、それから視線を、俺の服の裾をぎゅっと掴んだまま恥ずかしそうに俯いているルミアへと移した。その瞳には、母親としての深い慈愛が滲んでいた。

「あの子ね、幼い頃に類まれな神聖力が見つかって、王都の大聖堂へ引き取られていったの。親元を離れて、ずっと弱音も吐けずに『完璧な聖女』でいようと気を張ってきたわ……。私たちが会いに行っても、いつも無理をして聖母のような微笑みを浮かべるばかりでね。……でも、ミナトさんの前では、あんなに普通の女の子の顔をして笑っている。……ミナトさん、娘の心を救ってくれて本当にありがとうね」

「お、お母様ったら、昔の話はもういいですから……っ!」

ルミアが涙ぐみながら、俺の背中へと隠れるように身を寄せる。

「お母様、そこで見ていないで手伝ってください!」

「あらあら〜、二人っきりの甘い特訓の邪魔をしちゃ悪いもの〜。ふふ、ミナトさん。うちのルミアはちょっぴり不器用で甘えん坊ですけれど……どうか仲良くしてあげてねぇ〜」

【豊穣神デメトラ】:『野菜の甘みを引き出す手際の良さ! 義母の胃袋を一瞬で掴んだな少年!』

【愛の女神フィリア】:『お母様の温かいお言葉に涙が出ますわ……! 二人の絆は本物ですわね!』

【主神アルト】:『お母様公認キターーーーーッッッ!!!wwwwwwww』

スープを綺麗に飲み干し、ルミアが焼いた試作のクレープを一口味見したマリアさんは、「とっても美味しいわ」と満足そうに目を細めて身支度を整えた。

「それじゃあ、私は会議室のお父様のところへ戻るわね〜。『ルミアにすごく素敵な男の子ができてねぇ』って報告したら、きっとお父様も喜ぶわ〜」

「だ、ダメです!! 絶対にお父様に言っちゃダメですーーっ!!」

「ふふ、明日の屋台、お父様と一緒に楽しみに見に来るわね〜」

パタン、と軽やかな音を立てて厨房の木製扉が閉まった。

嵐が去った厨房で、ルミアは魂が抜けたようにその場へへたり込んだ。

「どうしましょう……私のお父様が来てしまう……」

「……ルミア様、お父様ってどんな方なんですか?」

「……ものすごく厳格で、昔から私に対して過保護すぎるお父様です……。絶対に明日のフェス本番、血相を変えて殴り込んできます……!」

「ルミア様のご両親は、お二人ともとても優しい方々なのですね」

「もうっ、ミナトさんったら! 笑い事じゃないんですからねーーっ!」

頬を膨らませて拗ねるルミアの可愛らしい抗議に、俺は思わず吹き出してしまうのだった。

【主神アルト】:『お母様、優しい笑顔のまま最後にとんでもない特大爆弾投下していって草ァ!!www』

【武神アーレス】:『がははは! 明日の本番、血気盛んな父親との一騎打ちか! 男の気骨の見せ所よ! 腕が鳴るではないか!』

「かっかっか! 明日はお義父上(ちちうえ)との大決闘じゃな、ミナト! 妾が特等席から余すところなく中継してやるのじゃ!」

「誰がお義父上だ、変な呼び方するな! ……まったく」

頭上で七色の尻尾を揺らしながらケタケタと笑うコハクにツッコミを入れつつ、俺はまだ床で頭を抱えているルミアへ苦笑しながら手を差し伸べた。

明日の本番にどんな嵐が待ち受けていようとも、まずは目の前の準備を片付けなければ始まらない。

午後に控える山のような高原キャベツの仕込みに向けて、大聖堂の厨房には、どこまでも賑やかで温かい笑い声が響き渡るのだった。

第29話をお読みいただきありがとうございました!

第30話は、フェス前日の午後!

屋台の大鉄板で焼く「焼きそば」と「お好み焼き」のため、数千人分の大量の高原キャベツの仕込みがスタートします!

山のようなキャベツを前に途方に暮れる男たちの前に、ミナトが日本の「超時短キッチングッズ」を投入!?

さらに、エプロンを着けて手伝おうとする鉄血騎士シルヴィアと、胃痛を抱える副団長ヴィンセントの爆笑コントが開幕します!

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