第26話:ヒロイン女子会! クラリッサとルミアの美肌パック密談
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今回は、男衆が屋台の資材調達で汗を流す裏側で開かれた――完全男子禁制の【ヒロインパジャマ女子会】です!
どうぞお楽しみください!
王都の中央貴族街にそびえる、アルスハイム公爵家の広大な別邸。
その最上階にあるクラリッサの私室は、淡い薔薇色の天蓋付きベッドと最高級の絨毯が敷き詰められた、完全なる女子の園だった。
今夜、この部屋に男子の立ち入りは一切許されていない。
ミナトはブルーノたち『青銅の盾』と共に、工匠通りで大型屋台の木材加工と鉄板の仮組みにかかりきりだったからだ。
「――ルミア様、よくぞいらっしゃいましたわ。どうぞ楽になさってくださいな」
薄紅色の優美なシルク製ナイトガウンを纏ったクラリッサが、ソファーの上で優雅に脚を組んだ。
その向かいには、大聖堂の重厚な法衣を脱ぎ捨て、薄手の白いフリル付きナイトドレスを着たルミアが、少し所在なさげに縮こまっている。
「あ、あの……クラリッサ様。このような公爵家の奥座敷に、私のような者がお邪魔してしまって本当によろしいのでしょうか……?」
「何を今更他人行儀なことを仰いますの。わたくしたちは、あのお人好しなミナトを支える【共同経営者】のようなものですわ!
それに……ふふ、今夜は誰にも邪魔されない、女同士の秘密の夜会景気付けですもの」
クラリッサがパチンと指を鳴らすと、控えていた筆頭侍女のアンネが、湯気立つ銀のティーポットから琥珀色の液体を注いだ。
部屋中に、華やかな白桃の甘い香りがふわりと広がる。
「お嬢様、ルミエラ様。ミナト様からお預かりした『白桃のフレーバーティー』でございます」
「ありがとう、アンネ。……さあルミア様、本題に入りますわよ」
クラリッサは悪戯っぽく微笑むと、宝石箱の中から純白のアルミパウチを取り出した。
表面には日本語で『超濃厚ヒアルロン酸・極潤高密着シートマスク』と印字されている。
「こ、これは……?」
「ミナトから特別に融通してもらった、神界の秘宝【美肌パック】ですわ!
肌に乗せるだけで、砂漠のように乾いた角質層へ無限の潤いを注ぎ込み、翌朝には発光するような真珠肌へと生まれ変わらせる奇跡の薄布……!
明後日からのフェス本番、わたくしたちが王都中の民衆の目に晒されるのです。お肌のコンディションを完璧に整えておくのは、看板たる女性の義務ですことよ!」
クラリッサは手慣れた様子でパウチを引き裂いた。
滴り落ちるほどたっぷりの濃厚な透明美容液をまとった、冷涼な白いシートを取り出す。
「さあ、ルミア様も前髪をヘアバンドで上げて、お顔にこれをピタリと貼り付けるのですわ!」
「は、はい……っ! こうでしょうか……? ひゃんっ!? つ、冷たいです……! でも、すっごく気持ちいい……!」
ルミアが恐る恐るシートを顔に広げると、ペタッと吸い付くように肌に密着した。
クラリッサも自らの顔にシートを丁寧に貼り付ける。
その結果――
ソファーの上には、金髪縦ロールの白仮面と、金髪聖女の白仮面という、世にもシュールな純白スケキヨ二神が誕生した。
だが、部屋の天井――天蓋の豪華な彫刻の隙間では。
金色のふさふさな尻尾を揺らす小さな神獣が、神具スマホのレンズをしっかりと二人に向け、プルプルと笑いを噛み殺していた。
(くっくっく……ミナトには『差し入れの様子を見に行く』と言って抜け出してきたが、大正解じゃったのう! 女子の秘密の夜会、神々への特大ボーナス配信の開始じゃ!)
神具スマホの画面には、すでに深夜とは思えない勢いで神々のコメントが滝のように流れ始めていた。
【主神アルト】:女子会キターーーーーッッッ!!!wwwwwwww
【愛の女神フィリア】:キャアアアアッ!♡ パジャマ! パジャマ姿の聖女様と公爵令嬢様ですわーーっ!!(100,000pt赤スパ寄付)
【愛の女神フィリア】:でもお顔が真っ白で草ですわ! シュールすぎますけれどお肌ツヤツヤになりますわよそれ!
【豊穣神デメトラ】:ふむ、白桃のお茶か。香りが画面越しに伝わってきそうじゃのう。
二人は天井のカメラに微塵も気づくことなく、冷たいパックの感触にうっとりと息を吐いていた。
「……信じられませんわ。肌がぐんぐん美容液を飲み干していくのが分かります……!
さすがはミナトですわね。あのような奇跡の品を、事も無げにポンと差し出してくるのですから」
クラリッサがシート越しに目を細め、白桃ティーを一口啜る。
そして――スッと、サファイアのような瞳を細めてルミアを見据えた。
「――ところで、ルミア様」
「ふぇ? な、何でしょうか、クラリッサ様? シートがずれてしまいますので、あまり大きな口が開けられませんけれど……」
「単刀直入に伺いますわ」
クラリッサは身を乗り出し、扇子をパチンと膝の上で叩いた。
「ルミア様は……ミナトのことを、男としてどう思っていらっしゃいますの!?」
「――ぶふっっ!?」
ルミアが吹き出しそうになり、慌てて両手で口元を押さえた。
真っ白なパックの隙間から覗く耳たぶと首筋が、一瞬にして林檎のように真っ赤に染まる。
「な、ななな、何を仰るのですかクラリッサ様ぁっ!?///
ミ、ミナトさんは……その、主神様のお導きで現れた尊き恩人様で、いつも美味しいご飯を作ってくださる料理番の方で……っ!」
「誤魔化しは効きませんわよ!」
クラリッサが白仮面のままグイグイと詰め寄る。
「わたくし、見ましたのよ?
先日の昼下がり、ミナトが買ってきたプリンをルミア様が食べる時……!
『ミナト、あ〜んしてくれないと食べないもん』と服の裾を引っ張って、子猫のように甘え散らかしていた姿を!!」
「み、見られてたぁぁぁぁぁっっっ!///」
ルミアはクッションに顔を埋めて足をバタバタと悶絶させた。
白仮面のシートがクシャクシャになりそうになるのを、侍女アンネが冷静に指先でペタペタと貼り直す。
「ルミエラ様、パックが剥がれます。美容成分が逃げてしまいますのでお静かに」
「アンネさんまでぇぇ……っ!
うぅ……だ、だって、ミナトさんの前だと、どうしても気が緩んでしまうのです……っ!
私、物心ついた頃からずっと『聖女』として完璧でいなきゃいけなくて……弱音も吐けなくて……。
でも、ミナトさんは……私の肩書きなんて見ないで、頭を優しく撫でて『今日も一日お疲れ様、ルミア』って温かいホットケーキを焼いてくれるんです……っ!
あんなの……あんなの、好きになっちゃうに決まってます……っ!!///」
ルミアは両手で顔を覆い、指の隙間から涙目でクラリッサを睨み返した。
「そ、そういうクラリッサ様こそどうなんですの!?
ミナトさんが新しいコスメを出すたびに、あんなに頬を染めて、胸元にすがりつくようにおねだりしていらっしゃるじゃありませんか!」
「わ、わたくしは違いますわよっ!///」
今度はクラリッサの白いシートの隙間から、耳まで湯気が噴き出した。
「わ、わたくしはアルスハイム家の看板を背負う者として、神界の未知の美容技術を独占し、社交界でのイニシアチブを握るための……そ、そう、純粋な経済的投資ですわ!
ミナトの顔が近くて胸がトクンとするのも、手を握られたときに頭が真っ白になるのも……す、すべては未知の魔導波による一時的な生体エラーですことよ!!」
「完全に意識してるじゃないですかぁぁぁっ!!」
「し、してませんわーーっ!!///」
二人の美少女が、白仮面のままクッションを投げ合ってポカポカと小競り合いを始める。
【愛の女神フィリア】:ぎゃああああああああっっっ!!!♡♡♡(喀血)
【愛の女神フィリア】:尊い! 尊すぎて天界の概念が崩壊しますわーーっ!! 二人とも素直になれない乙女全開で可愛すぎますわーーっ!!(300,000pt赤スパ寄付)
【主神アルト】:生体エラーwww ツンデレ公爵令嬢の言い訳苦しすぎて草ァ!!www
【豊穣神デメトラ】:がはは! 若い女子の恋路とは見ていて飽きぬのう! 酒が美味いわい!
『神々よりスーパーチャット:合計400,000ptが寄付されました』
天井裏でコハクが「ほれほれ、もっと本音を吐くのじゃ!」とニヤニヤしながらカメラを接写モードに切り替える。
やがて、小競り合いに疲れた二人は、ソファーに背中を預けて天井を見上げた。
そろそろパックを剥がす時間――十五分が経過していた。
「……ふぅ。ペリペリと剥がしますわよ、ルミア様」
「はい……っ」
二人がゆっくりと、額から顎にかけてシートマスクを剥がしていく。
ツルンッ。
シートが剥がれ落ちた瞬間――二人はお互いの顔を見て、思わず息を呑んだ。
「まあ……っ! ルミア様、お肌が……! まるで内側から発光しているかのように、透き通るような白さと弾力ですわ……!」
「クラリッサ様こそ……! 小鼻の周りも目元も、陶器のように毛穴が消えて、ものすごくプルプルしています……っ! 触ってもいいですか……? あ、モチモチです……!」
二人はお互いの頬を指先でツンツンと突き合い、満面の笑顔を咲かせた。
鏡を見るまでもない。指先を吸い付くように押し返す圧倒的な水分量。
日本のスキンケア技術の結晶が、異世界の最高峰美少女たちの素肌を完全に神域へと押し上げていた。
「すごいですわ……これなら明後日からのフェス、どんな強い日差しの中でも完璧な笑顔で立っていられますわね!」
クラリッサが誇らしげに胸を張る。
ルミアも嬉しそうに頷き、そして――ふと、どこか寂しげに眉を下げた。
「……でも、ミナトさんは……誰のことが一番好きなんでしょうね」
「え……?」
ルミアは膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。
「近衛騎士のシルヴィア様は、凛々しくてかっこよくて、いつもミナトさんの一番そばで守っていますし……。
クラリッサ様は、頭が良くて商売もできて、大人っぽくて綺麗です……。
私なんて……聖女の仕事しかできなくて、料理もミナトさんにお任せりきりで……本当にお荷物なんじゃないかって、たまに不安になっちゃうんです」
ルミアの瞳に、ポロリと一粒の涙が浮かぶ。
大聖堂の聖女としてではなく、ただの一人の恋する少女としての、切実な不安だった。
クラリッサは目を丸くし――そして、ふっと優しく微笑んだ。
隣へすり寄ると、ルミアの背中をトンと優しく叩く。
「……馬鹿をお言いにならないで、ルミア様」
「クラリッサ様……?」
「あのお人好しのミナトが、貴女をお荷物などと思うはずがありませんでしょう?
あやつが料理を作る時、いつも真っ先に『ルミア様、味見をお願いできますか?』って、一番安心した笑顔で駆け寄っていくのを、わたくし知っていますわよ」
クラリッサは白桃ティーのカップをルミアの手に握らせた。
「貴女は、ミナトがこの世界で最初に心を許した【特別】なんですの。
……もっとも! わたくしもみすみす負けるつもりはありませんけれどね!
フェスが終わったら、あの鈍感男の首根っこを掴んで、わたくしの専属コスメプロデューサー兼パートナーとしてアルスハイム家に囲い込んでみせますわ!」
「ふふっ……クラリッサ様ったら、強引なんですから」
ルミアはようやく涙を拭い、クスリと笑った。
ライバルでありながら、お互いを認め合う二人の少女。
部屋の中には、温かく清々しい友情の空気が満ちていた。
――だが。
その完璧に美しい感動の空気を、無情な電子音が無慈悲に引き裂いた。
ピロリロリ〜〜ン♪
「「……え?」」
二人が同時に動きを止めた。
音の発生源は――部屋の真上。
天蓋の豪華なカーテンの陰からだった。
ガサゴソ……と音がして、一匹の金色のモフモフが、両手に黒い板切れ――神具スマートフォンを抱えたまま、ツルリと足を滑らせて落下してきた。
「あばばばばっ!? し、尻尾が引っかかって落ちるのじゃーーっ!!」
ドサッ!!
ベッドのど真ん中に、神獣コハクがダイブした。
そして、その手から転がり出たスマホの画面には――
【愛の女神フィリア】:友情最高おおおっ! でも全部筒抜けですわーーっ!!www
【主神アルト】:ルミアちゃんの涙で全米が泣いた! からのコハク落下で大爆笑www
【武神アーレス】:うむ! 女の腹を割った語らい、実に見事であったぞ!
『現在の同時接続リスナー数:神界・王都合計 28,200人』
「「……………………」」
クラリッサとルミアの思考が、完全に停止した。
二人はカタカタと震える首を動かし、ベッドの上のコハクを見下ろす。
「コ……コハクちゃん……?」
「そ、その手に持っている光る板は……何ですの……?」
コハクは冷や汗をダラダラと流しながら、引きつった笑顔で前足を上げた。
「あ、あははは……よ、よいではないか! 天界の神々も『尊い』と絶賛して、赤スパが四十万ポイントも稼げたのじゃぞ……!?」
「「………………」」
カチッ。
二人の頭の中で、何かの理性のタガが完全に焼き切れる音が響いた。
「「ぎゃあああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!///」」
王都の静寂を切り裂く、二大ヒロインの絶叫。
顔面から火を噴かんばかりに真っ赤になったクラリッサとルミアは、枕とクッションを両手に構え、目を血走らせて跳びかかった!
「見てたのですわねぇぇぇぇぇっっ!? 配信を切っていなかったのですわねぇぇぇぇっっ!!」
「コハクちゃんんんんっ! 恥ずかしすぎてお嫁に行けませんんんんーーっっ!!///」
「ぎゃーーーっ! 妾は悪くないのじゃ! 頼まれてカメラを回しただけで……ふぎゃあっ!? 羽毛がっ、羽毛が鼻に入ったのじゃーーっ!!」
画面が激しく乱れ、枕が飛び交う大乱闘の中――
神具スマホは、部屋の隅で静かに「配信終了」のボタンが押されるまで、真っ赤なヒロインたちの阿鼻叫喚を神界と王都中へ届け続けるのだった。
第26話をお読みいただきありがとうございました!
第27話もお楽しみに。
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