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配信切り忘れに気づかない聖女様、裏では俺にベタ惚れなのが神々と異世界中に筒抜けだった件 〜変幻狐と行く異世界ダンジョンお散歩生活〜  作者: 湊月


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第24話:ドリップコーヒーと消せるペン! 天才イケメンのプライド崩壊

第24話をご覧いただきありがとうございます!

甘味や媚びには決して屈しない孤高の天才魔導師が、魔術なき現代の科学現象を前にして、いかにしてプライドを粉々に粉砕され「知のストーカー」へと変貌していくのか!?

どうぞお楽しみください!

「――どうぞ。淹れたてのブラックコーヒーです」

白い湯気を立ち上らせる純白の陶器カップを、俺は木樽の簡易テーブル越しにユリアス卿の前へと差し出した。

黒い。

光を吸い込むような漆黒の液体。

だが、その水面からは、甘く香ばしいナッツのようなコクと、柑橘を思わせる爽やかな果実の香り、そして奥深いスモーキーな芳香が複雑に絡み合い、広場を吹き抜ける涼風に乗って広がっていた。

ユリアス卿はカップを見下ろしたまま、微動だにしなかった。

冷徹なサファイアブルーの瞳は鋭く細められ、警戒の色を崩していない。

「……平民の淹れた素性の知れぬ泥水など、我が口にすると思うのか? 毒味の儀礼すら経ておらんぞ」

「毒なんて入ってませんよ。ほら」

俺は自分の分のマグカップを持ち上げ、一口ゴクリと喉を鳴らして飲んでみせた。

口いっぱいに広がる鮮烈な苦味と、後から追いかけてくる豊かな甘み。

朝からの設営作業で少し鈍っていた頭が、スッと軽くなる。

「ただの焙煎した木の実のお湯割りです。……まあ、お口に合わないなら無理には勧めません。宮廷魔導師団の筆頭ともあろうお方が、得体の知れない黒い液体を口にするのは、論理的にリスクが高いですからね」

俺がカップを引こうとした――その瞬間。

「待て」

ユリアス卿の白く細い指先が、カップの取っ手を電光石火の速さで押さえた。

その瞳の奥には、恐怖や警戒を遥かに上回る、飢餓感にも似た知的好奇心がギラギラと燃え盛っていた。

「……リスクの評価は、現物の検証を経て初めて確定するものだ。一口だけ、毒性反応の検証として口に含む。それ以上ではない」

誰に対する言い訳なのか分からない理屈を早口で呟きながら、ユリアス卿はカップを持ち上げた。

カップの縁が、その形の良い薄い唇に触れる。

傾けられた黒い液体が、喉へと滑り込んだ。

「――ッ!?」

ユリアス卿の端正な顔立ちが、劇的に強張った。

サファイアの瞳孔がギュッと収縮し、背筋が硬直する。

【主神アルト】:表情固まってて草ァァァァァッッッ!!!wwwwwwww

【豊穣神デメトラ】:どうじゃ!? 大地の恵みたる深煎り豆の衝撃は!!

【愛の女神フィリア】:息を呑む横顔が美しすぎますわ……! でも目が点になっていらっしゃいますわね♡

口の中に広がる、未体験の強烈な苦味。

だが、それは決して不快な灰の味ではなかった。舌の上で転がるほどに、フルーティな芳香と香ばしさが重なり合い、驚くほど澄んだ余韻を残して消え去っていく。

そして――何よりも異常だったのは、飲み下した直後の【体内変化】だった。

「な……んだ、これは……!?」

ユリアス卿が、自らのこめかみを両手で押さえた。

青白い肌が、わずかに紅潮していく。

「大脳の……血流が加速している……!?

全身の神経終末に張り巡らされた感覚器官が、まるで一斉に覚醒したかのようにクリアに研ぎ澄まされていく……!

思考速度が……二倍、いや、三倍以上に跳ね上がっているだと……!?

魔力賦活剤のような毒性反動(ディレイ)も、魔力回路への過負荷も一切ない……! なぜだ!? どのような薬効成分が、中枢神経系をこれほど正確に刺激しているのだ!?」

ユリアス卿は震える手でカップを握り直し、残りのコーヒーを一気に飲み干してしまった。

ゴクン、ゴクンと喉を鳴らし、最後の一滴まで飲み干すと、プハッと熱い息を吐き出す。

「美味い……いや、美味いなどという情緒的な言葉では表現しきれん!

これは……理性の極限稼働を可能にする、至高の【思考加速薬】ではないか……ッ!!」

【主神アルト】:ただのカフェインで草ァ!!www 思考加速薬www

【主神アルト】:徹夜明けのプログラマーみたいなこと言ってて死ぬwww

【武神アーレス】:がははは! 己の肉体が研ぎ澄まされる感覚に魂を奪われたな! 男ならば誰しも滾る瞬間よ!

空になったカップを見つめ、陶酔と混乱に囚われる天才魔導師。

その隙を、空中に浮遊する金色の相棒が見逃すはずもなかった。

「くっくっく……『毒味の検証』とやらで一滴残らず飲み干しおったぞ。素直に『美味しくて頭がシャキッとしました』と言えば可愛げもあるものをのう」

コハクが空中でくるりと宙返りし、カメラのレンズをユリアス卿の顔面十センチまで寄せてドアップで激写する。

ユリアス卿はハッと我に返り、耳まで真っ赤にして怒声を上げた。

「無礼な! 私は客観的な薬理実験を行ったまでだ!

……だが、認めよう。この黒い液体は驚異的な価値を持つ。

しかし! それとこれとは話が別だ!

あの巨大スクリーンの魔導波……術式陣の痕跡すらない不可解な超高周波通信の謎が論理的に説明されぬ限り、催事の認可など――」

「ユリアス卿」

必死に冷静なエリートの仮面を繕おうとするユリアス卿の言葉を遮り、俺は天界通販アプリを素早くタップした。

「論理的な説明、お好きなんですよね?」

「当たり前だ! 私はクロイツェル公爵家の当主! 数式と術式で証明できぬ現象など、すべて――」

「じゃあ、この現象をあなたの魔導理論で説明してみてください」

トン、とテーブルの上に置かれたのは、二つの見慣れない物体だった。

一つは、日本の文房具メーカーが誇る、純白で滑らかな手触りの【方眼罫のリングメモ帳】。

そしてもう一つは――半透明のプラスチック軸にラバーグリップがついた、ごく普通の【ノック式ゲルインクボールペン】だった。

ユリアス卿は眉をひそめ、怪訝そうにそのペンを凝視した。

「……何だこれは。鳥の羽根でも金属のペン先でもない。奇怪な筒状の棒切れだが」

「ノックしてみてください。頭をカチッと」

言われるがまま、ユリアス卿が恐る恐る頭部のノブを押し込む。

カチッ、と精密な金属音が響き、先端から極細のボールチップが顔を出した。

「先端に超微細な金属球が仕込まれており、回転することで内部のインクを紙に転写します。どうぞ、そのメモ帳に何か好きな数式でも書いてみてください」

ユリアス卿は不審そうにしながらも、ペンを走らせた。

サラサラサラッ……!

滑らかすぎるインクの吐出性と、引っかかりの一切ない極上の書き味。

ユリアス卿の目が見開かれる。

「……滑らかだ。羊皮紙にインク壺で書くような滲みも掠れも皆無。凄まじい工業精度だ……だが、ただの筆記具ではないか。これがどうしたというのだ?」

紙の上には、彼が頭の中で展開していた複雑な魔導術式の数式が、美しい黒文字でびっしりと書き込まれていた。

「そのペンの後端……半透明のゴム部分を見てください」

「後端……? この硬質な樹脂の塊か?」

「ええ。そのゴムで、今書いた数式を強めにゴシゴシと擦ってみてください」

ユリアス卿は鼻で笑った。

「馬鹿を言うな。インクが紙の繊維に定着しているのだぞ? 魔導的な消去術式を励起させるか、ナイフで紙ごと削り取らぬ限り、文字が消えるはずが――」

文句を言いながらも、ユリアス卿はペンの後端を紙に当て、数式の部分をキュッキュッと擦り始めた。

キュッ、キュッ、キュッ――。

生じる微小な摩擦熱。

次の瞬間。

「――っ!?!?」

ユリアス卿の手が、ピタリと止まった。

その顔から、完全に血の気が引いていく。

擦られた部分の黒い文字が。

まるで朝靄が太陽に溶けるように――紙面から跡形もなく、綺麗サッパリと消失していた。

紙は削れていない。

インクの染みすら残っていない。

ただの純白の紙面が、そこに静かに戻っていた。

「な……ッ!?」

ユリアス卿の喉から、掠れた悲鳴が漏れた。

彼は鬼の形相で、メモ帳を顔の前に引き寄せ、目を皿のようにして凝視した。

「き、消えた……!? 文字が……消滅した……!?

ば、馬鹿なッ! 私は今、一切の魔力を込めていないぞ!?

詠唱もしていない! 術式展開の光も、エーテルの消費も、属性の励起すら微塵も起きていない!!」

ユリアス卿は狂ったようにペンを走らせ、再び文字を書いた。

そして、後端のラバーで猛烈に擦る!

キュキュキュッ!

――スウッ……。

またしても、文字が綺麗に消え失せる。

「なぜだああああああっっ!?!?」

広場に、宮廷魔導師団筆頭の絶叫が木霊した。

もはや冷徹な貴公子の面影など微塵もなかった。

プラチナシルバーの美しい髪を振り乱し、ユリアス卿はペンを掲げて震えていた。

「魔力なしに物質の状態変化を起こすだと……!?

熱か!? 今の物理的な摩擦熱だけで、定着した色素の分子結合が崩壊したのか!?

いや、削りカスすら出ないということは、無色化の温度臨界点を持つ特殊な熱変色粒子がインク内に封入されているというのか……!?

だが、そんな微細構造をどのようにして量産し、この安価な樹脂の筒の中に密閉しているのだ!?

数式は!? 構造式はどうなっている!? なぜ術式を使わずに世界の理を書き換えることができるのだああああっっ!!」

【主神アルト】:フリクションボールペンで完全発狂してて草ァァァァァッッッ!!!wwwwwwww

【主神アルト】:理系オタクの急所を的確にブチ抜きすぎてて腹筋千切れるwww

【愛の女神フィリア】:キャアアアアッ!♡ 取り乱す美青年、最高に唆られますわーーっ!!

【豊穣神デメトラ】:世界観が崩壊しておる! 少年、これ以上はやめてやれ、脳の血管が切れるぞ!

『神々よりスーパーチャット:合計150,000ptが寄付されました』

「あり得ん……あり得ん! 我が二十年の魔導探求は……クロイツェル家が積み上げてきた魔導の歴史は、いったい何だったのだ……!

こんな……こんな手のひらサイズの筒切れ一本に、世界の真理が詰まっているというのか……ッ!」

ユリアス卿はがっくりと膝をつき、両手でペンを宝物のように抱きしめた。

その瞳には、敗北の悔しさなど欠片もなかった。

そこにあったのは――「未知の真理を目の当たりにした学者の、狂気じみた歓喜と熱情」だけだった。

ガバッ!!と、ユリアス卿が弾かれたように立ち上がった。

そして、敷石を蹴破らんばかりの勢いで詰め寄ると――俺の両肩を、万力のような力でガシィッ!!と掴んできた。

「ひゃいっ!?」

顔が近い。

彫刻のような超絶美形の顔面が、鼻先数センチの距離に迫っている。

サファイアの瞳は血走り、荒い息が俺の頬にかかる。

「ミナト殿……ッ!!」

「は、はい!?」

「先ほどの非礼を、魂の底から詫びよう! 私は愚かだった! 井の中の蛙だった!

貴様などと呼んで申し訳なかった! 貴方は……貴方は我が生涯をかけて追い求めるべき、知の深淵を歩む【至高の求道者】だ!!」

「え、あ、いや、俺はただの高校生で――」

「謙遜はよしてくれ我が友よ!!」

ユリアス卿は俺の肩を激しく揺さぶった。

「教えてくれ! このペンの分子構造を! あの黒き思考加速薬の抽出理論を!

そして、あの巨大スクリーンから放たれる天球貫通術式の暗号構造を!!

そのためなら、我がクロイツェル家の全財産を注ぎ込んでも構わん! 私を……私を貴方の知の末席に加えてくれ!!」

【主神アルト】:『我が友』認定キターーーーーッッッ!!!wwwwwwww

【愛の女神フィリア】:尊死! 尊死ですわーーっ!! 男同士の熱き友情(一方的な狂信)が芽生えましたわーっ!!(100,000pt赤スパ寄付)

【武神アーレス】:がはははは! 完全に胃袋ならぬ知性をへし折られたな! 敵ながら天晴れな落ちっぷりよ!

「わ、分かりましたから! 肩を揺らすのをやめてください! ちゃんと教えられる範囲で教えますから!」

俺が必死に叫ぶと、ユリアス卿はようやく手を離し、ハッと我に返ったようにマントを翻した。

そして、背後でポカンと口を開けていた部下の魔導師たちへ向かって、雷鳴のような大音声で下知を飛ばした。

「全員、整列ッ!!」

「「「ハ、ハッッ!!」」」

「催事の凍結命令を即時破棄する!

これより宮廷魔導師団は、この『王都屋台グルメフェスティバル』の最高技術顧問として全面協力体制に入る!

あの三流の増幅回路をすべて解体しろ! 我がクロイツェル家の最高級魔導触媒を倉庫からありったけ運べ!

ミナト殿の神具から放たれる尊き映像波を、一分子の乱れもなく王都の空へと映し出すのだ!!」

「「「は、はいぃぃぃっっ!?」」」

部下たちが大パニックで広場を駆け出していく。

ユリアス卿は満足そうに頷くと、胸ポケットに大事そうにフリクションペンを差し、俺に向かって深々と、臣下の礼のように頭を下げた。

「ミナト殿。巨大スクリーンの魔導音響および映像投影は、我が師団が命に代えて完璧なものへと昇華させてみせよう。

……その代わり、フェスの準備が終わった後で構わない。私と……知の夜なべ議論に付き合っていただけるな?」

「あ、はは……お手柔らかにお願いします……」

俺の引きつった苦笑いとともに。

王都の最高峰エリート魔導師は、こうして完全なる「知のストーカー兼最強の技術協力者」として、フェス陣営へと迎え入れられたのだった。

第24話をお読みいただきありがとうございました!

第25話は、画面の向こうでミナトの配信を見ていた東部樹海の魔女エレナが、ついに我慢の限界を迎えて大パニックを起こします!

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