第23話:未知の魔導波を追って! 冷徹美青年公爵ユリアスの査問来襲
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前回は、クラリッサとのフェス動線会議&コハクの令嬢変身煽りコントをお届けしました!
今回は、ラストで警告されていたアステリア王国三大公爵家の一角――宮廷魔導師団筆頭【ユリアス・フォン・クロイツェル】が、直々に大聖堂前広場へと乗り込んできます!
どうぞお楽しみください!
「――よし、そっちの角材をあと十センチ右へ寄せてください! 屋台の柱とスクリーンの支柱が干渉しないようにお願いします!」
翌朝の大聖堂前中央広場。
抜けるような青空の下、広場には木槌の乾いた音と職人たちの威勢のいい掛け声が響き渡っていた。
アルスハイム公爵家の手配してくれた木工職人たちと、『青銅の盾』のブルーノさんたち冒険者が総出で、屋台の骨組みを組み上げてくれているのだ。
俺は首にタオルを巻き、白シャツの腕をまくって図面と睨めっこしていた。
胸ポケットには、いつものように神具スマホが差してある。
「ミナトよ、順調そうではないか。妾もこの大舞台のために、最高の画角を探しておるのじゃぞ」
肩の上に乗ったコハクが、尻尾をゆらゆらと揺らしながら空を指差した。
神具カメラの生配信はすでに始まっており、画面の端には天界からのコメントがさらさらと流れている。
【主神アルト】:お、いよいよ屋台の骨組み立ってきたな! 文化祭の準備みたいで楽しそう
【豊穣神デメトラ】:うむ! あの巨大な鉄板が据え付けられるのが待ち遠しいぞ! 早く粉物を焼け!
【愛の女神フィリア】:皆様汗を流して爽やかですわ〜♡ あら? なんだか広場の入り口が騒がしくありませんこと?
フィリア様のコメントに気づいて視線を上げた瞬間――。
広場を包んでいた職人たちの活気が、潮が引くようにスッと静まり返った。
広場を囲んでいた見物客の町娘や令嬢たちから、小さく息を呑むような黄色い悲鳴が上がる。
「な、何だあいつらは……?」
「おい見ろ、あの紺碧に銀の刺繍のマント……宮廷魔導師団の直属執行部隊だぞ!?」
「それに、先頭を歩いているあの御方は……まさか、クロイツェル公爵閣下……!?」
群衆が自然と割れ、敷石を踏み鳴らして十数名の魔導師たちが歩み寄ってきた。
その中央に立つ青年の姿を見た瞬間、俺も思わず目を奪われた。
サラリと肩に流れる、陽光を受けて透き通るようなプラチナシルバーの髪。
彫刻のように無駄のない、完璧な黄金比で整えられた端正な顔立ち。
そして、すべてを見透かすように冷たく澄み切った、深海を思わせるサファイアブルーの瞳。
どこからどう見ても、物語の絵本から抜け出してきたような「正統派の超絶クール美青年」だった。
だが、その身に纏う空気は氷点下のように冷たい。
【愛の女神フィリア】:キャアアアアアアッッッ!!!♡♡♡
【愛の女神フィリア】:な、何ですのあの超絶美青年はーーっ!? 目の保養! 画面の美しさがカンストしましたわーーっ!!
【主神アルト】:うわ、ガチのイケメン来たわwww 顔良すぎてムカつくレベルだなオイ
【武神アーレス】:ふん、線が細い優男よ。だが……あの魔力の練度、ただ者ではないな。
青年は、高さ十メートルを超える巨大魔導スクリーンの前でピタリと足を止めた。
冷徹な視線でスクリーンの骨組みと増幅水晶を一瞥し、眉一つ動かさずに吐き捨てる。
「……不完全、かつ稚拙だな。アルスハイム家の浅知恵で組んだ増幅回路か。術式の指向性が乱れ、魔力の三割が無駄に霧散している。三流の仕事だ」
身も蓋もない酷評。
周囲の職人たちが青ざめる中、青年はゆっくりと踵を返し、その氷の視線を――まっすぐに俺へと向けた。
「貴様が、アルスハイムの小娘と大司教を誑かし、この神聖な広場を俗悪な見世物小屋に変えようとしている平民か」
「えっと……誑かしてはいませんが、フェスの責任者をやらせてもらっています、葉山湊です」
俺が名乗ると、青年は冷たく顎を引いた。
「アステリア王国宮廷魔導師団筆頭、ユリアス・フォン・クロイツェルだ。クロイツェル公爵家の名において、この催事の即時凍結、および貴様が所持する【未認可の異界術式具】の接収を命じる」
「せ、接収……!?」
容赦のない通告に、俺は思わず後ずさりした。
昨日の今日で、クラリッサさんの警告通り本当に乗り込んできたのだ。
「理由をお伺いしてもいいですか? 大聖堂のヴァルフレート大司教様からも、アルスハイム公爵家からも正式な認可は受けています」
「あの老いぼれ大司教と小娘の許可など、魔導の法の前には無価値だ」
ユリアス卿は感情の籠もらない平坦な声で言い放った。
「昨日、大聖堂前広場から発信された映像波を我が師団の観測所が捉えた。
送信元は王都内のいかなる術式網にも属さず、暗号化された不可解な超高周波で天球の外側へと接続されていた。
我が王国の魔導統制令第三条に基づき、国家の認可なき長距離空間通信はすべて『違法術式』とみなす。
数式と論理で安全性が証明できぬ怪異現象など、国家への反逆の火種に過ぎん。貴様を国家反逆および違法魔導行使の容疑で連行する」
理路整然としすぎていて、反論の余地を一切与えない完璧な理系エリートの理論武装。
近衛兵を率いて「我が主!」と突撃してきたシルヴィアさんや、マカロンに釣られて即落ちしたクラリッサさんとはまるで違う。
この男、一切の甘えや妥協が通用しない――!
だが、そんな緊迫した空気を、俺の肩の上の神獣がこれ以上ない形で粉砕した。
「くっくっく……何やら難しい講釈を垂れておるが、要するに『自分の知らない凄い魔法を使われて悔しい』と言っておるだけではないか?」
「な……ッ!?」
ユリアス卿の美貌が、ピキッとわずかに引きつった。
コハクの七色の尻尾がボワッと輝く。
ドロンッ!!
「おいコハク、やめ――」
俺の制止を完全に無視して現れたのは――
プラチナシルバーの髪をこれ見よがしにかき上げ、サファイアブルーの瞳を細め、紺碧のマントを仰々しく翻した、身長三十センチほどの『ミニ・ユリアス』だった!
ミニユリアス(コハク)は、眉間にこれでもかと深いシワを寄せ、片手を顎に当てて気取ったポーズを取ると、これ以上ないほど偉そうな声で語り出した。
「『ふん! 非論理的ですな! 我がクロイツェル家の知性こそが至高! わからぬものはすべて違法! 妾の頭脳で理解できぬ現象は全部ゴミ箱行きですぞ! フハハハハ!』」
背後でマントをバッサバッサと羽ばたかせながら、空中で偉そうに腕を組んでふんぞり返るミニユリアス。
【主神アルト】:ミニユリアス草ァァァァァッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:コハクちゃん煽り性能高すぎて死ぬwww 完全におちょくってて最高ww
【愛の女神フィリア】:まあまあ! ミニチュアになってもお顔が麗しいですわ!♡
【武神アーレス】:がははは! 頭でっかちの青瓢箪にはこれくらいがちょうどよいわ!
「き……貴様ら……ッ!!」
ユリアス卿の額に、青筋がピキピキと浮かび上がった。
先ほどの絶対零度の冷静さはどこへやら、サファイアの瞳を怒りに燃え上がらせて杖を握りしめる。
「子狐の分際で、我がクロイツェル家の誇りを侮辱するか……!
ええい、問答無用だ! 師団員、その不敬な狐と、あの胸ポケットの神具を拘束しろ! 魔力波の測定器を回せ!!」
「ハッ!」
部下の魔導師たちが、大型の水晶測定器を抱えて駆け寄ってくる。
測定器のアンテナが、俺の胸ポケットの神具スマホへ向けられた。
――その瞬間。
ピピピピピピピピッ!!!
ギイイイイイイイイインッッッ!!!
「な、なんだこの出力は!?」
「閣下! 測定針が振り切れています! 数値が……測定限界の十万エーテルを突破しました!!」
「馬鹿な!? ドラゴン数頭分の一斉咆哮を上回る通信波だと……!? 術式陣も展開せず、なぜそんな小型の板切れから――」
ビキビキビキッ!!と、測定器の巨大な魔晶石にヒビが入り、紫色の火花がバチバチと散り始める。
「撤退しろ! 測定器が魔力暴走を起こすぞ!!」
ユリアス卿が叫び、魔導師たちが悲鳴を上げて測定器を放り出す。
地面に落ちた水晶はプスンと煙を上げてショートし、完全に沈黙した。
周囲の職人たちも息を呑み、広場は静まり返る。
ユリアス卿は荒い息を吐きながら、信じられないものを見る目で俺の神具スマホを凝視していた。
「……あり得ん。術式の基盤が見当たらん。詠唱も魔力循環の痕跡もない。
いったい……いったいそれは何なのだ!? どのような理論で空間の歪みを固定し、天球の結界を貫通している!?」
その瞳には、先ほどの冷徹な敵意ではなく――「未知の謎を解き明かしたくてたまらない、飢えた学者の狂気」がギラギラと宿り始めていた。
(あ……これ、クラリッサさんの時と同じだ)
俺は心の中で小さくため息をついた。
この人はただの悪人や嫌がらせの権力者じゃない。
根っからの「理系オタク」なんだ。
未知の技術を前にして、プライドと知的好奇心が限界まで擦れ合ってパニックを起こしている。
力でねじ伏せようとしても頑なになるだけだ。
そして、今までのヒロインたちのように、甘いお菓子を差し出しても「平民の毒味も済んでおらん菓子など」と突っぱねられるのが目に見えている。
知性を誇る男のプライドを折らずに、対等に話を聞いてもらうには――「思考を極限まで加速させ、知的好奇心を刺激する別の武器」が必要だ。
「ユリアス卿」
「……何だ。命乞いか?」
警戒を解かないユリアス卿に対し、俺は穏やかに微笑みかけた。
「魔力測定で頭を酷使されて、脳がお疲れでしょう。
難しい査問を続ける前に……少しだけ、思考を研ぎ澄ます【黒いお茶】を一杯、付き合っていただけませんか?」
「……は? 黒い茶だと……? 戯れ言を。そんな俗物的なもので、我が追及の手が緩むと――」
ユリアス卿が冷たく一蹴しようとした、その時。
俺は天界通販アプリを素早く操作し、机の上に【手動式コーヒーミル】と、焙煎されたばかりの【最高峰エチオピア産・深煎りコーヒー豆】を具現化させた。
ザラザラッ、と琥珀色に輝く豆がミルへと投入される。
ガリ、ガリ、ガリ、ガリ――。
静かな広場に、豆が心地よいリズムで挽き割られる乾いた音が響き渡る。
その瞬間。
挽きたての珈琲豆から解き放たれた、芳醇でスモーキーな、果実の酸味と香ばしいカカオのような濃厚なアロマが――ふわっと風に乗って、ユリアス卿の鼻腔を直撃した。
「――ッッ!?」
ユリアス卿の細い喉仏が、トクンと大きく上下した。
冷徹を装っていた青い瞳が、カッと見開かれる。
「こ……この香気は……!?
薬草でも茶葉でもない……芳香物質が熱分解を起こした、未知の炭化香……!?
いや、それだけではない……嗅いだだけで、停滞していた大脳の血流が一気に加速するような、この暴力的な刺激は……!?」
「お湯が沸きましたよ」
俺はドリップポットを手に取り、ペーパーフィルターに乗った黒い粉の山へ、細く静かに熱湯を落とし始めた。
モコモコモコッ……と、新鮮な豆が炭酸ガスを吐き出し、まるで生き物のようにふっくらと黒い泡のドームを盛り上げていく。
広場中を包み込む、本格ハンドドリップの圧倒的な香気の暴力。
ユリアス卿は、杖を握る手すら忘れ、黒い泡が膨らむ手元を――少年のように目を奪われて凝視していた。
第23話をお読みいただきありがとうございました!
第24話はついにユリアスが未知の黒い液体を口にし、さらにミナトから手渡された【ある文具】によって、天才のプライドが完全に粉砕されます。
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