第22話:コハクの令嬢変身コント!? 高飛車令嬢クラリッサの悶絶コスメおねだり
第22話をご覧いただきありがとうございます!
前回は、白銀の甲冑を脱いだ女騎士シルヴィアとの私服護衛デート(無自覚な恋人繋ぎで完全フリーズ)をお届けしました!
今回は、フェスの最高責任者にして筆頭パトロンである公爵令嬢クラリッサとの動線会議です!
どうぞお楽しみください!
工匠通りでの木材発注と、シルヴィアさんとの――色々な意味で心臓に悪かった――護衛任務を終えた日の午後。
俺は冒険者ギルド『星の羅針盤亭』の二階にある、予約制の貴賓個室へとやってきていた。
フェス当日の群衆動線、ゴミ捨て場の設置場所、そして食材の搬入ルートを最終決定するため、筆頭パトロンであるクラリッサさんと打ち合わせを行うためだ。
円卓の向かいには、完璧な縦ロールの金髪を揺らし、豪奢な真紅のドレスに身を包んだ公爵令嬢クラリッサ・フォン・アルスハイムが優雅に腰掛けていた。
「――以上が、アルスハイム家がお抱えの警備兵と冒険者ギルドに敷かせる【客列誘導計画】ですわ」
クラリッサさんは机の上に広げられた王都広場の詳細な見取り図を、扇子の先でトントンと叩いた。
「大聖堂の正面階段を全面封鎖し、広場北側から南側への一方通行規制をかけます。これならば、数千人の愚民……ゴホン、熱狂的な市民が押し寄せようと、将棋倒しの事故など万に一つも起きませんわ!
どうですのミナト? このわたくしの完璧な差配力に、平伏して感謝してもよろしいのですことよ! おーほほほ!」
誇らしげに胸を張り、高らかに笑うクラリッサさん。
胸元に差した神具スマホの上では、すでに天界のいつもの顔ぶれが生配信を視聴していた。
【主神アルト】:出たー! テンプレ高飛車お嬢様笑いwww
【愛の女神フィリア】:あらあら、クラリッサ様たら、本当はミナト君に「凄いですね」って褒めてほしいだけなのに素直じゃありませんわ♡
【豊穣神デメトラ】:うむ! 兵糧の補給路と群衆の交通整理、実に理にかなっておる! この小娘、口は生意気じゃが頭は回るようじゃな!
「本当に凄いですクラリッサさん。屋台の焼き台から風下に客列を誘導する配置まで考えてくれるなんて……正直、俺一人じゃ絶対に手が回りませんでした。ありがとうございます」
俺が心からの感謝を込めて頭を下げると、クラリッサさんは扇子で口元を隠し、ピクッと眉を跳ね上げた。
「ふ、ふん! 当たり前ですわ! わたくしはアルスハイムの血を引く者、この程度の商戦、朝飯前ですことよ!
……べ、別に、貴方に褒められたからといって、嬉しくなど……ありませんけれど……っ」
顔を背けながら、耳の先端をほんのりと赤く染めるクラリッサさん。
そのツンデレな様子を、俺の肩の上で見ていた金色の神獣が、いたずらっぽく目を細めた。
「くっくっく……相変わらずチョロい娘じゃのう。ここは妾が見事な合いの手を入れてやるのじゃ!」
「おいコハク、やめろ――」
俺の制止も間に合わず、コハクの七色に輝く尻尾がボワッと淡い神気を放った!
ドロンッ!!
白い煙が晴れた瞬間、机の上に現れたのは――
頭の両脇にこれでもかと巻き上がった見事な金髪縦ロール、真紅のミニドレスを着込み、手には小さな紙の扇子を持った、手のひらサイズの『ミニ・クラリッサ』だった!
ミニクラリッサ(コハク)は、眉間にぐっと力を入れ、ツンとあごをしゃくり上げながら、これ以上ないほど胡散臭い裏声で叫んだ。
「『おーほほほ! 褒められて嬉しくなどありませんことよ! でもミナトがどうしてもと言うなら、側仕えにしてあげてもよくてよ! 感謝なさい平民! おーほほほほほ!』」
パタパタパタパタッ!と、猛烈なスピードで扇子を仰ぎ散らかすコハク。
誇張しすぎたモノマネと、妙に完成度の高い高笑いに、神具スマホのコメント欄が音速で埋め尽くされた!
【主神アルト】:腹筋崩壊したァァァァァッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:コハクちゃんの令嬢モノマネ悪意1000%で草ァ!!www 似すぎてて辛いww
【愛の女神フィリア】:キャアアアアッ!♡ ミニサイズのクラリッサ様、可愛すぎますわーーっ!!
【武神アーレス】:がはははは! 敵の動きを完コピして精神的打撃を与えるとは、見事な心理戦術よ!(50,000pt赤スパ寄付)
「こ……こ……こ…………っっ!」
クラリッサさんの顔が、一瞬で茹でダコのように真っ赤に沸騰した。
「こ、の……エセ狐があああああああっっ!! わたくしはそんな下品な笑い方はいたしませんわーーーーっ!!」
バシィッ!と本物の扇子を机に叩きつけ、立ち上がるクラリッサさん。
「『あら〜? 本当のこと言われて悔しいのかしら〜? おーほほほ!』」
「キーーーッ! 捕まえて毛皮の敷物にして差し上げますわ!!」
「捕まえられるものなら捕まえてみるのじゃ〜!」
円卓の周りを、鬼の形相で追いかける公爵令嬢と、空中に浮遊して華麗にかわすミニ令嬢狐。
コハクは浮遊しながら、激怒して息を切らすクラリッサさんのドアップをしっかりと神界カメラに収めている。
「コハク、いい加減にしなさい! クラリッサさんも落ち着いて!」
俺が間に入り、コハクを掴んで引っ張り上げると、ポフンッと煙を上げて元のモフモフ子狐に戻った。
「ふぅ……肩が凝ったのじゃ。妾の完璧な芝居に免じて、後で極上シュークリームを寄越すがよいぞミナト」
「誰がやるか。クラリッサさんに謝れ」
クラリッサさんは肩で息をしながら、乱れたドレスの裾を整え、悔しそうにキッと俺を睨みつけてきた。
「まったく……! 飼い主の顔が見てみたいものですわ! 貴方が甘やかすからあの狐が調子に乗るのです!」
「本当にすみません……」
俺が苦笑いしながら頭を下げると、クラリッサさんはコホンと小さく咳払いをし、侍女を呼んで書類を片付けさせた。
「……ま、まあ、よいですわ。本日の打ち合わせはここまでといたします。広場の設営資材は、明日の朝からアルスハイム家の手配した工匠たちが搬入を始めますので、貴方は現場で指示を出しなさい」
「はい、よろしくお願いします」
クラリッサさんは優雅に踵を返し、個室の扉へと歩き出す。
だが――扉の取っ手に手をかけたところで、なぜかピタリと足を止めた。
「あの……クラリッサさん?」
呼びかけると、クラリッサさんは背中を向けたまま、ピクリとも動かない。
やがて、もじもじと指先を絡め合わせながら、おずおずと振り返った。
その頬は、先ほどの怒りの赤みとは全く違う、恥じらいを含んだ愛らしい桜色に染まっていた。
「……ミ、ミナト」
「はい?」
「そ、その……フェスの件とは、まったく別の……極めて個人的な相談なのですけれど……」
クラリッサさんは上目遣いに俺をチラチラと見つめ、人差し指同士をつんつんと合わせながら、消え入りそうな蚊の鳴くような声で言った。
「……あの、先日いただいた……『ヒアルロン酸の極上フェイスマスク』と……『セラミド美容液』ですけれど……」
「あ、コスメですか? お肌に合わなかったですか?」
「違いますわっ! 逆ですの! 逆!!」
クラリッサさんはぶんぶんと両手を横に振った。
「あ、あれを使ってからというもの……朝起きた時のお肌の吸い付きが、信じられないほどモチモチで……!
洗顔した後の化粧水の入り方も、宮廷のどんな高級香油より素晴らしいのですわ……!
じ、実は……母上や専属の侍女たちにも『お嬢様、最近お肌の輝きが違いますわ! どこで手に入れたのですか!?』と問い詰められてしまいまして……!」
クラリッサさんは涙目になりながら、両手を胸の前でギュッと握りしめた。
「わ、わたくしの手持ちが……もう、あと1枚しか残っていませんの……!
あれがなくなったら、わたくし……また以前の乾燥と粉浮きに怯える日々に逆戻りしてしまいますわ……っ!
ですから……その……買い取り資金なら、いくらでも金貨を積みますので……っ!
あのフェイスマスクを……あともう10枚……いえ、20枚ほど……わたくしに、お恵みいただけないかしら……っ!?♡」
プライドの高い公爵令嬢が、完全におねだりモードの乙女になっていた。
【主神アルト】:常連客のおねだりキターーーーーッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:金髪縦ロール令嬢、日本のドラッグストアの沼に完全水没してて草
【愛の女神フィリア】:ぎゃああああああああっっ!!♡♡♡(尊死)
【愛の女神フィリア】:『お恵みいただけないかしら』ですって!? 可愛すぎますわクラリッサ様ーーっ!! 100箱あげてくださいまし!!(100,000pt赤スパ寄付)
【豊穣神デメトラ】:美を求める乙女の執念、恐るべし! 少年、さっさと出してやれ!
『神々よりスーパーチャット:合計100,000ptが寄付されました』
「ふふ、そんなに気に入っていただけたなら良かったです。お金なんていいですよ。フェスの場所を手配してくれたお礼ですから」
俺はスマホの天界通販アプリを素早く操作し、スパチャポイントを消費して【超濃密ヒアルロン酸シートマスク(30枚入り大容量ボックス)】と【高濃度セラミド原液美容液ボトル】を取り出した。
「はい、どうぞ。毎日使っても1ヶ月は持ちますから」
「――っっっ!?!?♡♡♡」
机の上に現れた大容量の化粧箱を見た瞬間、クラリッサさんの青い瞳が星のように輝いた。
「ま、毎日使っても1ヶ月……!? こ、こんな貴重な神の秘薬を、無償で……!?
あ、ありがとう……ありがとうミナト……っ! わたくし、一生貴方についていきますわ……っ♡♡♡」
クラリッサさんはコスメの箱を胸元に抱きしめ、頬ずりせんばかりの満面の笑みを浮かべた。
いつものツンとした高飛車さは完全に消え去り、そこにはただの純情な美少女の笑顔があった。
「くっくっく、完全に胃袋ならぬ毛穴を掌握されたのう」とコハクが空中でニヤニヤ笑う。
だが。
至福の余韻に浸っていたクラリッサさんは、ふと我に返ったように表情を引き締め、真剣な眼差しで俺を見据えてきた。
「……ミナト。最後に一つだけ、貴方に忠告しておかなければならないことがありますわ」
「忠告……ですか?」
クラリッサさんの声のトーンが、名門公爵令嬢の冷徹なものへと戻る。
「大聖堂前広場に設置した、あの高さ10メートルの【超巨大魔導スクリーン】のことです。
貴方の神具から放たれる未知の術式波……あれを嗅ぎつけて、ついに『あの男』が動き出しましたの」
「あの男……?」
「我がアルスハイム家、シルヴィアのオルデンブルク家と並ぶ、アステリア王国三大公爵家の一角――クロイツェル家。
その若き現当主にして、宮廷魔導師団の筆頭……【ユリアス・フォン・クロイツェル】卿ですわ」
クラリッサさんは忌々しそうに眉をひそめた。
「あやつは若くして国の魔導の頂点に立つ孤高の天才……ですが、同時に『数式と術式で証明できないものはすべて異端のゴミ』と言い放つ、冷酷無比な理屈屋ですの。
大聖堂前の巨大スクリーンに流れる映像を見て、『我がクロイツェル家の認可なき違法術式だ』と、査問と実力行使の準備を始めたと情報が入りましたわ」
「宮廷魔導師団の筆頭が……」
「ええ。近いうちに、必ず貴方の前に現れます。あの男は理屈が通じない相手には容赦がありません。……どうか、気をつけてくださいませね、ミナト」
クラリッサさんは心配そうにそう言い残すと、化粧箱を大事そうに抱えて個室を後にした。
静まり返った部屋の中で、コハクが俺の肩に降り立ち、興味深そうに耳をピクピクと動かした。
「ほう……今度は魔導の天才イケメンのお出ましか。ミナトよ、どう迎え撃つのじゃ?」
「迎え撃つって……俺は戦えないんだから、いつも通り美味い飯と話の通じるものを用意するだけだよ」
俺は苦笑いしながら、胸ポケットの神具スマホの画面を見つめた。
三大公爵家、宮廷魔導師団筆頭ユリアス。
フェス開幕を目前にして、新たな嵐が王都に吹き荒れようとしていた。
第22話をお読みいただきありがとうございました!
第23話は三大公爵家最後の一角――天才美青年公爵がミナトの元へ乗り込んできますが……!?
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