第20話:お忍び聖女ルミアと行く、王都買い食いデート(たこ焼き&クレープ)
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王都初の巨大スクリーン中継が無事に大成功を収め、フェスへの期待が最高潮に高まる大聖堂前広場!
今回は――広場の喧騒を抜け出し、聖女ルミア様との「お忍び市場買い食いデート」回です!
もちろん、神具スマホの配信枠は……!?
巨大スクリーンに映し出された中継の余熱で、いまだにざわめきが収まらない大聖堂前広場。
その喧騒から逃れるように、俺とルミア様は王都中央の目抜き通りを一本折れ、庶民で賑わう商業区の市場通りへと足を運んでいた。
「ふふっ……抜け出しちゃいましたね、ミナトさん」
隣を歩くルミア様が、フード付きのローブを目深に被り、上目遣いに悪戯っぽく微笑んだ。
普段の純白の法衣とは打って変わって、市井の町娘のような装い。
だが、隠しきれないふわりと揺れる金髪の毛先と、驚くほど整ったその横顔は、薄暗い路地裏でも神々しいほどの光を放っている。
ぎゅっ、と自然な動作で俺の左腕にルミア様の柔らかい両手が絡みついてきた。
「わ、ルミア様!? 人目がありますよ!?」
「だーめです。今は聖女のルミエラじゃなくて、ミナトさんの専属の『ルミア』ですから。それに、こうして腕を組んでぴったりくっついていれば、顔も見えにくいですし……何より、離れたくないんですもん」
胸元をぐにっと押し当てるように抱きつかれ、俺の心臓が早鐘を打ち始める。
肩の上に乗ったコハクが、ジト目で俺の耳元に囁いた。
「ミナトよ、鼻の下が伸びておるぞ。まったく、聖女のチョロさもここまでくると天晴れじゃな」
「うるさい、静かにしてろ!」
俺が小声で突っ込む間にも、神具スマホの画面では、天界リスナーたちのコメントが狂乱の濁流を描いていた。
そう――スクリーンへの外部中継は切ったものの、神界への通常生配信枠はバッチリ開きっぱなしなのだ。
【主神アルト】:お忍びデート枠キターーーーーッッッ!!!wwwwww
【主神アルト】:ルミアちゃん腕組み密着アタック強すぎワロタww ミナト君の心拍数上がってて草
【愛の女神フィリア】:キャアアアアアッ!♡♡ フード聖女様とお忍びデート!! 尊い! 尊すぎて息ができませんわーーっ!!
【豊穣神デメトラ】:市場リサーチと言いつつ、ただの逢瀬ではないか! よいぞ少年、美味いものを買い食いするのじゃ!
「え、ええと……一応、フェスの屋台の参考にするための市場調査ですからね?」
俺は咳払いを一つして、立ち並ぶ露店へ視線を向けた。
市場には、香ばしい煙を上げる串焼き屋や、塩茹での豆を売る店が並んでいる。
だが、どれも肉は固く筋張っており、味付けは粗塩のみ。パンはカチカチの黒パンで、お世辞にも「お祭り」の高揚感があるメニューとは言えなかった。
そんな露店を眺めていた、その時だった。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜……。
静かな路地裏に、とても美少女の腹部から鳴ったとは思えない、猛烈な虫の音が響き渡った。
「ひゃうんっ!?」
ルミア様が跳び上がり、両手でお腹を押さえて顔面を真っ赤に染め上げた。
「ち、違いますミナトさん! 今のは私のお腹の音じゃなくて、あの……通りすがりの野良猫の鳴き声でして……っ!」
「あんな重低音の野良猫がいるわけないでしょう。……そういえばルミア様、朝から広場の準備で何も食べてませんでしたよね」
「うぅ……はい……。ミナトさんが作ってくれたあのお好み焼きを想像したら、お腹が暴走しちゃって……」
恥ずかしさのあまり涙目になって俯くルミア様。
そんな姿を見せられては、料理番としての血が黙っているはずがない。
「よし、ちょうど広場の裏の静かな広場にベンチがあります。あそこで温かいものを食べましょう!」
「えっ……でも、お店はどこも並んでいますよ……?」
「ふふっ、俺の天界通販を忘れてもらっちゃ困ります」
俺は路地の物陰に入ると、天界通販アプリを素早く起動した。
フェスの看板はお好み焼きだが、歩きながら、あるいはベンチでサクッと手軽に食べられる日本の粉物屋台の王道といえば――これしかない!
『築地名店仕立て・大玉カリとろたこ焼き(8個入り・舟皿仕様)』
『特製極濃たこ焼きソース&特製からしマヨネーズ』
『極上かつお節&青のりたっぷりトッピング』
『竹串(二本刺し)』
ポチッと購入ボタンを押した瞬間、手元にふわりと金色の光が集まり、木製の舟皿に乗った熱々のたこ焼きが現れた!
パシュゥゥゥッ……!
湯気とともに立ち上る、出汁と焦がしソース、そして青のりの暴力的なまでの香気!
熱気を受けて、こんもりと盛られた花かつおがユラユラと生きているように踊る。
「わぁぁぁぁ……っ!! 丸くて、茶色くて、すっごく良い匂いです……!」
ルミア様が目を爛々と輝かせ、両手を胸の前でギュッと握りしめた。
「広場のベンチに座りましょう。はい、竹串です」
「あ、あの……ミナトさん……?」
二人で木製のベンチに腰掛けると、ルミア様がもじもじと指をもじらせながら、上目遣いに俺を見つめてきた。
「……手が、塞がっちゃってて……その、ミナトさんから……『あ〜ん』って、食べさせてほしいです……♡」
【愛の女神フィリア】:ぎゃああああああああああっっっ!!!(血涙)
【愛の女神フィリア】:あ〜んキターーーーッ! 全人類が見たかったやつですわーーっ!!(50,000pt赤スパ寄付)
【主神アルト】:聖女ちゃん攻めすぎワロタwww ミナト君早く食わせてやれ!
神具スマホの画面が赤スパの光で爆発する。
俺は心臓のバクバクを必死に抑え込みながら、竹串で大玉のたこ焼きを一つ突き刺した。
舟皿の底に溜まった濃厚ソースとからしマヨネーズをたっぷりと絡め、フーフーと軽く息を吹きかけてから、ルミア様の艶やかな唇の前へと差し出す。
「熱いから気をつけてくださいね。……はい、あ〜ん」
「あ〜ん……はむっ♡」
ルミア様が小さな口を精一杯開けて、大玉のたこ焼きをパクリと頬張った。
そして――。
「アツッ……! ハフッ、ハフハフッ……! んふぅぅぅ……っ♡♡♡」
ルミア様が両手を頬に当て、目を丸くして身悶え始めた。
カリッと香ばしく焼き上げられた薄皮が弾けた瞬間、中から熱々のお出汁が効いた生地が、まるでポタージュのようにとろりと溢れ出したのだ。
「ハフ……モグモグ……! す、すごいですミナトさん……!
外側はカリッとしているのに、中は信じられないくらいトロットロで……! 噛むと、中からコリコリした不思議なお肉の旨味がジュワッと弾けて……!
この甘辛いタレと、ツンとくるコクのある白いソースが混ざり合って……ほっぺたが落っこちちゃいそうですぅ……っ♡」
「タコっていう海の魔物……じゃなくて海の生き物のお肉なんです。出汁がしっかり効いてるから、何個でもいけるでしょう?」
「はいっ! こんなに美味しいもの、生まれて初めて食べました……!
……あ、今度はミナトさんの番です! はい、あ〜んしてくださいっ♡」
「えっ、俺も!?」
ルミア様が嬉しそうに竹串を受け取り、大きなたこ焼きを俺の口元へと運んできた。
至近距離で見つめ合うエメラルドグリーンの瞳。
逃げ場を失った俺は、覚悟を決めて口を開けた。
「あ、あ〜ん……」
「ふふっ、召し上がれっ♡」
ハフッとかぶりつくと、濃厚なタレと鰹節の旨味が口いっぱいに広がる。
そして何より――さっきまでルミア様が息を吹きかけていた温もりを感じて、顔から火が出そうだった。
【主神アルト】:間接キスごちそうさまでーすwwwwww
【豊穣神デメトラ】:タコと小麦の調和、実に見事じゃ! 屋台の定番としてこれ以上のものはないぞ!
【愛の女神フィリア】:尊死……尊死いたしました……天上の楽園はここにあったのですわ……(50,000pt赤スパ寄付)
あっという間に8個のたこ焼きを完食したルミア様は、ふぅと満足そうに息を吐きながら、お腹をさすった。
だが、その視線はまだどこか物欲しそうに俺のスマホをチラチラと見つめている。
「……ミナトさん?」
「はい?」
「しょっぱいものを食べたら……次は、甘いものが食べたくなっちゃうのが、女の子の決まりなんです……♡」
「あはは、やっぱり甘味ですね。任せてください!」
俺は天界通販の画面をスクロールさせ、以前コハクにも約束していた【現代の至高のテイクアウトスイーツ】をタップした。
『原宿名店仕立て・贅沢イチゴチョコ生クリームクレープ』
『北海道産特選生クリーム超特盛&チョコソース』
金色の光とともに、紙の包み紙に巻かれた花束のようなクレープが現れた!
薄く焼かれた黄金色のクレープ生地から、雪のような純白の生クリームがこんもりと溢れ出し、真っ赤なフレッシュイチゴと艶やかなチョコソースが美しくトッピングされている。
「ぎゃああああああっ!? 甘味じゃぁぁぁぁぁっ!!」
今まで大人しく撮影していたコハクが、目を輝かせて肩の上から身を乗り出した。
「うわぁぁぁぁ……! まるで果実のお花みたい……っ!!」
ルミア様が両手でクレープを包み込むように持ち、先端の生クリームとイチゴをパクリと一口頬張った。
サクッ……ふわぁぁぁ……。
「んんんんんんんんんんんっっっ♡♡♡♡♡」
ルミア様から、今日一番の蕩けきった甘い吐息が零れ落ちた。
「あ、甘い……! 生クリームが、羽毛みたいに軽くてふわっふわで……!
イチゴの甘酸っぱさと、ほろ苦い黒い蜜がとろけ合って……生地がモッチモチで……!
ミナトさん、私……私、もうこの世界に戻ってこれないかもしれません……っ♡」
「大袈裟ですよルミア様。あ、口元にクリームがついてますよ」
「ふぇ……?」
ルミア様がぽかんとした瞬間、俺は反射的に指を伸ばし、彼女の柔らかい上唇の端についた純白の生クリームをスッと拭い取った。
そして、無意識に自分の指先をペロッと舐めてしまったのだ。
「――ッッッ!?!?!?!?」
ルミア様の瞳孔がカッと見開かれた。
カチカチカチ……と音が聞こえそうなほど、みるみるうちに首筋から耳の先まで真っ赤に染まり上がっていく。
「み、みみみみみミナトさん……っ!? い、今、私の唇を拭った指を……舐め……舐めました……っ!?!?♡♡♡」
「あ、いやっ! す、すみません無意識に! ティッシュを出すのを忘れてて――」
「け、結婚……! これはもう、教会の教義的にも、事実上の婚約とみなされるのでは……っ!? ふぇぇぇぇ……頭から湯気が出ちゃいますぅぅぅ……っ!!」
ルミア様が両手で顔を覆ってベンチの上でジタバタと身悶え始めた。
その時――!
『ピピピピッ! 大聖堂前広場・街頭巨大魔導スクリーンより映像同期リクエストを受信しました』
『広場スクリーンへこの映像を再キャストしますか?【はい/いいえ】』
神具スマホの画面に、クラリッサのお抱え工房からのテスト同期通知がデカデカと点滅した!
「ちょ、コハク馬鹿野郎! 早く【いいえ】を押せ! これが広場の大画面に流れたら王都が崩壊するぞ!!」
「ぎゃーっ! クレープのクリームが手について滑るのじゃぁぁぁっ!」
【主神アルト】:大画面誤爆ボタン草ァァァァァッッッ!!!wwwwwwww
【愛の女神フィリア】:流しちゃいなさい! 王都中に聖女様の婚約を生中継しちゃいなさいなーーっ!!
「流せるかぁぁぁぁぁっ!!」
俺は必死の形相で【いいえ】を連打し、身悶えるルミア様の手を引いて路地裏を猛ダッシュで駆け抜けたのだった!
第20話をお読みいただきありがとうございました!
次回――第21話は生真面目すぎる女騎士団長シルヴィアとの私服護衛任務です!
お楽しみに!
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