第18話:大聖堂前広場の視察と、堅物大司教へのパンケーキ接待!
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豊穣神デメトラ直伝の「関西風豚玉お好み焼き」が完成し、フェスのメインメニューは無事に決定いたしました!
しかし、屋台フェスを開催するためには、会場となる大聖堂前広場の最終認可が必要不可欠!
立ち塞がるのは、教会の最高権力者にして規律の鬼・ヴァルフレート大司教です。
神具スマホのコメント欄とともにお楽しみください!
王都の中央に君臨する、荘厳なる白大理石の巨塔――アステリア大聖堂。
その正面に広がる『大聖堂前中央広場』は、白大理石の敷石がどこまでも美しく敷き詰められ、普段は巡礼者や信徒が静かに祈りを捧げる神聖な一等地だった。
「ふむ……スペースは申し分ありませんわね。あちらの噴水周辺に客席の長机を並べ、大通りの側に屋台を横一列に配置すれば、数千人の動員でも混乱なく誘導できますわ」
クラリッサが扇子で広場を指しながら、手帳にテキパキと配置図を書き込んでいく。
さすがは名門公爵家の令嬢、大規模な催事の空間把握能力は目を見張るものがある。
「これだけの広さがあれば、お好み焼きの煙や匂いも大通りへ綺麗に流れて、王都中の人々を引き寄せられますね!」
俺が感心して頷いていると、大聖堂の重厚な回廊の奥から、コツ、コツと硬い杖の音が響いてきた。
「……何やら朝から騒がしいと思うてみれば、アルスハイム家の小娘に、聖騎士団長、そして我が教会の聖女までお揃いか」
現れたのは、純白に金糸の刺繍が施された重厚な法衣を纏い、胸に大きな聖印を掲げた老司教だった。
雪のように白い立派な顎髭を蓄え、深い眉間のシワの奥から、鋭い眼光が俺たちを射抜く。
アステリア教会の最高権威――ヴァルフレート大司教その人であった。
「ヴァルフレート大司教様……!」
ルミア様が小さく肩をすくめ、背筋を正す。
クラリッサは臆することなく優雅に一礼すると、胸元から先日俺に渡したあの羊皮紙を取り出して見せた。
「ごきげんよう、大司教様。アルスハイム家の名において、王宮財務局よりこの広場の特別占有使用許可を取り付けましたわ。近々、こちらのミナトが主催する屋台フェスティバルを――」
「ならん」
バシィッ!と大司教の杖が石畳を叩いた。
地鳴りのような厳格な一言に、クラリッサの言葉が遮られる。
「だ、大司教様……? 王宮財務局の正式な認可証ですのよ? アルスハイム家からの十分な寄付金もすでに――」
「小娘、信仰の庭を俗世の金貨で買い叩けると思うておるのか!」
大司教が一喝した。
「この広場は、主神アルト様をはじめとする天界の神々へ祈りを捧げる神聖不可侵の霊地! それを平民の屋台だのフェスティバルだの……油の煙と大衆の歓声で神の庭を汚すなど、言語道断! 教会法に基づき、余はこの広場の使用を断固として拒絶する!」
「な……なんですってぇ!?」
クラリッサが顔を真っ赤にして扇子を握りしめた。
そこへ、シルヴィアが一歩前へ踏み出し、腰の剣帯に手をかける。
「大司教殿! 我が主ミナト様は、主神アルト様直々の特命使徒! その催しを阻むは、神慮に背く行為に他なりませんぞ!(ジャキリ)」
「団長、抜刀しないでください!」
俺は慌ててシルヴィアの甲冑の腕を引っ張った。
大司教はシルヴィアの殺気にも微動だにせず、フンッと鼻を鳴らす。
「神託を騙る不審者を持ち上げるなど、近衛騎士団長の誇りはどこへ消えたのか。……とにかく、余の目の黒いうちは、この広場に油臭い屋台など一軒たりとも建てさせん!」
完全に頑固一徹。
公爵家の権力も、聖女の懇願も、騎士団の威圧も、この老司教の前では一切通用しそうになかった。
胸ポケットの神具スマホのコメント欄が、一気にざわめき始める。
【主神アルト】:うわー出た、ヴァルフレートの爺さん!ww あいつ昔から超絶頭固いんだよなー
【愛の女神フィリア】:信仰に熱心なのは素晴らしいことですけれど、これではお祭りが開けませんわ!
【豊穣神デメトラ】:神の庭じゃと? 神である我らが「早く美味いものを焼け」と命じておるのじゃがのう!
(……怒鳴り散らしても、権力を振りかざしても逆効果だ。このお爺ちゃん、ただ意地を張ってるだけじゃない。心からこの聖堂の静寂と伝統を守ろうとしてるんだ)
俺は大きく息を吸い、大司教の前へと静かに進み出た。
「大司教様。おっしゃる通り、神聖な祈りの場を油煙で汚されたくないというお気持ちはごもっともです」
「ほう……少しは話の分かる男か。ならば即刻立ち去るがよい」
「ですが大司教様、毎朝のお勤めでお疲れではありませんか? 眉間のシワが深く刻まれて、少し顔色も青白いようです。……立ち話も何ですから、そこのガゼボでお茶でも一杯いかがですか? ほんの少し、甘いものを召し上がっていただくだけで結構ですので」
「……何? 甘味だと?」
大司教が不審そうに白眉をひそめた。
「余を菓子などで懐柔できると思うたら大間違いだぞ。余は生涯、贅沢な食事を断ち、粗食と祈りを捧げてきた身――」
「はいはい、お話は座ってから聞きますからね」
俺はお年寄りを気遣う近所のお兄ちゃんのような軽やかさで、大司教の背中をそっと支え、広場の隅にある東屋の石椅子へと腰掛けさせた。
「クラリッサさん、少しテーブルをお借りしますね」
「え、ええ……? 一体何を始めますの……?」
俺は天界通販アプリを素早く起動した。
相手は高齢の聖職者。油っこい肉や刺激物は厳禁。
ならば、出すべきは――胃に優しく、歯を必要とせず、口に入れた瞬間に心をトロトロに解きほぐす至高の甘味だ。
『高級卵&北海道産特選生クリーム』
『国産高級薄力粉&バニラビーンズ』
『カナダ産ピュアメープルシロップ』
『銅製・極厚スフレパンケーキ専用ミニフライパン(蓋付き)』
ポチッと具現化させると、テーブルの上にピカピカのボウルと泡立て器、そして銅のフライパンが現れた。
「コハク、手伝って!」
「あいよっ! 神聖な空気にはこれじゃな!」
コハクの七色の尻尾がボワッと輝いた。
現れたのは――なんと、小さな法衣を身に纏い、銀のトレイを恭しく構えた【神父見習いの美少年】の姿だった!
「主の慈悲を捧げるのじゃ!」
コハクがノリノリでコンロに火を点ける。
俺は卵を卵黄と卵白に素早く分け、卵白のボウルに少量のグラニュー糖を加えながら、泡立て器を一気に加速させた。
シャカシャカシャカシャカシャカッッッ!!
残像が見えるほどの神速のハンドミキサー技術。
透明だった卵白が、みるみるうちに純白のキメ細かい泡へと変わり、ボウルを逆さにしても落ちない極上のメレンゲが完成した。
「卵黄に少しの牛乳と粉を混ぜ、このメレンゲを三回に分けて……泡を潰さないように優しくさっくりと合わせる」
熱した銅のフライパンに薄くバターを引き、こんもりと厚さ五センチほどに生地を重ねて乗せる。
ジュワァァァァ……。
ほんの少しの水を垂らし、重厚な蓋をパチンと閉めて極弱火で蒸し焼きにする。
数分後、甘いバニラとミルクの芳醇な香りが、東屋全体を満たし始めた。
「な……なんという、甘美で清らかな香り……」
腕組みをして頑なに目を閉じていた大司教の鼻腔が、ピクリと動いた。
「ひっくり返して、もう三分……よし、完璧だ!」
蓋を開けると、そこには信じられない光景があった。
厚さ七センチを超える、まるで黄金のクッションのようにぷるぷると揺れる、二段重ねの【極厚スフレパンケーキ】!
皿に移し、雪のような粉糖を降らせ、冷たい純生クリームをぽってりと載せ、上から琥珀色のメープルシロップをとろ〜りと垂らす。
「コハク、お出しして!」
「主の御恵みをどうぞ、なのじゃ!」
見習い神父姿のコハクが、銀のトレイから大司教の前へと優雅にお皿を配膳した。
「お待たせいたしました、大司教様。特製・極厚スフレパンケーキです。温かいうちにスプーンでどうぞ」
「ふ、ふん……! 見た目が柔らかそうだからとて、余の信念が揺らぐことなど――」
大司教は意地を張りつつも、漂う甘い誘惑に抗えず、震える手で銀のスプーンをパンケーキへと差し入れた。
スッ……。
「……ぬ!?」
抵抗が、ない。
まるで焼きたての雲にスプーンを沈めたかのように、何の力も入れずにスッと生地が切り分けられたのだ。
断面からは、ふわふわの湯気とともに、甘いカスタードの香りが立ち上る。
大司教は息を呑み、生クリームとメープルシロップをたっぷり絡めた一口を、恐る恐る口の中へと運んだ。
はむっ……。
その瞬間。
「――ッッッ!?!?!?」
大司教の全身が、ビクンッ!と跳ね上がった。
噛む必要すらなかった。
舌の上に乗せた瞬間、温かい生地が無数の微細な泡となってシュワァァァ……と音を立てて消え去ったのだ。
後を追うように広がる、新鮮な卵の優しいコク、生クリームのミルキーな甘み、そしてメープルシロップの高貴な香気。
重さやクドさは一切なく、ただただ天上の光に包まれるような、圧倒的な幸福感だけが口いっぱいに広がっていく。
「あ……あぁ……っ……」
大司教の厳格だった両目から、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。
「と、とろける……! 噛む間もなく……泡のように、口の中で消えていく……!
なんと……なんと優しく、清らかな味わいなのじゃ……。
過酷な修行の日々、疲弊した余の老いた五臓六腑が……まるで聖母の腕の中に抱きしめられたかのように、温かく癒やされていく……っ!
これぞ……これぞまさに、主神アルト様の『慈愛の奇跡』そのものではないかぁぁぁっ!!」
大司教はスプーンを止められず、涙を流しながらパンケーキを夢中で口へと運び続けた。
眉間のシワは完全に消え去り、その表情はまるで洗礼を受けた赤ん坊のように神々しく蕩けきっている。
「ぷはぁぁぁ……! 美味じゃった……! このような至高の天上の味、六十年の生涯で口にしたことなど一度もない……!」
最後の一滴のシロップまで綺麗にすくい取った大司教は、胸の前で深く十字を切った。
【主神アルト】:爺ちゃん即落ちしてて草ァァァァァッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:『主神の慈愛』認定いただきましたー! よし認可だ認可!ww
【愛の女神フィリア】:あらあら〜♡ 厳格なお爺様が、まるで純真な少年のように涙を流しておられますわ! なんて尊い光景でしょう!
【豊穣神デメトラ】:見たか! 小麦と卵を極限まで泡立てた神の業! これに屈せぬ人間などおらんわ!
『主神アルトよりスーパーチャット:100,000ptが寄付されました』
呆然としていたクラリッサが、恐る恐る扇子を開いて尋ねた。
「あ、あの……大司教様? それでは、広場での屋台フェスティバルは……?」
大司教はガバッと立ち上がると、俺の両手を力強く握りしめてきた!
「許可する! 全面許可じゃ!!」
「えっ!?」
「これほどの神の恵み、大聖堂に集う信徒や、日々の生活に疲れた王都の民に分かち合わずして、何が教会の慈悲か!
ミナト殿、いや使徒ミナト様! 広場は好きなだけ使いなされ! 大聖堂の修道士や神官たちも、総出で民の誘導とお祭りの手伝いをさせようぞ!!」
「だ、大司教様……! ありがとうございます!」
俺が笑顔で頭を下げると、横で見ていたルミア様がパッと顔を輝かせ、シルヴィアが安堵の息を漏らした。
クラリッサも扇子で口元を隠しながら、誇らしげに目を細めている。
「ふふん……! さすがはわたくしの見込んだミナトですわね。あの堅物の爺様を、甘味一つで味方に引き入れてしまうなんて」
こうして、最後の関門であった大司教の全面認可を取り付けた俺たち。
広場に集まった仲間たちの視線の先には――クラリッサの手配した職人たちが運び込んできた、巨大な木枠と魔導具が積み上げられていた。
王都中へミナトの日常とフェスの熱狂を届けるための超兵器――
『街頭巨大魔導映写スクリーン』の設置工事が、いよいよ始まろうとしていた!
第18話をお読みいただきありがとうございました!
次回――第19話はクラリッサの財力によって、広場にあの「超巨大スクリーン」が設置されます!
お楽しみに!
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