第14話:一口で悶絶! 宝石マカロンと令嬢のプライド崩壊
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チャンネル登録者数1万人を突破し、神界アーカイブの再生数が爆発する中、ギルドへ乗り込んできた名門公爵令嬢クラリッサ!
シルヴィアのライバルであり、「平民の詐欺師め!」とミナトを糾弾する彼女の前に差し出されたのは――英国王室御用達の極上ダージリン紅茶と、宝石のように煌めくマカロン詰め合わせでした。
高飛車お嬢様のスイーツ回をお楽しみください!
「こ、これは……なんという甘美で高貴な香り……!? そして、この宝石のように愛らしいお菓子は一体……!?」
酒場の粗野な丸太テーブルの上で、純白のボーンチャイナ磁器と純銀のティーポットが、窓から差し込む朝の光を浴びて神々しく輝いていた。
桐箱の中に並んでいるのは、淡いピンク、若草色のグリーン、鮮やかなショコラ色、黄金色のキャラメル――
端正な円盤状の生地の縁に、ドレスのフリルのような美しい『ピエ』が立ち上がった、芸術的なマカロンたちだ。
クラリッサは息を呑み、思わず扇子を下ろして身を乗り出した。
しかし次の瞬間、ハッと我に返ったようにツンと顎を跳ね上げる。
「ふ、ふん……! 見た目だけはそれらしく整えてありますけれど、所詮は平民の浅知恵で作った安菓子ですわ! 宮廷の三ツ星パティシエが焼き上げる至高の焼き菓子を日々口にしているこのわたくしが、そのような見掛け倒しの代物に惑わされるとでも思いまして!?」
「はいはい、講釈はいいですから。まずは温かい紅茶をどうぞ。喉が渇いてるでしょう?」
俺は銀のポットを傾け、透き通るような白磁のカップへと琥珀色の紅茶を注ぎ分けた。
立ち上る湯気とともに、みずみずしいマスカットを思わせる、甘く爽やかで高貴な芳香が酒場全体を満たしていく。
「……っ!? こ、この香気は……!?」
クラリッサのエメラルドグリーンの瞳が、激しく揺れ動いた。
「ただの茶葉ではありませんわ……! 春摘みの若葉だけを手摘みした、王室の晩餐会でも年に一度振る舞われるかどうかという……伝説の『春摘み幻茶』の香気……!? なぜ平民の少年が、このような国宝級の茶葉を平然と所持していますの!?」
「あはは、知り合いの『天界通販』っていうお店から取り寄せたんですよ」
【主神アルト】:知り合いのお店(天界直通)で草ァ!ww
【愛の女神フィリア】:あらあら、クラリッサ様、すでに紅茶の香りにノックアウト寸前ですわね!
【豊穣神デメトラ】:小娘、能書きはよいから早くそのカラフルな丸い菓子を口に放り込むのじゃ!
クラリッサは震える指先でカップの取っ手を持ち、そっと唇を寄せた。
すぅっ……。
「――っっっ!?」
一口含んだ瞬間、クラリッサの背筋がピンと伸びた。
渋みが一切なく、澄み渡るような若葉の瑞々しさと、フルーティーな甘い余韻が舌の上を駆け抜けていく。
「な……なんて、雑味のない清らかな味わい……! 冷え切った喉が、まるで春の陽だまりに溶かされていくようですわ……」
うっとりと吐息を漏らすクラリッサ。
「さあ、お茶で口の中が潤ったら、お菓子もどうぞ。フランス伝統菓子の『マカロン』です。外側はサクッとしてますけど、中はすごく柔らかいので、優しく一口かじってみてください」
「マ、マカロン……? ふ、ふん! 一口だけ、一口だけ毒味して差し上げますわ! 平民の分際でわたくしを唸らせられると思ったら大間違い――」
クラリッサは言い訳を並べ立てながら、桐箱の中から鮮やかなピンク色のマカロン――『木苺』を指先でつまみ上げた。
そして、勝ち気な笑みを浮かべたまま、小さな口でシャクッと上品にかじりついた。
サクッ……。
その刹那。
「――ッッッ!?!?!?」
クラリッサの全身を、見えない雷撃が貫いた。
表面の極薄の生地が、繊細なガラス細工のようにサクッと軽やかに崩れ去る。
そして次の瞬間――生地の内側のしっとりとしたアーモンドの濃厚な生地と、中にたっぷり挟まれた特製フランボワーズガナッシュが、体温でとろりと溶け出したのだ。
噛み締めるたびに溢れ出す、アーモンドプードルの香ばしいナッツのコク。
そこへ、木苺の鮮烈で甘酸っぱい果汁の酸味と、ホワイトチョコレートのまろやかな甘みが、完璧な黄金比で混ざり合っていく。
「あ……あぁ……っ……♡♡♡」
パチンッ、カラララン……。
クラリッサの手から、家宝の扇子が床へと力なく転がり落ちた。
「な、なんですの……これ……!? サクッとしたと思ったら、中は雲のように柔らかくて……っ! 木苺の甘酸っぱさと、濃厚な甘みが……お口の中で、花束みたいに咲き乱れて……っ♡」
クラリッサの顔面が、ボボボボボッ!と音を立てて耳の先まで深紅に染まり上がった。
勝ち気だった吊り目はトロンと甘く蕩け、唇からは艶っぽいため息が漏れ出している。
「んふぅぅぅぅ……美味しくて……幸せで……頭がとろけてしまいそうですわぁぁぁ……っ♡♡♡」
「うむ! このピスタチオ味も最高なのじゃ!」
カウンターの上で、コハクが両手で緑色のマカロンを抱え、リスのように頬袋を膨らませてモグモグと貪り食っていた。
「ナッツの香ばしさとホワイトチョコのコクがたまらんのじゃ〜! 神具スマホよ、この縦ロール女の蕩け顔をしっかり撮るのじゃ!」
コハクが尻尾でスマホを固定し、至近距離からクラリッサの昇天顔を激写する。
【主神アルト】:即オチ2コマキターーーーーッッッ!!!wwwwwwww
【主神アルト】:扇子落としてアヘ顔晒す公爵令嬢とか最高すぎて腹筋崩壊したwwww
【愛の女神フィリア】:尊死! ツンデレお嬢様が甘味に敗北して蕩ける姿、百点満点ですわーーっ!!
【豊穣神デメトラ】:木苺の酸味とナッツの油分! 完璧な計算の上に成り立つ至高の焼き菓子じゃ!
『愛の女神フィリアよりスーパーチャット:50,000ptが寄付されました』
『主神アルトよりスーパーチャット:50,000ptが寄付されました』
酒場の隅では、バッカス親父が壁に手をついて「お、お嬢様が……あの高飛車なアルスハイムの小娘が、菓子一つで完全にキマっちまってやがる……」と顎を外していた。
「はっ……!? わ、わたくしは一体……!?」
コハクのシャッター音で我に返ったクラリッサが、慌てて床の扇子を拾い上げ、真っ赤な顔で胸元を隠した。
「べ、べつに美味しくなんてありませんわ! た、ただ少し……ほんの少しだけ、珍しい食感に驚いただけですわよ! オルデンブルク家のシルヴィアに勝つためにも、わたくしがこんな平民の術中にハマるわけが――」
必死に強がるクラリッサ。
しかし、その視線は桐箱の中に残された、ピスタチオと塩キャラメルのマカロンに釘付けになっていた。
喉がゴクリと鳴り、指先がソワソワと宙を彷徨っている。
「……あ、あの、ミナト……?」
「はい?」
「そ、その……毒味ですわ! 他の種類にも怪しげな薬が混入していないか、このわたくしが直々に確かめて差し上げなくてはなりませんから! 決して食べたいわけではありませんけれど……そ、その緑色のと、茶色のお菓子も……味見して差し上げてもよろしくてよ……?」
上目遣いで、プルプルと震えながらおねだりしてくる公爵令嬢。
さっきまでの高圧的な態度はどこへやら、完全に餌を待つ子猫状態である。
俺は思わず吹き出しそうになりながら、笑顔で桐箱を差し出した。
「どうぞ、全部クラリッサさんのために用意したものですから、心ゆくまで召し上がってください」
「――っっっ♡」
クラリッサの顔がパッと輝き、吸い寄せられるように二個目のピスタチオマカロンへと手を伸ばした。
サクサク、もぐもぐと至福の表情でマカロンを堪能するクラリッサを見つめながら、俺はふと、先ほど気になっていた彼女の肌のコンディションに視線を向けた。
美味しいお菓子で表情は柔らかくなったものの、目の下の薄いクマと、頬の乾燥による微細な肌荒れは隠しきれていない。
大貴族の令嬢として、日々の社交界の重圧や、シルヴィアへの対抗心からくる夜更かしが祟っているのだろう。
(スイーツで胃袋は掴めた。……なら、次は『これ』の出番だな)
俺は懐の神具スマホの天界通販アプリで、密かに【現代日本の極上スキンケアカテゴリー】をスクロールし始めた。
高飛車なツンデレ令嬢を、完全なる「最強のパトロン」へと仕立て上げるための次なる一手――
異世界には存在しない、日本の奇跡のコスメ作戦が、静かに幕を開けようとしていた。
第14話をお読みいただきありがとうございました!
次回――第15話はぷるぷるのシートマスクと高濃度ヒアルロン酸美容液を前に、クラリッサ様はどうなってしまうのか……!?
お楽しみに!
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