第11話:迷宮の主(巨大ベア)出現!? 戦わずにブラッシングと極上肉でペット化
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極上の豚汁定食で男たちの胃袋を掴み、温かい夜を過ごしていたミナトたち!
しかし、その強烈な美味の香気に釣られてやって来たのは――第一層の主たる巨大魔獣『エンペラーベア』だった!
安全地帯の結界越しに迫る絶体絶命の危機の中、戦闘力ゼロの男子高校生が取り出したのは……大型ペット用ブラシと極厚牛ステーキブロック!?
バトル完全ゼロでお送りする、前代未聞のボス攻略をお楽しみください!
「グ……グフゥッ……グルルルルッ……!」
洞窟の石壁をビリビリと震わせる、重低音の唸り声。
安全地帯『碧水晶の広場』の境界線――青白く光る不可視の結界のすぐ外側に、悪夢のような巨躯が張り付いていた。
立ち上がれば五メートルを優に超える漆黒の毛並み。
丸太よりも太い腕の先には、鋼鉄すら両断する鋭利な鉤爪。
爛々と赤く光る二つの瞳が、俺たちの足元にある大鍋を血走った目で見つめ、滝のような涎をダラダラと垂れ流している。
「ひ、ぎゃああああっ! 第一層の主……『エンペラーベア』だぁぁぁぁっ!!」
フィンが腰を抜かして悲鳴を上げた。
ブルーノも青銅のタワーシールドを構え直し、全身の筋肉を強張らせて絶叫する。
「な、なんで安全地帯の結界の目の前に主がいるんだよ!? くそっ、豚汁の匂いが回廊中に充満して引き寄せちまったのか……! 結界石があるから中には入ってこれねぇが、これじゃあ朝になってもここから一歩も出られねぇぞ!」
迷宮の最深部で孤立無援。
相手はCランクパーティが束になっても敵わない、第一層の生態系の頂点。
張り詰めた恐怖と絶望の冷気が、安全地帯を満たしていく。
だが――。
「……んー。あの熊さん、なんだかすごく痒そうじゃないですか?」
腕組みをした俺が、首を傾げながら呑気に呟いた。
「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
ブルーノとフィンが同時に首を直角に曲げて俺を見た。
「ミナト、お前正気か!? あれは凶暴の権化、遭遇したら即死確定の迷宮の主だぞ!」
「いや、見てくださいよ。右の背中を岩肌にガリガリ擦り付けてますし、全身毛玉と乾いた泥でガチガチになってます。それに、あんなに牙を剥いて唸ってるの、ただお腹が空いてイライラしてるだけですよ」
実家の裏山に迷い込んできた野良犬やイノシシも、機嫌が悪い時は決まって同じ顔をしていた。
動物の怒りの原因なんて、大抵は「空腹」か「体の不快感」の二択なのだ。
俺は神具スマホをサッと操作し、天界通販アプリを素早く起動した。
画面の上では、夜更かししていた神々が固唾を呑んで見守っている。
【主神アルト】:うおっ!? ボス遭遇キターーーッ!!
【豊穣神デメトラ】:少年、その熊に豚汁の残りをやってはならんぞ! あれは我が天界へ奉納するべき宝杯なのじゃからな!
【愛の女神フィリア】:ミナト様、お気をつけになって! いくら結界の内側とはいえ、あんなに大きな魔獣……!
「大丈夫ですよ神様たち。ちょうど良い食材と道具がありますから」
俺は残高からポイントを消費し、迷わずカートの商品を具現化させた。
『最高級牛リブロース・極厚ステーキ肉ブロック(特盛3キロ)』
『秘伝・すりおろし玉ねぎとにんにくの醤油ステーキダレ』
『大型動物用・静電気防止スリッカー極上ブラシ(特大サイズ)』
光の粒子とともに、平らな岩の上に分厚い肉塊と巨大なブラシが現れる。
「コハク、コンロ点火!」
「あいよっ! 妾に任せるのじゃ!」
子狐のコハクが器用に前足でコンロのツマミを回す。
ボシュッ!と青い炎が鉄板を瞬時に熱した。
俺は厚さ十センチはあろうかという巨大な牛リブロース肉に軽く塩胡椒を振り、熱々の鉄板の上へ豪快に投下した!
ジュワァァァァァァァァッッッ!!
その瞬間、洞窟の冷気を一瞬で吹き飛ばすほどの凄まじい白い湯気が立ち上った!
牛脂の甘く香ばしい匂いが弾け飛ぶ。
表面がきつね色に焼き固められたところで、秘伝のにんにく醤油ステーキダレをドバドバと回しかける!
ジューーーーーッッッッ!!
「ぐ、ぐおおおおおおっ!?」
ブルーノが鼻を押さえてよろめいた。
にんにくと玉ねぎ、そして焦がし醤油が織りなす暴力的な芳香が、安全地帯の結界をすり抜けて、エンペラーベアの巨大な黒い鼻先を直撃したのだ!
ピクッ……クンクン、スゥゥゥゥ……。
威嚇の咆哮を上げていた巨熊の動きが、ピタリと静止した。
血走っていた真紅の瞳が、パチクリと瞬きを繰り返し、次第につぶらな黒目がちの瞳へと変わっていく。
「グ……? グルル……?」
熊は前足をフミフミと落ち着きなく動かし、涎をナイアガラの滝のように垂らしながら、吸い寄せられるように結界の境界線へと鼻を擦り寄せてきた。
「ほら、お腹空いてたんだろ? 食いな」
俺は焼き上がった熱々のステーキ肉を大きめの木皿に載せると、結界の内側から、結界の外側の地面へとスッと差し出して置いた。
熊は一瞬、罠を警戒するように耳をピクつかせたが――立ち上る極上の匂いに抗えるはずもなかった。
バクゥゥゥッ!! ハフッ、ハフハフッ、モグモグモグッ!
「――ッッッ!?!?!?」
一口噛み締めた瞬間、エンペラーベアの全身の剛毛がブワッと逆立った。
野生の生肉しか知らなかった舌の上に広がる、柔らかくジューシーな赤身肉の旨味。
そして、にんにく醤油ダレの濃厚なコクと玉ねぎの自然な甘みが、魔獣の脳天を直撃する。
『クゥゥゥ〜〜〜ン……♡』
洞窟内に響き渡ったのは、猛獣の咆哮ではなく、まるで子犬が甘えるような情けない鳴き声だった。
熊は皿まで舐め尽くす勢いで、わずか十秒足らずで三キロの極厚ステーキをペロリと平らげてしまったのだ。
「う、嘘だろ……あの主が……ただの肉に釣られて鳴いてやがる……」
ブルーノの手からカランと長剣が滑り落ちた。
「よし、機嫌が直ったところで次だ」
俺は特大のスリッカーブラシを両手に構え、結界の境目へと一歩足を踏み出した。
「お、おいミナト馬鹿野郎! 結界の外に出るな!」
「大丈夫ですって」
俺は空腹が満たされて満足そうに腹をさすっている巨熊の背後に、躊躇いなく回り込んだ。
泥と枯葉が固まって岩のようになっていた背中の分厚い毛並みに、ザクッと特大ブラシを突き刺す。
シャッ……シャッ……シャリリリリッ!
「グルッ……!? グフゥッ……!?」
熊がビクッと巨体を震わせた。
だが、暴れる気配は一切ない。
数年間、誰の手も届かず、岩に擦り付けることしかできなかった激しい痒みの中心部を、絶妙な力加減でガリガリと掻きほぐされる至福の快感。
巨熊の険しい顔面が、みるみるうちにトロトロへと蕩けていく。
「ここ、ずっと痒かったんだろ? 毛玉も全部取ってやるからなー」
シャッ、シャッ、とテンポよくブラシを滑らせるたびに、バスケットボール大の巨大な毛玉がボロボロと足元に積み上がっていく。
泥にまみれていた剛毛は、梳かされるたびにツヤツヤとした極上の漆黒の輝きへと生まれ変わっていった。
『クウォォォォォン……♡♡♡』
ついに理性の限界を迎えた迷宮の主は、ドスゥゥゥン!と地響きを立ててその場に仰向けにひっくり返った!
白くて柔らかい無防備なお腹を天井に向け、まるで撫でてほしい猫のように、太い四肢を空中でパタパタと揺らし始めたのだ!
「くふふ! 特等席じゃのう!」
コハクが七色の尻尾を揺らして熊のお腹へとピョンと飛び乗り、スマホを掲げて自撮りアングルで配信を回し始める。
【主神アルト】:迷宮の主、完全敗北ワロタァァァァァッ!!wwww
【豊穣神デメトラ】:ステーキとブラッシングの二段構え! 猛獣すら骨抜きにする神の手腕じゃ!
【愛の女神フィリア】:キャーッ! 凶悪な熊さんがお腹を出して甘えていますわ! 尊すぎます!!
そして、深紅の閃光とともに、軍神からの特大の賛辞が画面を覆い尽くした。
『武神アーレスよりスーパーチャット:200,000ptが寄付されました』
【武神アーレス】:見事だ! 刃を交えず、ただ一度の食事と手入れのみで猛獣の闘争心をへし折るとは……! これぞ真の覇道、戦わずして勝つ極意なり!! 少年、見事である!!
「……おいフィン、俺の頭がおかしくなっちまったのか?」
「リーダー、俺も同じ幻覚を見てるぜ……迷宮の主が、ただの巨大なモフモフのペットになっちまった……」
二人の冒険者が魂の抜けた顔で天を仰ぐ横で、俺はエンペラーベアの眉間を優しくポンポンと叩いてやった。
「よし、もう痒くないだろ? お前も今夜はあっちでゆっくり寝な」
熊は名残惜しそうに俺の手のひらに濡れた鼻先を擦り付けると、ご機嫌な足取りで通路の奥へとトテトテと去っていった。
足元には、最高級の素材となる艶やかな漆黒の抜け毛(特大毛玉)の山だけが残されていた。
こうして俺たちは、傷一つ負うことなく迷宮の主を手懐け、翌朝の地上帰還を迎えることになったのだった。
第11話をお読みいただきありがとうございました!
第一層の主たるエンペラーベア、極厚牛ステーキと特大スリッカーブラシの前に、完全なる甘えん坊ペットへと堕ちてしまいました!
武神アーレス様、豪快な10万pt赤スパありがとうございます!
戦闘力ゼロのまま、迷宮の生態系の頂点と仲良くなってしまったミナト。
次回はいよいよ――王都のギルドへ凱旋帰還!
ボスの高級毛玉の換金、エビフライでの大祝宴、そしてチャンネル登録者数【1万人突破】の瞬間が訪れます!
次回――『第12話:無傷の生還! ギルドのエビフライ祝宴と登録者1万人突破』!
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