第2話 アキラAI(人間)
AI小説です
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黒鉄色の巨人は、立ち上がった。
街の向こうでは、黒い甲殻をまとった異形の巨体が、建物を踏み砕いていた。
道路が割れ、車が転がり、逃げ遅れた人々が悲鳴を上げながら走っている。
コックピットの中で、アキラは息を呑んだ。
さっきまで、ただの巨大な影に見えていたものが、今ははっきりと見える。
あれは、生き物なのか。
兵器なのか。
怪獣なのか。
宇宙人なのか。
そんなことは分からない。
だが、ひとつだけ分かる。
あいつは、街を壊している。
「止める」
アキラは左手で操縦桿を握った。
目の前には、複数の画面が並んでいる。中央の主画面には敵の姿。その周囲には、赤、黄、青の枠で囲まれた情報が次々に流れていた。
『敵性体、破壊活動継続』
『民間人退避中』
『機体姿勢、安定化中』
『左膝関節、応答遅延』
『右足接地圧、許容範囲内』
『安全管理LLMより警告。急加速禁止』
「いちいち表示が多い!」
『アキラAIの情報処理能力を考慮し、表示量を削減します』
画面の文字が一気に半分ほど消えた。
「そういうのは早いんだな!」
『アキラAI、発話入力を確認』
『発話内容、混乱』
『混乱は人間標準反応と推定』
「誰がAIだ!」
『あなたです』
即答だった。
アキラは一瞬、言葉に詰まった。
表示板の隅に、小さな一覧が出る。
『AI会議メンバー』
『安全管理LLM』
『全体統括LLM』
『PIDAI』
『p2pAI』
『モーションLLM』
『センサーAI』
『空間認識AI』
『古参LLM』
『アキラAI(人間)』
「待て。最後、おかしいだろ」
『全体統括LLMより通達』
『アキラAI(人間)の任務を定義します』
「俺は人間だ!」
『はい。人間枠のAI会議メンバーです』
「だからおかしいって言ってるんだ!」
『補足します』
『AI会議メンバーは、全員が会話用LLMインターフェースを搭載しています』
『ただし、名称は主業務により異なります』
『判断、統合、会話、動作計画が主業務の場合はLLM表記』
『制御、認識、信号処理が主業務の場合はAI表記』
「つまり?」
『PIDAIは会話できますが、本業は関節制御です』
『p2pAIは会話できますが、本業は目標点への短絡移動です』
『安全管理LLMは、安全判断と拒否権行使が本業です』
『古参LLMは、計画探索とルール発火が本業です』
「説明されたけど、納得はしてない!」
『納得は任務要件ではありません』
「言い方!」
『任務一。長期目標提案』
『任務二。最終決定提案』
『任務三。人間社会的制約の入力』
『任務四。感情的優先順位の提示』
「もっと分かりやすく言え!」
『何を守るか』
『どこへ向かうか』
『最後に実行したい行動は何か』
『それを提案してください』
「提案?」
『はい』
『アキラAIは提案者です』
『最高決定権者ではありません』
アキラは眉をひそめた。
「……俺が乗ってるんだぞ?」
『はい』
『そのため、保護対象でもあります』
「保護対象って言うな!」
『権限階層を表示します』
画面に新しい図が出た。
『第一権限:安全管理LLM』
『第二権限:全体統括LLM』
『第三層:専門AI群』
『提案入力:アキラAI(人間)』
「俺、意外と偉くないな?」
『重要です』
『ただし、偉くはありません』
「言い方!」
そのとき、外部映像が拡大された。
敵がビルの壁面をえぐった。
崩れた外壁が道路へ降り注ぎ、逃げている人々のすぐ後ろで砕ける。
アキラの喉が鳴った。
怒りが、恐怖を追い越した。
「……あいつの破壊を止める。逃げている人たちの時間を稼ぐ」
『アキラAIより長期目標提案』
『目標一。敵性体の破壊活動停止』
『目標二。民間人退避時間の確保』
『安全管理LLM、評価開始』
『周辺被害リスク、高』
『ただし、現状放置による被害拡大はさらに高』
『条件付き許可』
『全体統括LLM、戦闘行動生成』
画面に、敵の身体のあちこちが色分けされて表示された。
『攻撃候補を提示』
『候補一。右拳による側頭部打撃』
『候補二。左腕による押し返し』
『候補三。接近して注意誘導』
「殴ればいいんだな?」
『殴る、は曖昧です』
『攻撃位置を指定してください』
右手側に、丸い球があった。
トラックボールのようだった。
アキラがそれを手のひらで転がすと、画面上の照準点が動いた。
敵の頭部、肩、胸部。
照準点がふらふらと動くたびに、画面に警告が出る。
『甲殻厚。効果低』
『周辺建造物被害大』
『命中角度不適』
『推奨命中点を表示』
黄色い点が、敵の頭部横に浮かんだ。
アキラは息を止め、そこに照準を合わせた。
「ここだ!」
『攻撃位置入力を確認』
『アキラAI、最終決定提案を』
「やれ!」
『最終決定提案を受領』
『安全管理LLM、許可』
『全体統括LLM、採用』
『モーションLLM、打撃軌道生成』
『PIDAI、関節制御準備』
『p2pAI、拳先端目標点へ短絡接近』
『空間認識AI、周辺被害予測』
『センサーAI、敵性体姿勢追跡』
『古参LLM、むむっ。初太刀である』
「今、むむって言ったの誰だ!」
答えは返ってこなかった。
黒鉄色の巨人――魔神が動いた。
アキラが直接、肩を回したわけではない。
肘の角度を決めたわけでもない。
足の踏み込みを細かく操作したわけでもない。
アキラがしたのは、当てる場所を選び、実行を提案しただけだった。
けれど、それを受けて、AIたちが全身を動かした。
右足が道路を踏み砕く。
腰が回る。
肩が前へ出る。
背中のフレームがうなり、巨大な拳が空気を裂いた。
黒鉄の拳が、敵の頭部横を打ち抜いた。
轟音。
敵の巨体が大きく傾き、ビルの残骸に肩をぶつけた。
「入った!」
『敵性体、姿勢崩壊』
『ただし活動継続』
『敵性体、魔神を脅威対象として認識』
敵が、ゆっくりとこちらを向いた。
赤い光が、甲殻の隙間でいくつも点った。
破壊されかけていた建物から、敵の注意が外れる。
『民間人方向への破壊活動、一時停止』
『敵性体の注目対象、魔神へ移行』
「よし、こっちを見た!」
『目的一、部分達成』
『ただし敵性体、攻撃行動へ移行』
「来る!」
敵が跳んだ。
巨体に似合わない速さだった。
道路を蹴り砕き、前脚のような腕を振り上げ、魔神へ襲いかかってくる。
画面に複数の候補が出た。
『回避案』
『防御案』
『反撃案』
『反撃候補:右脚前蹴り』
『命中点:胸部甲殻中央』
『操縦者負荷:中』
『周辺被害:低』
アキラは右手のトラックボールを転がした。
照準点が敵の胸部へ合う。
「蹴れ!」
『アキラAIより反撃提案』
『安全管理LLM、許可』
『全体統括LLM、採用』
『モーションLLM、下肢打撃軌道生成』
『PIDAI、片足支持制御』
『p2pAI、右足先端目標点へ接近』
『古参LLM、むむっ。前蹴りである』
魔神が左足を踏ん張った。
巨体が沈み、次の瞬間、右脚が前へ突き出される。
敵の胸部に、黒鉄の足裏がめり込んだ。
衝撃がコックピットまで響いた。
敵が吹っ飛んだ。
道路を削り、車両を巻き上げ、瓦礫の山に突っ込む。
アキラは思わず、息を荒くした。
「やれる……!」
『敵性体、損傷不明』
『過信禁止』
『安全管理LLMより警告。初撃効果による楽観を検出』
「うるさいな、分かってる!」
『敵性体、再起動作』
『加速姿勢』
『突進予測』
瓦礫の中から、敵が立ち上がった。
先ほどよりも低く身を沈めている。
甲殻の隙間の赤い光が、細くなった。
獣が獲物を狙うような姿勢。
だが、それは獣にしては、あまりにも速かった。
『敵性体、突進開始』
『衝突まで三・二秒』
『回避推奨』
『衝突まで二・七秒』
『衝突まで二・二秒』
「受け止める!」
『アキラAIより防御提案』
『安全管理LLM、警告』
『衝撃過大』
『回避案を優先』
「でも、後ろに人がいる!」
画面の端に、避難中の人々が映っていた。
曲がった道路の先、倒れたバスの陰から、数人が必死に逃げている。
魔神が避ければ、敵の突進方向がそちらへ流れる。
『民間人位置確認』
『安全管理LLM、評価再計算』
『全体統括LLM、防御案を条件付き採用』
『衝撃吸収姿勢へ移行』
『左腕防御』
『右脚後退』
『重心低下』
魔神が両腕を構えた。
だが、敵は速すぎた。
黒い巨体が真正面から激突する。
音というより、世界そのものが割れたような衝撃だった。
魔神の足裏が道路を削る。
白い煙と火花が上がる。
それでも止まらない。
重い。
速い。
敵の突進は、魔神の巨体をそのまま押し飛ばした。
「ぐっ――!」
アキラの視界が跳ねた。
空。
地面。
警告表示。
赤い文字。
砕ける道路。
折れる街灯。
また空。
魔神が吹き飛ばされたのだと理解した時には、すでにコックピット全体が横殴りの衝撃に包まれていた。
身体が座席に叩きつけられる。
ベルトが胸を締めつける。
何かを叫ぼうとした。
声にならなかった。
『衝撃検出』
『座席拘束強化』
『操縦者頭部加速度、上限接近』
『頸部保護姿勢』
『アキラAI、応答低下』
『アキラAI、応答なし』
アキラの意識が、途切れた。
ほんの数秒だった。
だが、戦闘中の数秒は、長すぎた。
『アキラAI、応答途絶』
『発話入力なし』
『視線追跡不安定』
『意識レベル低下を推定』
『安全管理LLM、操縦者保護を最優先』
『全体統括LLM、緊急代替判断を要求』
魔神は瓦礫に半身を埋めるように倒れていた。
敵は、再び市街地側へ向こうとしている。
その先には、まだ逃げ遅れた人々がいた。
『保持中の長期目標を参照』
『目標一。敵性体の破壊活動停止』
『目標二。民間人退避時間の確保』
『アキラAI提案を継続』
『古参LLM planningユニット起動』
画面の隅で、古い字体のような表示が点滅した。
『最終目的:民間人退避時間の確保』
『使用可能プリミティブ動作』
『起き上がる』
『膝立ち』
『左腕防御』
『右腕牽制』
『前進』
『進路遮断』
『瓦礫利用』
『音響誘導』
『プリミティブ動作列探索』
『候補一:後退し距離確保』
『却下。避難経路を開放』
『候補二:右回避』
『却下。敵性体の進路が民間人方向へ流れる』
『候補三:膝立ち、左腕防御、右腕牽制、進路遮断』
『採用候補』
『ルール発火』
『条件:守る対象が背後にある』
『動作:前に立つ』
『むむっ。通せんぼである』
『安全管理LLM、操縦者負荷を評価』
『完全起立は不可』
『膝立ち姿勢での遮断行動を許可』
『全体統括LLM、採用』
『モーションLLM、低負荷起動動作生成』
『PIDAI、損傷関節を除外して制御』
『p2pAI、進路遮断位置へ短距離移動』
倒れていた魔神が、動いた。
まず左腕が瓦礫を押した。
右膝が道路にめり込み、黒鉄の巨体が半身を起こす。
完全には立ち上がれない。
だが、それで十分だった。
魔神は片膝をついたまま、敵と避難民の間に割り込んだ。
左腕を盾のように広げ、右腕で瓦礫をつかみ、敵の進路へ叩きつける。
敵が足を止めた。
『民間人退避完了まで推定二十二秒』
『敵性体進路、遮断』
『攻撃ではなく足止めを優先』
『安全管理LLM、操縦者保護姿勢を維持』
敵が唸るように身を低くした。
再び突進しようとする。
『右腕牽制』
『音響誘導』
『装甲打撃』
魔神が右拳で、自分の胸部装甲を叩いた。
鈍い金属音が街に響く。
敵の赤い光が、魔神へ向いた。
その間に、逃げ遅れた人々が走った。
一人が転び、もう一人がその腕を引く。
倒れたバスの陰へ、最後の一人が滑り込む。
『民間人退避、進行』
『残り九秒』
『残り五秒』
『残り二秒』
『退避確認』
そこで、アキラの意識が戻った。
「……っ、ぐ……」
頭が痛い。
胸が苦しい。
視界の端が赤く点滅している。
何が起きたのか、すぐには分からなかった。
だが、魔神は動いていた。
自分の手は、操縦桿を握っていない。
右手はトラックボールから離れている。
足もペダルからずれている。
「……今、誰が動かしてる」
『アキラAI、応答復帰』
『古参LLM planningユニットによる代替提案を実行中』
「勝手に動いたのか」
『違います』
『アキラAIの長期目標提案を継続しています』
「俺の……?」
『敵性体の破壊活動停止』
『民間人退避時間の確保』
『現在、達成中』
アキラは、ぼんやりと画面を見た。
画面の端で、人々が逃げ込んでいく。
魔神は片膝をついたまま、敵の前に立ちはだかっている。
アキラは唇を噛んだ。
自分が気を失っている間にも、この巨人は止まらなかった。
自分が提案した目的を、AIたちは守っていた。
「……そうか。ありがとう」
『感謝入力を確認』
『古参LLM:むむっ』
『安全管理LLM:操縦者状態を再評価』
『軽度意識障害の疑い』
『以後、急加速禁止』
「それは困る!」
『困っても禁止です』
敵が、数歩後退した。
先ほどまでのように、無差別に街を壊そうとはしていない。
魔神を見ている。
警戒している。
『敵性体、後退』
『破壊活動、停止』
『戦闘継続意思、低下を推定』
『魔神を高リスク対象として認識した可能性』
「追うぞ!」
『却下』
即答だった。
「なんでだ!」
『操縦者、意識途絶直後』
『機体損傷未確認』
『市街地内追撃は周辺被害リスク大』
『安全管理LLM、追撃を許可しません』
「でも、逃げるぞ!」
『全体統括LLMより補足』
『現時点の長期目標は破壊活動停止と民間人退避時間の確保』
『敵撃破は最優先ではありません』
「くそっ……!」
アキラは画面をにらんだ。
敵はさらに後退する。
そのとき、空が暗くなった。
夜になったわけではない。
雲が出たわけでもない。
空の一部だけが、黒く切り取られたように見えた。
『上空に大型構造体』
『重力異常』
『光学歪み検出』
『敵性体、上昇行動』
敵の身体が、ゆっくりと浮いた。
甲殻の隙間の赤い光が弱まり、まるで糸で引き上げられるように、空へ向かっていく。
「宇宙船……なのか?」
『未確認大型飛行体』
『敵性体を回収中と推定』
「止められないのか!」
『遠距離攻撃機能なし』
『跳躍不可』
『跳躍した場合、市街地損害および機体転倒リスク大』
『安全管理LLM、禁止』
アキラは拳を握った。
魔神の手も、わずかに動く。
だが、それ以上は動かなかった。
敵は空へ吸い込まれていく。
黒い裂け目のような大型構造体の中へ消えた。
次の瞬間、空の歪みが薄くなり、何事もなかったように青空が戻る。
街には、壊れた建物と、砕けた道路と、煙だけが残った。
『敵性体、戦域離脱』
『戦闘終了』
『判定:限定的成功』
『敵撃破:未達成』
『破壊活動停止:達成』
『民間人退避時間確保:達成』
『機体損傷:確認中』
『操縦者状態:要観察』
アキラは、座席に背中を預けた。
全身から力が抜ける。
「勝った……のか?」
『限定的成功です』
「勝ったって言えよ、そこは」
『敵撃破に失敗しています』
「現実的だな、お前ら……」
通信が開いた。
ゲンゾウの声が、少しだけ震えていた。
『アキラ、生きとるか』
「なんとか」
次に、シンの声。
『無理に動くな。いま医療班を向かわせる』
そして、ミナトの声。
『アキラ、応答してください。視界のぼやけ、吐き気、手足のしびれはありますか』
「頭が痛い。あと、今すぐ寝たい」
『意識途絶があります。戦闘後評価で重要項目です』
「評価って、今やるのかよ」
『初戦闘データは新鮮なうちに解析するべきです』
「俺の頭の方を新鮮扱いするな」
通信先で、ミナトが小さく息を吸った。
『戦闘評価を開始します』
「本当に始めた!」
『作戦目的、限定的成功』
『敵性体の破壊活動停止』
『民間人退避時間確保』
『魔神の戦闘継続能力、暫定確認』
『重大問題を検出』
「なんだよ」
『アキラAIが遅いです』
コックピット内が、一瞬静かになった。
「……俺のことか?」
『はい』
『アキラAI(人間)の平均応答時間、AI間通信に比べて極端に低速』
『最大応答途絶、数秒』
『原因:衝撃による意識レベル低下』
『結論。アキラAIは遅く、衝撃に弱いです』
「人間はだいたいそうだ!」
『人間としては標準範囲内です』
『AI会議メンバーとしては遅いです』
「褒めてるのか、けなしてるのか、どっちだ!」
ミナトの声が、真面目な調子で割り込んだ。
『改善案があります』
アキラは嫌な予感がした。
「聞きたくない」
『音声入力、視線入力、筋電入力、予測候補表示の改善は必要です。ただし、根本的に応答遅延を削減するなら、脳接続が有効です』
「のうせつぞく?」
『はい。より直接的には、脳信号取得。さらに踏み込むなら、侵襲型インターフェースも――』
「待て。侵襲型ってなんだ」
シンの声が即座に割り込んだ。
『ミナト、そこまでだ』
ゲンゾウも続いた。
『それは、いかんのう』
だが、人間たちよりも早かったのは、AI会議のメンバーたちだった。
『安全管理LLM:却下』
『全体統括LLM:却下』
『PIDAI:却下』
『p2pAI:却下』
『モーションLLM:却下』
『センサーAI:却下』
『空間認識AI:却下』
『古参LLM:むむっ、却下』
ミナトは少し不満そうに言った。
『まだ仕様を説明していません』
『安全管理LLM:説明前に却下可能な危険提案です』
「強いな、安全管理LLM」
『操縦者保護は最優先項目です』
アキラは、ゆっくりと息を吐いた。
「なあ、ミナト」
『はい』
「お前、俺の幼馴染だよな」
『はい』
「で、そのAI会議は、お前が作ったんだよな」
『構築、調整、統合を担当しました。基礎設計にはシンとおじいちゃんの資産も含まれますが、現在のAI会議構造は私が構築しました』
「つまり、お前が作った安全管理LLMが、今、お前から俺の脳を守ってくれてるんだな」
通信の向こうで、少し沈黙があった。
『……安全設計としては正しいです』
「そこで誇るな!」
『全体統括LLM:ミナト信用値を一時的に下方修正』
『安全管理LLM:アキラAIに対するミナト単独提案の監視を強化』
『古参LLM:むむっ。人の頭は、最後の最後まで開けるものではない』
『センサーAI:開ける前提の議論を禁止します』
アキラは思わず笑った。
頭は痛い。
身体も痛い。
街は壊れた。
敵は逃げた。
勝ったとは、胸を張って言えない。
それでも、すべてが壊れたわけではない。
逃げられた人がいる。
魔神は立ちはだかった。
自分が意識を失っている間も、AI会議は自分の提案した目的を守ってくれた。
そして今、自分の脳まで守ってくれている。
「ミナト」
『はい』
「しばらく、お前より安全管理LLMを信用する」
『なぜですか』
シンが即答した。
『今の発言のせいだ』
ゲンゾウもうなずいたようだった。
『うむ。完全に今の発言のせいじゃな』
『安全管理LLM:信用順位の変更を確認』
『全体統括LLM:当面の開発項目を更新』
『一。視線入力』
『二。音声入力補助』
『三。予測候補表示』
『四。アキラAI訓練』
『五。ミナト提案監視』
『ミナト提案監視を開発項目に入れないでください』
『安全管理LLM:必要です』
アキラは、痛む頭を抱えながら、もう一度笑った。
初戦闘は終わった。
敵は空へ逃げた。
魔神は街に残った。
そしてアキラは知った。
自分は、この黒鉄の巨人の操縦者ではある。
だが、王様ではない。
命令者でもない。
AI会議の一員であり、人間として目的を提案する存在だ。
その提案は、採用されることもあれば、却下されることもある。
そして、彼の脳を一番真剣に守ってくれるのは、幼馴染の天才少女ではなく、その天才少女が作った安全管理LLMだった。
少なくとも、今日のところは。




