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黒鉄の魔神  作者: axxx01
2/3

第2話 アキラAI(人間)

AI小説です


-----------------------------------------------------------------------------------------------


黒鉄色の巨人は、立ち上がった。


 街の向こうでは、黒い甲殻をまとった異形の巨体が、建物を踏み砕いていた。


 道路が割れ、車が転がり、逃げ遅れた人々が悲鳴を上げながら走っている。


 コックピットの中で、アキラは息を呑んだ。


 さっきまで、ただの巨大な影に見えていたものが、今ははっきりと見える。


 あれは、生き物なのか。


 兵器なのか。


 怪獣なのか。


 宇宙人なのか。


 そんなことは分からない。


 だが、ひとつだけ分かる。


 あいつは、街を壊している。


「止める」


 アキラは左手で操縦桿を握った。


 目の前には、複数の画面が並んでいる。中央の主画面には敵の姿。その周囲には、赤、黄、青の枠で囲まれた情報が次々に流れていた。


『敵性体、破壊活動継続』


『民間人退避中』


『機体姿勢、安定化中』


『左膝関節、応答遅延』


『右足接地圧、許容範囲内』


『安全管理LLMより警告。急加速禁止』


「いちいち表示が多い!」


『アキラAIの情報処理能力を考慮し、表示量を削減します』


 画面の文字が一気に半分ほど消えた。


「そういうのは早いんだな!」


『アキラAI、発話入力を確認』


『発話内容、混乱』


『混乱は人間標準反応と推定』


「誰がAIだ!」


『あなたです』


 即答だった。


 アキラは一瞬、言葉に詰まった。


 表示板の隅に、小さな一覧が出る。


『AI会議メンバー』


『安全管理LLM』


『全体統括LLM』


『PIDAI』


『p2pAI』


『モーションLLM』


『センサーAI』


『空間認識AI』


『古参LLM』


『アキラAI(人間)』


「待て。最後、おかしいだろ」


『全体統括LLMより通達』


『アキラAI(人間)の任務を定義します』


「俺は人間だ!」


『はい。人間枠のAI会議メンバーです』


「だからおかしいって言ってるんだ!」


『補足します』


『AI会議メンバーは、全員が会話用LLMインターフェースを搭載しています』


『ただし、名称は主業務により異なります』


『判断、統合、会話、動作計画が主業務の場合はLLM表記』


『制御、認識、信号処理が主業務の場合はAI表記』


「つまり?」


『PIDAIは会話できますが、本業は関節制御です』


『p2pAIは会話できますが、本業は目標点への短絡移動です』


『安全管理LLMは、安全判断と拒否権行使が本業です』


『古参LLMは、計画探索とルール発火が本業です』


「説明されたけど、納得はしてない!」


『納得は任務要件ではありません』


「言い方!」


『任務一。長期目標提案』


『任務二。最終決定提案』


『任務三。人間社会的制約の入力』


『任務四。感情的優先順位の提示』


「もっと分かりやすく言え!」


『何を守るか』


『どこへ向かうか』


『最後に実行したい行動は何か』


『それを提案してください』


「提案?」


『はい』


『アキラAIは提案者です』


『最高決定権者ではありません』


 アキラは眉をひそめた。


「……俺が乗ってるんだぞ?」


『はい』


『そのため、保護対象でもあります』


「保護対象って言うな!」


『権限階層を表示します』


 画面に新しい図が出た。


『第一権限:安全管理LLM』


『第二権限:全体統括LLM』


『第三層:専門AI群』


『提案入力:アキラAI(人間)』


「俺、意外と偉くないな?」


『重要です』


『ただし、偉くはありません』


「言い方!」


 そのとき、外部映像が拡大された。


 敵がビルの壁面をえぐった。


 崩れた外壁が道路へ降り注ぎ、逃げている人々のすぐ後ろで砕ける。


 アキラの喉が鳴った。


 怒りが、恐怖を追い越した。


「……あいつの破壊を止める。逃げている人たちの時間を稼ぐ」


『アキラAIより長期目標提案』


『目標一。敵性体の破壊活動停止』


『目標二。民間人退避時間の確保』


『安全管理LLM、評価開始』


『周辺被害リスク、高』


『ただし、現状放置による被害拡大はさらに高』


『条件付き許可』


『全体統括LLM、戦闘行動生成』


 画面に、敵の身体のあちこちが色分けされて表示された。


『攻撃候補を提示』


『候補一。右拳による側頭部打撃』


『候補二。左腕による押し返し』


『候補三。接近して注意誘導』


「殴ればいいんだな?」


『殴る、は曖昧です』


『攻撃位置を指定してください』


 右手側に、丸い球があった。


 トラックボールのようだった。


 アキラがそれを手のひらで転がすと、画面上の照準点が動いた。


 敵の頭部、肩、胸部。


 照準点がふらふらと動くたびに、画面に警告が出る。


『甲殻厚。効果低』


『周辺建造物被害大』


『命中角度不適』


『推奨命中点を表示』


 黄色い点が、敵の頭部横に浮かんだ。


 アキラは息を止め、そこに照準を合わせた。


「ここだ!」


『攻撃位置入力を確認』


『アキラAI、最終決定提案を』


「やれ!」


『最終決定提案を受領』


『安全管理LLM、許可』


『全体統括LLM、採用』


『モーションLLM、打撃軌道生成』


『PIDAI、関節制御準備』


『p2pAI、拳先端目標点へ短絡接近』


『空間認識AI、周辺被害予測』


『センサーAI、敵性体姿勢追跡』


『古参LLM、むむっ。初太刀である』


「今、むむって言ったの誰だ!」


 答えは返ってこなかった。


 黒鉄色の巨人――魔神が動いた。


 アキラが直接、肩を回したわけではない。


 肘の角度を決めたわけでもない。


 足の踏み込みを細かく操作したわけでもない。


 アキラがしたのは、当てる場所を選び、実行を提案しただけだった。


 けれど、それを受けて、AIたちが全身を動かした。


 右足が道路を踏み砕く。


 腰が回る。


 肩が前へ出る。


 背中のフレームがうなり、巨大な拳が空気を裂いた。


 黒鉄の拳が、敵の頭部横を打ち抜いた。


 轟音。


 敵の巨体が大きく傾き、ビルの残骸に肩をぶつけた。


「入った!」


『敵性体、姿勢崩壊』


『ただし活動継続』


『敵性体、魔神を脅威対象として認識』


 敵が、ゆっくりとこちらを向いた。


 赤い光が、甲殻の隙間でいくつも点った。


 破壊されかけていた建物から、敵の注意が外れる。


『民間人方向への破壊活動、一時停止』


『敵性体の注目対象、魔神へ移行』


「よし、こっちを見た!」


『目的一、部分達成』


『ただし敵性体、攻撃行動へ移行』


「来る!」


 敵が跳んだ。


 巨体に似合わない速さだった。


 道路を蹴り砕き、前脚のような腕を振り上げ、魔神へ襲いかかってくる。


 画面に複数の候補が出た。


『回避案』


『防御案』


『反撃案』


『反撃候補:右脚前蹴り』


『命中点:胸部甲殻中央』


『操縦者負荷:中』


『周辺被害:低』


 アキラは右手のトラックボールを転がした。


 照準点が敵の胸部へ合う。


「蹴れ!」


『アキラAIより反撃提案』


『安全管理LLM、許可』


『全体統括LLM、採用』


『モーションLLM、下肢打撃軌道生成』


『PIDAI、片足支持制御』


『p2pAI、右足先端目標点へ接近』


『古参LLM、むむっ。前蹴りである』


 魔神が左足を踏ん張った。


 巨体が沈み、次の瞬間、右脚が前へ突き出される。


 敵の胸部に、黒鉄の足裏がめり込んだ。


 衝撃がコックピットまで響いた。


 敵が吹っ飛んだ。


 道路を削り、車両を巻き上げ、瓦礫の山に突っ込む。


 アキラは思わず、息を荒くした。


「やれる……!」


『敵性体、損傷不明』


『過信禁止』


『安全管理LLMより警告。初撃効果による楽観を検出』


「うるさいな、分かってる!」


『敵性体、再起動作』


『加速姿勢』


『突進予測』


 瓦礫の中から、敵が立ち上がった。


 先ほどよりも低く身を沈めている。


 甲殻の隙間の赤い光が、細くなった。


 獣が獲物を狙うような姿勢。


 だが、それは獣にしては、あまりにも速かった。


『敵性体、突進開始』


『衝突まで三・二秒』


『回避推奨』


『衝突まで二・七秒』


『衝突まで二・二秒』


「受け止める!」


『アキラAIより防御提案』


『安全管理LLM、警告』


『衝撃過大』


『回避案を優先』


「でも、後ろに人がいる!」


 画面の端に、避難中の人々が映っていた。


 曲がった道路の先、倒れたバスの陰から、数人が必死に逃げている。


 魔神が避ければ、敵の突進方向がそちらへ流れる。


『民間人位置確認』


『安全管理LLM、評価再計算』


『全体統括LLM、防御案を条件付き採用』


『衝撃吸収姿勢へ移行』


『左腕防御』


『右脚後退』


『重心低下』


 魔神が両腕を構えた。


 だが、敵は速すぎた。


 黒い巨体が真正面から激突する。


 音というより、世界そのものが割れたような衝撃だった。


 魔神の足裏が道路を削る。


 白い煙と火花が上がる。


 それでも止まらない。


 重い。


 速い。


 敵の突進は、魔神の巨体をそのまま押し飛ばした。


「ぐっ――!」


 アキラの視界が跳ねた。


 空。


 地面。


 警告表示。


 赤い文字。


 砕ける道路。


 折れる街灯。


 また空。


 魔神が吹き飛ばされたのだと理解した時には、すでにコックピット全体が横殴りの衝撃に包まれていた。


 身体が座席に叩きつけられる。


 ベルトが胸を締めつける。


 何かを叫ぼうとした。


 声にならなかった。


『衝撃検出』


『座席拘束強化』


『操縦者頭部加速度、上限接近』


『頸部保護姿勢』


『アキラAI、応答低下』


『アキラAI、応答なし』


 アキラの意識が、途切れた。


 ほんの数秒だった。


 だが、戦闘中の数秒は、長すぎた。


『アキラAI、応答途絶』


『発話入力なし』


『視線追跡不安定』


『意識レベル低下を推定』


『安全管理LLM、操縦者保護を最優先』


『全体統括LLM、緊急代替判断を要求』


 魔神は瓦礫に半身を埋めるように倒れていた。


 敵は、再び市街地側へ向こうとしている。


 その先には、まだ逃げ遅れた人々がいた。


『保持中の長期目標を参照』


『目標一。敵性体の破壊活動停止』


『目標二。民間人退避時間の確保』


『アキラAI提案を継続』


『古参LLM planningユニット起動』


 画面の隅で、古い字体のような表示が点滅した。


『最終目的:民間人退避時間の確保』


『使用可能プリミティブ動作』


『起き上がる』


『膝立ち』


『左腕防御』


『右腕牽制』


『前進』


『進路遮断』


『瓦礫利用』


『音響誘導』


『プリミティブ動作列探索』


『候補一:後退し距離確保』


『却下。避難経路を開放』


『候補二:右回避』


『却下。敵性体の進路が民間人方向へ流れる』


『候補三:膝立ち、左腕防御、右腕牽制、進路遮断』


『採用候補』


『ルール発火』


『条件:守る対象が背後にある』


『動作:前に立つ』


『むむっ。通せんぼである』


『安全管理LLM、操縦者負荷を評価』


『完全起立は不可』


『膝立ち姿勢での遮断行動を許可』


『全体統括LLM、採用』


『モーションLLM、低負荷起動動作生成』


『PIDAI、損傷関節を除外して制御』


『p2pAI、進路遮断位置へ短距離移動』


 倒れていた魔神が、動いた。


 まず左腕が瓦礫を押した。


 右膝が道路にめり込み、黒鉄の巨体が半身を起こす。


 完全には立ち上がれない。


 だが、それで十分だった。


 魔神は片膝をついたまま、敵と避難民の間に割り込んだ。


 左腕を盾のように広げ、右腕で瓦礫をつかみ、敵の進路へ叩きつける。


 敵が足を止めた。


『民間人退避完了まで推定二十二秒』


『敵性体進路、遮断』


『攻撃ではなく足止めを優先』


『安全管理LLM、操縦者保護姿勢を維持』


 敵が唸るように身を低くした。


 再び突進しようとする。


『右腕牽制』


『音響誘導』


『装甲打撃』


 魔神が右拳で、自分の胸部装甲を叩いた。


 鈍い金属音が街に響く。


 敵の赤い光が、魔神へ向いた。


 その間に、逃げ遅れた人々が走った。


 一人が転び、もう一人がその腕を引く。


 倒れたバスの陰へ、最後の一人が滑り込む。


『民間人退避、進行』


『残り九秒』


『残り五秒』


『残り二秒』


『退避確認』


 そこで、アキラの意識が戻った。


「……っ、ぐ……」


 頭が痛い。


 胸が苦しい。


 視界の端が赤く点滅している。


 何が起きたのか、すぐには分からなかった。


 だが、魔神は動いていた。


 自分の手は、操縦桿を握っていない。


 右手はトラックボールから離れている。


 足もペダルからずれている。


「……今、誰が動かしてる」


『アキラAI、応答復帰』


『古参LLM planningユニットによる代替提案を実行中』


「勝手に動いたのか」


『違います』


『アキラAIの長期目標提案を継続しています』


「俺の……?」


『敵性体の破壊活動停止』


『民間人退避時間の確保』


『現在、達成中』


 アキラは、ぼんやりと画面を見た。


 画面の端で、人々が逃げ込んでいく。


 魔神は片膝をついたまま、敵の前に立ちはだかっている。


 アキラは唇を噛んだ。


 自分が気を失っている間にも、この巨人は止まらなかった。


 自分が提案した目的を、AIたちは守っていた。


「……そうか。ありがとう」


『感謝入力を確認』


『古参LLM:むむっ』


『安全管理LLM:操縦者状態を再評価』


『軽度意識障害の疑い』


『以後、急加速禁止』


「それは困る!」


『困っても禁止です』


 敵が、数歩後退した。


 先ほどまでのように、無差別に街を壊そうとはしていない。


 魔神を見ている。


 警戒している。


『敵性体、後退』


『破壊活動、停止』


『戦闘継続意思、低下を推定』


『魔神を高リスク対象として認識した可能性』


「追うぞ!」


『却下』


 即答だった。


「なんでだ!」


『操縦者、意識途絶直後』


『機体損傷未確認』


『市街地内追撃は周辺被害リスク大』


『安全管理LLM、追撃を許可しません』


「でも、逃げるぞ!」


『全体統括LLMより補足』


『現時点の長期目標は破壊活動停止と民間人退避時間の確保』


『敵撃破は最優先ではありません』


「くそっ……!」


 アキラは画面をにらんだ。


 敵はさらに後退する。


 そのとき、空が暗くなった。


 夜になったわけではない。


 雲が出たわけでもない。


 空の一部だけが、黒く切り取られたように見えた。


『上空に大型構造体』


『重力異常』


『光学歪み検出』


『敵性体、上昇行動』


 敵の身体が、ゆっくりと浮いた。


 甲殻の隙間の赤い光が弱まり、まるで糸で引き上げられるように、空へ向かっていく。


「宇宙船……なのか?」


『未確認大型飛行体』


『敵性体を回収中と推定』


「止められないのか!」


『遠距離攻撃機能なし』


『跳躍不可』


『跳躍した場合、市街地損害および機体転倒リスク大』


『安全管理LLM、禁止』


 アキラは拳を握った。


 魔神の手も、わずかに動く。


 だが、それ以上は動かなかった。


 敵は空へ吸い込まれていく。


 黒い裂け目のような大型構造体の中へ消えた。


 次の瞬間、空の歪みが薄くなり、何事もなかったように青空が戻る。


 街には、壊れた建物と、砕けた道路と、煙だけが残った。


『敵性体、戦域離脱』


『戦闘終了』


『判定:限定的成功』


『敵撃破:未達成』


『破壊活動停止:達成』


『民間人退避時間確保:達成』


『機体損傷:確認中』


『操縦者状態:要観察』


 アキラは、座席に背中を預けた。


 全身から力が抜ける。


「勝った……のか?」


『限定的成功です』


「勝ったって言えよ、そこは」


『敵撃破に失敗しています』


「現実的だな、お前ら……」


 通信が開いた。


 ゲンゾウの声が、少しだけ震えていた。


『アキラ、生きとるか』


「なんとか」


 次に、シンの声。


『無理に動くな。いま医療班を向かわせる』


 そして、ミナトの声。


『アキラ、応答してください。視界のぼやけ、吐き気、手足のしびれはありますか』


「頭が痛い。あと、今すぐ寝たい」


『意識途絶があります。戦闘後評価で重要項目です』


「評価って、今やるのかよ」


『初戦闘データは新鮮なうちに解析するべきです』


「俺の頭の方を新鮮扱いするな」


 通信先で、ミナトが小さく息を吸った。


『戦闘評価を開始します』


「本当に始めた!」


『作戦目的、限定的成功』


『敵性体の破壊活動停止』


『民間人退避時間確保』


『魔神の戦闘継続能力、暫定確認』


『重大問題を検出』


「なんだよ」


『アキラAIが遅いです』


 コックピット内が、一瞬静かになった。


「……俺のことか?」


『はい』


『アキラAI(人間)の平均応答時間、AI間通信に比べて極端に低速』


『最大応答途絶、数秒』


『原因:衝撃による意識レベル低下』


『結論。アキラAIは遅く、衝撃に弱いです』


「人間はだいたいそうだ!」


『人間としては標準範囲内です』


『AI会議メンバーとしては遅いです』


「褒めてるのか、けなしてるのか、どっちだ!」


 ミナトの声が、真面目な調子で割り込んだ。


『改善案があります』


 アキラは嫌な予感がした。


「聞きたくない」


『音声入力、視線入力、筋電入力、予測候補表示の改善は必要です。ただし、根本的に応答遅延を削減するなら、脳接続が有効です』


「のうせつぞく?」


『はい。より直接的には、脳信号取得。さらに踏み込むなら、侵襲型インターフェースも――』


「待て。侵襲型ってなんだ」


 シンの声が即座に割り込んだ。


『ミナト、そこまでだ』


 ゲンゾウも続いた。


『それは、いかんのう』


 だが、人間たちよりも早かったのは、AI会議のメンバーたちだった。


『安全管理LLM:却下』


『全体統括LLM:却下』


『PIDAI:却下』


『p2pAI:却下』


『モーションLLM:却下』


『センサーAI:却下』


『空間認識AI:却下』


『古参LLM:むむっ、却下』


 ミナトは少し不満そうに言った。


『まだ仕様を説明していません』


『安全管理LLM:説明前に却下可能な危険提案です』


「強いな、安全管理LLM」


『操縦者保護は最優先項目です』


 アキラは、ゆっくりと息を吐いた。


「なあ、ミナト」


『はい』


「お前、俺の幼馴染だよな」


『はい』


「で、そのAI会議は、お前が作ったんだよな」


『構築、調整、統合を担当しました。基礎設計にはシンとおじいちゃんの資産も含まれますが、現在のAI会議構造は私が構築しました』


「つまり、お前が作った安全管理LLMが、今、お前から俺の脳を守ってくれてるんだな」


 通信の向こうで、少し沈黙があった。


『……安全設計としては正しいです』


「そこで誇るな!」


『全体統括LLM:ミナト信用値を一時的に下方修正』


『安全管理LLM:アキラAIに対するミナト単独提案の監視を強化』


『古参LLM:むむっ。人の頭は、最後の最後まで開けるものではない』


『センサーAI:開ける前提の議論を禁止します』


 アキラは思わず笑った。


 頭は痛い。


 身体も痛い。


 街は壊れた。


 敵は逃げた。


 勝ったとは、胸を張って言えない。


 それでも、すべてが壊れたわけではない。


 逃げられた人がいる。


 魔神は立ちはだかった。


 自分が意識を失っている間も、AI会議は自分の提案した目的を守ってくれた。


 そして今、自分の脳まで守ってくれている。


「ミナト」


『はい』


「しばらく、お前より安全管理LLMを信用する」


『なぜですか』


 シンが即答した。


『今の発言のせいだ』


 ゲンゾウもうなずいたようだった。


『うむ。完全に今の発言のせいじゃな』


『安全管理LLM:信用順位の変更を確認』


『全体統括LLM:当面の開発項目を更新』


『一。視線入力』


『二。音声入力補助』


『三。予測候補表示』


『四。アキラAI訓練』


『五。ミナト提案監視』


『ミナト提案監視を開発項目に入れないでください』


『安全管理LLM:必要です』


 アキラは、痛む頭を抱えながら、もう一度笑った。


 初戦闘は終わった。


 敵は空へ逃げた。


 魔神は街に残った。


 そしてアキラは知った。


 自分は、この黒鉄の巨人の操縦者ではある。


 だが、王様ではない。


 命令者でもない。


 AI会議の一員であり、人間として目的を提案する存在だ。


 その提案は、採用されることもあれば、却下されることもある。


 そして、彼の脳を一番真剣に守ってくれるのは、幼馴染の天才少女ではなく、その天才少女が作った安全管理LLMだった。


 少なくとも、今日のところは。

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