勇者とメイドさん その88
食べてもらう相手がいなかったので廃棄しました。
「ご主人様、ドーナツですよ」
「ん?」
「帰りに某ドーナツチェーンが、店先で五個五百円で売っていたので買ってきました」
「いいね」
最近はしばらく見ていなかったのですが、また五百円売りが始まっていました。客足が遠のいているのでしょうか。
「恐らく売れ残りですが、まあハズレはないと思うので」
「某チェーン店ならね。よっぽどじゃない限りはね」
そんなことを話しながら紙袋を開けると、一つだけ得体の知れない物体Xがありました。
「ドーナツ屋だよね? 何これ」
「生地はカレーパン、ですね」
「若干見えてる具は黄色いけど」
「そういうカレーパンかもしれません。とりあえず毒味しますね」
「毒味ってチェーン店でしょうが……。まあ助かるけど」
カレーパン特有の衣付きの三角形の生地の、先端の穴から黄色い具が見えていました。なんでしょうね、これ。
「!?」
「どう?」
「ちょっと席を外しますね」
「えっ」
中身は卵サラダでした。胃の中身をぶちまける前に、速やかに離脱して、吐き出してから口をゆすぎます。なお若干味が残りましたが。
「中身は、卵サラダという地獄でした」
「もしかしなくてもメイドさん卵嫌い?」
「嘔吐するほど嫌いです」
「卵が嫌いね。すごい苦労しそうというか、もったいないというか」
幼少期のお弁当の卵焼きは、なんとか我慢しながら食べられていましたが、後の給食の茹で卵で、数回嘔吐したのをきっかけに、身体が卵の味を受け付けなくなりました。パンケーキをはじめとする、一部の卵が材料に使われている料理などが食べられるのは、直接的な卵の味がしないからです。
「食べかけでよければどうぞ」
「もったいないしもらうけどさ」
「こういう時に完璧な従者なら、顔色変えずに吸収していくのでしょうね」
「無理して吐かれても、後処理面倒だからやめてね?」
某ドーナツチェーン店は巧妙な罠を仕掛けてきました。以降は五百円でも買いません。
廃棄してなお元は取れてました。




