勇者とメイドさん その85
経験はない。
「ということで、約一ヶ月育てた竹を回収しますよー」
「そんなこともありましたね」
「メイドさんすっかり受け入れちゃってるじゃん」
「穴から生える竹は風景の一部と化していましたからね」
一ヶ月前にわざわざ穴を掘ってまで育てた竹を、頃合を見計らっての回収。そのために何人か招待もしたし。
「で、この竹は何に使われるのですか?」
「流しそうめん」
「流すのですか?」
「流すよ?」
切り倒した竹は、流しそうめんの流すやつに加工して、組み立て。穴の底の竹の根元には除草剤つめておいた。根を放っておくと面倒なことになるらしいから、後始末もしっかり。
「不安な点は手を加えず自生していた植物に、直で食べ物を流して大丈夫ですか?」
「そこはほら、魔術が全部解決してくれたから……」
「まあご主人様が大丈夫と言うのなら」
魔術でしっかり対応したけど、無処理の竹ってとか虫害とかあるのかしら。そうこうしてる内に、招待客がぞろぞろとやって来た。
「この竹は一体なんでしょう」
「ここにそうめん流すとか、聞いたことがあるけど」
到着した聖女様の疑問に答えたのが、すぐ後から来た剣聖の息子。あの執念のハーレムは撒いてこれたのだろうか。
「当たり。メイドさん、そうめんあるよね?」
「そろそろ来ると思っていました。なので、茹でて冷やしたものがこちらになります」
「……ねぇ、前々から疑問だったけど、メイドさんの懐どんな構造してるのよ」
「えっちなことを聞かれても困ります。従者ですが黙秘権を行使します」
「えっちな要素何一つないよね?」
いつものように懐から茹でたそうめんが。いや、なんで既に茹でてあるのが出てくるの? なんで茹で終わってるのか、とかはこの際どうでもいいから、メイドさんの懐の構造を知りたい。と、そこに戦士と僧侶も。
「なーるほど、そうめんねぇ」
「夏っぽいですね」
「二人ともいらっしゃい。久しぶりだね」
「おう、お前も元気そうでなによりだ」
「お久しぶりです」
仲良さそうに手なんか繋いじゃって。魔法使い同様、終わって以降会ってなかったから、その姿を見れて正直嬉しい。
「仲良さげなとこ悪いが、私を忘れてもらっちゃ困るね!」
「魔法使いのやつも呼ばれてたか」
「お久しぶりです。こんなところで、前の仲間とまた一堂に会せるとは思ってませんでした」
「忘れるわけないじゃーん。ちゃんと呼んだしね」
「そういう訳だからさ、執事クン。私の従者として、諸々を頼んだよ」
「は、はい……」
魔法使いは執事を伴って来た。丸投げされて可哀想。そんなこんなで、真夏の屋外流しそうめんが始まった。
一一一一
<聖女様と息子>
「そうめんを流すだけです。流すだけなのに、こうも感覚が違うのはすごいですね」
「清涼感があるだけで特に意味はなさそうだけど」
最初は二人で話していた。二人だったはず。
「はい、剣聖の息子様♡ あーん」
「!?」
「ちょっと! なに抜け駆けしてるのよ! あーんして仲睦まじく暮らすのは私よ!」
「そうよ! やっと追いついたんだから! あーんして息子くんに食べてもらうのは私なんだから!」
「あら、意外と早かったわね。しかし私も、この程度で引く訳にはいきませんわ。あーんをして、死んでなお永遠に寄り添うのはこの私ですわ!」
息子の居場所を嗅ぎつけて乱入してきた、息子ハーレムの方々はそんなことを言い合いながら、場外乱闘に発展していた。何やってんの。オロオロする聖女様とは対照的に、剣聖の息子はその様子を見ながらげんなりしていた。
<勇者のとこ>
「でな、もう僧侶のそういうとこが、可愛いのなんの」
「や、やめてください。恥ずかしい」
「いやー、人の恋バナ聞くのはいいね。戦士グッジョブ!」
「やれやれー、戦士もっとやれー! 恥ずか死させてやれー! あと執事クン! ついでにもっとそうめんもやれー!」
「……」
主に戦士のノロケだった。満足したからいいけど。魔法使いの定期的な催促のおかげか、そうめんも十分に食べれたし。
<従者のとこ>
「え、それは一体何ですか……」
「何って、二人のデュラハンですが」
「いや! それは見ればわかるよ!? なんで勇者宅にデュラハンいるんですか!?」
「ちょうど通りかかったもので、せっかくだからと呼び止めてみました」
「この人頭おかしい」
メイドさんは何やら二人のデュラハンに、そうめんをツユにつけては鎧の中に入れていた。心なしか楽しそうだし、まあいっか。
一一一一
「日も暮れてきたし、そろそろお開きの時間だ。けど、またいつでもおいでね。歓迎するからねー」
「じゃ、気が向いたら行くからな」
「ええ」
「退屈したらまた来るから」
「本日はありがとうございました」
剣聖の息子は途中でハーレムに回収されたのか、最後には姿が見えなかった。大丈夫かな。
その日の夕飯はとんかつだった。
いつも流さないやつです。




