勇者とメイドさん その81
天敵。
「先月はまだまだだったけど、もうセミの季節だね」
「セミは……嫌いです」
「うるさいからね」
「いえ、死んだフリしている方です」
「ああ、そっちね」
先月は七月だというのに雨の日も多く、セミも泣いていなかったが、後半から今月でセミが出没し始めている模様。
「耳障りなのもありますが、死んだフリして落ちているセミの近くを通る時、突然動き出すのが怖くて怖くて」
「虫全般が大丈夫な人とは思えない反応」
「虫に触れても、蜂が怖いのと同じですよ」
「セミは脅威ではなくない?」
メイドさん曰くセミは脅威らしい。歩いていると突然ぶつかってくるのだとか。少し痛いらしい。
「あ……」
「ちょうどいいとこにセミが落ちてる」
「迂回しますか?」
「しないよ?」
噂をすればというやつか、道の端にセミが。この暑い中時間をかけるのも嫌なので、先に通って大丈夫だからと、メイドさんを促す。ただ俺だけ先に行ったからか渋い顔をしてる。
「ええ、知っていますよ。これは私の時に再起動するのですよね?」
「しないからおいで」
「……(恐る恐る」
《びびびびびっ》
「ひうっ!?」
瞬間メイドさんの予期していた通りに。そうして空中を旋回するセミから、一目散に逃げるように俺の影に。
「怖がりすぎでしょ」
「ええ、あれは全人類の敵ですらか。殲滅されて当然です」
「動揺しすぎでしょ。何言ってんの」
そんなメイドさんは、親の仇でも見るようにセミを見ていた。
その日の夕飯はカレーうどんだった。
全人類の敵。




