勇者とメイドさん その78
生きる意味とは。
「こんな夜遅くにどうかしましたか?」
「いや、ちょっとね」
「……」
一日の終わりに、自室で記録をつけているとご主人様が。そして当たり前のように、私のベッドを占領してしまいました。
「人ってなんで生きてるのかなって」
「生きる意味ですか。……意味も理由もないと思います。生きていること、それが当たり前なのですから」
「だって人間の定めた規則や規範に基づいて過ごしてるけど、その基準でしか何も変わらないし、測れないじゃん」
「それは言い始めたら止まらないやつですよ。全てにおいて言えることですし。私たちに出来ることは、大人しくその常識を受け入れて、波風を立てずに生きるくらいです」
「ふぅん」
相槌をうちながらも、ご主人様はまだ納得いってないという表情。そして布団に潜ってしまいました。
「そうですね、じゃあこういうのはどうでしょう。『生きる理由なんてそんなもの、難しく考えることは無い。人は幸せになるために、生まれてくるのだから』」
「なにそれ」
「とある歌の一節です。常識の外の理屈やらで考えるのではなく、ただ幸せを求めて生きている。それでいいじゃないですか。ご主人様にとっての幸せは何ですか?」
「幸せねえ。もう既に手に入ってるけどね」
「ではご主人様は、その幸せを手放さないために生きるのが良さそうですね」
「幸せを手放さない、ね。……おいで」
ご主人様が布団に潜ったまま、手だけ出して手招きをしています。ここは行かないと終わらなさそうですね。そうして不用意に近づいたところ、上半身だけ布団に引きずり込まれてしまいました。真っ暗です。
「こう見えてすごい感謝してるの。いつもメイドさんが隣にいることに救われてるの。だからこれからも一緒にいてくれる? メイドさんが大切だからこそ、嫌なら無理強いは……しないけどね」
「ご主人様はいい人ですね。自らの幸せに繋がらないとしても、それを投げ出してでも、大切な唯一を想えるというのは。自分本位な私には、そんなことはできません。そんなあなただからこそ、こうして隣に立ち続けているのですよ。それにご主人様は気づいていないみたいですが、今の生活は刺激があって、緩やかで、前より好きですから。それに……」
「いつも無表情だからわかりにくいんだよね。もっと嬉しそうにして?」
「感情に左右されると、仕事に支障が出るかもしれないので、基本的には控えるようにしています」
「じゃ、しょうがないか」
せっかくです。ご主人様の輪郭を指でなぞると、恥ずかしそうに目を逸らしました。たまのご褒美ってやつですね。
「そういうメイドさんが生きるのは何かあるの?」
「私が生きているのは、死が怖いからですね。苦しいのか、痛いのか、死んだ後で私が私である、今あるこの意識はどうなるのか。肉体に付随しているだけなので、意識なんて消える一択なのでしょうけど。それが怖いのですよね」
「死が怖い、ね」
二ヶ月前にやったアレはもうやらない『かも』。




