身内からの意見
実は弟がいました。
「おや、ご主人様の出払っている休日に客人とは珍しいですね」
ちょうど勇者の出かけている休日、家に何やら一人の訪問者が。少し覗いてみよう。
「突然の訪問については申し訳ございません。私は、かの勇者様の弟です」
「弟様でしたか。残念ながら現在、ご主人様は外出していますので、また日を改めて」
「いえ、あえて不在の今を狙ってきたので、そこは大丈夫です。いくらか話を聞かせていただきたいと思いまして、こうして足を運びました」
「?」
何やら訳ありのようだが、メイドさんは弟を招き入れることに。何を考えているのだろう。
「まあなんということもないんです。今回はお礼、現状の把握、自覚があるかを確認しにきただけですから」
「お礼ですか?」
「はい。あなたもご存知でしょうが、兄さんは旅の後で心身に異常こそ無かったものの、すごく疲弊していました。時々あなたと笑顔で外出している姿を見かけますが、陰りの欠片も見えないほどに回復していたので、そのことについて感謝しています。その陰りはあまりにも深く、僕の言葉も届かなかったので……」
「そこまで深刻でしたか」
「ええ、兄さんは負の感情はあまり表に出さない人なので」
旅を終えて一年くらい経った状態でのスタートのため、描写こそない。完全に後付け設定ではあるが、まあそうだったらしい。よくあるとこではあるから、まあ察してね。
「ほんと活き活きしているのを見れて、すごい安心しました。最近何か変わったことはありましたか」
「変わったこと……そうですね、ご主人様はいつも人より一コズレているので、何が変わったことかはわかりかねます」
「広告のメインの宣伝より、後ろのどうでもいいとこを気にしたりするような、昔からそういう人でしたから。それで大丈夫」
「大丈夫なんですかね」
これも個性。人と違ってもいいじゃない。みんな違ってみんないい。十人十色とも言うしね。
「そしてこれが重要なんだけど、あなたは今の自分の置かれている状況をどう考えていますか?」
「ご主人様に仕える従者ですが」
「うーん、兄さんの気持ちについては?」
「なんとなくではありますが、把握しています」
「……それでその認識なのは甘いです。兄さんは国一つ傾けるくらい、容易にこなしてみせる力を持っていますから」
「ハンドボールで岩を砕いていましたからね」
「力の全貌までは把握してませんね」
メイドさんは一緒に暮らしてはいるが、お互いにわからないところもあるようだ。知ってる範囲なら、このくらいでも仕方ないかな。
「あなたはただの従者ではありませんよ。もしあなたが姿を消すようなことがあれば、この世界は滅ぶでしょう。つまるところ、この世界の核と言っても過言ではありません」
「何を馬鹿なことを言うのですか……。私が消えただけで世界が滅ぶなど」
「この予想は限りなく確信に近いはずですよ。兄を勇者ではなく、よく知る家族として見てきた一人の意見です。幼くして勇者としての才能が発現してからは、周囲からは勇者としてしか求められず、一個人として見られることを欲していました。兄が毎年クリスマスに願ったことは何だと思いますか?」
「愛ですか?」
「半分正解ですね。愛されることではありますが、特定の一人から。つまり『家族以外で勇者として見ることなく、愛してくれる人』を願っていたんです。自分に都合のいい人を生み出して欲しいと願うなど、正気ではありません」
「……」
「兄さんに聞けば、『家族からの愛は嬉しいけど、他にも友達とか恋人とか。自分を勇者として見ない人との関係が持ちたい。大切にするし、それこそ命だってかけれる。勇者だからこそ持つ力とか、普通の人から羨ましがられるような部分もあるけど、同時に普通の人が持ってる物もたくさん失ったから』と。泣きながらそう話したんです」
「……」
「勇者として尊敬の眼差しを向けることなく、常に対等に接しているあなたは、兄さんの理想なんです。それまで許されなかった、一個人ですら簡単に得られる理想。手放すことになれば、勇者として絶望で塗りつぶされることでしょう」
「しかしご主人様は仮にも勇者ですよ。救った世界を滅ぼすなど」
「それだけあなたに出会うまで参っていたんです。出会わなければ、失意に沈んだまま、今のような爆弾みたいになることはなかったと思います。一度手に入れた幸せ、手放すことなど……」
「……」
そこまで言って勇者の弟は立ち上がり、出口に向かう。
「まあ伝えることは伝えました。この話を聞いて、どう行動するかもあなた次第です。今日は兄さんのことを知りに来ただけであって……いや、兄さんの幸せを願って来たので、話を聞いても変わらず良くなることを期待しています」
「……」
この連載の方針として重い話にはなりません。と都度書いているので、それは変わりません。鬱展開はもってのほかですが、こういう話があった。メイドさんは把握した上で、この先進んでいくということくらいは、頭の隅に置いておいていただければ。
この巨大な爆弾はもう処理できない大きさですよ。




