勇者とメイドさん その56
家族がキャッチボールしながら語り合うのは定番。
「メイドさん、キャッチボールしよ?」
「はい。そろそろ来ると思っていたので、ボールはここに」
「じゃ行こっか」
唐突にご主人様とのキャッチボールが始まることに。どんな風の吹き回しなのでしょうね。
「……メイドさんのボール上に飛びすぎじゃない?」
「自慢ではないですが学生の頃の体力測定では、ハンドボール投げの記録は6mでした」
「平均は?」
「約14.5mですね」
「……」
あまりのポンコツさにご主人様は閉口してしまいました。欠点くらい誰しもひとつくらいは、持ってるのが普通と思いますけどね。
「運動はからきしなせいで、体育授業ではクラスに気を使わせてしまったのも、今となってはいい思い出です」
「今の比較的丈夫なメイドさんからは想像つかないね」
「運動能力……一応護身術も、ある程度は齧るまでしてあるので。球技能力だけはどうにもなりませんでしたが」
「筋金入りってわけね」
ボールを飛ばしながらだと、謎に会話が弾み……弾んでるのですかね、これ。
「そういうご主人様は綺麗なフォームですね」
「使えるものは何でも使おう精神でね……そこらの小石でも武器になるように、自然と洗練されてったんだと思う。意識してやってる覚えはないから」
「魔王を倒す前に懐事情が厳しかったのですか?」
「スリングショットとか弓とかの消耗品武器は論外だったね。武器は最低限、少ない収入はだいたい食費に回るから……」
「まあ旅となると、収入も限られてきますから。支援などは」
「ない」
敵が金貨を落とす訳もなく、人間の盗賊の方が一定の金銭をもらえるため、よっぽど良かったのだとか。勇者が慈善事業じみてるあたり、世知辛い世の中ですね。そして終わって一転、この歓待ぶりとは。現金なものですね。
「最後にご主人様の本気の一投を、見せていただいてもよろしいですか?」
「いいよ。どうせソフトボールじゃ大した火力にはならないだろうし」
(自然に火力って言葉が口から出てくるのもどうなのでしょ)
ご主人様が放ったボールは近くの岩石を破壊し、直後ボールは跡形もなく消し飛びました。
「小石程度が武器になるのも納得ですね」
「でしょ?」
あまり語ることのない、ご主人様の壮絶な過去の一端を垣間見ることができました。
球技は苦手。




