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濡れ衣ヒドインですが、ラスボスに執着されています  作者: 紗雪ロカ


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7/11

7.だってわたしは

 お互いにしばらく目線を外さなかったが、先にフッと笑ったのは向こうだった。


「……まぁ、キミにもキミの信念があるというのは分かりました。否定はしませんよ」

「う、えと」


 そこでいまさら不安になる。利用価値がないと放り出されたらどうしよう。

 だが彼はイノリの肩を掴むと、実験器具の方へ向き直らせた。腕を広げながらこんなことを言う。


「ではやってごらんなさい。私はそれを助言し見守りましょう」

「!」


 意外な言葉に振り仰ぐと、相変わらずの悪役スマイルにかち合った。


「そして成果が出たところで横からかすめ取ります」

「あなたって人は……」


 ダメだ、少しは心に響くかと思ったのに何も伝わっていない。

 ハァとため息をついたイノリだったが、いっそ呆れて笑いがこみ上げてしまった。そこでふと思う。


(なんとかこの人を矯正して、手綱を取れるようにならないかな?)


 それはゲームの本筋からは逸れるかもしれない。けれどもそうすればみんな幸せになれる気がした。


(そうだ、ネクロス・ルードをラスボスになんかさせない、危険な黒幕思考から真人間に戻してみせる!)


 そんな決意を抱いたイノリは彼に向き直る。拳を握りしめると馬鹿正直にこう宣言した。


「先生! わたし、あなたを更生させてみせます! そんな悪いことなんか考えられないくらい、振り回してみせますからっ」

「ほう? 大きく出ましたね」


 ネクロスは見下すように高い位置から見下ろして来る。けれどもイノリは挑みかかるようにキラキラと笑ってみせた。


「だってわたしはヒロインですから!」


 彼はその返しに目元をピクリと引きつらせる。それもお構いなしに、進むべき方向を定めた転生者はやる気十分に腕まくりをした。


「それじゃあさっそく光魔法について調べてみますね。先生、助言してくれるって言いましたよね? これってどうしてわたしにしか使えないんだと思います?」


 手をかざして空中にポワッとルチェを発動させてみる。暗い室内で眩しそうに目を眇めた彼は、顎に手をやりながらこう答えた。


「ふむ、昨日のイノリ君の話から仮説を立てると『ヒロイン補正』というやつでしょうか。キミという主人公に特別感を持たせるためのスパイス……光の魔力自体がキミにしか生成できないのかもしれません」

「じゃあ、わたしの魔力をどこかに取っておけば、別の誰かでも使えたりするのかな……?」


 何気なく呟いた言葉に、ネクロスは何かを閃いたかのように動きを止め、にんまりと口の端を上げる。

 そこらへんをゴソゴソ漁っていたかと思うと、何かの水差しに入った液体を取り出した。次に理科の実験で使うようなガラスのシャーレをイノリの前に置くと、水差しからほのかに光るその液体をとぽとぽと注ぐ。


「いいことを思いつきました。これは私が前々から実験をしている魔力の培養体なのですが、ここにキミの魔力を注いでみてくれませんか?」

「え、培養ってことは……」

「ハイ! 光の魔力を複製して増やしてみましょう」


 まだ実験段階だが、ネクロス本人の魔力を増幅させることには成功したそうだ。

 ウキウキとしながら、この培養体の可能性を語る彼はこう続ける。


「これは私の実験の中でもとっておきです。治癒の原理を解析して上手くいけば、先ほども言った“癒やし殺し”の劇薬も作れますし」

「薄めて量産型のポーションにしましょ……」

「解呪を分析して、“呪いの解除”を盾に脅すとか」

「厄払いの魔除けとかの方向性になんとか……」

「光を出す魔法で王都のインフラを掌握した後に、一気にブラックアウトさせるとか!」

「ことごとく物騒!」


 ついツッコミを入れるが、最後の活用法にあれ? と、首を傾げる。


「明かりを普及させるのは普通に便利そうですけど、意図的に消せるんですか?」

「ほう、そこに気づくとはなかなかに鋭い。そう、それがこの培養実験の面白いところです」


 シャーレを持ち上げたネクロスは、それをゆるやかに揺すりながら説明を続けた。


「ここで複製するのは、あくまでもイノリ君の魔力のコピー。つまり権限はキミにあり、気分一つで複製先のパワーをも全て失わせることができます。悪用が気に食わなければ止めてしまえばいい」


 それを聞いて、胡散臭げだったイノリの表情が少し変わる。


「それって……とんでもない発明じゃないですか」

「そこが欠点でもあったのですが、こうしてキミへの交渉材料にもなりました。何事も一長一短ですねェ」


 これまではどこにでもある自分の魔力を増やしてもしょうがないだけだったが、リーシャ(ヒロイン)製の光魔法を広げられるのなら魔法の可能性が一気に広がるという。


「すごい……すごいじゃないですか先生!」

「実験に協力してくれる気になりました?」

「う……それはもうちょっと詳しい話を聞いてからで」


 もしかしたらリーシャの光魔法を、もっと広く有効活用できるかもしれない。そう考えただけでワクワクしてきた。


「わかりました。そういう事なら付き合います、試してみましょう!」

『ピッちゃぁ!』


 兎にも角にも、今の自分は『クソビッチヒドイン』の中に放り込まれている。抜け出したところで帰る身体は風呂で溺れ、すでに火葬された後だろう。


 転生は覆せない。ならばこの身体で生きていくため、少しでも世の中に貢献して名誉を回復しなければ!

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