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濡れ衣ヒドインですが、ラスボスに執着されています  作者: 紗雪ロカ


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5.秘密の研究所

 この世界に来て、ようやくリーシャではなく『自分』を見てくれた気がして心がほわりと浮く。

 魂の迷い子は胸元を握りながらおそるおそる名乗った。


「いのり……新山いのり、です」

「ふむ。ではイノリ君、出なさい」


 ネクロスは鉄格子に付けられた錠前に鍵を差し込んで開ける。エスコートするように手を差し出され、自然と手を乗せてしまう――が、反対の手で何かを渡されヒクリと顔を引きつらせた。


「あの、これは?」

「タテマエ上、キミは私の実験動物モルモットですからね。従属の証ですよ」

「うっわ……」


 いい笑顔で言われ、思わずドン引きするのも無理はなかった。両手でつまんだそれは、黒い皮で出来た『頑丈な首輪』だったのだ。ご丁寧に魔法で出来たリードが伸びていてネクロスの手に繋がれている。


「ちょっ……取り引きしたじゃないですか! 偽装にしても外せるんですよね、これ?」

「おや、そろそろ警備兵が来そうですよ」

「ごまかした! 絶対呪われてるこれ!!」


 そこまで言って、『呪い』という単語にピンと来る。意識を集中させたイノリはゲームでも使われていた呪文を発動させてみた。


「――『解呪(アンティア)』」

「なっ……」


 光に包まれた首輪は、その形を変え黒いチョーカーに変化した。リードはそのまま伸びているが、外せない呪いの装備では無くなったようだ。


「これならまぁ……、普通に着ければいいんですよね?」

「……なるほど、光の属性」


 渋い表情をしていたネクロスだが、その瞳は爛々と嫌な輝きを放っていた。思わずぞくりとするが、次の瞬間にはもうおどけた仮面をかぶりなおして言われる。


「結ーっ構ですよ、兵士の前を通り過ぎるときは是非とも悲壮な顔つきでお願いしますね。えぇそれはもう、この世の終わりのような、憐れっぽく! みじめさあふれる感じで!」

「うっ、ぐ」

『ヂィッ!!』


 グイグイと頭を押し込まれるようにして俯かされる。肩に乗った白ハムが怒ってくれるが、確かにそのようにしていた方がいいだろう。


(わたしは大罪人の奴隷、これから悲惨な実験をされる……)


 地下牢から移送される最中、イノリは髪で顔を覆い隠しながら力なく歩いていった。屈辱だが仕方あるまい。


「これから楽しくなりそうですねェ!」

(ぜっっったいに楽しんでる!!)



 そして連れて来られたのは、城からは少し離れた位置にある北の塔――まさに件の『隠し研究所』だった。


「バレている以上、人目を避けるのはここがうってつけでしょう」

「わぁ……!」


 ゲームの中でも重要な場所に実際行くというのは、どうしてもテンションが上がる。

 だが、ガコンと壁が動いて見えてきた部屋の様子に、イノリは思わず一歩引いた。


「うっ!?」

「さぁーどうぞ、ちょっとばかり散らかっていますが、蹴りながら進めば大丈夫でしょう」


 全体的にシックな色合いでまとめた落ち着いた部屋……なのだが、至る所に物が積み上げられている。主に本、本、雑多な物が詰め込まれた箱を挟んで、また本。


「こちらはお手伝いさんに掃除に入って貰うわけにはいきませんから」


 砕氷船よろしく突き進んでいくネクロスの後に続き、おっかなびっくり進んでいく。

 近くの木箱から何かの触手がはみ出しているのを見て悲鳴を上げるハプニングはあったが、なんとか向かい合わせのソファにたどり着くことができた。ヤバい色のお茶を出されたので、普通の紅茶を自分で煎れなおす。改めて話し合うのに、だいぶ時間が掛かってしまった。


「さてイノリ君、詳しくキミの言い分を聞かせて貰いましょうか」

「はい……」


 どこまで伝わるかは分からないが、イノリは素直に自分の状況を分かる範囲で打ち明けた。


 自分は、こことは異なる「日本」という世界から転生してきたこと。

 そこでは、この世界を「ゲーム」としてプレイできたこと。


「そのゲーム……というのがイマイチ分かりませんね。つまりあなたはこの世界がそちらから見えていた? 本を読むように?」

「だいたいそんな感じです。プレイヤー……読み手が選択するたびに道筋がちょっとずつ違うんですが……」


 それでも「主人公」のリーシャは、どのルートでもこんなことはしなかったと言うことを伝える。

 ふぅむと考えこむ仕草を見せたネクロスは、ニコリと笑うとこう返してきた。


「実に荒唐無稽――ですがいいでしょう。だいたい理解しました。それで、キミはどうしたいのですか?」

「え?」

「その言い分を信じるのならば、クソビッチなキャラ崩壊を起こした『偽リーシャ』を探し出して、生け贄にされた復讐をしたいのですか?」


 ふくしゅう。と、口の中で転がしてみる。それは平和な日本で生きてきたイノリにとってあまりにも馴染みのない響きだった。苦笑いしながら頬を掻く。


「いえ、そこまでは。ただ本人の口から自白して貰って、わたしの無実は証明したいだけです」

「ほう、そう上手く行きますかねェ? 私が犯人だったら、罪を押し付けてさっさとトンズラしている頃ですが」

「あっ!?」


 確かにそうだ。ギクリとしたイノリをよそに、思考を巡らせる黒幕はこう意見を述べる。


「あぁでも、それだけ性格が悪いなら割に間近で監視している可能性も……?」

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