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濡れ衣ヒドインですが、ラスボスに執着されています  作者: 紗雪ロカ


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20/21

20.ネズミの寿命って

 決定的なネタばれをされそうになり、イノリは焦る。だが黒幕はどうにも納得がいかなそうに叫び続けていた。


『なんでネクロスがリーシャの味方なんかしてるのよ!! あたしには靡かなかったクセに!』

「なんで? ふむ…………」


 やはりネクロスも攻略しようとしていたのか。なんとも言えないイノリを横に、思い当たったようにパッと笑った魔王は残酷に切り捨てた。


「ああそうか、一言で言ってしまえば、あなたに魅力を何も感じないからですね。私と同類すぎるんですよ」

『……はっ?』


 まさかの同類宣言に、黒幕はピシリと固まった。それにズイと迫ったネクロスは、口をガパァと開けて抑えた声でこう続ける。


「汚すなら綺麗な方がいい。彼女は私が堕とすんです、人のオモチャに手を出さないで頂けますか?」


 思わずぞくっとするほどの迫力だったが、ある程度予想できていたイノリは、どこか遠い目をしていた。


(壊される前提とか、嫌な執着のされ方だなぁ……)


 乙女ゲームの『執着』って、もっと甘いものじゃないだろうか。いや、今さら彼にそんなもの期待しないが。

 そんな悟りをよそに、黒幕はあいかわらずキーキー叫んでいた。


『なんでアンタがあの魔導書のことを知ってるのよ!! 陰険者! だってあれはっ、ゲームには出てこない、あたしが市場で密かに見つけた――』

「ああ、その件ですか?」


 白ハムをつまんだまま、落ちている魔導書の元へ歩いたネクロスはそれをひょいと持ち上げた。慣れた様子で下向きのままバクンと閉じる。


「だってこれ書いたの、私ですから」

『は……?』


 そのまま返すと、巻末の方から片手で器用に開け、パラパラと捲っていく。


「残念でしたねェ、えー……『カタギリ レナ』さん?」

『な、なんでその名前……』


 どうやらレナというらしい黒幕に見せつけるように、彼は魔導書を立ててみせた。何か呪文のような物を呟くと白紙だったページに文字が端々から現われていく。

 言葉を失うカタギリレナに対して、ニヤリと笑ったラスボスはこう言ってのけた。


「こういう事態に備えて、履歴は残る仕様でしてね。これで全部明るみに出るでしょう。ご愁傷様でした」

『……』

「リーシャの身体はこのままイノリ君に使わせるとして――ネズミの寿命って2年くらいでしたっけ?」

『……い、イヤッ、イヤぁッ!!』


 完全に詰んだと気付いたのか、レナは顔面蒼白になると大人しくなってしまった。



 そうして、栄誉の授与式は、影の黒幕の捕縛劇として幕を閉じたのだった。


 ***


 会場の混乱をひとまず治め、公爵家の面々と共に王室に招かれたイノリは陛下たちに一から説明するはめになった。


「なんとまぁ、卑劣な人物も居たものよ……」


 魔導書の発動履歴を確認し、王太子たちを誑かしていたのは「片桐麗奈」なる人物であったことを証明。現在、リーシャに入っているのは「新山いのり」という別人である事を信じて貰えた。


 ――そう、その麗奈に確認したところ、彼女はやはり日本から転生してきたオタクだった。

 ゲームにも無い逆ハーを目指していたが、カタリーナが告発の準備をしているのを知り、危機を感じたところで入れ替わりの魔導書を入手したらしい。


『まさか、新しい転生者が引っ張られてくるとは思わないじゃない。あーーーもう、全部台無しよぉ!! ヤダーッ、こんな身体で死にたくないーっ!! 助けて、ねっ? 同じ日本人なら……あーっ!!』


 鳥かごの中で延々と喚き続けているので、イノリは苦笑いしながら布のカバーをかけた。彼女にはまだまだ聞くことがあるが、今は静かにしていて貰おう。



 それからの話は、おおむね明るい方向の物が多かった。

 麗奈に洗脳されていた攻略対象たちも、リハビリ次第で徐々に麻薬が抜けて正常になっていくだろうとの話だ。外科的な外傷ではないので例の治癒ポーションは効かないが、光の魔法で役に立てることがあればイノリも全面的に協力するつもりだ。それから、民への発表をどうするか、などなど。


「……」


 今後のイノリの立ち位置をどうするか話し合っていた時、退屈そうにあくびをかみ殺していたネクロスが急に立ち上がった。へらりと笑うと軽く片手を上げる。


「魔導書関連の報告も終わったようなので私はこれで。何かあればまたお呼び立てください」

「あ、ちょっと先生?」


 そのまま許可も得ずにスタスタと出て行ってしまう。慌てて呼び戻そうとしたイノリの手を引き留めたのはカタリーナだった。


「待ってイノリさん。そうね、そろそろいい時間になってきたし今日はこの辺りで切り上げましょう。話し合いはまた後日改めて。それでよろしいですか? 陛下」

「う、うむ」


 さすがは本物の公爵令嬢だ。事を荒立てない話運びに感心していると、彼女は正面から向き合ってこちらの手をギュッと握りしめた。ふわりとほほ笑むと少しだけ首を傾ける。


「イノリさん……改めて感謝いたしますわ。あなたが居てくれなかったらどうなっていたことか……」

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