12.充実とやりがい
顔立ちは決して悪くないはず――どころか、かなり整っている部類に入ると思うのだが、いかんせん不気味に笑う雰囲気と性的嗜好がアウトすぎる。
「アレはダメだわ、落とせないわ。うん、対象外対象外」
どうにも見当違いだったようだ。擦り寄ろうとした自分がバカを見た。いつものように手を取って潤んだ瞳を向けたのに、少しもなびく気配が無かったのがいい証拠だ。
気を取り直したように伸びをしたカタリーナは、令嬢らしからぬ大あくびをしながら隠者の塔を後にした。
「『リーシャ』廃人化おめでとー。まぁ、めでたしめでたしってことで」
***
カタリーナの電撃訪問から数日が経ち、秘密の研究所では毎日午後3時にお茶会をするのが恒例になりつつあった。
「それで、カタリーナさんからあれっきり接触はないんですか?」
「無いですねェ」
お茶のカップを両手で持ちながらイノリが問うと、向かいのネクロスはどうでもよさそうに口を開いた。白ハムをつついては噛まれている。
『ヂッ ヂィッ!!』
「まぁあれだけキミと私のイチャつきを見せつければ寄り付かないのも当然と言えますが」
「誰と誰が! いちゃいちゃって、絶対に違う……っ!」
ハァ、と頭を抱える少女を見ていた彼は楽しそうに笑う。白ハムを指先からぷらーんとぶら下げたまま何かの紙束を出した。
「そうだ、ポーションの卸先の仲介業者から、使用者の所感が届いていましたよ。引き続き好評なようです」
「わぁっ」
待ってましたと受け取ったイノリは、それを一枚ずつ送りながら大切に読み込む。ほこほこと笑いながら読んでいたかと思うと、時おりハッとしたように目を見開き、真剣に考え込む。そうして手元の紙にメモをしては次へと送っていった。
「……」
「……」
静かで、真面目な時間だ。
ネクロスもこの時ばかりは邪魔をすることなく、紅茶を傾けながら優雅に待っている。
部屋の片隅に置かれた置き時計がコチコチと鳴り、白ハムは彼専用のクッションに戻りぷぅぷぅと寝息を立てる。時おりメモを取るカリカリと言うだけが響く……。
「…………ふぅ、やっぱり実際に使った人のフィードバックは参考になりますね」
30分ほどして、ようやくイノリが思考の海から帰って来る。取ったメモを見返しながら、ポーションの改善点をいくつか洗い出していった。
「一番多いクレームが、間違えて開けて使用時に効果が減退してしまうケースですね。これは注意書きとして瓶にラベルを貼れば多少は改善できるでしょうか」
「開ける際に、わざともうひと手間かかるようにしてもいいかもしれませんね、そうすれば説明書を読むでしょう」
「いいですねそれ! あとは使用上の注意をまとめた紙を添付するとか――」
それからも開発者二人であーだこーだと話し合う。ある程度まとまったところで、イノリはフーっと満足そうなため息をついてソファに背中を預けた。ネクロスが紙にまとめ上げながら会議を締める。
「とまぁ、こんなところでしょうか。――どうしました?」
「え?」
「やけに嬉しそうですが」
頬を紅潮させ嬉しそうな顔をしていたイノリに、隠者は不思議そうな視線を向ける。
指先を合わせた転生者は、それを口元に持っていくとえへへと笑い声をあげた。
「そう見えます?」
「ええ、実にしまりの無い顔だ」
「もう、どうして扱いがそう雑なんですか」
怒った顔をするのだが、それで? と、視線だけで問いかけられてへにゃりと笑ってしまう。
「ええと、こんなことを言うとヘンに思われるかもしれないですけど……なんだかこっちの世界に転生してから、わたし毎日が楽しいんです。自分のペースで仕事ができますし、何より手ごたえと成果が嬉しいっていうか」
「功績は全て、私の物になっているのに?」
「それはまぁ、慣れっこというか……」
ほう、と前のめりになってきたネクロスは膝の上で指を組むと顎を乗せた。
「理解できませんね、裏方で満足だと?」
「あー……」
苦笑いしながら頬を掻く。生前勤めていたブラック企業では、苦労してあげた成果を上司に持っていかれることなどザラだった。「女だから」「いずれ結婚して居なくなるのだから」昇進や栄誉など不要だろう……と。
そういった事情を打ち明けると、隠者は丸眼鏡の奥にある金の眼差しをスゥと眇める。なんだか咎められているような気がして、イノリは慌てて手を振った。
「あ、でもいいんです。みんなが笑顔になれるなら、わたしはそれで」
その返しにククッと笑ったネクロスは、体勢を起こすと大仰に手を広げた。
「キミの以前の上司はずいぶんと無能だったようですねェ」
「……そう思ってくれます?」




