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015 二重螺旋(ダブルヘリックス)のエッセンス

「飛べ、この害虫野郎!」


六道ろくどう 飛鳥あすかは腰を深く落とし、【黒影こくえい】のグリップを両手で固く握りしめた。


腹筋と背筋に込められた力が、極限まで圧縮されたスプリングのように一気に爆発する!


ブォォォンッ!


重量級の漆黒のメイスが、空気を切り裂く凄まじい風切り音を上げ、下から上へと狂暴な半月を描いた。


その軌道は、巨大ゴキブリ二匹のV力場上で交差する、二つの「紅い光点(急所)」を寸分の狂いもなく捉える!


「砕けろぉぉぉっ!!!」


ドゴォォォンッ!


鼓膜を震わせる轟音と共に、数トンの重さを誇る二匹の巨躯が、まるでピンポン玉のように軽々と空中へ打ち上げられた。


それと同時に、絶望的な防御力を誇っていた紫紅色のV力場が、鋼の針で突かれたシャボン玉のごとく、「パリィィィン!」と音を立てて砕け散り、光の欠片となって霧散した。


V力場という鎧を失ったE級異獣は、空中でなす術もない「まな板の上の鯉」と化した。


「まだ終わっちゃいねえぞ!」


飛鳥は両足を地面に深く突き立て、頭上を見上げる。


その鋭い眼光は、重力に従って重なり合おうとする二つの虫の体を完全にロックしていた。


彼は待つ。


一秒。


コンマ五秒。


――今だ!


放物線の頂点。


二匹の巨躯が重なり、一つの標的となったその瞬間!


「そらよっ!」


飛鳥の右腕が限界まで後方へしなり、次の瞬間、まるでバリスタのごとき勢いで【黒影】を投げ放った!


シュゥゥゥンッ!


漆黒のメイスが黒い稲妻と化して空を切り裂く。


ドシュッ! ズブシュッ!


連続して響く、頭皮が痺れるような肉体貫穿音。


【黒影】は圧倒的な破壊力で一匹目の頭部直下を貫き、さらにその勢いを殺すことなく、二匹目の全く同じ部位を串刺しにした。


そこは、昆虫型生物の神経中枢――「食道下神経節」。


これこそが、この世界の学者たちが血を流して得た真理の一つだ。


異獣はこの世界に降臨し、本土の生物を擬態した際、その内部構造や致命的な弱点までもが擬態対象と酷似する。


ゴキブリにとって、頭を潰すだけでは必ずしも死に至らない。


だが、食道下神経節を破壊することは、絶対的な「処刑」を意味する。


ドォォン! ドォォン!


生命の輝きを失った二つの醜悪な肉塊が、泥水の中に叩きつけられ、汚物を撒き散らした。


傷口から噴き出す墨緑色の体液が、周囲の地面を汚染していく。


完全なる絶命だ。


静寂。


地下通路内は、三十秒にも及ぶ死の静寂に包まれた。


不気味な虫の死体が、神経反射でわずかにピクつく音だけが響く。


少し離れた場所で、遮蔽物から顔を出していた佐藤さとう ようちょう、そして隅で震えていた受験生たちは、神話の光景でも見せられたかのように、口をあんぐりと開けて固まっていた。


「嘘だろ……三年生の先輩や、E級の石田いしだ教官すら勝てなかった化け物を……たった二撃で仕留めたのか!?」


「くそっ、レベルが違いすぎる……」


「あいつ、本当に一年生なのかよ」


「確か、名前は六道 飛鳥だったな……」


「で、でも……なんであいつ、全裸なんだ!?」


「あ、ああ。知らないのか? あいつは上院の操場グラウンドで毎日『ご開帳』してる超有名な変態だぞ」


「マジかよ。今まで笑いもんにしてたけど……あんなに強いなんて聞いてねえよ!」


「強いのは認める。認めるが……あのスタイルはどう見てもド変態だ……」


「全裸の変態に命を救われるなんて、なんて複雑な気分なんだ……」


受験生たちの心の中で、「最強」と「変態」という相容れない二つの言葉が激しく火花を散らす。


周囲の雑音など一顧だにせず、飛鳥は少ししびれた右腕を振りながら、肉山のような死体へと歩み寄った。


「悪くないな」


【宿主が自♂由の姿でE級X型聖獣を撃破。X染色体+50!】


【宿主が自♂由の姿でEマイナス級X型聖獣を撃破。X染色体+30!】


【「一撃二絶ダブルキル」を達成。ボーナス報酬、Y染色体+100!】


次々と網膜に浮かぶシステムメッセージに、飛鳥は満足げに頷く。


今回の「収穫」は、予想を遥かに上回る大盤振る舞いだ。


彼が死体に突き刺さったままの【黒影】を引き抜こうとした、その時。


砕けた甲殻の隙間から、奇妙な光が漏れているのが目に入った。


「あん?」


邪魔な甲殻を蹴り飛ばすと、ドロドロの粘液の中から、拳ほどの大きさの、淡い緑色の輝きを放つ結晶が転がり出た。


飛鳥がそれを拾い上げる。


結晶はひんやりと冷たく、内部では無数の微細な緑の糸が、まるで本物のDNAのように「二重螺旋」を描いて渦巻いている。


極めて純度の高い生命エネルギーが、そこから溢れ出していた。


彼がその戦利品を眺めていると、背後から荒々しく、切迫した呼吸音が聞こえてきた。


振り返ると、いつの間にか石田が這い上がるようにして立ち上がっていた。


石田の目は、飛鳥の手にある緑の結晶に釘付けになっており、その胸は激しく上下している。


その瞳には、隠しきれないほどの強烈な「渇望」が燃え盛っていた。


(あれは……E級の二重螺旋精粋ダブルヘリックス・エッセンスか!)


石田は心中で叫んだ。


その価値を、彼は誰よりも熟知している。


異態者が異武を使い、E級以上の異獣を仕留めた際にのみ、極めて低い確率でドロップする超稀少な戦利品だ。


一時的に体力を回復させるだけの安物の薬剤とはわけが違う。


それは遺伝子のレベルから、異態者の基礎能力を「永久的」に引き上げる至宝なのだ。


闇市に流せば、品質の悪いものでも数十万フェデラル・クレジットで即座に取引される。


文字通りの「有価無市」――金があっても手に入らない逸品だ。


強欲という名の毒蛇が、石田の心の中で鎌首をもたげる。


当初の彼の計画は、こうだった。


第二段階のテストにおいて、飛鳥にはわざと「清湯寡水(刺激の全くない)」、最も亢奮しにくい劣等な管制級資料を閲覧させる。


そうすることで、飛鳥の「解放」を失敗させ、不合格としてこの場から叩き出すつもりだったのだ。


解放の成否は、異態者が受ける刺激や亢奮の度合いに直結する。


……もし、今、あいつが油断している隙に……。


……

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