6 見習い騎士のペット
「お待たせしました。行きましょう」
キャサリン姫に追い付いたロトは、再び並んで歩き出した。
「あそこで昼食にしましょう」
ロトは、街道の外れの小川を指差して言った。
ロトとキャサリン姫は、小川の少し大きめの岩に腰掛ける。ロトは、鞄から弁当を取り出し、包みを開ける。包みの中には、パンの切れ目に肉や野菜が挟んだものが入っていた。ロトは、これを肉はさみパンと呼んでいる。
ロトは、キャサリン姫に一つ渡す。そして、自分の分を取るとかぶり付いた。
「うん、美味しい」
ロトは、口の中のものを飲み込むと言った。
「たまには、こう言うところで食べるのもよいのう」
キャサリン姫が、リスみたいに頬を膨らませて同意する。
その姿を見てロトは、王女がそんな食べ方していいのだろうかっと内心思いながら食べていった。
その時であった。ガサッ、ガサッ。後ろの茂みの方から音がした。何者か、大きい気配がする。ロトは、とっさに剣に手をかけ、キャサリン姫の前に立つ。
「何者だあ!」
ロトは、叫ぶ。
ガサッ、ガサッサッ。
「何者だあ!出て来い!」
ロトは、再び叫ぶ。いつでも剣を抜けるように、剣の柄を握る。
「ミィー。ミィー」
子猫が、出てて来た。
「・・・・・え?」
ロトは、固まった。
「あれ?キャシー様、今、大きい気配がしましたよね」
ロトは、わけがわからないように、キャサリン姫に聞いた。ロトは、3年間近衛騎士団の騎士に鍛えられてきたので、強者の気配ぐらいはわかるようになっていた。
「えっ、ええ。そうじゃな」
ロトよりも、遥かに強いキャサリン姫も戸惑っている。
「ミィー。ミィー」
子猫が、ロトの足元まで来て、見上げている。ロトは、よく見てみる。全身銀色の毛に覆われている。子猫にしては少し大きいかもしれない。先程、感じた気配はない。
「ロト。その子、お腹が空いているのではないか」
キャサリン姫が、声をかけてくる。
「えっ。そうですね。ほら、食べるか」
ロトは、自分の食べかけの肉はさみパンを与える。
「ミィーーー!」
子猫は、全身で喜んで食べ出した。
「やっぱり、お腹が空いていたんじゃな。親とはぐれたのかの」
キャサリン姫は、子猫の背中を撫でながら言った。
子猫は、 瞬く間に食べ尽くして、ロトを見上げる。
「もうないよ。それで全部だよ。あ、そうだ」
ロトは、そう言うと、鞄の中から王都のバザールで買った干し果物を出した。
「何じゃ。そんなものも持っておったのか」
キャサリン姫は、どこか呆れたように言う。
「ええっ。ちょっと、驚いたことがあったので忘れてました。キャシー様は、こちらをどうぞ」
ロトは、少し皮肉を入れながら言い、キャサリン姫に焼き菓子を渡す。
「焼き菓子か。うん、素朴な味じゃのう」
キャサリン姫は、ロトの皮肉に気付かず、幸せそうに焼き菓子を食べた。
「さて、そろそろ行きますか」
ロトは、干し果物を食べ終えて、毛繕いをする子猫を見ながら言った。
「この子猫は置いていくのか」
キャサリン姫が、子猫を見ながら言う。
「無理ですよ。宿舎では飼えないですよ」
ロトは、キャサリン姫を見ながら言う。
「そうじゃな。可愛そうじゃがな」
キャサリン姫は、子猫から目を逸らして言った。
すると、置いて行かれるのがわかったのか、子猫がロトの足にしがみ付いて来た。
「ミィーー!ミィーー!」
子猫が、置いて行かないでっと言わんばかりに鳴き声をあげる。
「ごめんね。連れて行けないんだよ」
ロトは、そう言うと、子猫を引き剥がそうとするが、子猫は必死にロトの足にしがみ付いて、離れようとはしない。
「ミィー」
子猫が、ウルウルとした瞳で見上げてくる。
「うっ」
ロトは、言葉に詰まった。
「のうロト。この親がいないんじゃ。連れて帰らぬか」
キャサリン姫が、ロトの足にしがみつく子猫を見て言う。
「しかし」
ロトは、判断に迷う。
「妾も飼えるように後押しするから。どうじゃ?」
キャサリン姫が、助け舟を出す。
「・・・わかりました」
ロトは、少し考えてから答えた。
「もうしがみ付かなくても良いぞ。これからはロトが、そなたの親じゃ」
キャサリン姫は、子猫の頭を撫でながら言った。
「ミィー」
子猫は、キャサリン姫の言葉がわかったのか、ロトの足から離れた。そして、勢いをつけてロトの肩に飛び乗り、ロトの頬に自分の頬を擦り付けた。
「あはは。くすぐったいよ」
ロトは、肩に子猫を乗せたまま、子猫の頭を撫でた。
「ロトよ。その子の名前はどうするのじゃ」
「う〜ん、どうしましょうか」
ロトは、腕組みをして考える。子猫は、ロトの肩の上に座り、尻尾をゆっくり左右に動かしている。
「飼うからには、名前は必要じゃからな」
「そうですね。せっかくだからキャシー様が付けて下さい」
「妾が付けて良いのか」
「ええ、お願いします」
キャサリン姫は、ロトから振られて悩む。
「そうじゃな。・・・テトラ。テトラはどうじゃ!」
「いい名前ですね。どうだい、お前の名前はテトラだよ」
ロトは、肩の上に座ってる子猫に聞いてみる。
「ミィー!」
子猫は、分かっているのか、元気良く返事をする。
「気に入ったようじゃな」
キャサリン姫は、自画自賛するように、うん、うんと頷いた。
朝、来た道と同じ道を歩く。違う方向に歩いているのと、子猫の1匹増えたことだ。銀色の毛をしたテトラは、ロトの肩いるのが飽きたのか、今はロトの頭の上にいる。
王都ファレールングから、ロトの生まれた村ニング村とお使いで行ったビオデ村への分かれ道を示す追分石が見えてくる。
追分石の横にひとりの騎士が立っている。女性にしては背が高く、赤髪の騎士アンだ。アンは、笑顔でロト達を見ている。
「あれは、アンじゃな。笑顔でこちらを見ておるが、目は笑っておらぬな」
「当たり前じゃないですか。王宮を勝手に抜け出したんですから」
ロトは、額に手を置きながら言う。
戻ったら、一緒に怒られる事になるだろうなっと、ロトは思い、ため息を吐く。
「キャシー様、戻ったら怒られるんですよ」
「そうじゃな。一緒に怒られようぞ」
なぜか、キャサリン姫が胸を張って言う。これから、戦いでも行くようだ。ロトは巻き込まれた立場だが、王女1人を叱責することはないので、一緒に怒られてしまう。
「はあぁぁぁ」
ロトは、再びため息を吐くと。
「キャシー様、これを。安物で申し訳なですが。その、ビオデ村に行った記念と言うことで」
ロトは、照れながら言うと、鞄の中から小さな小鳥の形をした銀細工を渡した。
「良いのか!妾にくれるのか!」
キャサリン姫の顔が、ぱあっと明るくなる。
「あの髪留めは無理ですが、このぐらいなら」
「良い、良い!あの髪留めはいつか買ってもらうから。今はこれで十分じゃ」
キャサリン姫の言葉を聞き、ロトは倒れそうになったが、キャサリン姫のいつも以上の笑顔を見て、買って良かったと思った。おかげ、ロトの財布は空になったのだが。小さな銀細工と言え、結構な値段がしたのだ。
「それじゃ、キャシー様行きますか」
「うむ、行こうぞ」
「ミャー」
2人と1匹は、意気揚々と赤髪の騎士の元に歩いて行った。
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