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最弱の勇者、ロト  作者: ぜんじろう
5/8

5 見習い騎士のお使い

  いつものように、朝の鍛錬を終わらせたロトに、赤髪の女性騎士アンが話しかけてくる。

「今日は、ビオデ村の駐屯地に書類を届けてくれ」

「はっ!わかりました」

 ロトは、元気良く返事をする。

 ビオデ村までは、王都ファレールングから徒歩で半日くらいの距離にあり、ロトの生まれたニング村とは反対の方角に位置する。


  毎日、毎日、王城内で鍛錬や見習い騎士としての仕事をしていると、いくら、高い志しを持っていても気が滅入ってしまう。だから、見習い騎士には月に数回、王城の外に出るお使いを任せられる。

 近衛騎士団は、騎士が約200名、兵が約500名の規模だ。ファレーズ王国には、近衛騎士団の他に第1騎士団、第2騎士団、第3騎士団があり、王都周辺と北部は近衛騎士団が、その他の地域は第1、第2、第3騎士団が分割して管轄している。見習い騎士は100名程で、全員が王城内にいる。

 近衛騎士団の約700名の全員が、王城内にいるわけではない。王城内にいるのは騎士が100名程で、その他の騎士や兵は、王都周辺に点在する駐屯地にいる。


「ロトは、今日はお使いか。いいな」

 茶髪のくせ毛の見習い騎士カインが、食堂へ向おうとするロトに話しかけてきた。

「カインも明日か明後日には、回ってくるよ」

 ロトは、答える。駐屯地へのお使いは、見習い騎士の休日の意味合いもあるので、任せられた見習い騎士は羨ましがられるのであった。お使いに行く時は、途中で買い食いして良いし、夕方までに帰って来れば良いので、いい気分転換になるのであった。

「ビオデ村は結構大きな村だから、お店もあるぜ」

「そうなんだ。僕は行ったことないから楽しみだな」

「確か、銀細工で有名なお店もあったな」

「へぇ、僕にはあげる相手がいないから関係ないね」

「違いないな。ははは」

 ロト達は、そんな会話をしながら食堂へ向かうのであった。いつものように朝の鍛錬に参加していたキャサリン姫は、そんなロト達の背中を見ながら、ふむっと、頷くと王宮内の自室へ戻っていった。


 いつものように、大盛り+おかわり付きの朝食を食べ終えたロトは、一般食堂の責任者のハンナに昼食用の弁当を頼み、自室で近衛騎士団の制服に着替える。黒のスラックスに白のシャツ、腰に剣を挿し見習い騎士であること示す記章を付けて、近衛騎士団の詰所に向かった。外套を羽織ることも出来るが、今日は天気がいいし、歩けば暑くなるだろうと考えて置いていく。

 詰所に着くと、指導騎士のアンからお使いの内容を確認して書類をうけとる。一旦、食堂に寄って弁当と水筒を受け取り、王城を出た。

 王城を出ると、そこは貴族街である。王城に近いほど爵位が高く、庭も広い。お抱えの庭師や使用人が庭の手入れをしている。貴族の邸宅の庭は、どこも色取り取りの花で飾られており、手入れも行き届いている。そんな光景を見ながら、ロトは貴族街を抜けていった。


 貴族街の入り口で、門番の兵に名前と所属を伝えて門を出ると、ファレーズ王国の王都ファレールングの街並みが広がっていった。

  ロトは、大通り沿いの商店の品々や建物を見ながら歩き、王都のバザールに寄った。

 幼い頃に両親とニング村の野菜を売っていたバザールは、ロトにとっては哀愁が漂う場所だ。バザールに来ると、両親をどうしても思い出してしまうが、それはロトにとって辛い事ではない。ロトは、両親を忘れずにいることができる大切な場所だと思っている。

 ロトは、両親が良く買ってくれた焼き菓子と道中で食べようと干し果物を買ってから、王都の入り口である大門へ向かった。


 王都の大門に掛かる橋を渡り、しばらく歩くと、分かれ道を示す追分石が見えてくる。右にいけば、ロトの生まれたニング 村へ行ける。今日は、ビオデ村に行かなければならないので、左に曲がる。追分石が近ずくにつれて、石の前に1人の女性が立っているのに気付いた。美しい金髪を後ろで一房に纏めて、青い宝石なような瞳でこちらを見てる。ロトと同じように黒のスラックスに白のシャツを着て、わざわざ見習い騎士を示す記章まで付けている。見間違えることはない、ファレーズ王国の王女キャサリン姫だ。


「えっ、えっ、えええぇぇぇ!なんでこんなところにいるんですか!」

 ロトは、慌ててキャサリン姫に駆けつけて、問い質す。

「うん、妾もたまには遠出したいと思ってなぁ」

 キャサリン姫は、にこやかな笑顔で答える。

「いやいや。姫様。ダメでしょう。それにどうやってここまで来たのですか?」

 ロトは、首を振りながら言う。

「王城にはな、知られてない秘密の抜け道があるのじゃ。そこを通って来たぞ。ロト。あんまり姫様と呼ぶとバレるぞ」

 キャサリン姫は、どこか当たり前のように言う。

 ここは王都へ続く街道だ。人の往来も多い。そして、キャサリン姫の容姿だ。先程から、チラチラっと旅人や行商人達が、キャサリン姫を見ながら歩いて行く。確かに、ここで王女だとバレるのはまずい。

「うっ。キャ、キャシー様がいなくなっては、大騒ぎになるのでは?」

 ロトは、言葉に詰まりながら言う。

「大丈夫じゃ。ちゃんと、書き置きしてきたぞ。ほら、ロト、行くぞ」

 キャサリン姫は、ロトから愛称で呼ばれたの嬉しいのか、ニコニコとしながら言うと、歩き出した。

 ロトは、胃がキリキリするのを感じながら、キャサリン姫の後を追ったのだった。


「ロト、あの鳥はなんて言うのじゃ」

 キャサリン姫は、緑の翼でお腹が白い小鳥を指差して言った。

「あの小鳥は、春になると姿を見せる鳥ですね。名前は忘れましたが、綺麗な鳴き声をしてますよ」

「そうなのじゃな。鳴き声を聞いてみたいものじゃ」

 キャサリン姫は、嬉しそうに笑顔で言った。

 ロトは、その笑顔に見惚れてしまう。キャサリン姫は、ここまでの道中、終始ご機嫌だった。そんなに王城の外に出れたのが、嬉しかったのかなっとロトは思った。それなら、またこうして・・・。そこまで思ってロトは、ブンブンと首を振った。

「どうしたのじゃ?」

 キャサリン姫は、立ち止まって聞いてくる。

「いえ、何も」

 ロトが答えると、

「そうか」

 と、キャサリン姫は言い、鼻歌を歌いながら歩き出す。

 ここで、またこうしてっとキャサリン姫に言ってしまうと、次も絶対について来てしまう。キャサリン姫の行動力には定評がある。今回の件に関してもそうだが、3年前にロトが、キャサリン姫を助けた事件も、実は母親であるリリアーヌ王妃の産後の日だちが悪く、その改善に良いとされる薬草を取りにキャサリン姫が王城を抜け出してしまい。追いかけた騎士達が追いついたところで、魔物に襲われたとのことだった。その後、キャサリン姫の取って来た薬草が効いたのか、リリアーヌ王妃は回復して、キャサリン姫の弟と妹である双子の子育てに奔走しているのであった。

 うん、甘い事は言わないでおこうっと、心の中で思いながらロトは歩いて行くのであった。


 昼前にはビオデ村に着いた。まずはっと、お使いである近衛騎士団の駐屯地に行き、書類を責任者に渡し、王都へ届ける書類を受け取る。あっという間にお使いが、完了した。

「ロト、この後はどうするのじゃ。お腹も空いたのじゃが」

 キャサリン姫が、お腹を押さえながら聞いてくる。

「キャシー様がよろしければ、お昼は、ハンナさんが作った弁当がありますから。帰りの道中で食べようと思いますが」

 ロトが、肩掛け鞄を指差して言う。

「そうじゃな。じゃあ、村を一回りしてから帰るとするかのう」

 キャサリン姫は、そう言うと、キョロキョロしながら歩き出した。


 ビオデ村は街道沿いにあるためか、ロトが生まれたニング村よりも大きく、人も多い。通り沿いには宿屋やいろんな店が軒を連ねていた。

 ロト達は、店の商品を冷やかしながら、ワイワイっと、話ながら歩いて行く。ロトが、ふっと、視線を向けると銀細工の店があった。

「カインが、言っていたお店かな」

 ロトは、立ち止まって言った。

「なんじゃ。なんか面白いお店でも見つけたのか」

 キャサリン姫が、聞いてくる。

「カインが、ビオデ村には銀細工の有名なお店があるって言ってましたから。あのお店かなっと思いましてね」

「そうなのか、見てみようぞ」

 間髪入れずに、キャサリン姫がいう。

 店の扉を開けて中に入ると、そこには数多くの銀細工が置いてあった。ロトとキャサリン姫は、一つ一つ見て回る。ロトは、どれも高そうだなっと、思いながら陳列されている銀細工を見ていた。

「うわぁ。これはかわいいのう」

 キャサリン姫は、小鳥の形をした銀細工の髪留めを見て言った。

「いらしゃいませ」

 店の奥から店員が出でくる。

「どのようなものをお探しですか?」

「いや、どんなのがあるのかなって思いまして」

 ロトは、頭を掻きながら言う。

「彼女さんへのプレゼントですか!あっ、その髪留めはかわいいですよね」

 店員は、とんでもない事を言い、キャサリン姫が見つめている小鳥の髪留めの説明を始めた。

「あはは、彼女じゃないですよ。ちなみに、それ、おいくらですか?」

 ロトは、動揺を隠すように言った。キャサリン姫は、顔を真っ赤にしながら、彼女、彼女っと、ぶつぶつ言っている。

「またまた。きれいな彼女さんじゃないですか。えっとですね。それは金貨1枚と銀貨50枚ですね」

 店員が、さらっと言う。ロトは仰け反ってしまった。ロトの給金の3か月分であった。

「あはは、いいお値段ですね。すみません、また来ます!」

 これ以上いると、何か買わせる気がしたので、ロトはそう言うと、まだ何かぶつぶつ言っているキャサリン姫の手を引き、店を出た。

「なんじゃ、買ってくれのか」

 キャサリン姫は、上目遣いで言う。

「いやいや。ひ、姫、キャシー様は僕の給金を知っているでしょう」

 ロトは、ひどく動揺しながら言う。

「そうじゃな」

 キャサリン姫は、少し寂しそうに言うと、村の入り口の方へ歩き出した。

 ロトは、そんなキャサリン姫の背中を見ながら歩いていた。そう言えば、キャシー様が装飾品みたいなものに興味を示すのは、珍しいなあっと思っていた。キャサリン姫は、高貴な身分には珍しく宝石や装飾品に興味がない。王宮へ出入りをしている商人が、キャサリン姫様はほとんど買ってくれないっと、嘆いていたのを聞いている。

 ロトは、うんっと頷くと、キャサリン姫に言った。

「キャシー様。すみません、忘れ物をしました。先に行っててもらって、よろしいですか」

 と、言う。

「なんじゃ。しょうがないのう。行って来い」

「はい、すみません」

 ロトは、そう言うと、来た道を走り出した。














拙文を読んで頂きありがとうございます。


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