3 見習い騎士の1日 前半
ロトは15歳になった。
王都ファレールングの近衛騎士団の赤髪の女性騎士アンの見習い騎士となったロトは、王城内の騎士の宿舎で生活するようになっていた。
美しい金髪、勝つ気な眉、宝石のような青い瞳を持つ王女キャサリンを助けたことにより、多額の報酬金をロトは受け取ったが、その大半を育ての親である叔父のマークとニング村の村長に渡していた。自分の手元には最低限の生活が出来る分しか、残さなかったのである。
ガゴォーン、ガゴォーン、ガゴォーン。朝の5の時を知らせる神殿の鐘が鳴る。
ロトはベットから起き出す。宿舎の井戸に行き、顔を洗う。冷たい水が身体に喝を入れてくれて、目が覚める。あれば
顔洗ったロトは、王城にある練兵場へ向かう。そこには非番の騎士達、ロトと同年代の見習い騎士が朝の鍛錬を行うために集まっていった。
ロトは軽く身体をほぐすと、ロトの指導騎士である女性にしては背が高く、赤髪の騎士アンの隣に立つ。ロトは通常より重い鍛錬用の剣を持つと、アンと一緒に型の練習を始めた。他の騎士達も各々、型や素振りの鍛錬を始める。ロトと同年代の見習い騎士達も、それぞれの指導騎士と並んで鍛錬を始める。しばらく、型の練習を続けていると、剣を振るうたびに、ロトの青みがかった黒髪が揺れて汗が飛ぶ。
ロトの横に並ぶ赤髪の騎士アンも、その鮮やかな赤髪を靡かせながら、一心不乱に剣を振るう。アンの周りには、アンと同じ女性騎士達も剣を振るっている。全員女性ながら短髪だ。女性騎士の需要は多い。王妃や王女、そして外国からの使節が女性だった場合の警護など、男性騎士より女性騎士のほうが、都合が良い場合が多々あるのだ。しかし、女性で騎士になるには、相当な覚悟がいる。当然ながら男性騎士と同等の強さいる。なので、厳しい鍛錬に望み、耐えなくてはならない。その覚悟を示す為、女性騎士達は騎士見習いになる際に、女性の宝である髪を切るのであった。
アンの周りの女性騎士達は、真剣な眼差しで剣を振る。その女性騎士達の中に、見慣れてた美しい金髪の女性がいる。勝気な眉を寄せて、宝石のような瞳の中に真剣さを見せて、剣を振る。朝の光をその美しい金髪に受け、汗がが舞うたびに、一層その美しい金髪を輝かせて、どこか神々しさを感じさせる。ファレーズ王国の王女であるキャサリン姫がいた。
ロトと同じ歳の15歳になったキャサリン姫は、ロトと出会った頃よりも背も伸び、女性らしい身体付きになって、その美しさを増していた。
キャサリン姫は、治癒魔法が使える。通常であれば、神殿に赴き魔法の鍛錬を行うのが普通だ。しかし、キャサリン姫は治癒魔法しか使えなかった。攻撃魔法に必要な火の属性や水の属性がなかったのだ。キャサリン姫は悔しかった。キャサリン姫はかなりの負けず嫌いであり、行動力のある性格をしている。防御よりも攻撃を好む。だから、キャサリン姫はロトが見習い騎士になった時に、一緒に剣の鍛錬を始めたのであった。
キャサリン姫の父親であるグレゴリー王は、温和な性格をしており、臣下や国民に対して慈愛の心を持って接する王である。戦いを好まない優しい王様だと、自国民や他の国々からは思われている。しかし、グレゴリー王は大陸でも5本の指に入る剣士だった。その受けを主体にした剣捌きの技は、他の追従を許さないといわれている。キャサリン姫は、グレゴリー王の剣の才能を受け継いでいた。そして、ロトには才能がなかった。
同時に始めた ロトとキャサリン姫の剣の実力は、見る見るうちに開いていった。キャサリン姫の剣の実力は、見習い騎士ので群を抜いていた。一般の騎士でも勝つのが、難しいほどまでになっていった。才能と言うものをロトは、目の前で見せつけられ続けられた。助けた女の子に、いつの間にか勝てなくなったのだ。ロトは、男の子である。誇りもある。普通なら心が折れてしまい、諦めてしまうものである。しかし、ロトは、諦めなかった。心が折れなかった。必死に剣を振り続けた。少しでも強くなるために。そんなロトをキャサリン姫は馬鹿にしなかった。
「ロト、模擬戦をするわよ」
型の練習が終わると、キャサリン姫はロトに言った。
「はっ、お相手します」
ロトは、手ぬぐいで汗を拭きながら言った。
木剣を持ち練習用の防具を付けた ロトは、キャサリン姫と対峙する。ロトは下段に剣を構える。力の弱いロトは、受け主体の剣の型を使う。対するキャサリン姫は、中段に剣を構える。攻撃にも受けにも対応するようにしている。まず、キャサリン姫が動き出す。瞬時に間合いを詰めたキャサリン姫を、ロトの胸を目掛けて剣を突き出す。ロトは、右に身体をずらして避ける。キャサリン姫は、ロトを追うようにそのまま剣を横に払う。ロトは剣先を下にして受け止める。動きが止まったロトを見て、キャサリン姫を身体を素早く回転させる。キャサリン姫の剣が、ロトの脇腹を叩く。
「グッ」
ロトは、息を吐き出し膝を着く。防具の上からでもかなりの衝撃があるのだ。キャサリン姫の華奢な身体のどこにそんな力があるのか、ロトは毎度思うのであった。
「ロト!動きを止めるな!受け止めるんじゃなく受け流すんだ!」
アンは厳しい声で、ロトを叱責する。
「はい!」
ロトは、短く答えると立ち上がった。
今度は、ロトが攻める。剣を下段に構えたまま間合いを詰める。ロトは右下から斜め上に剣を払う。ロトの間合いを見切っているキャサリン姫は、軽く紙一重で躱す。躱されることがわかっているロトは、さらに踏み込んで、剣を払う。キャサリン姫は、その剣を受け流すと反撃しようとする。ロトは、そうはさせまいと、さらに連続で剣振るう。右、左、右下、左下からっと、ロトは剣を振るう。その全てをキャサリン姫は、余裕を持って捌く。ロトはキャサリン姫に、間合いを取られないように必死に肉薄する。ロトが突き出した剣をキャサリン姫は、受け流す。力を流されてしまい、ロトの身体を流されてしまう。キャサリン姫は、その隙を逃さない。ロトの背中に向けて剣をぶつけようとする。焦ったロトは、我武者羅に剣を横に払う。剣を振り下ろそうとしていたキャサリン姫は、驚異的な反射神経で避けようとする。ロトの剣先がキャサリン姫の胸の防具を掠める。キャサリン姫が初めて体勢が崩れる。
「キャシー姫!しっかり受け流さないとダメです!一瞬の隙が命取りになりますぞ!」
ここでアンが叱責する。王女が相手でも遠慮はない。キャサリン姫も鍛錬中は、主従の関係はないとわかっている。
「はい!」
だから、キャサリン姫は素直に返事する。そして、相手を換えながら朝の鍛錬は続くのであった。
ゴォーン、ゴォーン。朝の7の時を知れせる鐘が鳴る。2つ刻ほど続いた朝の鍛錬は、終わりである。ロト達は、宿舎の井戸に行き、鍛錬でかいた汗を流す。そして、各々の部屋に戻り定められた制服に着替えから、朝食を取るために王城の一般食堂に向かう。
「おはようございます。ハンナさん」
ロトは、食堂の責任者である恰幅の良いハンナに挨拶する。ハンナは未亡人である。若い頃に騎士だった夫を魔物との戦いで亡くしている。それから、2人の子供達を育てるために王城の食堂で働き始めたのであった。その2人の子供達も独立し、それぞれ文官としてどこかの町で働いてるらしい。さすがに騎士にはしたくなかったらしい。
「おはよう。今朝も頑張ったかい。さあ、たくさんお食べ!」
ハンナはそう言うと、ロトのトレイにパンを3個乗せ、肉や野菜のたっぷり入ったスープを注いだ皿を乗せた。
「ちゃんと、おかわりするんだよ」
ハンナは、背が低くく、身体の線が細いロトを可愛がっており、いろいろと食べさせようとするのであった。ロトは細いと言っても、決して痩せこけているわけではなく、幼い頃からの畑仕事や見習い騎士になってからの鍛錬で、ロトの身体は筋肉で引き締まっているのだ。ただ、食べても食べても、上にも横にも肉が付かないのであった。
「はい、頑張ります」
ロトは苦笑いをしながら、ハンナに返事をした。
ロトはトレイを抱えながら、座れる席を探す。当然、キャサリン姫はいない。王族であるキャサリン姫は、王宮の王族専用の食堂で食事を取っている。キャサリン姫は、こちらの一般食堂で食べたいらしいが、そんなことさせるわけにはいけないので、アンや使用人達に止められているのであった。
赤髪の女性騎士アンは、奥の窓際の席で他の女性騎士達ときゃっきゃっと話しながら食べている。何を話しているんだろうっと、思いながらロトがキョロキョロっと座れる席を改めて探していると。
「おーい、ロト!」
ロトを呼ぶ声がする。声がした方を見ると、茶色いくせ毛をしたロトと同年代の男性が手を振っていた。
「ありがとう、カイン」
ロトは、席を取ってくれたロトと同じ見習い騎士のカインに礼を言った。
「今朝も姫様にやられていたな」
カインは、パンをかじりながら言った。
「しょうがないよ。姫様はまたお強くなっていらしゃるからね」
ロトは、肉や野菜がたっぷり入ったスープを口にかき込みながら言った。
「姫様とお手合わせを出来る、お前が羨ましいよ」
カインは、口を尖らせながら言った。ただの見習い騎士であるカインが、王族であるキャサリン姫と手合わせなど叶うわけがない。カインは子爵家の三男である。ただの貴族であるカインが、王族であるキャサリン姫と話すことすら憚れるのであった。
ロトとキャサリン姫の間には、大変な身分差がある。まだ見習い騎士であるロトの身分は、ただの農民である。騎士は18歳以上と定められている。騎士は当然に強くなくていけない。一定以上の強さになる為に見習い期間を設け、鍛え上げて、大陸で成人と認められる18歳で騎士になれるのだ。騎士になれば、1代限りの貴族として、士爵の位が認められる。それでも、大変な身分差であるので、通常であれば、話す事も立つことすら許されないのである。
当然ながらロトは、ほとんどが貴族である他の騎士達や見習い騎士達からの羨望や嫉妬の的になっている。しかし、3年前にロトが身を呈してキャサリン姫を守ったことは、騎士達の間では知れ渡っているので、表立ってロトに何かをする者はいない。まして、ロトが必死になって鍛錬を続いているのを、間近で見てきたので、好意的に思ってる騎士や見習い騎士も多いのであった。選民思想の強い者や嫉妬深い者は、無視を決めているようだった。
茶色いくせ毛の見習い騎士であるカインも、ロトを認めている1人である。カインの実家である子爵家は長男が継ぐ。三男であるカインは、成人すれば準男爵の位を授かることができるが、士爵と同じ一代限りであるため、カインの子供達は貴族ではなくなる。だから、カインは騎士となり、勲功を上げて世襲が認められる男爵以上の位階を授かること目的としている。他の見習い騎士達もだいたいは同じ理由である。戦うことが苦手な者は、文官となり、上を目指すのであった。
カインも、始めはロトを見下していた。しかし、とにかく強くなろうと愚直に鍛錬を続けるロトを間近で見続けて、いつしか、尊敬の念すら持つようになり、親友と呼べる関係にまでになったのであった。
ロトが食べ終わる頃に、ハンナがおかわりを持って来る。
「はい、たくさんお食べ」
「うへぇ」
ロトは仰け反る。
「そうだぜ。たくさん食べないと背が伸びないぜ」
カインが、笑いながら言う。
「うるせい」
ロトは、おかわりのスープを口にかき込みながら悪態ついた。
やっとの思いで、ロトは食べ終わる。毎食見られる光景である。そんだけ食べて、なんで変わらないんだっと、カインは毎度思うのであった。
「さて、仕事に行くか」
カインは、椅子を引きながら言った。
「そうだね。じゃあ、また夕方ね」
ロトも立ち上がりながら言った。
そして、ロト達はトレイを返却場所へ持って行き、それぞれの仕事場に向かうのであった。
拙文ですが、読んで頂けると幸いです。




