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最弱の勇者、ロト  作者: ぜんじろう
2/8

2 ニング村のロト 後半

  一面に広がる麦畑。その麦畑を縫うように道が続いている。

 ロバが引く荷車の上にロトは座っていた。

 ロバの左右に父親と母親が、ロバの足並みを合わせて歩いてる。これから王都へ村で取れた野菜を売りに行くのだ。

 ロトは、王都に行くのが楽しみだった。

 王都で開かれるバザールには、王国内はもちろん、外国からもいろいろな商品や食材が集まってくるのだ。ロトは、それらを見て周るのが楽しかった。そして、野菜売りを手伝ったご褒美として、買ってもらえるハチミツがたっぷりと練り込まれ焼き菓子が、一番の楽しみだった。

 だから、まだ小さなロトは、今回もいっぱいお手伝いをして、焼き菓子を買って貰おうと、荷台で揺られながら、ニコニコと思っていたのであった。


  「よぉし、あそこの丘を超えたら休憩しよう」

  父親は、前方の丘を指差しながら言った。

  「ロト、疲れてない?」

  「うん、大丈夫だよ」

  母親の優しい声に、ロトは元気よく答えた。


 王都まではあと2つ刻(2時間)で着く。ロト達が住むニング村から王都ファレールングまでは徒歩で半日の距離がある。夜明け前にニング村を出発し、昼前には王都に着くと言う段取りだ。バザールの売り場は、ニング村で毎月の場所代を支払っているので、着いたら、すぐにに売り始めることが出来る。

  昼前から翌日の昼前まで売り、そして、村で必要な調味料や布などを買って帰る。ニング村が出来た頃より行われてきた営みであった。


  丘を超えて少し進むと、大きな木がある。その大きな木の下でロト達は休んでいた。父親が、ロバに塩を舐めさせて水を与える。母親は少し早めの昼食の準備をしている。

  「お母さん、僕、トイレ行きたい」

 ロトは、モジモジとしながら言った。

  「あらあら、じゃあ、あそこの茂みでしておいで」

  母親は、街道の外れの茂みを指して答えた。

  「うん、わかったぁ」

  ロトは、答えながら走って行った。見て


  用を足したロトが、両親の元へ掛け戻ろうとした時だった。

  「逃げろぉおおお、魔物がそっちに行ったぞぉ」

  突然、叫び声が聞こえた。ロトが叫び声の方を振り向くと、大きな熊のような魔物が、背中に矢を生やし、血を流しながら、突進してきていた。その魔物の背を冒険者達が追っかけてくる。

  王都の近郊では、魔物に出会うことはほとんどない。それは、騎士団や冒険者達が定期的に巡回し、魔物を狩っているからだ。今、ロトに向かって来ている魔物も、巡回中の冒険者達が見つけて狩ろうとした魔物であった。

 運が悪いとしか言いようがない。たまたま、冒険者達からの攻撃から逃げ出せた魔物の進行方向にロトがいたのであった。


「きゃあ、ロトぉ」

  「ロぉトぉおお、こっちに来いぃ」

  父親と母親が必死に叫ぶ。

 しかし、ロトは恐怖で足がすくんでしまい動けないでいた。ロトの両親が、恐怖で震えているロトに気づいて、駆け寄ろうとする。

  ロトと魔物の距離より、ロトと両親の距離のほうがずっと近かった。ロトがすぐに、両親の元に駆け戻れば、何事もなったのかもしれない。

  両親がロトの元に駆け付けた時には、魔物はすぐ側にまで来ていた。普通の農民と魔物では、当然、その俊敏性は違う。まして、魔物は逃げようと必死になっているのである。

 

  ロトの母親は、ロトを庇うように抱きつく。父親はロト達と魔物の間に身を晒した。

  「ぐぉぉぉ」

  一声、魔物は邪魔だとばかりに声をあげると、その強靭な前足の爪で父親の胸を貫き投げ捨てた。それを見た母親は、ロトを守りきれないと判断し、ロトを冒険者達のほうへ投げた。

  空中でロトは、母親を見ていた。空中には短い時間しかいなかったはずだが、ロトにはずいぶんと、ゆっくり景色が動いているように感じられた。

  母親が何か言おうと口を開こうとした時、魔物が、母親の喉に噛み付いた。そして、冒険者達が放った矢や魔法の火の玉が、魔物を貫いた。


  ロトは、そこで目を覚まし、呟いた。

「お母さん....」

 

 ロトは起き上がろうとしたが、右肩が突っ張ってうまく起き上がれなかった。そこで、初めて自分が知らない部屋にいることに気づいた。

  「気が付きましたか。痛いところはないですか?」

  横から声をかけられる。ロトは頭だけ横に向けた。薄い茶髪のエプロンを付けた女性が座っていた。

  「だ、大丈夫です。ちょっと、肩が突っ張るだけです」

  ロトは、上半身を起こすのを手伝ってもらいながら答えた。

  「そうですか。ちょっと、待っていて下さいね」

  薄い茶髪の女性は、ロトの背中にクッションを優しく当ててから、部屋を出て行った。

  ロトは、広い部屋の中をキョロキョロと見廻した。

  天井が高い。格子状の角材で正方形に区切られている。あれはなんだろうと、天井から吊り下げられているランプを集めたようなものを見る。壁もロト達が住むニング村の家みたいに、土壁やレンガの壁がむき出しになってなく、白い一枚の板のようなものだった。壁にはどこかの木々や川を描いた絵が飾ってある。暖炉もある。

「ここは、どこかの貴族様のお屋敷なんだろうかな」

  ロトは、興味深そうに部屋の中の物を見ていた。


 ガッチャ。扉が開く。

 扉からは、数人の人がぞろぞろと入ってきた。あの金髪の女の子がいる。だったら、ここはあの女の子の家なのかなと、ロトは思った。赤髪の女性の騎士もいる。先程の薄い茶髪の女性は、最後に部屋に入ると後ろの方で隠れるように立っている。


「どうじゃな。痛みとかはあるかね」

 司祭らしき白髪の男性が、ロトの右肩を触りながら言った。

  「大丈夫です。ちょっと、突っ張る感じはしますけど。司祭様が治療してくれたのですか?」

  「うむ、突っ張る感じがするの身体が〝再生〟している証拠じゃ。確かに、儂が最終的には治療したが、姫様がすぐに治癒魔法をかけて、血を止めて下さったから助かったのじゃ。感謝するじゃぞ」

  司祭に言われて、ロトは金髪の女の子を見た。大量の血が流れてしまったら、助けられてなかったらしい。

  「姫様、ありがとうございます」

  姫様ってことは、やっぱりどこかの貴族様のお屋敷なんだろうな。金髪の女の子は、貴族様の娘なんだなっと、思いながらロトは言った。

  「礼を言うのは妾のほうじゃ!」

  金髪の女の子は、怒ったように言った。

  「助けてくれて、ありがとう。妾はキャサリン。キャシーと呼んでおくれ」

  金髪の女の子。キャサリン姫は、ロトの手を取り言った。

  「ニング村のロト君だね。君が眠ている間に調べさせてもらったよ。私は、アンだ。君の叔父上には、ここにいることは伝えている。私からも礼を言わせてくれ。キャシー姫様を助けてくれて、ありがとう」

  あの背の高い赤髪の女性騎士のアンが、頭を下げながら言った。

  「そ、そんな、頭を上げて下さい騎士様。ぼ、ぼくはそんな大したことなんて」

  ロトは、慌ててアンの頭を上げてもらおうとして言った。


「私からも、礼を言わせてもらって良いかな。私はグレゴリー・ファレーズだ。娘を助けてくれてありがとう」

  キャサリン姫と同じ金髪をした、大柄な髭を生やした男性が言った。

  「グレゴリー・ファレーズ様・・・・。え、え、えええぇぇぇ!お、お、王様ですかあ。」

  ロト達が住むファレーズ王国と同じ名を持つ貴族は王族しかいない。ロトは、飛び上がって慌ててベットを降りて、膝をつこうとした。

  「ハハハ。良い良い。そのままで良い。ここには、1人の父親としておるからのぉ」

 グレゴリー王は、ロトをベットに戻させて言った。

  「さて、娘を助けてくれた褒美はとして、ニング村のロトよ、何か欲しいものあるかな」

  グレゴリー王は、娘のキャサリン妃の肩に手を置きながら言った。

  「ぼ、僕は、そんな、たいしたこと、してないです」

  ロトは、俯向きながら言った。

  「どうしてそう思うのかね。そなたは立派なことをしたのだぞ」

  グレゴリー王は、静かに言い、続きを促した。

  「僕は、逃げようとしたんです。姫様の悲鳴を聞いて、行ったのですが、茂みの中から見てて、その、でも、怖くて、動けなかったんです。騎士様が怪我を、したのを見て、助けてを、助けてを呼びに行くって、言い訳、作って、逃げようと、したんです」

  ロトは、やはり俯向きながら、消えそうな声で言った。

  「それでも、そなたは娘を、キャシーを助けてくれたんだぞ」

  グレゴリー王は、やはり静かに言った。

  「声が聞こえたのです。頭の中に声が聞こえたのです。また、後悔するのかって。そのあとは、無我夢中でよく覚えてないです。結局、怪我して、ご迷惑を掛けてしまって・・・」

  ロトは、泣きそうな声で言った。

  「そんなことはないぞ!ロト君。あの時、君が飛び出さなければ、姫様は襲われていた。君が、姫様を助けたんだ」

  赤髪の騎士のアンが、力強く言う。

  「そうだぞ、ロトよ。そなたは、騎士の誉を掴んだんだぞ。騎士は、主君の為に身体を張って守ることが、騎士のとっての最高の名誉だ。王女であるキャシーを身を呈して守ったそなたには、望みを言う資格がある。さあ、ロトよ、そなたの望みを言いなさい」

 グレゴリー王は、静かに慈愛のこもった声で言った。

「もう後悔はしたくないです。5歳の時、両親が魔物に殺されました。僕を庇って死にました。僕がすぐに逃げれば、両親は助かったのです。でも、僕が・・・、僕が怖くて動けなくなったから、両親は僕を庇って死んだんです。あの時、ちゃんと動けたらって思うんです。いつも、いつも後悔しているんです。王様、僕、強くなりたいです。自分をちゃんと守りたいです。大切な人達をちゃんと守りたいです。だから、僕を強くして下さい。それが望みです」

  ロトは、顔を上げって、はっきりと言った。


  グレゴリー王達は、当然に7年前にロトの起こった、不幸な出来事を知っていた。ニング村での調査で、ロトが7年前の出来事からあまり笑わなくなったことも、笑うとしても愛想笑いをするだけだと叔父のマークから聞いていた。

  「ハハハ、そうか。強くなりたいか。うん、わかったぞ。そなたの望みを叶えてやる。近衛騎士団、騎士アンよ、ロトをそなたの見習い騎士とする。存分に鍛えてやるがよい」

  グレゴリー王は、側に控える赤髪の騎士アンに言った。

  「はっ!」

 アンは、短く答える。

  「うむ、頼むぞ。ロトよ、ゆっくり静養しなさい。身体をしっかり治すものも大事なことだぞ」

  グレゴリー王は、静かに慈愛のこもった声で言い、ロトの肩を優しく叩くと、部屋から出て行った。

「ロト、また、妾を守っておくれ。だから、しっかり身体を治すのじゃぞ」

 キャサリン姫は、その宝石のような青い瞳を輝かせながら言った。

  「はい、姫様」

 ロトは、言った。いつのまにか、目からは涙が溢れているのであった。


 こうして、ニング村のロトはファレーズ王国近衛騎士団の見習い騎士となったのであった。


 


 



 

 

 

 

 


 

拙文を読んで下さり、ありがとうございます。

うまく文章をまとめられず、四苦八苦してますが、暖かく見守って下さい。

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