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272  作者: Nora_
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08

「ふぁ……朝か」


 なんかどんどんと寒くなっているな。

 そのせいで布団から出る際に少しだけ勇気がいるようになった。

 これからどんどん酷くなっていくことを考えるとテンションが下がる。

 それでも、平日なら出ていくしかない。


「あ、お兄ちゃんおはよう」

「おはよう」


 あれからはあくまで普通の妹だ。

 なにか出してくるわけでもなく、これまで通りのいい妹。

 でも、なにか我慢させてしまっているのなら気になる。


「円、帰ったら話をしよう」

「え」

「まあ、今日も頑張ろうぜ」


 ないのかあるのか、それこそ妹からすれば勇気のいることか。

 あの日、生駒はこっちの肩に触れただけで帰ってしまったからこの場合は……ないのか?


「お、来たね」


 妹と途中で別れて少しして、腕を組みながら待っていた生駒と遭遇した。


「我妻――」

「唐突だが、生駒は生駒妹さんと一緒に登校しているのか?」

「は、はい? あ、まあ、途中まではね」

「そうか、仲良くできているようだなによりだ」


 この前のあれがなければ俺らもただ仲良くできている兄妹でしかないのだが。


「つか、生駒妹さんってなに?」

「いやほら、生駒呼びだと被るからな」

「だったら薫子でおけ」


 言うと思った、「そこは花乃子でよくない?」とはならないだろう。

 まあ、妹さんのことを名前で呼ぶことになるよりはいいか……?


「日野的になあ」

「寒いからはよ」

「薫子」

「おけおけ、歩きながら話そうよ」


 さて、なにを言われるのか。

 話すようになってからもこんなことは一度もなかったからな。


「あ、円ちゃんとのことは我妻がなんとかしなければならないことだからそのことじゃないよ? 私が言いたいのは昨日の夜、裕香妹ちゃんが家に来たということだね」

「はは、真似するなよ」

「緑《みどり》ちゃんって名前なんだ。それでね、向こうの方からお姉ちゃんと仲良くしたいと言ってくれてね」

「おお、そうかっ」


 本当に嫌なら五分程度だって話すことはできないか。

 俺はなにもできていないが、こうなったことはマジで嬉しい。


「で、裕香と話すときに私にいてほしいって話になったのさ」

「そうだな、生駒がいてくれれば大きいだろ」

「でも、それってどうなん……? って考えこんじゃってね」


 それこそこういうときに全力で乗っかりそうなのに意外な存在だ。

 普段のあれは装っているところもあるのだろうか?


「またあれか? 自分がいるところでだけ変えてくれても効果が薄いと」

「そそ。円ちゃんに対して我妻が頑張らなければいけないように、裕香も緑ちゃんに対して自分で頑張らなければいけないところだと思うのさ」


 そういえば今日は伸ばさないな。


「俺は生駒について詳しくないからあれだが、なんか生駒らしくないな」

「でも、そう思わない?」

「伸ばさないのもな」

「ああ、あれ気に入っていたんだっけ。今日は出ないかもね」

「無理やり装っていただけならあれだが、俺はあの明るい生駒が好きだから戻してもらいたいな」


 多分、今城姉妹にとってもあのキャラは強く影響する。

 真面目モードでしっかり話を聞いてくれるというのもありがたい話だがな。

 ただ単に俺が気に入っているだけの話だとしたら少し恥ずかしいところか。


「えっ、告白されちゃったよー!」

「はいいとして、どうするか」

「うーん……」


 結局、考え込んでしまうのを抑え込んで彼女に合わせてもらうしかないか。

 そういうのもあって、今日はほとんどにこにこしない生駒となった。


「我妻、ちょっちいってくるね」

「ああ、悪いな」

「これで変わるといいんだけどね」


 今日はこっちも帰るか。

 先生が来てしまうとついつい話してしまうからすぐに荷物を持って学校をあとにする。


「お兄ちゃん」

「お、円か」


 中学校と高校の中間地点ぐらいだ。


「お兄ちゃん、彼氏がいる人に告白をするのは悪いことだと思うよ」

「告白はしていないぞ、ただ生駒は伸ばしてくれていた方がいいというだけで」

「駄目だと思う、直して?」

「ち、近いぞ」


 いまの妹には色々な意味で包丁が似合いそうだ。

 とか考えている場合ではない、こんなにすぐに情報が共有されているとは……。

 いや俺も反省してすぐに調子に乗ったのが悪いか。


「でも、よかったよ、今城さんに対して頑張ってくれているのが薫子さんで」

「んー生駒が持ち掛けて生駒が頑張っているならいいんだが……」

「うん、だから中途半端に期待させないようにこれからはやめた方がいいよ」


 ひぇ……助けてくれぇえええ。

 正論すぎるからこそ受け止めきれないときというのもある。


「ふふ、だけどすぐに出てきてくれたのは高評価だよ。だって大好きな矢代先生との会話もしないで出てきたということでしょ?」

「あーほら、生駒に頑張ってもらっている状態だったからさ」

「理由はなんでもいいよ、偉い偉い」


 ダークな感じに染まってしまっている。

 これは俺だけでなんとかできるようなことではなかった。




「我妻先輩こんにちは!」

「お、こんにちは」


 まだ来てくれるのか、お姉ちゃんと同じでいい子だ。


「あれから今城さんも変わったんですよ? いまは友達みたいに話せていて驚いています」

「薫子のおかげだな」

「あれっ? 名前で呼ぶようになったんですか!?」

「あーそうしろって本人からな」


 また日野のところにいってそのことを話してあるから問題ないと思いたい。

 で、その日野は「本人が許可しているうえに名前で呼んだぐらいで不満なんかないよ」といつも通りのところを見せてくれた形になる。


「じゃあ、私のことも花乃子って――ひぃ!?」

「ん? なんでそんな悲鳴を上げるの? ただ肩に触れただけだけど」

「だ、だって円っちが……」

「名前で呼ぶぐらい普通だよ」

「でもさ、円っちは男の子のこと全員、名字で呼んでいるよね? みんな名前で呼んでもらいたそうにしているのに」


 あ、そうだったのか。

 頼まれたらすぐに受け入れてそうだったから意外だ。

 それこそ、優しすぎて何人もの男子を勘違いさせていそうだったのに。


「そうかな、別になにか拘りがあるわけじゃないよ?」

「ふふふ、もし我妻先輩が友達だったら――」

「それなら俊君って呼んでいるね」


 おお、久しぶりの俺の名前だ。

 というのも、両親とあまり会話をしないし、妹も「お兄ちゃん」呼び固定だから自分でも忘れそうになるぐらい――は大袈裟としても、うん、出なさすぎて「おお」となることだ。


「ほらあっ、そういうところだよ!」

「ん? そういうところと言われても困るけど。だって他の男の子とお兄ちゃんは違うから」

「ど、どう違うの?」

「私の理想の男の子はお兄ちゃんだから」

「う、うはあ……マジかぁ」


 マジかぁ……理想が低すぎるだろ。

 あまり言いたくはないが、目が……なあ?

 というか、大事な娘に悪影響を与えたとして両親からぶっ飛ばされかねない件だ。

 別に普段から妹ばかり贔屓しているというわけではなくても、こうなってしまったら流石にやばい。


「ふーむ、だけど我妻先輩は話しやすいし、優しいし、なんかこっちが不安になったときでも『大丈夫だ』と声をかけてくれそうだし……」


 おいおい、今度は本気で腹を攻撃されかねないぞ。

 別に無理をして合わせようとしなくていいのに。

 みんな意見が一緒なんてありえないのだ、少し怖い顔をされても思っていることを出していくべきだ。


「話しやすいのは薫子だ」

「だから異性版のお姉ちゃんなんですよ」

「いや待て待て、俺は薫子みたいにいい人間じゃないぞ、役に立てないぞ」

「その割には裕香さん、我妻先輩といたときに凄く優しい顔をしていましたけど」

「それは今城も優しいというだけだ。あれだ、表にいいところが自然と出てしまうんだろ」


 このままでは危険だ。

 だから家まで送って帰ろうとしたところで「お、円ちゃんだ」とお姉ちゃんの方が出てきてしまった。

 だが、今日はちゃんと日野もいてくれてよかった。


「スグーなんでそんな顔をしてんの?」

「とにかく、妹さ――花乃子は送り届けたからな」


 俺の名前だけにすぐに帰らなければいけない。


「大介、スグの家にいってきていい?」

「おう、薫子の動きたいように動いてくれればいいよ」


 滅茶苦茶優しい声音と、優しい顔だった。

 元々がいいところにそういうところがプラスされて物凄く高いレベルとなっている。

 薫子が仮に彼を選んでいなかったとしてもそういうことに困らないぐらいには興味を持たれていただろう。

 でも、もう少しぐらいはぐいぐいいってもいい気がした。


「ありがとっ、夜にまた家にいくから」

「危ないからその場合は俺が動くよ」

「そう? 言うことを聞いてもらってばかりだからたまには私から動こうと思ったんだけど」

「いや、それよりも危ないことに巻き込まれないように俺が動きたいんだ」

「そ、そっか」


 いや待て、ここは空気を読まなければいけないところだろ。

 だからなにかを言われる前に妹の腕を掴んで離れた、はずだったのに。


「お姉ちゃんはすぐに目の前でイチャイチャするんですよ? 本当に酷いですよね」

「なんでだ……」


 これではなんのためにあそこまでいったのか分からない。

 また、妹が怖い状態なのによく続けられるなというところ。

 流石にメンタルが強すぎる、下手をしたらお姉ちゃんよりも強いかもしれない。


「えっ、あの場所に私だけ残そうとしたんですかっ? うぅっ、我妻先輩はなんて酷い人なの!?」

「あ、そうそう、俺はそれなんだよ」

「って、そうやってさっきの話をなかったことにしようとしても駄目ですからね?」

「日野のことを知った後ではとてもても……」


 普段からネガティブ思考をあまりしない俺だって日野が相手では駄目だ。

 絶対に同学年にああいう存在はいるのだ。

 どこかの整った誰かは教師すらもその魅力で惹きつけてしまっているかもしれない。


「我妻先輩と日野先輩の違いなんて彼女がいるかどうかじゃないですか」

「円と一緒に病院にいくか?」

「受け入れすぎないのも問題ですよー」


 世事であってもなんでもぶつければいいわけではないのだ。

 本人が少しぐらいは「そ、そうかも?」となるレベルのものでなければ嫌味とか皮肉にしか聞こえない。

 それこそ別の意味で残酷な存在だった。




「お兄ちゃん見てこれ」

「ん? うわ、すごいびっしり書き込まれているな」

「不安になって集中していたらこうなったの。でも、頭の中にちゃんと入っているのかどうかと聞かれたら……そうじゃないと答えるしかないかな」


 俺は悪い意味で参考になるだろうな。

 そこまで真面目にやれていなかったから「こうはならないようにしよう」となるはずだ。


「花乃子ちゃんも一緒にやってくれていたんだけど、あの子の集中力って本当にすごいの。とにかく、切り替える能力が高いんだよ」

「薫子もそうだな、休み時間と授業中で切り替え力が高い」

「だからそういう子が一緒にやってくれていると心強いなあって思って」


 横にいるだけで力を与えられてしまうあの姉妹はすごい。


「緑ちゃんとも仲良くなれたんだ」

「名前で呼び始めたぐらいなのか」

「うん、はは、緑ちゃんと今城さんは姉妹らしくないけどね」


 読書好きという話が本当ならそう変わらないと思うが。

 今城も薫子とそう変わらない、なんに対しても真剣で、誰に対しても優しくできる強さがある。

 余裕がある状態でなければそんなことはできないだろうからな。


「うぅ、今城さんに会いたくなっちゃった」


 そこは妹さんじゃないのか。


「そうだな、まだ十八時ぐらいだからメッセージとかを送ってみたらどうだ?」

「うん」


 こうしていい人達に囲まれている以上、悪い意味で参考になってしまうような人間は離れた方がいいのだが……この時間だと任せておくのは不安だ。

 だから動くことになってもいいように待っていると「今城さんが来てくれるみたい」とのことだったので迎えにいくことにした。


「あ、本当に来てくれたんだ」

「まあな」


 迎えに来たのはいいが、なんか恥ずかしい。


「我妻君、緑とゆっくり話せるようになったよ」

「よかったな」

「薫子ちゃんの活躍は確かに大きいけど、我妻君が言い出してくれたからこうなったんだよ? だからありがとね」


 これには流石に全力で乗っかれはしなかった。

 でも、ここで抵抗してもお互いに冷えるだけだから「おう」だけで終わらせる。


「あっ、今城さん!」

「裕香って呼んでくれないかな?」

「裕香さんっ、来てくれてありがとうございます!」

「ふふ、呼んでくれてありがとうございます」


 今城みたいな静かな感じも好きだな。


「お家でね、緑は円ちゃんの話ばかりするんだ。だから少し悔しくなっちゃったぐらい」


 はまれば一気に変わるのは誰だってそうだ。

 今回はたまたま対象が人だっただけ、ここから更に上がっていくか段々と収まっていくのかは妹さん次第か。


「でも、花乃子ちゃんも仲良くできていますからね」

「んーその割には円ちゃんに偏り切っているんだよね。二人の時間が多いとかかな?」

「あー少しはそういうこともありますけど……でも、悪い意味でではないのならありがたいことですね」


 表情がコロコロ変わって見ていて飽きない。

 妹が相手なら無表情の子でも影響されて笑ってしまいそうだ。

 ただ、マイナス方向の表情のときは引っ張りすぎてしまう可能性もあるが。


「悪い意味でなんかありえないよ。緑なんてすぐに『お姉ちゃんも円さんを見習った方がいいよ』と言ってくるぐらいだよ?」

「うっ、そう言わせたわけでもないのに恥ずかしさが……」

「でも、実際に円ちゃんにはいいところが沢山あって真似しなければいけないところも沢山あるからね」


 そう考えると最初はともかく、今城は基本的にプラス方向の顔だ。


「な、なにかついていたりする?」

「いや、ありがとな」

「え、ど、どうしたの?」


 分かっていてもそうでなくてもどちらでもいい。

 彼女が来てくれたおかげで妹も満足していそうだし、ほのぼのとした気持ちになれたのでよかった。

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