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272  作者: Nora_
7/10

07

「ねー我妻ー」

「ちょ……流石にくっつきすぎじゃない?」

「だって全く相手をしてくれないんだから仕方がなくない?」


 はぁ……せっかく生駒達が午前中に来てくれているのに今日は元気がなかった。

 何故だかやたらと眠い。


「日野君に怒られちゃうよ?」

「んーもしそうなったら我妻になんとかしてもらうから大丈夫」

「と、ということは少し危ない行為だって薫子ちゃんも自覚しているんだね……」


 仕方がない、眠たいとしてもこのまま任せておくわけにはいかない。

 また日野のクラスまでいって呼んでくることにした。

 彼氏さえ近くにいてくれればそっちに意識がいくだろうからと俺は一人離れて廊下へ。

 どこでもいい、中央に陣取ったりしなければ邪魔にもならないだろう。


「ふぁ……」

「ふふ、大きなため息だね」

「生駒達といた方がいいぞ」

「二人が揃ったらほら、空気を読んであげないといけないから」


 そういうもんかねえ。

 まあ、今日の生駒のテンション的に付いていくのは大変だろうからこういう時間もありか……?


「足、貸してあげようか?」

「いやいいよ、今城からしたら時間の無駄でしかないしな」

「そっか――あ、眠たくなくなったら今度また本を貸してあげるね」

「お、マジか……って、考え方が汚いよな」


 興味があるなら自分で買えよってなるよな。


「私としては前も言ったと思うけど、興味を持ってもらえたら嬉しいからいいんだよ」

「今城、なんでそんなに俺に優しくしてくれるんだ?」

「ま、真似しないでよ……」

「はは、悪い」


 お、眠気も少しどこかにいったな。

 いまはもうあんまり時間がないからあれだが、次の時間は元気よく迎えられそうだ。


「む、私の魅力的なボディに触れていても起きなかったくせに裕香と少し話したぐらいで元気になるとは……」

「せっかく来てくれたのに悪かったな」

「いや別に……謝る必要はないけどー」


 しゃきっとしよう。


「ふふ、ふふふ」

「どうした?」

「魅力的なボディというところを否定しませんでしたな?」

「そうだな」

「やだもー照れちゃうじゃん」


 別にその場任せで合わせているわけではない。

 とはいえ、日野はもう少しぐらい警戒した方がいい。

 どうせ生駒にどうこう言っても聞いてもらえないだろうからここは日野が大事だ。


「円ちゃんとはどーなん?」

「普通に仲良くやれているよ、あれからは暗い顔をすることも全くなくなったからな。今城とか生駒のおかげだ」


 先生のおかげでもあるが。

 結局、あの日はなにかお礼をすることができなかったから今度時間を貰おう。

 物とかは受け取らないだろうから仕事を手伝うとかがいいかな。


「仲良くできているならよかったよーん、絶対にそのままの方がいいからね? たーだ、妹ちゃんばかりに偏らせないで裕香のことも忘れないであげてね」

「ああ」

「話はそれだけーじゃね!」


 もうあれ才能の塊だろ。


「ねえ我妻君、妹に……会いたい?」

「悪い、やっぱりやめておくわ。それこそ大事な受験シーズンに心理的な負担をかけたくないからな」

「……仲良くしたいんだよね、我妻君と円ちゃんが協力してくれたらできるかも」

「今城のために動いてやりたいが、許可を貰えないとどうしてもな」


 だからここは妹さんが許可してくれるのが一番だった。

 いやもう本当に矛盾しているが、このままだと持ち掛けて期待させただけの屑になってしまうからな……。


「それなら話してみるね、それで反応がよかったら協力を……お願いします」

「お、おう」


 さて、どうなるのか。

 少し不安になりながらも放課後まで過ごして、今日は「じゃあね」と今城はすぐに帰っていった。


「今日はもう我妻だけか」

「はい」


 三十分ぐらいが経過して先生が登場と。


「急に妹云々と言ってきて怖くなったのか?」

「あ、いえ、仲良くしたいから協力をしてほしいと頼まれまして。今日は妹さんにまず許可を貰うために帰ったんですよ」

「まあ、家族とぐらいは仲良くいたいよな。ふむ、我妻に頼らなければいけないぐらいか」


 先生が俺経由で妹を求めているように今城も同じだと思うが。


「俺としては同級生の円の方が力になれると思うんですよ。ただ、話しかけづらいようなので少し動こうかと」

「ここで役に立てたら我妻的にも今城的にも大きいな」


 ほとんどは俺的には、ということになる。

 とにかく、俺からしたら動くことができなければ終わりだ。

 妹さんも今城みたいな人であることを願っておこう。


「あ、そうだ。先生になにかお礼がしたいのでしてほしいことを言ってください」

「我妻にしてもらいたいことはないな」

「はは、言うと思いましたよ。でも、諦めませんからね」


 そうだ、書類と睨めっこしている時間も多いだろうから肩を揉むというのはどうだろうか?


「はぁ……そういうのは気になる異性だけにしておけ」

「肩でも揉みますよ」

「まあ待て、そこに座れ」

「既に座っています」


 うわ、凄く怖い顔だ。

 怖いから物理的に触れるのはやめて飲み物で済ませてしまうことにした。

 買ってきて隣に置いてみたら流石に投げ返されることもなく、それでもため息をついていたぐらいだった。




「『いいよー』だって」

「ほ、本当に仲良くないのか?」

「うん、だって一日に五分ぐらいしか話せないよ?」


 なんでその軽さでその短さなのか。

 とりあえず、待ってくれているみたいなのでいくことにした。


「お、あそこにいるのが――」

「よく来てくれましたねっ」


 え、この子は絶対に違うだろ。

 隣を見てみても「なんで?」みたいな顔をしている今城がいるだけだ。


「あれー? どうしましたー?」

「あ、あのさ、間違っていたら悪いんだが……生駒の妹さんだろ?」

「な」


 あ、固まってしまった。

 それでもどこかから妹も出てきて答え合わせの時間となった。


「花乃子《かのこ》ちゃん、流石にもう少しぐらいは変えないと駄目だよ。そうでなくてもお兄ちゃんは薫子さんのことを気に入っているんだから」

「あちゃあ……お姉ちゃんがこれでいいって言っていたんだけどなぁ……」


 なんならそのまま生駒が出てくる勢い――とはならずにここにいるのは俺達だけだ。


「我妻君ごめん、本当は『嫌だ』って断られちゃって……」

「そうだったのか。でも、それなら俺のことを出さずに円やこの子に協力してもらえばよかったのに」

「それがですねー私達がいっても駄目だったんですよ。敗北済みです」

「そ、そこまでか」


 嘘だろ、どれだけ手強いのか。

 あと、そうなるまでに今城はなにをしてしまったのか、それとも、なにもなさすぎたから寂しくて素直になれないだけなのだろうか?


「裕香先輩のことを出したりしたら……普段はほとんど喋らないあの子でも大爆発ですよ」

「もう私達が来ることとお姉さんである今城さんのことを出されることが内側でリンクしてしまっているから駄目なんだよ」

「あんまり友達といない子なのか?」


 先生がいたら絶対にツッコミを入れられる件だ。

 少し調子に乗りすぎたか、俺みたいな存在が少ないとありがたいのだが。


「そうですね、基本的に読書ばかりしています」

「はは、そういうところは姉妹で似ているな」

「ちょ、ちょっと、そこ笑うところなの?」


 ああ、悪いな今城よ……。

 ふぅ、よし、ここから切り替えよう。


「似ているところがあるなら仲良くすることも余裕だと思うぞ」

「ふむ、ここはお兄さんだけで近づくのはどうですかー? 裕香先輩経由で誘おうとしてもそりゃ無駄に終わりますよって話ですよー」


 少なくとも無理やり連れていくぐらいでいてくれないと俺的には動けない。

 既に断られている状態で重ねたらどんどん悪い状態に傾いていく。


「はーい、いきましょー」

「生駒がいた方がいいな」

「む、確かにそれはそうかもしれません。あの子、お姉ちゃんとは結構楽しそうに話していましたからねー」


 なんだ、それなら尚更余裕だろう。

 日野には悪いが、ここでは生駒の力が必要なのだ。


「これなら最初から薫子さんを頼ればよかったような気が……」

「ひ、日野君といたいだろうからって勇気が出なくて……」

「同性のお姉ちゃんよりもお兄さんは頼りやすかったんですかー?」

「あ、我妻君の方から持ち掛けてくれたのがやっぱり違うかなって……」

「そもそも、そういうことでお姉ちゃんが動いていなかったことが意外なんですけどねーま、家に寄りましょー」


 彼女が家に入って少ししてから「おいおいおーい」と姉の方が出てきてくれた。

 そのままこちらの腹に肘で軽く攻撃を仕掛けつつ「裕香の妹にも手を出そうとするなんてイケない男の子めー」と。

 ああ、なんか本物が出てくると落ち着くな。


「ちょい、なにその顔」

「なんかもうその伸ばす癖が落ち着くんだよ」

「花乃子じゃまだ駄目なん?」

「んーそういうわけじゃないぞ」


 やっぱり声音も違うから差が出てしまっても仕方がない。

 自然とそうなったわけではなくて真似をしているところもあるだろうから多分だが、そういうところが違うのだ。


「酷いことを言うお兄さん、我妻先輩にはこうですっ」

「待て待て、きみも彼氏がいるんだからそれは不味いだろ?」

「え、彼氏? お姉ちゃん、なんか勝手に彼氏がいることにされているよ?」

「え、ち、違うのか?」「ち、違うの?」


 首を振られてしまった。

 慌てて妹を見てみると両手を合わせて「ごめん」と謝ってくれたが……。


「あー……そういえばむかついて円ちんにそんな話もしたっけ。正解はお姉ちゃんにだけ彼氏がいるって話でした、ちゃんちゃん」

「な、なんでそんな嘘を……私の前でも『彼ぴっぴがさー!』ってほとんど毎日のように言っていたのに……」

「え、そんなの全くできないからむかついただけだけど? え、そんな嘘をついて虚しくなってヤケになっていたぐらいだけど?」


 目がやばい、顔も怖い。

 ただ、やっぱりこうして恋をすることが大事な子もいるのだなと。

 だったら同級生の妹も少しぐらいはあったりとか、なあ?

 この前、先生に聞いてもらいたかったことというのはそこに関係しているのかもしれない。

 うん、だからこそ相談できる同性がいるというのは大きいよな。


「はーいはい、焦らなくてもこれから彼氏ぐらいできるって」

「本当に? え、これまで一回もできたことがないんですけど?」

「うわあ……もう我妻兄妹のせいで面倒くさいことになったじゃんかーもう私だけでいってくるから花乃子のことはよろしく!」


 え、これってどうなるのか。


「あー今城」

「どうしたの?」

「俺から協力するとか言っておいてこんなんで悪いな。結局、いつも今城とか生駒とかに助けられてしまっているからさ」

「あ、謝る必要はないよ、それに私的には……嬉しかったよ?」

「今城……」


 自分に甘いからこう言われてしまったらそのまま乗っかろうとしてしまう。

 でも、自分がなにかで引っかからないように厳しくしろなんてぶつけることはできないからこれで終わりだろうか。


「ちょちょちょちょーい、もしかして二人ってそういう感じなんですか? もし目の前でいちゃいちゃするようなら許しませんよ?」

「安心しろ、俺らの間にはなにもないよ。ただ、友達としてなにかしてやりたかっただけだ」

「そうそう、私も我妻君が困っているときは動いてあげたい気持ちになるぐらいだね」


 どうせいまこうしてハイテンションになっている彼女だって同じようにするだろう。

 明るい人であればあるほど困っている人を放っておけないはずだ。


「なんかあやしぃ~円っち的にどう?」

「面白くない」

「「「え、あ、あれ?」」」


 暗い顔をすることはあってもここまで冷たい顔をする妹は初めて見た。


「今城さんや薫子さんにばかり優しくするのは嫌だよ」

「ちょいちょーい……? ――あ、私ー裕香さんとしたいことがあったから少し離れますねーお姉ちゃんが戻ってくる頃には私達もちゃんと戻ってきますからー」


 ああ……。


「お兄ちゃん」

「お、おう」

「いや……ごめん、なんか余裕がなかった」

「ふぅ、そうか」


 なんか情けないし、生駒には早く戻ってきてもらいたい。

 それで二人で話しながら待っていると「おっまたー」と生駒が。

 彼氏持ちでなく、もっと仲がいい状態だったのなら思わず抱きしめ――はしていないだろうが、駆け寄っていただろうな。


「んー私がいったときはいいけど、多分あれは二人きりになった途端に駄目になる感じだと思う」

「結局、俺らが知らないところで上手くやれないと効果が薄いよな」


 生駒にも迷惑をかけてしまったから最初から持ち掛けなければよかった。

 調子に乗るからこういうことになる、マジで反省しよう。


「そそ、我妻兄妹みたいに仲がいい兄妹ばかりならいいんだけどねー」

「あと生駒姉妹みたいにな」

「まあねーって、花乃子と裕香はどこにいったん?」


 分からない、が、戻ってはくるだろう。

 引き続き話しながら待つことになると考えていたところで、


「薫子さん、少し聞いてもらいたいことがあるんですけど……」

「おけおけ、お兄ちゃんがいない方が――分かったよーん。いーい? 我妻はそこで待っておくこと」

「おう」


 今度は妹と生駒の二人がどこかにいった。

 まあでも、動いてもらったのだから不満も抱かずに待っておくしかない。

 そもそも、俺以外の人だけで行動したいならそれはそれでいいことだからな。


「あれれー遠くから見えたときは確かにお姉ちゃんがいたはずなんだけどなー」

「円が連れていったぞ」

「あーさっきのってなんなんです?」

「分からない」

「あ、あのさ、間違っていなかったらなんだけど……」


 今城が話し進めていく内にどんどんと生駒妹さんの顔がすごいことになっていった。

 いやでもまあ、そういう顔をしたくなる気持ちは分かる。


「きょ、兄妹なんですよ?」

「多分、だよ。でも、さっきの円ちゃんは日野君とお付き合いをする前の薫子ちゃんに似ていたんだ」

「な、なにも敢えてお兄さんの我妻先輩じゃなくても……」


 確かに。

 もし本当にそうならいつからなのか。

 昔からということなら隠す能力がすごすぎるとしか言いようがなかった。

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