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272  作者: Nora_
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06

「――ということがあったんですよ」

「ほう、仲良くやれているようでなによりだ。やっぱり今城は大事な存在だったな」

「ただ、最後の円の行動が気になって、ですね」

「んーそっちの方は円とまた直接話したいな」

「それなら言っておきますよ、別に話せなくなったとかじゃないですからね」


 今日なんて一緒に登校してきたぐらいだ。

 もし学校が同じだったら一旦別れた後もすぐに集まっていそうなぐらいの勢いだった。


「いい子だ、ちゃんと教えてくれる我妻は好きだぞ」

「先生が拗ねてしまったら困りますからね」

「これからもそうやって頑張ってくれ」


 これでよし、先生も安心できるだろう。

 あとしなければいけないことは……。


「日野、ちょっといいか?」

「お、これはまたレアなことだな」

「生駒のことで話したいことがあってさ」


 別に俺が呼んだわけでも、彼氏持ちの生駒にちょっかいを出したわけでもないが、無駄に敵視をされたくないからちゃんと教えておいた。


「はは、いちいち気にするなよ」

「でも、面白くないことだろ?」

「薫子が俺のところに戻ってきてくれればそれでいい。第一、縛ろうとしたって無理だよ」

「生駒も日野も優しいな」

「薫子は特にそうだな」


 戻るか。

 今日はそれぞれ別々に過ごしていたからこちらが一緒に過ごすようなことはなかった。

 まあ、別々に過ごしていなくても近づくことはしないから言い訳みたいなものに近いが。

 土日と比べて一人の時間が多かったから休まったのは休まったな。

 今日も勉強会がある、そのときに昨日みたいにならないようにしたいからここで無駄に体力を使っている場合ではないのだ。


「おっしゃ」

「待て」


 えぇ……。

 というか、俺も何故すぐに自分に放たれた言葉だと判断してしまったのか。

 これが自意識過剰というやつだ、恥ずかしすぎる。


「いい子だ」

「俺の自意識過剰というわけじゃなかったんですね」


 だが、普通に仕事があるいま呼び止めてどうするよという話だ。


「今日も運ぶのを手伝ってくれ」

「あ、はい」


 妹が目当てだとしても周りからしたら露骨に見えないだろうか。


「これだ」

「今日は本当に山ですね」

「ああ、時間がかかってもいいから頼む」

「先生、俺の下校時間を上手く調節しようとしていないですか?」

「気になったんだから仕方がないだろ」


 いやでも、なにかで悩んでいるのなら聞いてもらえた方がいいか。

 あの話はもう妹にもしてあるし、許可も貰えているから時間がズレるという話でしかない。

 もう十二月になってすぐに私立受験がきてしまうからここで躓いている場合ではないのだ。

 とはいえ、受験が終わるまで耐えろなんて言うのは酷だから大事なのは先生みたいな存在ということになる。

 とりあえず、山を片付けていくことにした。


「って、大袈裟すぎたか」


 結局、ただ運ぶだけなら紙の山なんて大したことはない。

 落として慌てて踏み込んでぐしゃぐしゃに、なんてことにならないように二回に分ける必要はあったが、それだけだ。

 そもそもの話として、別に一緒に帰らなければいけないわけではないのだから先生の行動も謎だった。


「おーい」

「お、今城か」


 今日も当たり前のように残ったんだなあ。

 で、やっぱり生駒にぶつけたあの頼みは聞いてもらえなかったのかこれは。

 でも、仕方がないよな。

 放課後ぐらいしかゆっくり一緒にいられないのに彼氏より優先しろなんてぶつけるべきではなかった。


「矢代先生となにを話していたの?」

「ああ、円の様子がおかしくてな」

「その話詳しくお願い」

「お、おう、近いぞ」


 その後の行動が関連していないから難しいのだ。


「え、それならお勉強のために集まったのにお勉強ができなかったということだよね?」

「え、そ、そこか……?」


 直前まで心配したような顔をしていたのに一気にすんとしてしまった。

 彼女はこっちの両肩を掴んでから「本当に分からないの?」と聞いてきたが……。


「わ、分からない……な。円は怒ったわけじゃないのか?」

「はあ~……」


 うわマジか、なんてことだ。

 そういうのは先生がやれば自然なものの、優しい彼女にされるとダメージが……。


「いまから帰るんでしょ? 私もいこうかな」

「分かった。ただ、帰る前に先生に話してからな」

「うん」


 職員室で真面目になにかをやっていた先生を呼び出して終わったことを話す。


「矢代先生、我妻君は基本的にいいのに女の子に対してだけは駄目な行動ばかりしています」

「そうか? その割には今城は一緒にいようとしているよな?」


 おいおい、先生と彼女の性格が逆転してしまったみたいだ。

 あと、先生がこうならこうで何故か物足りない自分がいるから難しい。


「……間違えました、女の子に対してではなくて、円ちゃんに対してだけは駄目な行動ばかりしてしまっています」

「んーそれもなあ。多分、今城や生駒を相手にしているときとは全く違うと思うぞ」

「贔屓しているぐらい……ということですか?」

「我妻は円が大好きだからな」


 まあ、家族だしなあ。

 どうしたって外で出会う人相手とは同じ対応にはならないだろう。


「なるほど、これは私があんまり知らないだけだったんですね。ごめんね我妻君」

「いや、気にするなよ今城。今城だって生駒を相手にするときと妹を相手にするときじゃ変わってくるだろ?」

「実は……あんまり仲良くないんだよね」


 そういえば小学生の頃に仲が悪い兄妹がいたことを思い出した。

 だが、敢えて近づいて可愛くないことを言って離れることばかり繰り返していたから最後ら辺には仲良しなんだと認識されていたが。


「なんか興味出てきたわ。絶対に仲良くやれた方がいいから話させてくれないか?」

「あ、我妻君ってなんで私のことでそんなに一生懸命に動いてくれるの?」

「だって友達でいいんだよな?」

「うん」

「だったら友達が楽しく過ごせるように動きたいだろ」


 あ、べ、別にこれは難しい妹から逃げているわけではない、ラッキーとかは思っていないぞ。


「我妻、友達が多くいる状態で言うならいいが……」

「そんなの関係ないですよ。確か円と同じで中学三年生なんだよな? だったらそろそろ家に帰っているんじゃないか? どうせこの人の仕事はまだ終わらないし、それまでに――あ、おーい?」


 嫌だとしてもそんな走って逃げなくてもいいのに。


「ふっ、下手くそな奴だ」

「でも、先生でもそうするでしょう?」

「どういう理由で仲がよくないのかも分からない状態で動けるわけがないだろう? 別に言い訳と捉えてもいいが、私ならもっと話を聞いてからにするな」

「なるほど」


 それこそここで同性パワーに頼っておくべきだった。

 こういうときこそ生駒だ、明るく近づいて「なになに? どったの?」と聞いてあげれば少しだけでもいい方に傾き始める。

 忙しいようなら妹に頼んで上手くやってもらうのもありだった、それなのに馬鹿だった。


「それに今城はいいが、妹さん的にはいきなり変な男が来られても困るだろう」

「確かにそうでしたね、反省しています」

「まあ、今城も帰ってしまったことだし、我妻も――」

「はい、帰りま――なにか?」


 なんでいちいちこんなに力を込めるのか、服がちぎれてしまいそうなぐらいだ。


「いや、我妻は待っておけ。十九時頃には終わらせるから安心しろ」


 えぇ、今日は時間つぶしができる本だってないんだぞ?

 あ、いやこれは丁度いいか。

 あの人にもお礼をしなければいけないわけで、『円と話す』という目的があるいまだからこそ乗っかっておけばいい。

 俺が改めて「お礼がしたいんですっ、時間をください!」とぶつけたところで絶対に聞いてくれないからな。


「うわっ」


 あらら、教科書なんかに頼って十八時十五分ぐらいまでは頑張れたのにそこから先は駄目だったみたいだ。

 スマホを確認してみると『帰るぞ』とメッセージが、あの日俺も交換させれらていたんだよなあ……。


「は? なんですその髪型は」


 なんか滅茶苦茶くるくるしている、なんならいつもの黒髪でもない。


「一応の偽装だ」

「生駒の真似ですか? あっちは黒髪ですが」

「うるさい、早くいくぞ」


 まあいいか。

 今日は手伝えないから勉強の時間は真面目にやろう。


「ただいまー」

「邪魔するぞ」


 あれ、リビングが真っ暗だ。

 ただ、なにも作っていないということもなくてちゃんとなにかしらが作られている状態だった。


「円は上か、寝ていたら申し訳ないな」

「いってきます」

「いや待て、私がいってくる」

「あ、はい」


 起きていても寝ていても、事前に情報が入っていても先生が急に来たら驚きそうだ。


「我妻ー来てくれ」

「はい」


 二階に上がって部屋を覗いてみると何故か今日は床に張り付いていた。


「お兄ちゃんお帰り」

「ただいま、床に寝転んでどうしたんだ?」

「き、昨日は全くやれなかったから頑張ろうとしたんだけど……」

「集中できなかったんだな。それなのにご飯を作らせてしまって悪いな」

「ううん、それは今日私が当番なんだから普通だよ」


 受験生なのだから全て受け入れるぐらいがいいとは分かっている、だが、そうすると今城と全く話せなくなってしまうから少し引っかかってしまう。


「円、色々と話を聞かせてほしい」

「はい、私も矢代先生に聞いてほしいことがあったので……よろしくお願いします」


 じゃあ、一階の掃除でもしているか。

 ごしごし拭いたりしておけば内側も奇麗になる。

 いてもいなくても悪い影響を与えてしまうとは自分のことながら恐ろしい話だ。

 なにか一つでもいい影響を与えられていればいいのだが……っと、これではどんどんと溜まっていくだけか。


「おりゃあああ!」


 はは、やっぱり掃除はいい。

 内のなにかを処理したいためであってもこれなら周りも喜んでくれる。

 これからも困ったときは掃除をしようと決めながら壁や床なんかを擦り続けた。




「ぷっ、あははっ」

「ど、どうした?」


 先生は二十時前に帰って、食事や入浴を終えてから二人で勉強をしているところだった。


「だ、だっていつもの矢代先生からは考えられないぐらい派手な髪型だったからっ」

「ああ、一応気にしていたみたいだな」

「ふぅ……お兄ちゃん一緒に帰ってきたんでしょ? 勘違いされたら困るのは矢代先生だもんね」


 そうだな、俺と違って注意ぐらいでは終わらないだろうな。


「今日も今城さん達とは話せた?」

「おう、逃げられてしまったがな」


 生駒の方は来なかったから少し嘘をついてしまったようなものか。

 日野だと……ノーカウントになるだろうし。


「え、な、なにをしたの?」

「妹さんと仲良くできていないって話だったから協力しようとしたんだ」


 下心があるように見えてしまったのだろうか?

 俺の中に本当になくても、周りからすれば本当のところがどうかは分からないからなあ。


「え、それで逃げるの? なんでだろう」

「円は今城の妹と友達とか、ないか?」

「ごめん、今城さんの妹さんとは話したことがないんだ。確か隣の隣のクラスだったはずだけど……」

「いや謝る必要なんかないよ」


 大人を呼ばれないように近づくことはやめておこう。

 そもそも、逃げたということはその点でなにかをしてほしくないということだ。

 俺が変に関わったばかりに知らないところで二人の仲がより悪いものになっても嫌だから。


「でも、お兄ちゃんはやめておいた方がいいと思う」

「おう、その点なら大丈夫だ」

「じゃ、続きをやらないと」

「だな」


 あともう少しぐらいは頑張らないといけない。

 それができれば気持ちよく寝られるはずだった。

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