04
「お邪魔しまーす」
バタバタ足音が聞こえてきたと思ったら聞き慣れてはいないものの、知っている声が聞こえてきた。
「お、掃除してたんだ、我妻はいい子だね」
「あれ、妹と一緒に来るって話じゃなかったか?」
入ってきた彼女が鍵を閉めてしまったことからも後から入ってくる感じはしない。
「それがねー熱が出ちゃったのでした」
「え、だったらいてやらないと」
「円ちゃんと約束していたからねーそれにーその妹ちゃんから『ちゃんといかないと駄目だよ』と言われてしまったのでした」
自分が熱を出してしまったからこそか。
「薫子さんどこがいいですか?」
「んーリビングかな。だって円ちゃんのお部屋にしちゃうと変な遠慮をして我妻が参加できないだろうし」
「分かりました」
え、いや、部屋でゆっくりしてくれればいいのだが……。
掃除をやらなければいけないからいけないみたいにしていると「ちょいちょい、お客さんが来たんだから相手をしておくれよ」と言葉で刺されてしまった。
「なあ、名字を教えてくれないか?」
「ちょ、同じクラスなのに知らなかったの? 私は――」
「生駒薫子さんだよ」
「お、おー楽だけどなんで遮られたんだろう?」
この顔を見るに……あ、自分の友達とこそこそ一緒にいられたことが気に入らなかったとか?
もしそうならここに彼女の妹がいなくてよかったとしか言いようがない。
「今城と生駒は友達で、円と生駒は友達だったわけだよな」
「そーだね」
「なのに円が今城のことを知らなかったのは意外だな」
「私達、意外と集まって遊ばないからね。でも、大介本人も言っていたように円ちゃんとは会ったことがあるからね」
ああ、日野の名前か。
「前々から薫子さんと日野さんは怪しかったです」
待った、彼女の妹も付き合い始めたという話だからまだ共通の友達がいるのかもしれない。
そう考えると俺に話しかけてくるような人はみんな裏で繋がっているぐらいの認識でいた方がよさそうか。
「たははー分かりやすく表に出てしまっていたのなら恥ずかしいなー」
「でも、二人とも優しかったですからね、目の前でイチャイチャされても気になりませんでした」
「い、イチャイチャはしてないけどね」
俺的には優しく話しかけてくれる今城にそういう存在がいてほしいところだった。
「意外とさ? 我妻と裕香って相性がいいと思うけどね」
「俺的にはちゃんと支えてくれるような存在が今城にはいてほしいな」
「あら、よくその今城だと分かったね? ふふ、そこが私とは違うよねー」
「いや、自慢じゃないがいまのいままで知らなかったぞ」
「あのさあ……ちょっと期待したのに残念すぎるよ……」
彼女が日野とばかりいないで適度に一緒にいてやれているのなら頼りになる同性という部分はもう十分だ。
だからあとはそこ、恋をすることに興味がないとしても異性の信用できる友達がいてくれるのは大きい。
「お兄ちゃんは駄目ですよ」
「おっと、いきなり毒を吐くね?」
分かる、今城にはもっといい男子が似合うよな。
少し一緒にいるところを見られただけで相性がいいとか言われたら今城もやっていられないだろう。
「お兄ちゃんは一人でゆっくりぼうっとしておくぐらいがいいんです。あとは……そう、私の集中力確保のためにいてくれないと困るんです」
んー円ももっと強く言っていいのになあ。
優しくしてくれるのはありがたいが、優しすぎるのも問題だ。
「あれ、だけどそのお兄ちゃんがいたから集中できていなかったんじゃ? 裕香がそんな話をしていたけど」
「そ、それは私が人と話すのが好きだからですよ、それ以上でもそれ以下でもありません」
負けるな円、ここは慌てるところではない。
「ほーん、ふふ」
「な、なんですか?」
「べっつにー? あーそういえば学校で我妻がねー」
さて、掃除の続きでもしてくるか。
階段なんかはささっと掃くぐらいだから今日は拭いていこう。
意外と隅に汚れが溜まっているものだ、だからやり甲斐はあった。
「我妻って掃除好きなの?」
「毎朝、学校にいく前とかもやっているぞ」
「でもさあ、いまはちょっと戻ってきてほしいんだよね」
いや別にこれは恥ずかしくなったからとかではないからな、そう一人で内で言い訳をして戻ると、
「ソファにくっついているな」
「そそ」
うつ伏せで寝転んで固まってしまっている妹がいた。
「受験勉強を頑張っているから疲れているのか、布団でも持ってくるよ」
「部屋まで運んであげた方がよくない?」
「それもそうだな。よし、じっとしておいてくれよ」
抱き上げても暴れられたりすることなく部屋まで運ぶことができた。
「はい、じゃあ我妻はここに座って」
「ん? おう」
勉強会はまた再開されているから全く久しぶりでもないな、いつも通りの奇麗な妹の部屋だ。
「ここが円ちゃんの部屋かー奇麗だね」
「円も色々とできる子だからな。なんとなくだが、生駒の部屋はすごいことになっていそうだ」
逆に彼女の妹の部屋は凄く奇麗だと思う。
部屋に来られる度に「奇麗にしなよ」と母からも妹からも言われていそうだ。
で、彼女は「また今度ねー」と気にしていないみたいな感じ。
「えーって、実際にそうなんだよねーもうね、お小遣いが手に入るとすぐに服とかに使っちゃうの。多分、我妻が見たら『そんなにいらないだろ』って冷たい顔で言うと思う。なんなら大介からは既に言われてしまっています」
「冷たい顔にはならないだろうが、まだ着られるのに何十着と存在しているそれらを見たらぼそっと言葉を漏らしてしまいそうだ」
まあ、部屋に入らせてもらうようなことにはならないだろうから俺に自由に言われなくて済んでよかっただろう。
「今度、入れてあげるね」
「日野が不安になるだろうからやめておけ」
「ほーはは、我妻は面白いね」
え、なにが……?
結局、どう面白いのかは教えてもらえなかった。
それからも話して、部屋主以外が盛り上がっていた時間となった。
「あの子が風邪じゃなければよかったのに」
「それはそうだな、友達に風邪を引いてほしいと願うのもアレだからな」
ではない、あれからは少しだけダークな妹になってしまっている。
俺の対応がそれだけ不味かったということなのかもしれない、だから言い訳はしないようにしているのが現状だった。
あとこれは機嫌を直してもらいたいから同意しているわけではなく、本当にそう思っているからだ。
「そうすればお兄ちゃんは薫子さんとばかり話さなくて済んだんだから」
「だな。そもそも、友達がいれば俺は掃除とか他のことに集中できたんだからな」
これはあれか、不満がありつつも離れないのは今城の真似なのだ。
見ておかないと家族以外の誰かが被害者になるから仕方がなくしていると。
だからそう、こっちの腕を掴んでいることも仕方がないことなのだ。
「薫子さんに日野さんという彼氏さんがいてくれてよかったな」
「な、恋に真剣な人にほどそういう存在がいてほしいぞ」
「お兄ちゃん、さっきから合わせる気ないでしょ」
「いやいや、俺はそういう考えでいるからな」
彼氏や彼女がいないから幸せそうな人を妬むような人間ではない。
「今城さんが危険だな。うぅ、なんで私はお兄ちゃんの一つ下じゃなかったんだろう……」
「それは両親も難しかっただろうからな」
「お兄ちゃんの手とかだけでも持っていけたらなあ」
上手くいかないときに思ってもいないことを重ねていきたい気持ちは分かる。
変なことばかり言っていたら周りは去っていってしまうだろうが、たまになら「なに変なことを言っているの?」と聞いてきてくれるからだ。
「そうだ、薫子さんに頼んで制服を貸してもらえればいけないかな?」
「流石に落ち着け」
「うわーんっ、お兄ちゃんの馬鹿ー!」
生駒には彼氏がいるし、今城にとって俺はあくまで面倒くさいところを直したいわけでしかないから心配する必要はないのに。
でも、このままだともやもやするだけ、勉強なんかにも集中できないだろうからどこかにいくか。
「円、いきたいところとかないか?」
「え……? それなら……服を見にいきたいかも?」
「よし、じゃあいくか」
「うん」
近くにあるずっと閉店セールをやっているような店では駄目だろうから駅の近くまでいく必要がある。
まあ、部活が完全に終わって運動時間も減っているだろうからこういうことがあった方がいいだろう。
多分、女子にとってはいちいち買うまでいかなくても見ているだけで楽しめるだろうからな。
「準備できたよ」
「おう」
途中でそれこそ友達に遭遇したりすればいい。
そうなったら当たり前のように友達を選ぶだろうから俺は大人しく帰ればいいのだ。
「「「あ」」」
本大好き少女今城と遭遇した。
ただ、家から出てすぐのところだったから違和感はある、が、ここで「用があったのか?」なんてぶつけたら滅茶苦茶冷たい顔をされるだろうし、なにより自意識過剰すぎるので黙っておく。
「二人がお家から大きく離れてしまう前でよかったよ」
「まさかお兄ちゃん……」
え、なんでここでそんな顔を?
結局、俺はなにをしようと妹から微妙な顔をされるようになっているのかもしれない、ではない。
なんでこういう顔をしたくなるほどの相手なのにいてくれるのだろうか?
「あ、裏でこそこそと我妻君と約束していたとかじゃないからね?」
「そうですか」
「えっと、いまはタイミングが悪かったのかな? もし駄目そうなら今日は帰る――」
「全く構いませんよ。私達はいまから服屋さんにいくところだったんです、今城さんも参加できるなら参加してください」
「わ、分かった」
少し余裕がないときは遮るようにしなければ不安になってしまうのかもしれない。
とにかく、俺のときも含めて今城の優しさに支えられている形だった。
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ、これどうっ?」
「んー円には派手すぎないか?」
「え、これで派手って……今城さんは『円ちゃんに似合っているね』って笑みを浮かべて言ってくれたんだけどな……」
あ、せっかくテンションが高かったのに一気にしゅんとなってしまった。
役に立たないどころか盛り上がっているところに水を差すような兄ですまない。
「ふふ、やっぱり円ちゃんは最強だね」
「いやでも実際に今城がいてくれて助かったよ。多分、今城がいなかったらいまので拗ねて家まで帰っていたぞ円は」
そうしたらわざわざ時間をずらしてから俺も帰らなければならないところだった。
「そうかな? せっかく大好きなお兄ちゃんと一緒に行動できているんだから自分でもったいないことにはしないんじゃないかなって」
「でも、不満でいっぱいだからこそこうなっているわけでな。昨日、家に生駒が来てからこうなっているんだ」
「はは、薫子ちゃんはすぐに教えてくれるから知っているよ」
それなら妹が最終的にどんな感じだったのかも聞いているだろうし、それを知ったうえで「大好きなお兄ちゃんと~」云々とぶつけてきているわけだからやはり今城は怖い。
「俺は今城に世話になってばかりだから円が満足したらお礼をさせてくれ」
「んー私としては我妻君を変えるためと、円ちゃんが傷つかないように見ているだけだからなあ」
「いいんだよ、気になるなら今日終わる物にすればいいはずだ」
ドーナツとかシュークリームとかここら辺りには沢山の甘い物が売っている店がある。
仮にいい物が見つからなくても飲み物ぐらいは買わせてもらわないと駄目だ、夜も寝られなくなってしまう。
「……言うことを聞くまで帰してくれない?」
「おう」
「え、えーそういうのは気になる女の子が相手のときだけにしなよ」
「いまはある意味で今城が気になっているな」
「あ、そういう紛らわしいやつはなしでお願いします」
なんでここでそんなに冷たい顔ができるのか。
というか、俺はそういう顔で見られすぎではないだろうか。
「お兄ちゃんこれは?」
「お、いいな、円によく似合っているぞ」
「ふふ、お洋服がシンプルな物でも円ちゃん自身がいいから自信を持てってことだね?」
「そうだぞ」
なんか柔らかい感じに言い換えてくれるの足すかるな。
新しい服を買うときは「これでいいかも!」という気持ちと「でも、大丈夫かな……?」という不安な気持ちが混ざっているだろうからそこで後押しができると。
うん、これで益々お礼をさせてもらわなければならなくなったな。
「むぅ」
「あ、私はちょっとトイレにいってくるね」
「おう」
買うかどうかを聞いてみたら数秒経過した後に「……買う」と答えてくれたので一緒にレジまでいくことにした。
今日の、というか最近の円は本当に難しい。
「お兄ちゃん今城さんにお礼がしたいんでしょ? だったら早くいかないと」
「そうだな」
その今城は入口横で待ってくれていたからすぐに移動を開始できた。
もういまは腕を掴んでいてもらいたいところだ。
「あ、クレープかあ、美味しそう」
「それでいいか?」
「お、お家に帰れなくなっちゃうと困るし……我妻君がいいならだけど」
「大丈夫だ。円は何味がいい?」
「一緒に並ぶから大丈夫だよ」
「あ、じゃあ私は待たせてもらうね」
なんだあ? なんか変に気を使われている気がするぞ。
やっぱり本を読んでいるからなのだろうか、少なくとも俺達が相手のときは空気を読む必要なんか全くないのだが……。
まあいい、それなりに並んでいるからさっさと買ってしまおう。
逃げられてしまうよりは遥かにマシだった。




