不帰の樹海㉗
総員三十二名。
蛙を食べた三人を埋葬した翌日。
部隊の空気は重かった。
誰も口を開かない。
空腹。
疲労。
そして死。
樹海に入ってから何度も経験している。
それでも慣れることは無かった。
昼過ぎ。
先頭を歩いていたリナが足を止めた。
「少尉」
クレールが顔を上げる。
「今度は何だ」
「これっす」
リナは地面を指差した。
そこには小さな穴があった。
何かを掘り返した跡だった。
クレールはしゃがみ込む。
周囲にも同じような跡が幾つもある。
「獣か?」
マルグリットが言う。
リナは首を振った。
「違うと思うっす」
「人間っすね」
「理由は」
「綺麗過ぎるっす」
確かにそうだった。
無造作ではない。
一定間隔。
しかも掘り返した後、丁寧に埋め戻されている。
「何を掘った」
誰も答えられない。
その時だった。
後方の兵士が声を上げた。
「こっちにもあります!」
全員が集まる。
そこには掘り出された根が転がっていた。
半分だけ。
残り半分は持ち去られている。
クレールが眉をひそめた。
「食料か」
「多分っす」
リナが答える。
「しかも慣れてるっす」
「慣れている?」
「はい」
リナは周囲を見回した。
「探して掘ったんじゃないっす」
「最初から場所を知ってたみたいっす」
沈黙。
その言葉は重かった。
誰も知らない森。
誰も分からない植物。
その中で。
食べられる根を探し当てる。
それは偶然ではない。
知識だ。
クレールは掘り返された跡を見つめる。
そして初めて思った。
自分達が追っている相手は。
単なる遭難者ではないのではないか。
総員三十二名。
足跡はまだ続いていた。
そして。
少しずつ新しくなっていた。




