不帰の樹海㉘
総員三十二名。
足跡を追い始めて五日目。
痕跡はさらに新しくなっていた。
踏み跡。
焚き火。
削られた枝。
もはや数日前のものではない。
半日。
いや。
数時間以内かもしれない。
「近いな」
クレールが呟く。
誰も否定しなかった。
近い。
間違いなく近い。
その時だった。
先頭を歩いていたリナが足を止める。
「少尉」
声が少し硬い。
クレールは警戒した。
「何だ」
リナは前方を指差した。
木だった。
ただの木。
しかし。
幹に傷がある。
剣で刻まれたような傷。
一本。
二本。
三本。
規則的だった。
「自然じゃないっす」
リナが言う。
クレールは近付く。
確かにそうだった。
偶然できる傷ではない。
誰かが意図して付けている。
「目印か」
オーレリアが呟く。
「その可能性は高いな」
クレールは頷いた。
そして周囲を見回す。
少し先。
さらにその先。
同じ傷が見える。
進行方向を示しているようだった。
マルグリットが眉をひそめる。
「友軍か?」
「分かりません」
クレールは首を振った。
「ですが」
そこで傷へ触れる。
樹皮はまだ新しい。
乾ききっていない。
「最近付けられたものです」
沈黙。
兵士達の表情が変わる。
近い。
本当に近い。
その時だった。
後方から声が上がる。
「煙だ!」
全員が振り返る。
森の向こう。
木々の隙間。
細い煙が空へ伸びていた。
誰かが焚き火をしている。
自然のものではない。
人だ。
間違いなく人間だ。
クレールが立ち上がる。
「総員警戒」
「武器を準備」
兵士達の空気が変わる。
希望ではない。
油断でもない。
緊張だった。
敵か。
友軍か。
それはまだ分からない。
だが。
あと少しだ。
総員三十二名。
彼女達は初めて、人のいる場所へ向かって歩き始めた。




