不帰の樹海㉙
総員三十二名。
煙を発見してから二時間。
部隊は慎重に進んでいた。
誰も口を開かない。
友軍かもしれない。
敵かもしれない。
どちらにせよ。
この距離まで近付けば戦闘になる可能性もある。
「止まれ」
クレールが手を上げた。
全員が足を止める。
前方。
人の声が聞こえた。
確かに聞こえた。
兵士達の緊張が一気に高まる。
クレールは身を低くした。
ゆっくり前へ進む。
そして。
木々の隙間から覗いた。
人影。
一人。
二人。
三人。
もっといる。
焚き火を囲んでいる集団だった。
クレールは目を細める。
軍服。
王国軍。
だが。
何かがおかしい。
「少尉?」
後ろからマルグリットが小声で尋ねる。
クレールは答えない。
ただ見つめていた。
違和感の正体を探していた。
その時。
向こうの一人が立ち上がる。
大きかった。
異様に。
頭一つ。
いや。
二つ近く高い。
兵士達が息を呑む。
そしてもう一人。
さらにもう一人。
全員大柄だった。
クレールは眉をひそめる。
「何だ……あれは」
その瞬間。
ガサリ。
後方で枝が鳴った。
しまった。
誰かが足を滑らせた。
遅かった。
焚き火の向こう。
一人の兵士がこちらを振り向く。
鋭い視線。
そして叫ぶ。
「誰だ!」
同時に全員が立ち上がる。
武器を掴む。
弓。
槍。
剣。
一瞬で戦闘態勢。
クレールも剣へ手を伸ばした。
緊張が走る。
数秒。
いや。
一秒にも満たない時間だった。
その時。
向こうの集団の中央から声が響く。
「待て」
低い男の声だった。
総員三十二名。
そして。
樹海で迷い続けた二つの部隊が、
初めて互いの姿を見た。




