不帰の樹海㉖
総員三十五名。
足跡を追い始めて三日目。
痕跡は増えていた。
折れた枝。
削られた樹皮。
焚き火の跡。
誰かがここを通っている。
それもかなりの人数だ。
「少尉」
リナが声を上げた。
「今度は何だ」
クレールが振り返る。
リナは木の根元を指差した。
「これっす」
全員が集まる。
そこには焚き火の跡があった。
そして。
周囲には骨。
蛙の骨だった。
「蛙か」
クレールが呟く。
リナはしゃがみ込み骨を拾った。
「綺麗に処理されてるっすね」
「分かるのか」
「何となくっす」
相変わらず適当だった。
だが妙な説得力はある。
マルグリットが骨を見下ろす。
「つまり……食べたのか」
「そうみたいっすね」
兵士達の顔が曇る。
食料事情はどこも同じらしい。
それだけは分かった。
その日の夜。
野営地。
クレールは見回りを終え、焚き火の傍へ戻る。
兵士達は静かだった。
空腹が続いている。
誰もが疲れていた。
翌朝。
異変はすぐに見つかった。
兵士が一人。
地面に倒れていた。
「起こせ」
返事が無い。
もう一人。
こちらも動かない。
そして三人目。
口元には泡。
顔色は土気色だった。
「何があった」
クレールの声が低くなる。
生き残った兵士が震えながら答えた。
「昨夜……」
「蛙を……」
沈黙。
誰も動かない。
「何だと?」
「焚き火の跡があったから……」
「食べられると思って……」
クレールは目を閉じた。
怒鳴りたい。
だが。
怒鳴っても死者は戻らない。
「誰が許可した」
誰も答えない。
当然だった。
許可など取っていない。
「安全が確認できないものは口にするな」
静かな声だった。
だが。
誰も顔を上げられなかった。
「桃の時にも言ったはずだ」
沈黙。
三人はその日のうちに死亡した。
総員三十二名。
足跡の主は生きている。
だが。
彼女達と自分達は違う。
同じものを食べても。
同じように生きられるとは限らない。
その事実だけが残った。




