不帰の樹海㉕
総員三十五名。
足跡を追い始めて二日。
幸いにも見失ってはいなかった。
むしろ逆だった。
追うほどに痕跡は増えていく。
折れた枝。
削られた樹皮。
焚き火の跡。
確実に人間がいた。
そして。
「少尉」
先頭のリナが足を止める。
今度は全員が警戒した。
リナが何かを見つける時は、大抵ろくな事にならない。
「今度は何だ」
クレールが疲れた声で聞く。
リナは少し離れた木の根元を指差した。
「これっす」
全員が集まる。
そこには。
小さな骨が転がっていた。
鳥ではない。
獣でもない。
見慣れたものだった。
「蛙か」
クレールが呟く。
骨だけになった蛙。
綺麗に解体されている。
「食ったんすね」
リナが言う。
「そのようだな」
マルグリットの表情が曇る。
蛙。
それは食料が尽きた時に仕方なく口にするものだ。
少なくとも正規軍では。
その時。
別の兵士が声を上げた。
「こっちにもあります!」
集まってみれば。
骨。
骨。
骨。
蛇。
蛙。
小型哺乳類。
ありとあらゆる生き物の骨が転がっていた。
クレールはしばらく無言だった。
やがて。
「友軍だな」
そう呟く。
「分かるのですか?」
マルグリットが問う。
クレールは骨を拾い上げた。
「我々と同じだ」
短い答えだった。
「余裕がある部隊はこんなものを食わん」
沈黙。
誰も否定しなかった。
彼女達も今なら分かる。
腹が減れば何でも食う。
それが樹海だ。
メローペは骨を見下ろす。
そして静かに言った。
「生きていると思うか」
クレールは周囲を見渡した。
痕跡は新しい。
古くない。
数日前。
いや。
もっと最近かもしれない。
「分かりません」
そう答えながらも。
その表情は少しだけ明るかった。
「ですが」
「少なくとも彼女達も、生きようとしていました」
総員三十五名。
部隊は再び歩き出す。
まだ姿は見えない。
だが。
追うべき相手が確かに存在している。
それだけは分かっていた。




