王城の住人達④
王城は静かだった。
誰も大声を出さない。
誰も笑わない。
廊下を歩く侍女達でさえ足音を殺していた。
王女が一人。
失われたかもしれない。
それだけで城の空気は変わる。
部屋の中で。
第二王女エレクトラは鍵盤楽器の前に座っていた。
静かな旋律。
繰り返される音。
途中で止まる。
そしてまた最初から弾く。
誰も声を掛けない。
侍女も。
側近も。
ただ黙っていた。
曲は終わらない。
終わらせられない。
そんな風に聞こえた。
別の部屋。
第七王女ケラエノは窓際に立っていた。
隣には第八王女アステロペ。
双子だった。
言葉を持たない妹。
だが。
ケラエノには分かる。
今のアステロペは落ち着いていない。
何かを探している。
そんな顔をしていた。
「まだ考えてるの?」
アステロペは小さく頷く。
「皆、諦めてるよ」
アステロペは首を振った。
違う。
そう言いたいらしかった。
「何が違うの?」
問い掛ける。
答えは返らない。
返せない。
アステロペは窓の外を見た。
遠く。
王都の向こう。
さらに遠く。
樹海のある方角。
何も見えない。
見えるはずもない。
それでも。
何かがおかしい。
そんな感覚だけが消えない。
ケラエノは小さく息を吐いた。
「四姉様?」
アステロペは振り返る。
そして。
ゆっくり首を振った。
違う。
生きている。
そういう意味ではない。
終わった。
そうも思えない。
ただ。
違う。
それだけだった。
扉が開く。
第三王女マイアだった。
「ここにいたのね」
優しい声だった。
だが。
疲れていた。
ケラエノには分かった。
マイアも眠れていない。
「エレクトラ姉様がまた弾いてるわ」
苦笑する。
誰も止めない。
止められない。
王城全体が。
どこかで立ち止まっていた。
マイアはアステロペを見る。
「何か分かる?」
アステロペは首を横に振った。
何も分からない。
ただ。
終わった気がしない。
それだけだった。
遠く。
鍵盤の音が聞こえる。
静かな旋律。
王城の夜は長かった。
誰もが同じ事を考えていた。
そして。
誰も答えを持っていなかった。




