表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
92/96

不帰の樹海㉒

朝。


目を覚ました時。


エリスはすぐに耳を澄ませた。


聞こえる。


昨日よりも。


少しだけ。


近かった。


「どうですか?」


マルグリットが尋ねる。


エリスは迷った。


自信は無い。


だが。


今までで一番はっきりしていた。


「近付いています」


マルグリットは頷いた。


それだけだった。


それ以上は聞かない。


聞いても分からないからだ。


出発する。


誰も口にはしない。


だが。


進む方向は決まっていた。


エリスの示す方向。


それだけだった。


歩く。


樹海は変わらない。


相変わらず同じ景色。


同じ空気。


同じ霧。


それでも。


昨日までとは違った。


目標があった。


昼頃。


再び地面が揺れた。


今度は昨日より長かった。


全員が足を止める。


樹々が小さく揺れる。


土が震える。


だが。


すぐに収まった。


「またっす」


リナが呟く。


「地震でしょうか」


オーレリアが不安そうに辺りを見る。


誰も答えられない。


ただ。


偶然とは思えなかった。


昨日。


今日。


二日続けている。


ユーリイは地面へ視線を落とした。


僅かな亀裂が走っている。


昨日は無かった。


そんな気がした。


「急ぎましょう」


珍しくクレールが言った。


誰も反対しない。


理由は分からない。


だが。


急がなければならない気がした。


午後。


エリスが足を止めた。


全員が止まる。


耳を澄ませている。


その横顔は真剣だった。


「聞こえます」


誰も声を出さない。


「水です」


沈黙。


風が吹く。


樹々が揺れる。


だが。


誰にも聞こえない。


「本当か?」


ミトゥが尋ねる。


「分かりません」


エリスは正直に答えた。


「でも……水です」


震える声だった。


期待している。


期待するのが怖い。


それでも。


そうとしか思えなかった。


ユーリイは森の奥を見る。


何も見えない。


だが。


今までのような曖昧さは無かった。


「進みましょう」


短く言う。


誰も反対しない。


その日は。


日が沈むまで歩いた。


誰も文句を言わなかった。


疲れている。


空腹だった。


足も痛い。


それでも。


止まりたくなかった。


夜。


焚火を囲む。


炎は小さい。


薪も少ない。


だが。


雰囲気は少しだけ違った。


久しぶりだった。


絶望だけではない夜は。


ミトゥが炎を見ながら呟く。


「川ならいいな」


誰も笑わない。


だが。


何人かが頷いた。


川。


それだけで良かった。


水がある。


目印になる。


進む理由になる。


今の彼らには十分だった。


焚火が小さく揺れる。


その向こうで。


エリスは静かに目を閉じた。


聞こえる。


確かに。


昨日よりも近かった。


何かが。


自分たちを呼んでいるような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ