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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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不帰の樹海㉑

総員三十五名


翌朝


ウイスキーの余韻など誰の口にも残っていなかった。


空腹だけが残っていた。


配給は減り続けている。


朝食も一口。


昼食は無い。


夕食も一口。


兵士達は黙って口へ運ぶ。


もはや食事ではない。


生存のための作業だった。


行軍開始から数時間後。


異変が起きた。


一人の兵士が立ち止まった。


「どうした」


クレールが振り返る。


兵士は答えない。


ただ俯いていた。


「兵士」


呼び掛ける。


返事は無い。


やがて兵士はゆっくり顔を上げた。


その目には何も映っていなかった。


「……もう無理です」


誰も言葉を発しない。


「歩けません」


兵士は崩れるように座り込んだ。


怪我ではない。


病気でもない。


限界だった。


クレールはしばらく黙っていた。


怒鳴ることも出来た。


命令することも出来た。


だが


それで歩けるようになる訳ではない。


兵士の頬は痩せこけていた。


目の下には隈。


足は震えている。


誰が見ても限界だった。


メローペが前へ出る。


「名前は」


兵士が答える。


「ルネ……です」


「ルネ」


メローペは静かに言った。


「よくここまで歩いた」


兵士は泣きそうな顔をした。


だが


何も言わなかった。


何も言えなかった。


沈黙が続く。


その時だった。


「背負うっす」


リナが言った。


全員が振り向く。


「ロスリー」


クレールが眉をひそめる。


「自分まだ元気っす」


「だから今日は自分が運ぶっす」


誰かが笑った。


本当に小さな笑いだった。


リナはいつも通りだった。


樹海に入る前と何も変わらない。


だからこそ救われる。


結局


その日は交代でルネを運ぶことになった。


行軍速度は更に落ちた。


それでも置いてはいかなかった。


総員三十五名


人数は変わらない。


だが


全員が理解していた。


次に限界を迎えるのは


自分かもしれないと。


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