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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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不帰の樹海⑳

総員三十五名


土砂崩れから二日。


幸いにも新たな死者は出ていなかった。


だが


状況が好転した訳ではない。


食料は減り続けている。


負傷者もいる。


疲労も限界に近い。


その夜


クレールは残った食料を確認していた。


「通常配給で五日」


補給担当の兵士が答える。


「半減配給なら九日」


誰も口を開かなかった。


九日


長いようで短い。


そして誰も、自分達が九日以内に樹海を抜けられるとは思っていなかった。


沈黙が続く。


その時だった。


「酒があったな」


メローペが言った。


全員が顔を上げる。


マルグリットが目を丸くした。


「殿下?」


「私物だ」


「だが今更隠していても仕方あるまい」


近衛の荷物から一本のボトルが取り出される。


琥珀色の液体。


王城から持ち出されたウイスキーだった。


兵士達の視線が釘付けになる。


クレールが思わず笑った。


「殿下、それは貴重品では?」


「だからだ」


メローペは淡々と言う。


「明日死ぬかもしれん」


「なら今日飲むべきだろう」


珍しく近衛達も反論しなかった。


ボトルが開けられる。


だが


配られた量を見て兵士達は絶句した。


ボトルキャップ半分


本当に半分だった。


「少なっ!」


誰かが叫ぶ。


周囲から苦笑が漏れる。


「当たり前だ」


クレールが言う。


「三十五人いるんだぞ」


列が出来る。


兵士達は順番に受け取る。


ほんの一口


それでも久しぶりの酒だった。


そして


「次」


クレールがキャップを差し出す。


リナが嬉しそうに前へ出た。


「自分も貰うっす!」


「待てロスリー一等兵」


「何すか」


「お前にはまだ早い」


「えー!?」


リナが素っ頓狂な声を上げた。


「自分もう十八っすよ!」


「嘘をつけ」


「本当っす!」


周囲の兵士達がリナを見る。


沈黙


「……見えんな」


「見えませんね」


「見えないな」


「見えないっす!」


リナが抗議する。


久しぶりに笑い声が上がった。


大きな笑いではない。


ほんの少し


それでも十分だった。


樹海に入ってから初めてかもしれない。


明日も生きている保証は無い。


食料も足りない。


出口も見つからない。


だが


今夜だけは。


全員が同じ焚き火を囲んでいた。


総員三十五名


誰も死ななかった夜だった。


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