不帰の樹海⑯
総員四十六名。
二人が消えてから、部隊の空気は明らかに変わっていた。
単独行動は禁止。
水汲みも二人一組。
見張りは倍に増やされた。
だが
不安は消えない。
何と戦っているのか分からないからだ。
問題は食料だった。
携行食は日に日に減っていく。
森には果実も草も生えている。
だが、それが食べられる保証はどこにもない。
クレールは繰り返し命じた。
「確認できない物は口にするな」
「これは命令だ」
兵士達は頷いた。
しかし、その日の夜。
命令を破った者がいた。
翌朝。
悲鳴が響く。
兵士が一人、地面の上で痙攣していた。
口から泡を吹き、目は虚ろだった。
その隣には既に息絶えた者もいた。
衛生兵達が駆け寄る。
だが手遅れだった。
倒れていた兵士は間もなく息絶える。
近くには半分齧られた果実が落ちていた。
桃によく似た果実だった。
「何を食った?」
クレールの問いに、青ざめた兵士が答える。
「昨日……二人が食べていました……」
「そんな事は聞いていない」
クレールは死体を指さして言った。
「彼女達は何を食った?」
「そこにある桃のような果実です」
クレールは深くため息をついた。
「安全が確認できていないものは食うなと言ったはずだが?」
兵士は俯く。
返す言葉も無い。
クレールは少し声を和らげた。
「あと、お前は何で食わなかった。いや、怒っているわけではないぞ」
「しょっ……少尉の指示がありましたので」
数秒の沈黙。
そしてクレールは小さく頷いた。
「よし、お前は生き延びたな」
「以後も指示に従うように」
「はっ」
周囲の兵士達も無言で聞いていた。
死んだ兵士。
苦しみ続ける兵士。
そして、生き残った兵士。
違いはたった一つだった。
命令を守ったかどうか。
クレールは全員を見回した。
「お前たちも分かっただろう」
「とにかく安全が確認できていないものは口にするな」
誰も反論しない。
出来なかった。
目の前に答えが転がっていたからだ。
クレールは肩を竦める。
「腹が減っているのは殿下も同じだ」
そこで一瞬だけメローペを見る。
「……おっと、これは不敬だったか」
僅かな笑いが漏れた。
ほんの少しだけ。
張り詰めていた空気が緩む。
だが、それも長くは続かなかった。
地面には死体がある。
重症者もいる。
現実は変わらない。
その日、行軍は中止となった。
総員四十四名。
戦闘はない。
敵もいない。
それでも部隊は減っていく。
樹海は静かだった。
静かなまま、人を殺していた。




