表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
83/93

不帰の樹海⑯

生存者四十八名。


行軍は続いていた。


森は相変わらず静かだった。


静か過ぎるほどに。


誰もそのことを喜ばない。


静かな森ほど危険だと。


既に全員が学んでいた。


昼頃。


隊列が止まる。


短い休憩。


兵士達が座り込む。


誰も無駄な会話はしない。


水を飲み。


靴を確かめ。


武器を点検する。


それだけだった。


メローペは地図を見ていた。


意味は無い。


現在地など分からない。


それでも見ていた。


考えることを止めないために。


その時。


足音が聞こえた。


顔を上げる。


先ほどの男だった。


ユーリイ・シーゲル。


不能部隊の最先任者。


男は数歩離れた場所で立ち止まった。


敬礼。


「殿下」


短い。


軍人らしい声だった。


メローペも頷く。


「どうした」


「報告です」


余計な前置きは無かった。


「進路上に水場を発見しました」


メローペの表情が僅かに変わる。


水は貴重だった。


「飲めるのか」


「分かりません」


即答だった。


「ですが流れています」


「淀み水ではありません」


実務的な報告。


希望的観測は一切ない。


メローペは少しだけ意外に思った。


王都なら違う。


もっと耳障りの良い言葉を並べる者が多い。


だが。


この男は違った。


事実だけを述べる。


「距離は」


「三十分ほどです」


「分かった」


それだけだった。


ユーリイは再び敬礼する。


そして去ろうとした。


だが。


メローペは思わず呼び止めた。


「待て」


男が振り返る。


一瞬の沈黙。


メローペ自身。


何を聞こうとしたのか分からなかった。


結局。


口から出たのは別の言葉だった。


「何人だ」


ユーリイは少しだけ考えた。


質問の意味を理解したらしい。


「十九名です」


短い返答。


「樹海に入った時は三十七名でした」


メローペは黙った。


半数近い。


それがどれほどの数字か分からないほど愚かではない。


「そうか」


それしか言えなかった。


ユーリイもそれ以上語らない。


恨みも。


悲しみも。


口にはしなかった。


ただ事実として受け入れているように見えた。


やがて男は敬礼する。


「失礼します」


そして去っていった。


後に残る沈黙。


オーレリアが小さく息を吐いた。


「随分と淡々としていましたね」


メローペは首を振る。


「違う」


オーレリアが首を傾げる。


メローペは森の奥を見る。


「慣れているのだ」


死に。


別れに。


失うことに。


その言葉は口にしなかった。


だが。


誰も否定しなかった。


生存者四十八名。


その数字の裏には。


既に数え切れない死者達がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ