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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊


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不帰の樹海⑭

翌朝。


久しぶりに雨が止んでいた。


空は相変わらず木々に覆われている。


それでも昨日までとは違った。


湿った風が森を抜けていく。


兵士達の表情も少しだけ明るい。


「出発します」


クレールの号令で部隊が動き出す。


総員四十八名。


長い隊列だった。


先頭には斥候。


中央にメローペ。


後方にも警戒要員を配置する。


人数が増えた事で隊形に余裕が生まれていた。


だが


その安心感は長く続かなかった。


昼前。


先頭を歩いていたリナが突然立ち止まる。


拳を上げる。


停止の合図。


隊列が止まった。


空気が張り詰める。


「何か?」


クレールが近付く。


リナは地面を指差した。


そこには足跡があった。


新しい。


昨日や一昨日ではない。


今朝付いたような足跡だった。


「人間ですね」


オーレリアがしゃがみ込む。


リナも頷く。


「人数は?」


「分からない」


リナは周囲を見回した。


「でも一人や二人じゃない」


その時


イヴェットが低い声を出した。


「こっちにもあります」


少し離れた場所。


別の足跡。


更にその先にも。


「……囲まれている?」


マチアドが不安そうに呟く。


誰も答えなかった。


足跡は一方向ではない。


複数方向から現れていた。


まるで


こちらを観察するように。


「警戒を強化します」


クレールが言う。


全員の表情が引き締まる。


そのまま移動を再開。


だが


誰も気付かなかった。


いや


気付いていても認めたくなかった。


足跡の数が多過ぎる。


四十八名の部隊が残す量ではない。


もっと多い。


遥かに多い。


まるで


この森の中に何十人もいるかのような数だった。


「少尉」


ジゼルが小さく声を掛ける。


「どうしました?」


「おかしいんです」


彼女は地図を見ながら言った。


「何が?」


「足跡の向きです」


ジゼルの顔色は良くなかった。


「全部こちらへ向かっています」


沈黙。


クレールは足跡を見る。


確かにそうだった。


進行方向ではない。


全てが。


こちらへ近付く向きだった。


誰も喋らない。


森が静かだった。


静か過ぎた。


鳥の声も無い。


獣の気配も無い。


ただ


見られている。


そんな感覚だけがあった。


その時だった。


前方で短い笛の音が鳴る。


斥候からの合図。


全員が武器へ手を伸ばす。


リナが駆け出した。


クレールも続く。


数十秒後。


先頭付近へ集まった全員は言葉を失った。


そこには焚き火の跡があった。


新しい。


灰はまだ完全には冷えていない。


そして


その脇に一本の木札が立てられていた。


粗末な木片だった。


だが


そこには確かに文字が刻まれていた。


『まだ生きている』


誰かの字だった。


王国の共通文字。


兵士達の間にざわめきが広がる。


この森には。


自分達以外にも人がいる。


そして


その誰かは。


こちらの存在を知っている。


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