王都新聞
朝。
王都中央区。
新聞売りの声が響いていた。
「号外!号外!」
「第四王女殿下帰還三周年特集!」
「樹海生還者インタビュー掲載!」
石畳の通り。
人々が足を止める。
新聞を買う。
広げる。
戦争が終わっても。
王都は話題を欲していた。
パン屋の前。
ユーリイ・シーゲルは、胡乱げな顔で新聞を見ていた。
「……何でこうなるんだ」
隣でタッカーが頷く。
「人気商売だからな」
「誰がだ」
「お前ら」
即答。
新聞の一面。
そこには大きく。
『樹海より生還せし十一名』
そんな見出しが躍っていた。
しかも。
妙に格好良く描かれた挿絵付き。
ユーリイが嫌そうな顔をする。
「誰だこれ」
「お前だろ」
「盛り過ぎだ」
実際かなり盛られていた。
妙に鋭い目。
無駄に広い肩幅。
英雄然とした立ち姿。
現実は小麦粉まみれでパンを焼いている男である。
タッカーが新聞を捲る。
「おっ」
「お前、王女抱えてるぞ」
「言い方!」
ユーリイが慌てて新聞を奪う。
記事。
そこには鐘楼崩落時の想像図が描かれていた。
かなり脚色されている。
ユーリイは頭を抱えた。
「だから何でこうなるんだ……」
「読者は派手なのが好きだからな」
「嫌なリアルだな……」
タッカーが新聞を眺めながら言う。
「しかし、お前いつインタビューなんて受けたよ?」
ユーリイが真顔で答える。
「来月かな」
数秒沈黙。
タッカーが吹き出した。
「来月かよ!」
「じゃあ俺は来年かな」
「知らん」
その時。
店の扉が開く。
オーレリアだった。
そして。
その後ろ。
変装しているつもりらしいメローペ。
だが。
全然隠れ切れていない。
ユーリイが固まる。
「……第四王女殿下」
メローペが小さく睨む。
「だから声が大きい」
「申し訳ありません」
即座に頭を下げる。
オーレリアが新聞へ目を向ける。
「あら」
「もう出ましたのね」
ユーリイが嫌そうな顔をする。
「知ってたんですか」
「ええ」
オーレリアは楽しそうだった。
メローペは無言で新聞を見る。
そこには。
自分を抱えて走るユーリイの挿絵。
しかも妙に美化されている。
数秒沈黙。
やがて。
「……誰だこれは」
ユーリイが真顔で頷く。
「俺もそう思います」
タッカーがパンを齧る。
「盛るのが新聞記者の仕事だからな」
「魚拓みたいなもんだ」
「絶対違うだろ」
オーレリアが笑いを堪えている。
メローペは新聞から目を離さなかった。
そこに描かれていたのは。
恐怖も。
泥も。
血もない。
ただ。
“英雄譚”
として整えられた物語。
メローペがぽつりと呟く。
「……随分綺麗な話になっているな」
ユーリイは返事をしなかった。
出来なかった。
実際は。
もっと泥臭く。
必死で。
格好悪かった。
だからだろう。
メローペは新聞より。
今目の前に居る、少し困った顔の男の方を見た。
その方が。
ずっと本物に見えた。




