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遺伝子の小さな箱庭  作者: 妙義豊
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夜の酒場

夜。


王都北区。


酒場は騒がしかった。


笑い声。


酒臭さ。


煙。


酔った女たちの怒鳴り声。


戦争が終わっても、人は飲む。


むしろ。


終わった後の方が飲む。


「そういえばさぁ」


赤ら顔の女がジョッキを揺らす。


「この前、例の店また行ったんだけど」


向かいの女が呆れた顔をした。


「カーヴ?」


「あんたも好きだねぇ」


「一晩百ソールなんて、金いくらあっても足りないよ」


別の女が下品に笑う。


「男知らないお子様には、一生分からないかもねぇ」


「うるさいね」


笑い声。


「お金は良いけど、病気が怖いわ」


「あー……それはある」


「確かにぃ」


また笑いが広がる。


誰かが酒を煽った。


別の卓から声が飛ぶ。


「そういや三年前に帰ってきた王女様いたろ?」


「ああ、樹海の」


「十一人の男と一緒だったって?」


「やりたい放題じゃん」


どっと笑いが起きる。


別の女が肩を竦めた。


「でも全員不能者なんでしょ?」


「じゃあ何も出来ないじゃない」


「いやいや」


酒焼けした声が返る。


「あれは“種”が駄目なだけだろ?」


「だったら普通に出来るって」


「じゃあやりたい放題じゃん」


「「いいなぁ」」


爆笑。


その隅。


フードを被った女が、すっと視線を向けた。


セリナ・ロスニー曹長。


リナだった。


数秒。


酒場の女たちが固まる。


「……ひえっ」


静寂。


リナは何も言わない。


ただ黙って酒を飲む。


その空気へ。


「おいおい」


間延びした声が割り込んだ。


タッカーだった。


紙袋を抱えている。


「その辺あんまり無計画に不敬な事言ってっと、火刑で死刑になっちまうぞ」


「くだらねぇ」


酔っ払い女が吹き出す。


タッカーがパンを齧る。


「王女は女神」


「お前らはゴミ」


「そしておいらはなごみ系YO」


数秒沈黙。


「言ってくれるじゃない」


酒場に笑い声が戻る。


リナが半眼でタッカーを見る。


「何なんすか、それ……」


「場を和ませる高等技術だ」


「失敗してるっすよ」


「うむ」


タッカーは真顔だった。


酒場の女たちがまた笑う。


さっきまでの妙な緊張は消えていた。


誰かが酒を煽る。


誰かが笑う。


誰かがまた下らない話を始める。


夜の王都。


戦争は終わった。


それでも人は。


騒いで、笑って、生きていく。


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